完成しているのは間違っているだろうか   作:新人作家

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ハーメルン、なんか変わった···?


第7話

 

 神殺しの刺客。

 "蓋"をし封印した神々が踏み入れたのをダンジョンが察知した時に召喚される、読んで字の如く神を抹殺するためのモンスター。

 

 神殺しを実行する存在なだけあって、現れるのはモンスターの上位互換ともとれる亜種にして異常種であり、その階層に適したモンスターが現れる。

 

 強さは出現した階層に見合わない膂力と、通常のモンスターが持たない再生能力を身に付け、迷宮の孤王(モンスター・レックス)すら歯牙に欠けない実力も誇る。

 

 今回呼び出されたのはワイバーン。深層域に生息する竜種を神殺しに適した状態で変質して召喚された。

 

 「······ゲホッゲホッ、オ"ェ"エ"······!!」

 

 突進による攻撃で壁際まで吹き飛ばされた僕は、体内に溜まった血を吐いた。

 

 負傷箇所は主に肋骨、両腕、内臓。

 

 砕けてひしゃげてちぎれるような致命の負傷でも、再生する効果を持つ【闘争本能(スキル)】の恩恵でどうにか一命を取り留めている。

 

 【不死戦王(蘇生スキル)】は使用したら最後、休息時間(インターバル)に丸一日掛かる。あたりどころが悪かったら本当の死を迎えていたな。

 

 即死を免れた代償として、再生する度にぐちゃぐちゃと激痛通り越して吐き気を催す不快音(ミュージック)が耳の中で響いているが。

 

 「······」

 

 元凶が羽ばたいている空を見上げれば、バサバサと漆黒の翼を広げて見下ろしている竜がいる。

 

 通常個体と違って姿形や大きさがまるで違うが、恐らくワイバーン。羽根付き帽子の(胡散臭い)男神様の計らいで【学区】に入学して席を置いていた頃、【竜の谷】と呼ばれる秘境から飛び出した強めの一体と戦わされたから覚えている。

 教師兼師匠のレオン先生は三体を瞬殺していた。

 

 この階層にはたくさん冒険者がいたにも関わらず、僕個人を狙ったところをみるにこの漆黒の竜(ワイバーン)には()()()()()()()()()()

 その証拠に動けない(隙だらけ)の僕を攻撃しようとしない。昔戦ったワイバーンとは明らかに違う。

 

 (()()()()()()······)

 

 言葉遣いが乱暴になるのを自覚しつつ、殺意が籠った瞳で竜を睨む。

 

 こちらが回復するまで待っているのだ、あれは。

 正々堂々、モンスターが騎士道精神を謳っているのか?

  

 ──いいや違う。

 

 一瞬感じた神威からして、あれはダンジョンが神を殺すためだけに産み落としたモンスターだ。

 その神がこの階層から姿を消したことで狙いを見失ったあの竜は、一番楽しめそうな相手を見抜き、離れた壁際にまで突進して(誘って)まで勝負を挑んだ。

 

 つまり愉悦。

 まるで子供のように"俺"を玩具と見立てて楽しもうとしている。

 騎士道精神(回復を待ったの)は、愉悦のため(すぐ終わらない)の隠れ蓑。

 

 スキルによる再生と、【ディアンケヒト・ファミリア】で購入しておいた万能薬(エリクサー)。これらの相乗効果によって軽症まで回復した身体を起こして立ち上がる。

 

 騎士道だの愉悦だのを孕むあのモンスターに沸いた怒り──【闘争本能】の副次効果も相まってか──マグマのように高熱を帯びた怒りが血液のように身体中を巡って支配する。

 

 ──あの竜をこの手で殺さないと気が済まない。

 

 「【戦場で輝く数多の(たましい)、罪深き闘争(こころ)を満たす、勇猛たる我が武装(からだ)。血を滾らせし戦装束(よろい)の色とする】」

 

 「─【ディア・ミメシス】」

 

 さあ、殺し合いの時間だ。

 

 

 

 

 漆黒の竜。

 少女にとってそれは、復讐相手であり、倒すべき悪であり、トラウマそのものである。

 両親を奪った存在に復讐する、この思いは【復讐姫(スキル)】として発現するレベルにまで昇華している。

 

 負傷(ダメージ)精神力枯渇(マインドダウン)、そして仲間からの制止(ストップ)

 我が物顔で羽ばたく"漆黒の竜"を許容できないアイズは、それらを無視して剣を握り、復讐の渦へその身を堕とすだろう。

 

 「───」

 

 しかし、アイズは動かない。

 復讐に走る理由をよく知るフィンとリヴェリアは、一歩たりとも動かない彼女に驚くことはしなかった。

 

 「······凄まじいな」

 「ああ。あの竜、特徴からしてワイバーンの亜種だと思うが······凄いねあの子。空中で肉薄している」

 

 空中を翔ける黒い影(ワイバーン)、それを追うように駆ける紅き影(リント)

 二つの影が離れてはぶつかり、ぶつかっては離れる。散る火花が景色()を彩る。

 

 逃げ惑う冒険者は動きを止め、復讐に身を焦がすアイズすら二人の戦闘(ダンス)を固唾を飲んで見守っていた。

 

 竜の破爪を皮膚を裂かれながら回避し、己の双剣で反撃する。

 四枚の翼を用いて竜は更に上空に飛翔するが、両足の裏を爆破して起こる推進力で接近する。

 真っ直ぐ飛んでくる愚か者を噛み砕いてやろうと大口を開くが、

 

 「──【バラエティ・ボルト】」

 『ァ"ア"ア"ッ!!?』

 

 速攻魔法の餌食となる。

  

 血を流し、傷だらけになりながらも炎を纏って巨悪に挑むその姿。

 

 「······【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】」 

 

 誰かがポツリと溢した言葉を、否定する者はいなかった。

 悪と対峙し、正義と向き合い、どんな時でも笑顔を振り撒いた正義の眷属。

 暗黒期で彼女に助けられた冒険者や市民は、この世から去ったことを惜しみながら、まさしく()()に相応しい女性だったと答える。  

 

 「英雄······」

 

 思い出すのは両親と暮らしていた幸せの時間。

 英雄譚を読み聞かせてくれた母は、父を英雄だと言った。じゃあ私の英雄も、と答えたら父が自分は母だけの英雄だと答えた。

 

 『いつか、自分だけの英雄に出会えるといいな』

 

 父親が言った英雄は現れなかった。だから自分が剣をとって復讐を誓った(戦いを選択した)アイズ。

 

 傷や精神力はすでに癒された。身体はもう万全のはずなのに。

 

 仇に似る存在を倒すべきは自分。なのに。

 

 胸の中に渦巻く黒炎は確かにある。のに。

 

 「······君は、英雄なの?」

 

 「行けぇえええええええ!!」

 「勝てぇえええええええ!!」

 「負けんな、クソガキィイイイイイ!!」

   

 「──頑張って」

 

 ポツリと呟いた言葉は冒険者による声援にかき消えてしまったが、応援は声援に乗せられた。

 どんな結末を辿ろうと、少女は少年から目を離さないだろう。

 

 

 

 

 

 「ぐ、ぅおおおおおお!!」

 『ガァアアアアアアア!!』

 

 ──強い。

 再生能力、飛行能力、身体能力。

 人と怪物とで個体差はあれど、似通った能力なのに一進一退の攻防が続いて終わりが見えない。

 

 傷ついては治し(マイナスをゼロに)傷を負わせては治される(プラスをゼロに)

 

 このやりとりをもうずっと繰り返している。

 

 【ディア・ミメシス】。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()とし、火の魔力なら火属性、水の魔力なら水属性に変化する()()()()()。基本的に魔力アビリティに依存するが、異なる属性攻撃を受けた場合は魔力(アビリティ)の高さと相性によっては無効化でき、同じ属性の場合だと薪をくべるが如く火力が増す。

 

 竜種の特技にして必殺である【炎の砲撃(ブレス)】、案の定漆黒の竜が使用したそれを、【ディア・ミメシス】で受け止め付与魔法とした。

 続け様に使用した砲撃(ブレス)によって、火力を増し、レベルごとに上限突破(カンスト)させた魔力(アビリティ)の貯金がある。

 今の火力は都市最強(Lv.7)すらただでは済まない威力となっている。

 

 実力が拮抗して同じことを繰り返しているのならば、(リント)にはあって、お前(ワイバーン)にはない能力でごり押しする!

 

 「焼けろッ!!」

 『ガァアアッ!?』

 

 左の片翼に突き刺した蒼刃を通して炎を流し込み、その結果漆黒の翼が文字通り()()()()()

 飛行能力を失った竜はどうなるか?その答えは単純明快。

 

 ──墜ちる。

 

 『ギャアア!!?』

 

 情けない絶叫を上げながら地面に墜落、その下は尖った水晶畑群(大量のクォーツ)。畳み掛けるように胴体全体にダメージが入る。

 水晶(クォーツ)に落下してできた擦り傷は癒せても、刺さった箇所は癒せない。幸い魔石は無事だったようだが、刺さったまま身動きがとれずワイバーンは踠く。

 

 「······」

 

 ──ゴォーン、ゴォーン。

 

 鈴の音から大鐘楼(グランドベル)へ。虎の子の限界突破(リミット・オフ)

 情け容赦は最早存在しない。

 

 ワイバーンの落下地点からさほど離れていないことに気付いた冒険者達は、「······あれ?おれ、死ぬくね···?」と狼狽えだす。

 

 「おおお、おいガキ!いや坊っちゃん!待て待て待て待ってくださいお願いしますっ!?」

 「ななな【九魔姫】!結界を、結界をはやく張ってくれぇ!!」

 「無礼だぞ貴様!リヴェリア様を顎で使うなぞ万死に値する!!······お願いします恋人できたことないのにまだ死にたくないんです助けてください!!」

 

 「「「「「必死じゃねぇかっっ!!!!」」」」」

 

 「······リヴェリア」

 「言われずとも分かっている。流石に無視はできん」

 

 都市最高と名高い魔導士、【九魔姫(ナイン・ヘル)】のリヴェリア・リヨス・アールヴは冒険者の姿に溜息吐いて呆れつつ、結界魔法を展開する。

 Lv.6が産み出す結界は、例え階層主が相手でも攻撃を防ぐほどの強度がある。

 

 「アレに耐えられるかい?」

 「飛来するのは爆風と水晶の欠片だけだ。それらを(Lv.6)が耐えられない道理はない。······直撃ならば話は変わるがな」

 

 ──ゴォーン、ゴォーン。

 

 重低音の鐘の音を響かせている少年を見て呟いた。

 

 『ガォアアアアアアア!!』

 

 逃げなれば死ぬ。命を刈り取られると本能で直感したワイバーンは、上空にいる死神を睨み、火球(ブレス)を飛ばす。

 驚異的だった砲撃(ブレス)は火の玉にまで出力が低下したところをみるに、刺さっている箇所に炎を生成する器官があったのだろう。

 

 それでも火の玉といえど第二級冒険者ですらただでは済まない威力だが。

 

 「効かんぞ間抜け」

 『グゥア!!?』

 

 【ディア・ミメシス】使用中は魔力攻撃を無効化する。だから効かない。まあ、もろに直撃したところでリントは数少ない第一級冒険者。よってたいして効果はない。

 

 「終わりだ」

 

 ワイバーンの胴体を中心に照準を合わせる。

 

 「──【バラエティ・ボルト】」

 

 一瞬の光のち爆音。続けて爆風。桁ましい光、音、風が十八階層を飲み込んだ。

 




リントの怒り。
 急に現れて、戦いの邪魔した挙げ句、水晶破壊しながらぶっ飛ばしておいて開口一番「待ってやるからすぐ癒せ(笑)」 と伝えられたようなもの。そりゃ腹立つから○す状態になりますわ。  

【ディア・ミメシス】。  
 リントの第二魔法。魔力を取り込んで付与魔法にする条件付きの全属性魔法。アンフィス・バエナ戦で使用。魔力なら何でもいいので、【バラエティ・ボルト】を自身に撃っても効果を得られる。

ワイバーン
 神殺しとして召喚された。でもその神がいないし神が現れるまで楽しんでいいよね!ヒャッホー!
 
レオン先生
 強い。技より先に心構えを教えた。
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