完成しているのは間違っているだろうか   作:新人作家

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リント
 敬語使うけど仲間には敬称をつけないタイプ。使えって言われたら使う。売られた喧嘩は(利益があったら)買うタイプ。




第3話

 

 「平気ですよ、多分」

 

 昼間ベルが誘われた酒場は【豊穣の女主人】。

 旅で訪れた国々に当然酒場はあったけど、オラリオはその倍くらいの店舗がある。冒険者中心に成り立っている都市だから需要があるのが理由だろうが、モンスターが産まれないからとは言え十八階層にも酒場あるのは流石に引いた。

 

 そんなオラリオにある酒場の一つ【豊穣の女主人】と他の酒場との違い。決定的なのは店主も店員も働く人全員女性という点だろう。

 店が提供する酒やドワーフの店主が作る料理もそうだが、男が多いオラリオでは美人な従業員が働くだけで一種の客引きとなり訪れる客も多くなる。

 

 一時期お世話になった【アルテミス・ファミリア】が、さる美神に主神諸とも騙され酒場で働いたら売上額が十倍以上になるという珍事件があった。

 その美神はお尻に天誅され汚い悲鳴を上げていた。

 

 昔話はいいとして、この酒場で僕が注目したのは()()。店主を始め一人一人が明らかに強く、Lv.3なら中堅派閥の団長を担えるこの街で()()()()()()()()()()()()()

 食い逃げしようものなら地獄の底まで追いかけて、ファミリアごと潰されそうだ。

 

 そんな店でベルは笑い者にされ、盛大に飛び出した。食い逃げである。

 当然、隣に座っている連れの僕に視線が集まるわけで、食い逃げ犯の仲間で逃げ遅れた子供という感じで悪目立ちしている。

 

 「······お金はありますんで、ご容赦を」

 「はい、丁度いただきますね。リント君」

 

 居たたまれないのでベルを誘った従業員、シル・フローヴァにお金を渡す。

 階層主に挑む前は中層のモンスターで慣れつつお金稼ぎしていたのだ。ベルは財布を気にして安いものを頼んでいたし、二人分なら余裕に払える。

 

 「······お、おいあのガキ」

 「ああ?あのガキがなんだってんだ······。──!まさかあのガキ、アンフィス・バエナを倒してLv.5になったっていうハーフエルフか!?」

 

 客二人の会話を皮切りにザワザワと騒がしくなる。店主もシルも目を見開いて驚いていた。

 ギルドで公表されている情報だから知られていても問題ないが、自分がそうだと─特に神々に─バレないようフード被って一応は気を付けていたのだ。なのに暑くてフードを脱いで食事していたら今バレた(アホ)。

 当人がここにいるって知られるのは不味い。

 

 「君が、あの時戦っていた子供なんだね」

 

 背後には【ロキ・ファミリア】がいるのだから。

 

 

 

 

 

 「()()()()()()

 「──え?」

 

 え?

 詰められると思ったが頭を下げて謝られた。そのことに困惑するが、どうやら仲間達がベルを嘲笑したことに対する謝罪らしい。  

 アイズの行動にその仲間達は動揺するが、僕がベルの仲間と見るや否や申し訳なさそうに行いを恥じる。その中には【千の妖精】もいて、彼女は目を伏せていた。

 

 「平気ですよ、多分」

 「え?」

 

 今度はアイズが困惑する。

 

 「アレで折れるんならそこまで。安全な仕事に就いて細々と暮らせばいい。危険が付きまとうダンジョン探索よりも、貧しくてもそっちの方がよっぽど幸せですし」

 「······厳しいんだね」

 「ですね。でもさっきも言いましたが、平気ですよ」

 

 あそこまで罵倒されて嘲笑されたら普通は悔し涙を流す。実際ベルも泣いていた。

 しかし、ベルが選んだのは本拠地(ホーム)で枕を濡らすことではなく、本拠地とは逆方向にある()()()()()()()()()()()()

 武器を振るうことを選んだ彼なら泣くことはあれど、定めた目標まで折れることはないと思ったし、前世でいうところの成り上がり主人公にありがちな挫折を知って強くなる黄金パターン。

 

 だから平気(だと思う)。

 

 「おいクソガキ。雑魚が馴れ馴れしくアイズと喋ってんじゃねぇ」

 「っ、ベートさん······」

 

 罵倒した張本人【凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガ。仲間達が気まずそうにするなか、唯一噛みついてきた男。

 気があるアイズが他の男と喋っているのが我慢できないようだ。

 

 「半端者(ハーフエルフ)か。ハッ、トマト野郎より細腕のテメェじゃあロクに武器を持てねぇだろ。とっとと森に帰ってママに甘えてろや」

 「無理ですね。そのママは現在父に甘えるか刺すかの二択で生きてますので、僕が帰省しても甘える余地は残ってないです」

 「──」

 

 ベートが絶句し、主神を見る。()()()()()()()釣られて周りも絶句する。

 先ほどまでの空気が死ぬほどのドン引きである。何より子供が言うセリフじゃない。

 

 「その反応を見るに、両親の愛はオラリオでも異常なんですね。意外です」

 

 (((普通なわけねぇだろ!)))

 

 という感想を浮かべる一同。このハーフエルフ、見かけによらず愛憎を知っている!

 

 かつてを知る古参勢は、

 

 (((【ヘラ・ファミリア】が健在ならあるいは······いやそれでも異常だ······)))

 

 という感想を浮かべる。

 

 「まあ、いいんですようちの家庭事情は。仲間が馬鹿にされて、僕まで馬鹿にされた。ならば冒険者として取るべき行動は一つでしょう」

 「······あ?」

 「──表に出ろ三下」

 「ハッ、おもしれぇ!」

 

 

 

 

 「じゃあ、シンプルに殴り合いをしましょう」

 「魔法も有りでいいぜ。エルフでそれだと一方的過ぎてつまらねぇ」

 

 酒場の外。売られた喧嘩を買う形で決闘を申し込んだ僕は、当然シル・フローヴァというベルを酒場に誘った店員に止められるも拒否。

 腹が立ったのもあるが僕自身、Lv.5と戦えるまたとない機会を逃したくない。

 

 ベートは雑魚だと言って罵る反面、アンフィス・バエナをソロで討伐しLv.5になった僕に決闘を申し込まれてからは、やる気に満ち溢れている。

 

 誰もが見守る中、ベートと対面してしばらくの静寂を切り裂いて先に動いたのは、

 

 

 「ハァッ!!」

 「ぐっっ──!!」

 

 ──(リント)

 

 右の拳が鳩尾に入った。くの字に身体を曲げるベートの顎に左の拳を叩き込む。回し蹴りを入れて距離をとる。

 計三発の攻撃をもろに喰らい、ベートは片膝をついた。

 

 思いの外ダメージを負っているベートに、観戦するため外に出た客と従業員は目を見開いた。

 

 「が、は······っ」

 「まだやりますか?」

 「っ、ったりめぇだクソガキィッ!!」

 

 二人の攻防は続く。

 

 「あの遠征中に遭遇したアンフィス・バエナをソロ討伐したハーフエルフ······なるほどベートと互角以上にやりあえるわけだ」

 「しかし理解ができん。ベートはLv.5の中でもアビリティも育っている上澄みだ。同じレベルとはいえ成り立てで奴に迫れるものなのか?」

 「アビリティに補正が掛かるスキルによるものじゃな。加えて、あの歳で相当の場数を踏んだようじゃ」

 「んで、今までの貯金(エクセリア)やな。見るに今までのアビリティを合算したら軽くベートを超えとるんちゃうか?育ちにくい都市の外でちゅうんは信じられへんが」

 

 考察をする【ロキ・ファミリア】の三首領と有名な冒険者とその主神。

 アイズは二人の対決を見て、その考察が正しいと確信したと同時に、その強さをどこで身につけたのか気になってしまっていた。

 

 「ちょっ、ちょっとベート!?()()はダメだって!」

 「るせぇぞ馬鹿ゾネス!」

   

 獣人の中でも狼人(ウェアウルフ)はダンジョン探索に向いていない種族で有名だ。その理由は獣化(スキル)。発動条件が月が出ている夜なので、それが隠れるダンジョンで発動はできないデメリットがある。

 しかし今はダンジョンの外で、月が出ている夜。発動条件は満たしている。

 

 「······っ!」

 「テメェもスキルを使えクソガキ!全力でこい!」

 

 優勢だったリントだったが、劣勢までとは言わないが次第に防御の数が増えていく。昇華(ランクアップ)染みた獣化による強化が凶悪だったらしい。

 

 ──リィン、リィン。

 

 「──ハッ!アンフィス・バエナをぶっ殺したチャージか!いいぜ、上等だ!!」

 

 リントの切り札(チャージ)に怯まず暴力の嵐で応えるベート。Lv.6であっても傷を免れない攻撃は、同格が受けたら骨折レベルの重症となる。

 

 しかし、()()()()()()()()()()()()()

 

 スキル【闘争本能】。アビリティの超高補正と体力と傷の常時回復(オートヒール)

 そこにスキル【技能増幅】。この二つが合わさることで負傷をまるで無いように扱えるし、直ぐ様防御から攻撃に変更(シフト)することだって可能。

 

 チャージ八秒。

 

 ベートの拳を弾いたリントは、アンフィス・バエナを下した魔法で殴る!

 

 「──【バラエティ・ボルト】!!」

 「──ぐっっふぅぅ!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()遠くに殴り飛ばされた。誰もがその光景に目を奪われる中、

 

 「っ!リーネ、ベートの治療を急げ!」

 「!?は、はい!」

 

 明らかに死にかけの重症を負わされたベートに駆け寄り回復魔法を唱えるため手をかざすが、当の本人がその手を弾く。

 

 「べ、ベートさん!?」

 「必要ねぇ。()()()()()()()()()()()

 

 「「「「「!?」」」」」

 

 死にかけから全快に持っていく回復魔法!チャージしてたし当然と思いきや詠唱したかアイツ!?観客達が動揺しつつも思考を巡らせる。

 

 「テメェ、回復魔法をぶちこみやがったな?何のつもりだ」

 「これは僕が始めた決闘で、その終わりを決めるのも僕。もう気が済んだので治しました」

 

 最後の一撃(パンチ)。アレで充分気が晴れたので癒した。

 属性を変えられる【バラエティ・ボルト】は回復魔法にも化けられる。それも無詠唱なので完全ぶっ壊れ魔法である。

 

 「そうか。······名前は?」

 「リント。リント・クライムロードです」

 「次は俺が勝つ。他の誰にも負けんじゃねぇぞ──()()()

 「ええ。次も勝ちますよベートさん」

 「ハッ!上等だ!」

 

 「あのベートがデレたやとぉぉぉぉ!!?」

 「「「「「なんだってぇぇぇぇ!!?」」」」」

 「······よーしテメェらこっちに来い。纏めてぶっとばしてやる!!」

 「「「「「ギャアアアアアアア!!」」」」」

 

 仲間内で喧嘩をしているのを尻目に、僕は帰ろうとする。今回の一件で完全に目立ち過ぎた。しばらく表を歩かない方がいいかもしれない。

 

 「少し待ってくれ同胞の少年。いやリント・クライムロードだったか」

 「?なんです?」

 「我々の原因なのにも関わらず、棚に上げて仲間を嗤ってしまったのだ。そのお詫びをしたいと考えているのだが、後日伺ってもいいだろうか?できる限りのことをするつもりだ」

 

 ソロ~と抜け出そうとした時に声をかけたのは、緑色の髪をしたエルフ。名前はリヴェリア・リヨス・アールヴで【九魔姫(ナインヘル)】の二つ名を授かったLv.6の冒険者。エルフの中でも王族妖精(ハイエルフ)と位置付けられる彼女は、ハーフだろうとダークだろうと世界中のエルフから絶対的な象徴として祭り上げれている大物。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり粗相をすれば処刑されるレベルでヤバい。

 

 「お詫びなどは大丈夫ですよ。それでも気が済まないと言うのでしたら、まずはギルドを通して本人に伝えてください。こういうのは被害者が決めることなので、そのようにお願いします」

 「そうか······」

 

 我ながら、失礼にあたらない返答ができたと思う。目を光らせている【ロキ・ファミリア】のエルフ達も、睨むどころかむしろ感心しているように見える。今なら妖精限定のマナー講座検定で百点とれるかもしれない。そんな検定どこで使うんだ。

 

 「······私を知っているな?」

 「え?あ、はい。【九魔姫】の二つ名を持つ偉大なるハイエルフ様ですよね?」

 

 なんだなんだ?この質問にどういう意図が隠されてるんだ。()()()()()()エルフなら分かる質問ならヤバい。ボコられる。

 でも周りのエルフは分かってるじゃないか、と腕組んで後方理解者面しているので多分間違っていない。なんだコイツら。

 

 リヴェリアはジッとこちらを見た後、表情を崩してそうかそうかと笑った。

 

 「いや、引き止めてすまない。リント、夜遅いから気を付けて帰るようにな」

 「は、はい。僕はこれで、失礼します」

 

 僕はダッシュでこの場から離れた。

 

 (ママみが強い人だったけど······もう会いたくない······)

 

 エルフの反感を買えば今後の生活が苦しくなる。そう思うとベートと戦った時より疲れたかもしれない。

 スキルで精神疲労を治せないのは······いや破格のレアスキルにケチつけるのは贅沢な悩みだな。

 

 「寝よう」

  

 ベルはまだダンジョンに潜っていると思うが、流石に死ぬ前には帰ってくるはずだ。なんならもう帰宅していると思う。

 

 「遅いじゃないかリント君!なんで君一人でベル君がいないんだい!?えぇ!一人でダンジョンに潜ったぁ!?その原因であるロキの眷属と喧嘩しただって!!なにをしているんだ君達はーーー!!」

 

 寝かせてくれー。

 

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