名もなき盾 作:金切
宇宙世紀0153年。
リガ・ミリティアの戦艦リーンホースJr.の最奥の区画。
そこは華々しいモビルスーツ隊とは無縁の静かで薄暗い情報分析室だった。
アルフォード・ブレイス中尉は、モニターの向こう側で繰り広げられる激戦のシミュレーションを眺めていた。
彼はエースパイロットではない。
顔には生々しい傷跡一つなく、丸眼鏡の奥の瞳は、戦闘の炎ではなく、冷徹な数字を追っていた。
彼が率いる特務班「シールド」は、一般兵のみで構成されていたが、その使命は、エース部隊のそれよりも重いものだった。
彼らのルーツは、リガ・ミリティアの幹部の護衛任務隊にあった。
かつて、アルフォードたちは、カミオン隊と共に移動するハンゲルグ・エヴィンを警護していた時期がある。
その時、まだ何の兵士でもない少年だったオデロ・ヘンリークは、年上の彼らに対しても、分け隔てなく、屈託のない笑顔で接していた。
「真のジン・ジャハナム様は言われた。『戦争は、次の世代を殺すことでしか続かない。我々が勝っても、未来を担う若者がいなければ、何の勝利にもならない』と」
アルフォードの隣で、熟練の整備士兼パイロットであるシドニー軍曹が静かに言った。
シドニーの階級は一般兵としては高いが、これはリガ・ミリティアが急造で組織を立ち上げる際、優れた技能を持つ者を優先的に配置した特殊な事情によるものだ。
シールドは、真のジン・ジャハナムの理念を具現化するために結成された秘密部隊だった。
彼らの任務は、「英雄の劇的な死」を望む戦場の流れに逆らい、「生きて未来を担うべき」若者を、密かに戦場から盗み出すこと。
特に、オデロのように、仲間への強い情熱から無益な特攻を選ぶ危険性の高いパイロットは、最優先の救助対象だった。
「我々のジェムズガンは、火力も装甲も平凡だ。だが、そのセンサーは戦場の全てのノイズを解析し尽くす。エースがいつ、どこに出現し、オデロがいつ、どこで絶望的な一撃を受けるか。それを予測し、オデロの運命を、我々が事前に設置した回収ポッドへと誘導する。これが、我々の『情報戦』だ」
彼らのジェムズガンは、標準的なビーム・ライフルを捨て、敵の機能だけを停止させるための撹乱弾を装備していた。
外部には、機体の全出力を注ぎ込む強化型レスキュー用マニピュレーターと、回収ポッドを戦場に偽装させるためのカモフラージュ・バルーンが搭載されている。
アルフォードは、モニターに映るオデロの画像を見た。
あどけなさが残る、しかし覚悟に満ちた顔。
「我々は英雄ではない。泥臭く、地味で、誰も知らない場所で、誰かの命を守る『盾』だ。この命を、未来を担う少年のために使おう」
最終決戦の火蓋が切られようとしていた。
シールド隊は、戦場の喧騒とはかけ離れた静かな覚悟を胸に、彼らのジェムズガンと共に、運命の陰へと潜航していった。