遊戯王ワールド(初代)で閃刀姫に愛された転生者の話 作:ホーネットビットの残骸
「悪い一颯! 転校してもらうことになった! 一週間後に引っ越す!」
大会が終わって地元に帰り、自宅で一息ついているといきなり父親が自室に乗り込んできてとんでもないことを言い始めた。
「はあ!? いきなり!? 何でだよ?」
「転勤? 栄転? とりあえず今度本社の専務に昇進することになった」
「それはおめでとうだな。母さんには言ったの?」
「もちろん。今日は回らない寿司に行くってよ」
ただ、めでたい事であったので素直に受け入れよう。転校もまあ……この時期だとちょっとあれだが、転校することは受け入れよう。前世の俺は両親を早くに亡くしていてあんまり親孝行できなかったので、今世こそは親孝行しようとひそかに心に決めているのだ。
「いやでも、せっかくなんだし母さんと二人で赴任してきたら? 息子がいない方がイチャイチャ出来るだろ。息子が居てもイチャイチャしてるけど」
「もう俺ら五十路だぞ。息子の前で出来ない位イチャつき方なんてしないし。お前が居ないと父さんも母さんも寂しい。寂しくて夜も眠れなくなる。実際大会の時は寝れなかった」
「そろそろ子離れしろよな……」
30過ぎてそろそろアラフォーが見えてきたところでようやく授かった一人息子の俺に両親は結構激甘である。一人で大会に出ると言った時二人とも有休を使って付いてこようとしたくらいだ。
しかもパックが欲しいと言えば普通にボックスで買ってくる。1パック3ドルもするのに……
「ところでどこに引っ越すの? 行き先くらいは友達に伝えておきたいんだけど」
「ああ、そうだったそうだった。童実野町だよ、童実野町」
「へー、童実野町……童実野町!!?」
いきなり出てきた地名に仰天する。童実野町ってあれだろ、治安最悪の上社長の一言でバトルシティと化す魔境だろ。なんだってそんなところに……
「当たり前だろ。父さんの勤め先、海馬コーポレーションなんだから。本社は童実野町にあるよ」
「いやそれ初耳……いや、前に一度聞いたような……?」
「まあもう決定してることだから。友達にも伝えるんだぞ」
そういって去っていった父さんの背を見送ったのち、頭を抱える。
これはあれだ、確実に転校先は童実野高校だわこれ。それで主人公たちと関わって有無を言わせず巻き込まれるんだ。俺は詳しいんだ。
とりあえず新しく作った閃刀姫デッキを手に取り、シャッフルして5枚引く。デュエリストのサガかカードを触っているときは妙に落ち着く。
そうしてドローしたカードを見ると──
《増援》
《閃刀姫-ロゼ》
《閃刀起動-エンゲージ》
《ライトニング・ストーム》
《強欲な壺》
完璧な手札だ! いや完璧な手札だよこれ。普通にデッキ回るじゃん。ライフ8000ルールでも余裕でワンキルまで行けるわ。
切り込みロックを使ったときはこんなに引きは良くなかったぞ……?
流石に偶然かと思い5回ほどさらにデッキを回してみたところ毎回同じような引きを見せてデッキがぶん回り始めた。増援や強欲な壺などのピン差しカードも欲しいときに手札に来る。なんなんだこれは……
ちょっと怖くなったので今まで使っていた切り込みロックデッキにデッキを組み替えて一度回すと、まあこんなもんだよなと言った感じの引きに収まった。
どうやら俺がこの先生きのこるためには閃刀姫デッキを使わないといけないらしい。
「どうしろって言うんだよ……」
もう一度頭を抱えて思いっきりぼやく。多分マジック&ウィザーズ──は、あの後調べたところ今ではデュエルモンスターズで呼ばれているらしい。マジック&ウィザーズはこの世界では仮称ということになっていたようだ。閑話休題、デュエルモンスターズはその成り立ちからして、精霊が応えれば今までなかったルールでも適応されるだろう。それこそこの世界にいきなりリンク召喚を持ってくることは、おそらく可能だ。それにその召喚方法も、ペンデュラム召喚時の時のように驚かれはするが素直に受け入れられるだろう。
だが、それをやった時にこの世界に与える影響がわからない。おそらく原作の流れなんて粉微塵に砕け散ることだろう。それこそ第一話から社長の究極嫁の攻撃力を超えるリンク勢御用達のアクセスコードトーカーなどが飛び交う魔境と化す。まあ攻撃力10000とか無限とかも出てきたような記憶があるので今更どうしようもない。随分曖昧だって? アニメ見てから何年たってると思ってるんだ。
何だかんだ言って武藤遊戯ならどんなルールが追加されたところで何とかしてくれるだろう。それこそ《マジシャンズ・ロッド》や《黒の魔導陣》とかいうパワーカードを駆使してくる可能性が高い。《魔法族の里》なんて使われた日には俺は間違いなく死ぬ。この環境では除去することすら難しい。
だが、その過程で何かあった時、特に俺の家族に危害が及ぶのは避けたいのだがそうも言っていられない状態になった。全国大会出場経験のある俺は下手しなくても狙われる可能性がある。
特に父さんは海馬コーポレーションの重役だ。絶対に被害を被るやつだよこれ……絶対に何だかんだ関わることになるじゃん。詰んだかこれ?
傍観するのは多分NG。ただ、こっちから積極的に関わるのもあんまりよくない。メインに関わるけどあんまり前には出ない、御伽くんくらいの立ち位置が理想だ。
まあ俺に何かできるかと言われれば前世で培った運転と雑な男料理ぐらいのものなのだが……うーん、良くて社長専属の運転手あたりとしてこき使われる運命しか思い浮かばないな! クソわよ!
父親が海馬コーポレーションの重役という勝ち組的立ち位置だったことが判明したことより主人公勢と濃厚に絡まないといけなくなりそうなことの方が衝撃だわ!
まあでも海馬社長ならいいか。あの人のイメージ的には自信家だが公明正大で一本筋が通った人だ。さらに自分に意見を言ってくるような相手は好きそうな手合いだ。必要以上に遜ることなく率直に述べればそれなりに評価してくれるだろう。
というか多分父さんが出世したのもその関係だろう。父さんは上司だろうがダメなことはダメだと意見を述べるタイプだが、なぜだか他人から嫌われるようなことはない不思議な人だ。人望があるとはああいうタイプの人のことを言うのだろう。
ひとまずは今日の夕食のために出かける準備を進めよう。後のことは後に考えよう……
半ば現実逃避しつつ、余所行きの服に着替え始めるのだった。
「赤木一颯です。よろしくお願いします」
そうして転校初日。俺は特徴的なヒトデ髪型が居るクラスで死んだ魚のような目で挨拶をしていた。
覚悟はしていたけどやっぱりクラスメイトかよ! ちくしょうめぇ!!