名もなき盾   作:金切

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ザンスカール戦争は終結した。

 

エンジェル・ハイロゥの狂気は鎮まり、リガ・ミリティアは勝利を収めた。

 

公式の戦闘記録には、「オデロ・ヘンリーク、戦死」という、改竄された事実が刻まれていた。

これは、彼に未来を託したアルフォード中尉の最後の願いであり、彼をこれ以上戦火に晒さないための、絶対的な「死の偽装」だった。

 

終戦から数ヶ月後

 

地球圏から遠く離れた、木星航路の片隅に存在する、小型の医療支援衛星。

ここは、リガ・ミリティア穏健派、ジン・ジャハナムの理念を継ぐ者たちが極秘に運営する「命の隠れ家」であり、シールド隊がオデロを運び込んだ秘密医療施設の正体だった。

 

オデロはそこで目覚めた。

 

全身の火傷は治癒したが、右足はカテジナのビームの熱と衝撃波の後遺症で、完全には回復しない。

 

杖なしでは歩行が困難な身体になっていた。

 

彼の傍らには、シドニー軍曹がいた。

彼は、アルフォード中尉の遺志を継ぎ、隊長不在となったシールド隊の残存メンバーを指揮していた。

 

「君は、生き延びた。隊長が、その命で、君に未来を勝ち取ってくれた」

 

シドニーは静かに語った。

 

オデロは、公式記録の「戦死」と、自分が生き延びた重い事実を突きつけられ、激しく葛藤した。

 

彼は、自分を英雄としてではなく、誰かの犠牲の上に立つ一人の人間として見つめ直す。

 

「俺は……カテジナさんに一度は殺された。でも、隊長が、シドニーさんが、俺に生きろと教えてくれたんだ……。俺の生は、もう戦争のためじゃない」

 

彼は、エリシャとの約束を思い出した。

 

戦いの舞台ではない、誰も知らない場所で、小さな畑を作って平和に生きるという誓いを。

 

「俺は、銃を置く。そして、戦争が本当に終わったことの証人になる。そのために、生きて、未来を伝え続ける」

 

 

数週間後。

 

 

シドニー軍曹は、オデロの決意を受け、彼のために、そしてアルフォード隊長の願いのために、最後の任務を実行した。

 

 

エリシャとの極秘の再会である。

 

 

シドニーは、カミオン隊の協力者を介し、エリシャに「オデロが残した最期の言葉」とともに、再会するための詳細な座標と時間を伝えた。

 

それは、遠く離れた戦火が届かないであろう、とある静かな港町だった。

 

エリシャがその港町に降り立ち、指定されたカフェに入ると、窓際で杖をついた一人の青年が座っていた。

 

顔には火傷の跡が残り、昔の面影は薄れていたが、その瞳は、間違いなくオデロのものだった。

 

 

「エリシャ……」

「オデロ……!」

 

 

エリシャは、涙を流しながらも、一切の疑念や戸惑いを見せなかった。彼女は周囲の視線を気にせず、彼の元へ駆け寄り、彼の首に強く抱きついた。

 

「馬鹿!大馬鹿オデロ!本当に生きてたのね……!約束、破らなかったのね!」

 

「ああ、生きてる。少し遅くなったが……。俺はもう、オデロじゃない。アランという名前になった」

 

オデロは、声を詰まらせながら、アルフォード隊長の犠牲、そして自分が「戦死者」として生きる宿命を、エリシャに打ち明けた。

 

エリシャは彼の頬に残る火傷の跡に優しく触れ、涙を拭い、そして微笑んだ。

 

「関係ないわ。あなたが、あなたでいてくれれば。じゃあ、私もアランの妻になるわ。そして、二人で畑を作りましょう。誰も私たちを知らない場所で、静かに、幸せに生きるのよ。それが、あの人たちがあなたにくれた、命の光なんだから」

 

オデロ・ヘンリークとエリシャ・クランスキーは、戦場の英雄ではなく、名もなき一般兵の犠牲の上に立って得た「平和な生」を選んだ。

 

彼らは、戦争の記憶を胸に、地球の片隅にある小さな土地で静かに暮らし始めた。

 

オデロが耕す小さな畑には、戦争の血も、憎しみもない。

 

そこには、エリシャと交わした誓い、そしてアルフォード隊長が命を賭して守り抜いた、未来の光だけが満ちていた。




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