魔法使いシクレセリアを失った一行はその後もスカルニクを追い、遂にエドラフ領内のとある森で追いついた。
正にいまこの瞬間、旅の仲間とスカルニクとその一党は戦いの最中にあった。
リオ
「何処だスカルニク‼︎貴様の首を斬り落としてやる‼︎」
オーク
「ナンダ!?アノインゲン(人間)の女騎士ツヨイゾ!?」
ゴブリン
「エルフニ、ドワーフニ、ナンナンダアノサンニンハ!?」
スカルニク
「エエイ‼︎ヤクタタズドモメェ‼︎ワシガアイテシテヤル‼︎」
スカルニクが自分の天幕を出た時コッソリ中に忍び込む影があった。
アイリス
「見つけた…。早く抜け出さないと‼︎」
ハーフフッドの細やかさには基本的に知能が高くないゴブリンやオークは気が付かない。
リオ、クロ、ミズキの三人が暴れている中こっそり、スカルニクのキャンプに忍び込んだのだ。
アイリスは籠手を鞄の中に仕舞うと天幕を出た。
だがそこに運悪くオークと鉢合わせしてしまう。
オーク
「オイ!チビインゲン‼(人間)︎ナニシテヤガル‼︎」
アイリス
「マズイ‼︎逃げなきゃ‼︎」
オークの振り下ろした斧をアイリスは避ける。籠手を持っている為若干身体は重くなっていたが、アイリスは刃をすり抜け、斧をオークの腹に叩き込んだ。
オークは絶叫しながら倒れた。
アイリス
「今の聞かれたんじゃ…?」
正に聞かれていた。
振り返るとスカルニクが立っていた。
スカルニク
「イキテイタカチビウサギ!ドウヤッテイキノビタカハ、シラヌガコンドコソコロシテヤルゾ!」
アイリス
「逆にお前を真っ二つにしてやるんだから‼︎」
スカルニクはまた魔力で出来た粉塵を吹き掛けたが、今度はアイリスには何の影響もなかった。
スカルニク
「ナッ!?ワシノジュツガキカン!?」
時は少し遡る…。
ミズキ
「アイリス、エルフの聖水を呑んでおくんだ。」
アイリス
「?僕今そんなに喉乾いてないよ?」
ミズキ
「違うよ、エルフの聖水は魔除けの効果がある。もし籠手を盗みに行く過程でスカルニクに鉢合わせ(はちあわせ)しても魔法でやられる事が無いようにする為さ。生き残る可能性を高くしておくことに越したことはないだろう?」
スカルニク
「エルフノマヨケデモナイカギリ…エルフノマヨケカ!?」
アイリスに額から汗が一雫滴る。
流石はゴブリンの中で一番のシャーマンにしてウォー・ボスだ。
魔法知識はしっかり持ち合わせている。
スカルニク
「オマエハナンダ⁉︎」
アイリス
「僕は何処にでもいるハーフフッドだよ。でも一つだけ言える事は。お前からこれを返してもらいに来たって事だよ‼︎」
アイリスは斧を振り上げ飛び掛かる。
スカルニクも槍で応戦する。
スカルニクは内心焦っていたエルフの魔除けは長い効果時間を持つ、つまりこの場で魔法は役に立たない。
然もこのハーフフッドが戦い慣れていることは想定外だった。
スカルニクはあくまでゴブリン・シャーマン、つまり白兵戦は専門外なのだ。
一方のアイリスはがむしゃらだった。
リオ、クロ、ミズキから一通りの白兵戦技術を叩き込まれ続けていたがまだ半人前にしか満たない…これは素質だろう。
自らの中に眠る勇敢なる者の魂が彼女に力を与えているのかも知れない。
だが二人が戦っているその時突如天から何かが降ってきて二人を吹き飛ばした。
黒きその物体は長い首と大きな羽を広げ咆哮し、数騎程いるそれは空を飛び、火を放ち、森ごと野営地とそこにいるオーク、ゴブリンを焼き尽くしていた
ドラゴンだ…然も禍々しい魔力を纏っている。
ナガロスのドラゴンだ。
そして一頭、明らかに普通のドラゴンとは一線を画す巨体は歴戦の騎手と乗騎の証。
ラカールスが来たのだ。
勢い良く着陸した事でアイリスの鞄は地面に投げ出されその傍らにアイリスは倒れていた。
スカルニクの姿は無い、ドラゴンを見て形勢不利と見て逃げ出したようだ。
ラカールスは鞄から籠手を取り出す。
ラカールス
「おお…我が王…!千年もの間待ち侘びた…我が王が遂に御帰還される!我らの時代が来るのだ‼︎」
だがそのラカールスの足を掴む者が居た。
アイリス
「渡…さない…!絶対…に!」
ラカールス
「半人風情が…触(ふれ)るなぁ‼︎」
アイリスはラカールスに頭を蹴り上げられ吹き飛ばされ、いよいよ気を失った。
殺されなかったのは幸運だった。
ラカールスからしてみればハーフフッド等殺す価値もない劣等種と見做していたからだが…。
ラカールスがドラゴンに乗った瞬間角笛が鳴り響いた。
そして微かに馬の蹄の音が聞こえてきた。
ラカールス
「人間…エドラフの騎士団か。相手にする必要はない。この場のゴブリンやオーク共は人間に狩らせるか。」
ラカールスは角笛を吹くと、配下に撤退を知らせた。
その頃、アイリスの潜入を支援すべくオークやゴブリンを引き離すべく森の中で戦っていた。
クロ
「おい!今の角笛を聞いたか!」
ミズキ
「ダークエルフの角笛だ!」
リオ
「だとしたらアイリスが危ない。キャンプの方に向かうぞ!」
クロ
「この緑畜生(オーク・ゴブリン)(みどりちくしょう)共を掻き分けていくのか、ハッ!楽しそうだ‼︎」
リオ
「行くぞ‼︎」
三人が一転して前進を開始した頃、オーク・ゴブリンの野営地は殺戮が繰り広げられていた。
エドラフの騎士の一隊の奇襲で成す術なく倒されていった。
馬の蹄に叩き潰されるゴブリン、ランスで貫かれるオーク。
野営地は文字通り地獄絵図であった。…。
そして隊長らしき身分の高い騎士が角笛を吹き鳴らした。
隊長
「もう良い!十分だ、皆炎に巻かれる前に引き上げるぞ!」
エドラフ騎士
「ハルト公子様!」
エドラフの公子と呼ばれた騎士は自身を呼んだ騎士の方に振り向いた。
すると気絶したアイリスを抱き抱えながら馬を走らせてきた騎士がいた。
エドラフ騎士
「野営地(やえいち)に子供が置き去りになっておりました。この辺りでは見た事がない格好をしております。」
ハルト
「見た目的には少女だが…手ひどくやられたな…オークか?その手斧は何だ?」
エドラフ騎士
「この子供の近くに落ちておりました。オークやゴブリンの物とは違いますので一応回収を。」
ハルト
「よもや賊の一味か…捨て置く訳にも行かぬ。皆ダンハロウの崖城(がけじろ)に戻るぞ。」
エドラフ騎士
「ハッ‼︎」
ハルトはもう一度角笛を鳴らし皆に撤収を告げた。
その頃三人は引きつけたオークやゴブリンを粗方片づけていた。
リオ
「今のはエドラフの角笛‼︎」
クロ
「あそこにエドラフの騎士団でも居るのか?」
リオ
「今のは撤退の合図だ、アイリス…巻き込まれていないと良いが…!」
三人が野営地に着いた時には唖然とするしかなかった。
完全に焼き払われた野営地には焼かれたか、馬の蹄で潰されたり、槍で貫かれたオークやゴブリンの死体が転がっていた。
リオ
「アイリス‼︎どこだ‼︎」
クロ
「お嬢!返事をしろー!!」
ミズキ
「ああ…そんな…二人ともこっちだ!」
ミズキはアイリスが籠手を入れていた鞄が落ちているのを見つけた。
そしてその鞄の前には燃え盛るスカルニクの天幕があった。
リオ
「そんな…ダメだぁぁ‼︎」
ミズキ
「リオダメだ!燃えてしまう‼︎」
リオ
「離してくれ!まだあの中に居るかもしれないのに‼︎」
ミズキ
「もうここには生者(せいじゃ)の気配も、籠手の魔力も感じない…!残念だが…アイリスは…もう!」
ミズキは涙を浮かべ、クロも首を垂れるしかなかった。
三人が燃え盛る天幕に立ち尽くしていると、またエドラフの角笛が聞こえてきた。
数十騎の騎兵が天幕に向かって走ってきた。
そして三人を取り囲み、槍を突き出した。
エドラフ騎士
「動くな賊め!」
クロ
「賊だとぉ!?よくもそんな口を聞けたなぁ!相手してやるぞ‼︎」
リオ
「やめろクロ。我々は敵ではない。」
エドラフ騎士
「その声…そのお姿…?公子姫様!(こうしひさま)こちらに‼︎」
公子姫と呼ばれた白馬に跨った女騎士は騎士達の円陣を掻き分け、馬を進めてきた。
そしてリオの姿を見た公子姫はハッとなり、馬を飛び降りてリオに抱きついた!
公子姫
「お姉様‼︎今まで何処に‼︎」
リオ
「その声は…ヘラか?」
ヘラ
「はい、私です!」
リオ
「ヘラ、何故こんなところにいる。姫が戦場に出るなど言語道断だぞ!」
ヘラ
「私は姫である前に盾の乙女です!エドラフの女である以上、戦場に立つのは務めです!」
ミズキ
「リオ、そちらの方は?」
リオ
「私の義理の妹、エドラフの公子姫(こうしひ)ヘラだ。私はエドラフ大公の養子なのだ。」
クロ
「驚いた…高い身分だろうとは思ったが義理でも公子姫かよ!」
リオ
「私には継承権(けいしょうけん)は無い、兄の公子ハルトが次のエドラフ大公だ。私は幼い頃に両親が死んで、父が大公の側近だった事もあって私を養子として育ててくれたのだ。…ヘラこの野営地を襲ったのは君なのか?」
ヘラは首を横に振ると同時に物悲しげな表情を浮かべた。
ヘラ
「いいえ…私達は今ここに着いたばかりです。民からオークとゴブリンの一団が国境に野営(やえい)していると聞き、王都の騎兵を率いてここまで来たのです。それと少人数の賊の話も聞いていたのですが、まさか姉様達とは。」
リオ
「なら、先程の角笛は?アレは明らかにエドラフの角笛だった。」
ヘラ
「お兄様ですわ…多分。」
リオ
「ハルト?ハルトがここを?君達は別々に行動しているように見えるが…。」
その瞬間、何かが切れたようにヘラから涙が零れ落ちた。
ヘラ
「お兄様は王都より追放されたのです…宰相(さいしょう)の手によって。」
リオ
「何だと!?義父上がそのような事をお許しになる訳が無かろう!」
ヘラ
「父上は…もう自分の言葉をお話になる事も叶いません…。みるみるうちに生気を失い…今や全て宰相の言いなりに…。そんな宰相に怒りを覚えた兄は宰相と喧嘩沙汰に兄は追放され、兄と共に宰相に反感を覚える兵士達を連れ西の城塞ダンハロウに。」
リオ
「何という事だ…では私が送った手紙は届いていないのか…ともすれば宰相の手によって…。」
リオはヘラに事情を話した。
ヘラの顔は青くなった。来る途中、夜の闇の中大きな影が空を飛んでいるのを微かに見たという。
一行はいよいよ絶望した。籠手は奪われ、籠手の守護者は恐らく死んでしまった…。
もはや魔王の復活を止めることは出来ないのだと…。
リオ
「何の為に…何の為にここまで…!」
リオが涙を流した…。
そこに鷲が一羽舞い降りてきた。
エルフの鷲らしく、ミズキの肩に止まった。
鷲の足には手紙が括り付けられていた。
ミズキは鷲から手紙を取ると再び鷲を空に飛ばした。
そして手紙の中身を見ると、リオに差し出した。
リオは手紙を取ると中身を読んだ。
そこにはエルフの王印が押されており、ただ一言女性らしい筆跡で書かれた文字が書いてあった。
「エドラフを救いなさい」
その送り主がガドリエルであることはすぐに合点が行ったが、如何にエドラフを救えば良いのか…。
だがガドリエルがエドラフを救うべしというなら今すべきことなのだろう。
三人はヘラと共に王都エドラへの道をゆくのだった。
夜が明けて少し経った頃、アイリスは気がついた。
一人天幕で寝かされていたアイリスは手を縛られていた。
だが傷の手当てはして貰っていたようで、そして自分のすぐ近くに武器や身に付けていた服や帷子が置いてあった。
包帯でぐるぐる巻きになっていたとはいえ、文字通り裸のまま布団に寝かされていたのだ。
アイリス
「ここは…。」
すると一人の騎士が入ってきた。
アイリスは咄嗟に胸元を毛布で隠してその騎士を見つめる。
その姿は何処かリオに似た甲冑を身につけ、豪華な毛皮で装飾されたマントを身に付けていた。
ハルト
「おいおい、子供のくせに恥じらいはあるのか?」
アイリス
「子供じゃない!ハーフフッドの中ではもう立派な大人だもん!レディーを裸にするなんてそっちこそ失礼じゃない?」
ハルト
「ハーフフッド…。成る程、通りでその姿は見た事がない訳だ。失礼した騎士として詫びよう。」
ハルトは深々と頭を下げるとナイフを取り出し、アイリスの手を縛る綱を切った。
そして天幕を出て、外から動ける様なら服を着ろと言ってきた。
アイリスは何とか動けた。
不思議なことだが、これもまたエルフの聖水の加護による物だった。
アイリスはどうぞと返すとハルトは再び天幕に入ってきた。
ハルトはまず自分が名乗るとアイリスはびっくりした。
アイリス
「エドラフの公子様!?って事は王子様って事!?じゃあリオは知ってる!?」
ハルト
「リオだって‼︎彼女を知っているのか!今何処に居る‼︎」
アイリス
「昨日まで一緒だったけど…」
アイリスは自分がここに至る経緯を分かる範囲で話した。
ハルトもまた青い顔をした。
ハルト
「何という事だ…!野営地が襲う前から燃えている物だがらてっきり内輪揉め(うちわもめ)でも起こしていると思ったがそんな事になっていたとは…!」
ハルトは顔を覆った…。
ハルト
「魔法使いシクレセリアは本当に死んだのか?」
ハルトの問いにアイリスは重く頷くしかなかった…。
ハルト
「最後の頼みの綱が切れた…父上をお救いする事は叶わぬ…。」
するとエドラフの騎士が一人入ってきた。
エドラフ騎士
「お話中失礼します公子。その娘を引き取りに来たと申す者が現れました。」
ハルト
「何者だ。この娘は我らが保護せねばならぬ者だ、得体の知れぬ者に渡す訳には行かぬ。」
聞き覚えのある若い声
「だからこそ私が迎えに来たのです。公子、まだ望みは絶えてはおりませぬよ。」
その声にアイリスの耳は飛び起きた。
その頃ウルサーン島、王都イーティンでは…。
エルフの貴族達が右往左往していた。
エルフ達には既にマレスの籠手がダークエルフの手に落ちた事がガドリエルより伝えられていた。
だがガドリエルは皆に動ずるべからずと言い、瞑想に耽り、そんな王妃を王フィヌバールは傍で見守っていた。
エルフ貴族
「ティリオン公子‼︎王陛下夫妻は何をお考えなのです‼︎」
ティリオンと呼ばれた長い金髪の髪の毛をした目つきの鋭い青年の見た目をしたエルフに貴族達は集まってきた。
ティリオン
「動ずるなと王妃は仰った。我々はそれだけで十分だ。裏切り者が死者を蘇らせたからと云って何を恐れるのだ。我らウルサーンの民は今までも、これからも、自力で故郷を守れば良いだけの事。人間やドワーフの手助け等なくとも我らはやれる。王妃はそうお考えなのだ。」
ティリオンは騒がしい王城の広間から出ていき夜の廊下を歩く。
そこに影から声を掛ける者がいた。
レイア公子姫
「ティリオン様。」
レイア、イーティンの名家の娘である。
慈愛に満ちたこの女性は王妃ガドリエルの側に仕えるこの娘はティリオンに恋をし、ティリオンもまたこの娘を愛していた。
だがエルフの貴族のしきたりは、婚姻の約束を取り付ける前に貴族の男女が逢瀬するのは禁じられており、二人はまさに禁断の恋をする男女なのだ。
ティリオン
「レイア殿、軍議を聞いておられたのか?戦は男の役目、イーティンの貴族の娘が関わらずとも良い事です。」
レイア
「私は貴方が無事に帰って来れるかが気になったのです…仮に貴方が討ち死にしてしまい、私がダークエルフに囚われ、操(みきお)を奪われるくらいなら私は舌を噛み切ります。そうはならずただ殺されるなら貴方のそばで死にたいのです。」
ティリオンはレイアを深く抱きしめる。
ティリオン
「その様な事には決してならん!私が居る限りウルサーンは決して奴らに穢させはしません。無論貴女もです。」
すると数名の足音が聞こえ、ティリオンとレイアは直ぐに離れ、レイアは物陰に隠れ、ティリオンは夜空を眺めるふりをした。
エルフ兵
「ティリオン閣下、イムリック将軍がカレドールに御帰還されました。カレドール軍を率いてグリフォン大城壁の守護(しゅご)に就かれるとの事。」
ティリオン
「相分かった。イムリック殿がグリフォンの大城壁を守るなら我らは中央、フェニックスの大城壁の守護に就くぞ!…大陸側のユニコーンの大城壁からも兵を引き抜きたいがもしもの事もある…全てのウルサーンの民に戦の時と触れ(ふれ)を出せ!王の御出馬(ごしゅつば)迄に出来るだけ兵を集めさせよ!」
エルフ兵
「ハハッ‼︎」
兵を従えて夜の闇に消えるティリオンを、レイアはただ祈りを捧げて見送るしかなかった…。
ウルサーン島は三日月を下に向けた様な形をしている。
一つの世界のほぼ真ん中に位置する巨大な島大陸であり、そこには数千万と数百万のエルフが暮らしている。
大陸側の諸国を束ねればエルフは一億程おり、一つの世界の人口の中で三番目に多い種族である。
それでも彼らが幻の如く語られるのは基本的に海を隔てたウルサーン島に住まうエルフが多数派であり、残りの数百から数千万のエルフも自然によって閉ざされた、或いは隠されたエルフの王国に住まうからであり、平地を中心に生活する人間の国々は勿論、自然が稀有なドワーフの岩山にはほとんど寄り付かないからである。
その地に住まうエルフ達はよく言えば高潔であり高貴であったが、悪く言えば傲慢で利己的であった。
一つの世界で最初に文明を築いた種族という自負もあるかも知れないが、兎も角もこの古い種族の台頭と分裂が一つの世界の混沌の始まりと言ってもいい。
それに対しての責任意識はあまり無い者が多いと言わざるを得ないが、光側に止まったエルフ達が一つの世界の守護者として役目を果たしてきたのは事実なのだ。
エルフの話は一旦そのくらいにしておこう。
その頃リオ達はエドラフ大公国王都エドラへの道を進んでいた。
リオ
「エドラフが二つに分断されようとしているなんて…そんな事になったらもう帝国は、人間はおしまいだ…。どうしてこんな事に。」
ヘラ
「王都の者達は宰相に恐れをなして何もできません。奴の言葉は今や父の…王の言葉なのです…。皆血涙を流す思いで兄を追いやり、兄は民に自分にそんな事をさせてしまった事への悔しさから怒りに身を任せて出ていってしまいました…。私たちの命運は尽きてしまったのかも知れません…。」
聞き覚えのある若い声
「いいえ、まだ希望はある。まだエオルの軍旗は焼け落ちておらず、ヘルムの角笛は鳴り止まず、ヘラの勇気と愛は今もこの地を守護しております。」
一同はその声のする方を見た。
それはとても奇妙だった。
夜なのに眩い(まばゆい)光を放ち、微かに人の様な影が見えるが、光が強すぎてその正体が見えない。
リオ
「下がれヘラ‼︎魔術師め!その奇怪な魔法を辞めよ‼︎こちらに座す(おわす)お方を何方(どなた)と心得る‼︎」
リオはヘラの前に馬を立てながら剣を引き抜き、ミズキは矢を番え、クロは斧を構えた。
だが次の瞬間三人の武器が赤熱化し、三人は余りの熱さで武器を落としてしまった。
聞き覚えのある懐かしい声
「私を見なさい。落ち着いて、恐れを払って…。」
そう光の人が諭す様に話すと光は徐々に弱まり、その姿を見せた。
三人はアッと驚いた。
その姿はローブと三角帽子からローブとドレスが混じった中間の様な装束に変わっていたが、彼らが最後に別れた時と同じ若い娘の姿だった。
長い黒髪に金のメッシュが入り、瞳は黄金(こがね)色に輝いている。
何処か浮世離れしている様な雰囲気を漂わせているのは再びこの世界に降り立った魔法使いだった。
リオ
「シクレセリア‼︎」
ミズキ
「お赦しを!知っていれば決して矢など向けませんでした‼︎」
クロ
「ゆ、ゆゆゆ幽霊…じゃないよな!?フ、フハハハハハコイツは愉快だ‼︎」
シクレセリア
「シクレセリア…そうだったわね。私の名前はシクレセリアだったわ、そう呼ばれていたわね。私には名前がたくさんあるから。」
リオ
「てっきり死んだものと…」
シクレセリア
「その話はまた後で、その前に役者を揃えないと。」
そういうとシクレセリアは合図を出した。
すると森の影から馬に跨ったエドラフの騎士達が現れた。
それはハルトについていった騎士達だった。
ハルト
「ヘラ!リオ!お前たちなのか‼︎」
ヘラ
「お兄様‼︎」
リオ
「ハルト兄さん‼︎」
三人は馬を降りて抱き合った。
兄妹が再び揃ったのだ。
シクレセリア
「さっ…貴女も出てらっしゃい。」
そう言われて出て来たのは、傷が完治したアイリスだった!
リオ
「アイリス‼︎」
ミズキ
「奇跡だ…アイリス‼︎」
クロ
「お嬢‼︎無事だったんだな‼︎」
アイリス
「みんな…ただいま‼︎」
四人は固く抱擁(ほうよう)した。
取り分けリオは兄妹が揃った時から涙を流し続けている。
常に凛とした女武者が今は一人の乙女に戻っていると言っても良い。
シクレセリア
「役者は揃ったね、さぁ行こう!エオルの都に巣食う毒蛇(どくじゃ)を斃し(たおし)にね!フレアラフ大公が目覚めれば人間は立て直せる!」
光が強くなれば影もまた深くなる…だが闇が深くなればなる程、それを照らす光も強くなるのだ…。