リント・クライムロードの朝は早い。
まだ朝日が昇らない明け方に起床し、みんなの分の朝食を用意し、簡単に済ませてすぐ本業のダンジョン探索に取り掛かるため
年端もいかない少年でありながら都市外でLv.4となり、どういう訳か無名の零細派閥を選んで冒険者となるや否や、
信じられない偉業にイカサマやインチキを疑う意見がある反面、都市の外で
そんな話題性と実力、両方を兼ね備えた存在をギルドが見逃すはずがなく、魔石及びドロップアイテムの献上、さらに到達階層の更新を義務付けた。
地獄の下層を攻略しつつアイテムの献上を義務付けられ、移動時間を含めると到底一日では終わらなくなるでリントの朝は早いのだ。ブラックである。
ちなみに
というか、どうせ世間知らずのガキだから何も知らないと考えたギルド長によって、冒険者の"義務"ということになったのだ。失敗したり破ったりすれば義務違反で
後にこのことをリントから聞いた最大派閥と有力派閥のお偉いさん方とその部下達はギルド長に詰問し、義務の取り消しを要求するとともに搾取した分と使用した消耗品含めて多額の賠償金(もちろん自腹で)をリント本人に返上させた。ギルド長の財布は景気よく吹っ飛んだ。
それは置いておく。
十八階層で起きた事件、それを聞いて憤慨した主神ヘスティアの神意により、リントはダンジョン探索の禁止を言い渡された。
上記の探索義務はまだ発生しているので、神目線で義務を達成できるギリギリを見極めて期限を定めた。
探索禁止の今、今日のリントは朝日が登り始めたいつもより遅く起床したのだ。
朝食を用意し、
「いいよ。やろうか」
「うん!」
空いた時間は訓練に充てることにした。
訓練を終えて、ダンジョン探索に向かったベルとバイトに向かったヘスティアを見送った後。
本拠地一階の広間に座るリントは、
上層から下層まで、流石に深層産の物はないがそれに見劣りしない稀少なアイテムが存在し、生産職から見たらどれも垂涎もの。
ランクの高い発展アビリティ【幸運】に加え、それを増幅させるスキル【技能増幅】。
この二つの相乗効果によって約七割が最高品質の魔石が手に入り、低確率のドロップアイテムは三体に一体の確率でドロップするし、レアモンスターは上・中・下の層に一体づつは現れるという壊れぶりを発揮している。
ギルドにはちゃんと指定された量を提出している。これらはそもそも指定されなかった余剰分である。
リントには【神秘】の発展アビリティが発現している。冒険者になって暇がなくてできなかった道具作成を、これらの素材を全部使用してやり遂げる。
「さて、やるか」
意気込みは充分。
リントは薬草と体液、隠し味に生き血を並べる。作るのはもちろん
【学区】に在籍していた頃、ステータスを省みて戦闘と作成に重きを置いて取り組んだ。
その経験によって彼には調合の知識と技術が備わっている。そして過去最高の成績を叩き出してもう教わることはないと言い放った彼は、本当に卒業して二つの意味で教師を泣かしたのは言うまでもない。
一時間後。瞬く間に回復薬を完成させた。余った素材は
「よしよし、いいできだなこの回復薬」
手に取った瓶に入った青色の液体を見る。まさに会心の出来だった。
「自分が使うだけならまだしも、ベルも使うだろうし念のため鑑定依頼だそうかな。さてと、次は回復繋がりであれだな」
回復の
探索中に回復薬が切れる可能性があり、潜る階層によっては死と直結する。そうならないように、永久的に使用できる魔道具を作る。
「指輪、ランタン、ネックレスの三種類だな」
指輪はコンパクトで持ち運びが楽になるという利点がある一方ただ剣や杖を持つと邪魔になるかもしれない。効果範囲は単体。
ランタンは小型にして腰に下げるかバッグの中に収納するタイプにしよう。重くならないように効果範囲は複数にする。
ネックレスは十字架。回復→聖女(修道女)→教会(所属)→十字架という安直な理由から。首に下げておけば邪魔にはならないから合理的。
魔道具は魔石を動力として作動するため、導線はミスリルを配合させる。
ミリ単位の精密性を必要とする技術力が問われるが、リントにとって箸で豆を掴んで別の皿まで移す難易度と同義。一個作れば二個三個とホイホイ完成させた。
リントは転生者である。朧気ではあるものの、"家電"と呼ばれるこの世界にはない道具が多々あることを知っている。
その中でも便利そうなものを記憶から引っ張りだし、製作もしくは改良していく。
「掃除機(自立式)、洗濯機(乾燥機内蔵)、冷蔵庫(冷凍庫内蔵)、炊飯器、電子レンジ、ドライヤー、トースター、シャワーなんかダンジョンで使えそうだな······こんなもんか」
合計九つの魔石製品を作った頃には、あっという間に夕方を回っていた。
シャワーに至ってはノズルヘッドだけであるが、魔力を籠めればそこから水が出る仕様になっている。水浴びしか出来ない環境下でこれは需要がありそうだから量産しまくった。
元々旅をしていた時に作った試作品をこの本拠地で使っていたのだが、やはり素人だったこともあり作りが甘く、お世辞にもいい出来とは言えなかった。
それでもヘスティアやベルがすごいすごいと褒めてくれたのは嬉しかったようで、時々整備したりして愛用していた。
【学区】で学んだこと、製作の師匠直伝の技術力、向上した発展アビリティ。
これらの三要素を結集してできた家電、もとい魔石製品。試作品と比べて品質や機能性が格段に上昇しているのが分かる。
リントは試しに掃除機を起動した。
自立式なので、勝手に動いて吸ってくれる。形はあらゆる角度を攻められるように、丸型にした。ル○バである。
縦横無尽に駆け抜ける姿に満足していると、ベッド下に潜ったところでズゴゴゴッ!!という異音が響いた。
「···ヘスティア様のおパンツ!?」
ベッド下に入り込んでいたおパンツを吸引した掃除機は、ゴミと認識したのか吸い込まんと維持でも離さない。引っこ抜こうとしたが、万力の如く動かない。Lv.5なのに!
「吸引力の変わらない、ただ一つの掃除機にしたのが仇になったか······!」
リントは格闘の末、スイッチを押して強制停止させ掃除機からおパンツを奪取することに成功したが、ゴミと一緒に吸い込んだために酷く汚れてしまった。
「······」
敬愛するヘスティアが着用していたおパンツ。ベッドの下にあったのは廃棄処分するため、とは考えにくい。
何故ならこの派閥は貧乏だからである。第一級冒険者で下層を往復しているリント。そんな彼が作った派閥の貯金箱には、貧乏生活を脱出して日常生活を豊かにできるほどの貯金がある。
これを使えばおパンツの一枚や二枚、使い回さなくても買い足せる。
しかし彼女は善なる神。
眷属が死地に赴いて稼いだお金を使ってもいいのか?という葛藤が発生した!
普通の神なら娼館や賭博場で豪遊し、挙げ句の果てには借金までこさえてしまうクズっぷりを発揮するのだが、彼女は善神である。
ヘスティアは身の回りのことは自分で稼いだお金を使用すると決意し、バイトで貯めたお金でやりくりする節約生活を実践しているのだ。
そんなおパンツ一枚買うのに苦渋の決断を下している女神様が、まだ履けるおパンツを棄てるのはおかしいとリントは結論づけた。名推理である。
そしてもう一つ。ヘスティアは服を脱いだら脱ぎっぱなしにするくらいだらしがない。が、脱ぎたておパンツを眷属に晒すのは、情操教育によろしくないと理解している。
「だからおパンツをベッドの下に隠したのか」
名探偵さながらの名推理、頭が冴え渡っている。
この汚れたおパンツをヘスティアが見れば膝から崩れ落ち、ショック死の末に天界に送還されるのが容易に想像できる。
それを阻止するため、リントは洗濯機に投げた。
洗濯機の中に水が溜まり、水中で漂白されるおパンツは、優雅にダンスを踊っていた。
「ただいま────って、僕のパンツ!!?」
充実した休日はヘスティアの絶叫で幕を閉じた。
到達階層の更新
ギルド長
搾取!攻略できなかった?義務違反だから派閥に罰金な!どうせ深層とか無理だし罰金で派閥運営できなくなるから改宗しな?最大派閥に改宗したら未到達階層攻略の役に立つやろ笑
みたいな流れ。え?改宗した後にそんな義務はないと言われる?暴動が起きることを考慮してないって?大丈夫、ロイマンは後のことまで考えてないのだ(大丈夫じゃない)。
リント
冒険者はこんなに大変なのか···とぼやきつつ、こいつは嬉々としてやってました。自認普通だけど、【戦闘本能】なんてスキルが発現するほどの根っからの戦闘狂なので。
魔道具製作は【学区】の授業、アスえもんの助手やって身につけた。助手中には彼女の技術力を見て盗み、彼女も彼女でさりげなく彼の発想力を参考にしている。
学区
先生
まだ幼い少年にプライドを傷つけられた。無事立ち直ったが、リント似の子供を見たら動悸が激しくなるし、仮に本人を見たら泡吹いて倒れる。休職しろ。
回復薬と回復の魔道具
某聖女と某犬人が助走をつけて勧誘するレベル。本人は断わる。実際に医神と薬神の派閥に鑑定依頼をした際勧誘されたが断ったものの、定期的に薬と魔道具を卸す契約を結ばされた。オラリオに激震が走ったのは言うまでもない。