「モンスターが多いな···」
モンスターの遺灰で染まった地面を見て呟いた。
ギルド長との一騒動が大人達の手で終息し、再びダンジョン探索に赴いたわけだけど、十八階層を超えた辺りからモンスターの数が増え始め、二十四階層に到達した瞬間爆発的に増加した。
いつもの
「······ん?」
物陰からモンスターを観察すると、二つほど気がついたことがある。
「痩せてる、のか···?」
一つ目。なんか全体的に少し細いような、そうじゃないような。肋骨が露骨に浮かび上がっている。なんつって。
「同じ方向から流れてるなぁ」
二つ目。同じ方向からモンスターの大群が押し寄せている。無数にある通路全部から、奥から入口に目掛けて進んでいる。
ここまでの推測をまとめると、痩せてるモンスターは同じ方向から流れてきている。
だからなんだ──
『またお勉強しないとダメかな?』
貴方は脳に情報の暴力を叩き込まれて誕生した妄想エイナさん!?お勉強はもう嫌だぁ!!
『全くもう。いい?モンスターは生き物である以上、食事は必要不可欠。でも地上とは違って食糧に恵まれない。じゃあどうやって食事をすると思う?』
え、冒険者を食べる──嘘嘘、嘘ですエイナさん!
「
『正解』
そう言って、妄想エイナさんはスッーと消えた。ダンジョン関係に疑問を浮かべると現れ、解決すると消えるシステムらしい。
そうだ
つまりこの大群の正体は、餌を求めるモンスターによる
「原因の根幹を解決したら、少し間引いて下に向かおう」
根っこの部分を解決しても、大群が消滅することはないので、第二級以下のパーティでもきついこの数を減らしておく。
僕は気配を消しながら走った。
「愛し子だ」
「······なんだと?」
緑肉により改造を施された食糧庫、その一室。
とある組織の残党から侵入者が入り込んだと報告を受け、鬱陶しいとばかりに聞き流していたが一転、監視の魔道具を通して姿を確認したレヴィスは表情を変えて呟いた。
「あの小僧がか?何かの間違い······でもなさそうだな」
魔道具に映し出されていたのは、金髪のまだ成人もしていない幼いエルフ(もしくはハーフ?)。しかし、紅と蒼の双剣を持って食人花を討伐していく姿は、忌々しい歴戦の冒険者を彷彿とさせる。
モンスターの骨でできた仮面で顔を隠す白髪の男が注目したのはその剣技ではなく、魔法だった。魔法を使用するごとに緑肉が僅かに蠢きだす。そしてその度に
レヴィスの言う通り、"彼女"が求める愛し子で間違いなかった。
「別に誘ったつもりはなかったが······向こうからやって来たというのは好都合だ」
「彼女の願いを叶えるために、あの小僧を供物に捧げる!」
「リントと、その······同じ派閥だったんですよね?」
「そうだけど、それが?」
モンスターの大量発生を突き止めるべく、原因となっている二十四階層に到着したアイズと【ヘルメス・ファミリア】の一行。
大量発生を大移動によるものだと推測した彼女らは食糧庫へと足を進めていた。
アイズは周囲を警戒しつつも、個人的に気になっていることを聞いてみた。
「あの子はいつから戦っていたんですか?」
「五歳」
「え──」
私よりも速い!?
「まあ、初代主神のアフロディーテ様が過保護ってのもあったから、本格的に戦いだしたのはずっと後だったけどな」
【恩恵】を見ずとも英雄の才覚を直感で見抜いたヘルメスは、"使命"とか"約束"なんか知ったことかと手元に置いて愛でたいアフロディーテを、それはもう苦労して説得した。
リントの体質上、神々に【恩恵】を刻ませる必要があったことと、才能を腐らせることは魂を腐らせると同義であるという
「ヘルメス様プロデュースのもと、レベルに見合ったモンスターと戦わせたり、都市外の神様や人間と交流させたり、知識や技術を学ばせたりと色々やった」
ヘルメスは必死だった。下界の未知を体現するステータスに、容易く自分の物にする学習能力、極めつけは精霊に愛される体質。神時代になってから久しく現れてない天然の英雄候補。
試練を与えつつも丁重に育てあげ、いずれは自分の手で英雄に仕立て上げると考えていた。
「まあ、悉くヘルメス様の期待を超えて仰天させてたよなぁ」
生け贄にされるお姫様の代わりに毒沼に落ちたり、女神を庇う形で蠍に喰われたり、闘国まで攫われた仲間を取り戻しに行ったり、風の中位精霊にぶちのめされたり、竜の谷の瘴気に汚染されながら戦ったり、さらに追加で這い出た竜に焼かれたり······。
それらを乗り越えて今やオラリオを沸かす第一級冒険者。救われた人々はリントを讃え、吟遊詩人は国から国へと英雄の詩を伝えている。
その裏でもういらんことするなと全主神から告げられ、ヘルメスはプロデューサーをクビになった。何がしたかったんだコイツ。
そうこうしているうちに、食糧庫に辿り着く。入口は緑肉に閉ざされていた。
メリルと呼ばれた小人の少女が詠唱を開始する。地面に現れる魔法陣は、魔導士必須の発展アビリティ【魔導】によるもの。魔法種族ではない小人族でありながら、未来を嘱望される才能。
「でも、あのガキには遠く及ばないし、何もない俺はもっと······。全く【勇者】といい嫌になる」
「えと、フィンとリントのこと······もしかして嫌い?」
小人族でありながら、第一級冒険者となって最大派閥を率いる男。
彼の存在は、見下され、馬鹿にされ、侮られる種族に夢を見せた。しかし、その夢は立ち塞がる現実によって崩れ落ちるのだ。
アイツの場合は───。
『え、Lv.2?オラリオを行き来しながら?すっごいなぁ!』
【ヘルメス・ファミリア】は主神をはじめとする曲者揃い、何気ない会話一つ一つが"暗号"や"警告"という意味を持つ。
神の領域まではいかなくとも、日常で鍛えられた対人能力によって、会話の中に潜む悪意や嘘を見抜くことは造作もない。
「······ハッ!嫌いだね」
小人族でも英雄になれると
妄想エイナさん。
知識や経験から正答を導きだす離れ業を無意識的にやっていたが、勉学というストレスを与えられたことがきっかけで形になった。なに言ってんだ。
リント
ポックには本気ですごいと本音で答えた。
ポック
Lv.2だぞ!【勇者】と比べると別にすごくないだろ!と思ってる。ほとんどの冒険者がLv.1で終わる中で、Lv.2がどれだけすごいことか気付いていない。