ギルド本部、最上階にある執政室。
長椅子や絨毯、魔石灯に書棚。絵画に至るまで一人の人物に与えられたこの部屋の家具は、端から端まで優雅な雰囲気に包まれながら部屋主の趣味嗜好及び贅の限りを尽くした空間となっている。
この部屋を訪れるギルド職員の多くが──特にエルフは──この部屋とこの部屋の主を見て不快感に顔を顰めている。
ロイマン・マルディーニ。
冒険者の管理・運営が仕事のギルドにおいて、ギルド長という最高責任者を任されている組織のトップ。この部屋も世界中のあらゆる高級品を、権力と財力を用いてかき集められた彼にとっての至高のコレクション。
それが今。
「──よせ、よせぇ!!私のコレクションをどうする気だぁ!!?」
「全部売る」
「何故そんなことする!?それにそんなことして只で済むと思ってるのか!私を誰だと思ってる!」
冒険者達が至高の高級品をよいしょよいしょと執政室から強奪···もとい回収し、エレベーターを利用して外に置いてある
いち早く止めるべきギルド職員は事情を知っているため誰も止める素振りを見せず、むしろギルド長ごと連れて行けとばかりに見送っていく。何も知らない人達は荷車に乗せられる高級品の数々に足を止めて見物していた。中には新聞記者も混じっているので、明日の朝刊一面に『脱税疑惑で差し押さえか!?』なんてデカデカと飾られることだろう。
A.なぜ脱税なのか。Q.脱税してそうだから。
そんな横暴を働く冒険者集団にロイマンが憤慨し果敢に挑むも、
「誰だと思っている、だと?」
「「私欲にまみれた腐った畜生」」
「ぶひぃ!?」
「「子供を搾取し続けた人類の恥」」
「ぶひひぃ!?」
「最低最悪、だと思います」
「ぶひひひぃ!?」
連続で罵声を食らい醜い悲鳴を漏らし膝から崩れ落ちた。リヴェリア達はそんな彼に蔑みの目を送る。
「······本当にいいんすか?こんなことして」
リヴェリアに声を掛ける青年──ラウル。
深層から帰還するや否や本拠地で仕事をしていたラウルとその他の第二級以下の冒険者は、突如として召集され事情を教えられぬまま回収作業に順次していた。
言われるがまま作業していたが、相手が相手なだけに本当にいいのだろうか?
「いい。
「それは······確かに酷いっすけど、団長とロキに伝えなくていいんすか?」
事情は知ったが、他所から見たら強奪行為と遜色ない。ファミリアの評判に関わることを事後報告なのは流石に不味いのではと、ラウルは苦言を漏らす。
「もちろん伝えたさ。その後にフィンにはあちこち回って悪い噂が立たぬよう根回し(という名の暗躍)をしてもらうのと、ガレスには腕利きの不動産屋と買取屋に行って安く買い叩かれないよう交渉してもらい、ロキには神ウラノスに事情を説明して
「しっかり働かせてた!?」
報告と命令を同時に行う鮮やかな手腕を見せたリヴェリアに戦慄すると共に、『あはは···』と痛むお腹を擦りながら苦笑いするフィンと『思いきったことをするのォ!』とガハハ!と大笑いするガレス、『なんでドチビの眷属なんかを···』と消沈するロキを幻視した。
ロキはともかく、フィンとガレスを
(それにしても······)
リント・クライムロード。【ロキ・ファミリア】が酒場で嘲笑した仲間のために立ち上がり、あのベートを打倒した若き第一級冒険者。
怪物祭ではアイズやレフィーヤ達の窮地を救い、十八階層では突如現れた漆黒のモンスター相手に見事な大立ち回りを見せた、と聞いた。
事情が事情だったとしても、普通は他派閥の冒険者のためにここまで動かない。見れば【単眼の巨師】や【戦場の聖女】といった腕っぷし以外で有名になった者達まで動いている。
"冒険"を目撃したリヴェリア達、その"冒険"を手助けする彼女達が義憤に駆られる何かが、あの冒険者にあるのだろうか。
「······あれ?」
「どうした?」
「件のリント・クライムロードはどこにいるっすか?」
「ああ、それなら──」
ギルド本部、来客室。
「リント君」
「はい······」
「リヴェリア様からしばらくお世話するよう頼まれたの」
「はい······」
「勉強しよっか」
「······」
机の上に積まれる上層~深層域に至るまでの教本の数々に、少年は絶望した。
数々の冒険者が泣き崩れたという
半妖精は
「知識は大事だ」
「その通りだと思うっすけど、全く分からないっす」
「リヴェリア様、荷運び終了しました!」
「ご苦労。一班はそのままガレスがいる所へ向かえ。ラウル、お前は椿とアミッドを連れて二班と合流しろ」
「「「了解!」」」
「は、はいっす!」
団員が退室するのを見届けると、リヴェリアは隅っこで踞っている
「···私の、私の
【ロキ・ファミリア】の幹部と準幹部の豪華メンバーが集まっているのに、二班だと?こことは別の場所がある言い方じゃないか。
······まさか!?
「
「支払うのはギルドではなく貴様だ馬鹿者。余剰分は孤児院に送る手筈となっている」
「いやああああああああ!!?」
「二度と馬鹿な真似ができぬよう徹底的にやるぞ」
ロイマンの懇願むなしく沙汰が下された。
「マーメイドの生き血も大量に売ってましたけど、きっちり完済できますかね」
「······しばらくは無給だな」
新聞記者や神々が面白おかしく騒いだことで後に"ロイマン事変"と呼ばれるこの騒動は、ギルド長の屋敷を含めた私物全て売り払われたことで終結された。事情を知らぬ者達含めて、彼の評価が著しく下落したのは言うまでもない。
買取屋は運びこまれた価値ある品物の数々に目を見開きてんやわんや、不動産屋はギルド長の豪邸をどうするか検討中、孤児院は降って湧いた高額の寄付金に感謝する毎日を送っている。
当の本人は、そんなこと知らずとばかりに皿洗いに精を出していた。
「手際がいいですね」
「叩き込まれましたから」
リントの初代主神、アフロディーテ。【
リントに歌芸を学ばせると同時に【神秘】に目を付けた彼女は、ずっと欲しかった等身大人形を作成させるためにあらゆる職人から技術を学ばせ、それと平行して生活に欠かせない家事を中心に叩き込んだ。アフロディーテ主導の"理想の男計画"なる思惑があったことをリントは知らない。
それが功を奏したのかリントは、歌と演技に創作、主婦より主婦力が高い家事能力を持つ。
その成果を発揮すべく、【豊穣の女主人】における皿洗いを引き受けていた!
「いや引き受けていた!じゃなくて」
「すみません同僚が···。しかし、今日は客数が多く忙しい。手伝ってくれると助かります」
「それは別にいいけども」
一度この店で騒ぎを起こしているし、と内心で呟く。
ここに連れてきた
「姉として誇りに思います」
二人はカチャカチャ、ジャージャーと皿と水の音を聴きながら皿洗いをする。
「·······················································なんて?」
「姉として誇りに思います」
「·········あ、姉?いつから?え、てことは僕は弟?···なんで?」
「貴方に【恩恵】を授けた神々の中に、かつての主神がいたと聞きました。とうの昔に破門された私に名乗る資格はありませんが······シル曰く、それでも姉であることは変わりないのだと」
ファミリアは家族だとよく比喩されるし、姉を名乗ってもおかしくない。
「······お姉ちゃん呼びした方が──」
「もう一度呼んでください」
「食い気味!?······お姉ちゃん?」
「───!!」
カッ!と目を見開いたかと思えばこのエルフ。
エルフって種族柄異性と触れ合うことを避けると聞いたけど、これはどうなんだ?
「弟を抱き締めるのは姉として当然のことだと思いますが」
「僕がおかしいの?」
一班
【ロキ・ファミリア】の準幹部以下のメンバー。仕事中、休暇中のメンバーが駆り出された。
二班
椿、アミッド、ラウルと【ヘファイストス・ファミリア】、【ディアンケヒト・ファミリア】のメンバー。駆り出されたメンバーは仕事中の者以外上記と同じ。
ロイマン
家と金を失ったため、何もない執政室で暮らしている。机と椅子はギルドの備品。食料は流石に支給されて風呂はバベル併設のシャワー室。数年先まで無給が確定。副業ありだっけ?
神々
眷属が中心になってやってるから取り敢えず傍観。ロキは酷使された。何も知らない神々はロイマンが悪さをしたと面白おかしく騒いだ。事実悪さをした。
その他の一般人
とうとう悪事を働いたなあの野郎。
エルフ
軽蔑を超えて殺意の域に達した。
アフロディーテ
等身大人形一つと縮小サイズの人形をたくさん作らせた。等身大は自身の部屋に、縮小サイズは眷属の部屋に飾らせている。服の着脱可能。人形を紐でくくって木にぶら下げたハルモニアを追いかけ回した。
実は廃教会に飾ってあり、アフロディーテだけではなく主神になった神々の人形も飾ってある。
リュー
アスフィにアストレアの眷属がオラリオに来ると聞く。過去のこともあり会う資格がないと思っていたが、酒場でのベート戦と皿洗い姿を見て姉性爆発した。ベルとはまだ出会ってないため触れられる三人目。