その瞬間、世界は白く染まった。
核爆発にも似たその光とともに拡がった電磁パルスは、建造物やその残骸とシールドで守りを固めたアンドロイドたちの機能を麻痺させる。
そしてその奔流は、ヨルハ二号B型――通称2B――を、異なる時代、異なる世界へと運び去った。
「……ここは?」
意識を取り戻した彼女が周囲を見回す。間接光による淡い明るさ。同時に、視界に違和感を覚えた。バイザーは爆発の衝撃で失われている。
目に入るのは、無機質なコンクリートを樹脂で覆っただけの壁と、タイルで覆われた階段だ。上階からは自然光が差している。階段は建物の外部に露天で設えられたものだろう。
「ポッド!」
呼びかけに応じるものは無い。通信自体が途切れている。
雑音すら入らない以前に、送受信確認もできないことは、通信系に重大な機能不全があることを示している。
改めて周囲を見回すと、どうやら生き埋めは免れたようだ。建造物とは構造が別だったのか、階段部分の構造が強かったのか、建物の崩壊に巻き込まれずに済んでいる。義体に大きな損傷は無いようだ。
立ち上がると全身の反応が鈍い。
痛み?
通常、義体損傷時の神経伝達パルスは『痛み』として記録されるが、それが持続することは無い。しかし現在、鈍い痛みがある。なぜ私はそれを『痛み』として理解できている?
慌てて自己診断を試みるが、インターフェースすら開かない。ダメージは制御のかなり深い部分に及んでいるようだ。あるいは論理ウイルスによる汚染だろうか?
先ずはポッドと合流し状況の確認をすべきだ。彼女は階段を降りようと立ち上がる。
鈍い痛みが行動に直接の影響を及ぼすことは無さそうだが、とにかく身体が重い。何らかの方法で抑制されたかのように、力が入らない。
ポッドも無く、近距離攻撃装備を起動できない今、戦闘行動はとても無理だ。
壁に体重をあずけ、一歩一歩降りてゆく。
視覚か情報処理系も機能不全を起こしているのか、視界が狭くなってゆく。身体が重さを増したように感じる。そう、感じる。
おかしい。
人間を模した姿であっても、生命ではない。
なぜ私はこんなことを考えている?
汚染がかなり深いところまで進んでいるのか?
随行支援ユニットとの接続は断たれ、自己診断も不可能な今、自身の状況が掴めない。
あと、二段。
階段の出口に誰かの足が見える。
機械生命体ではない。
一瞬安堵するが、論理ウイルスによる汚染が予測される以上、他者との接触は汚染拡大につながる可能性がある。
今は誰かに接触すること自体が危険だ。
狭まってゆく視界は最後にスニーカーだけを映し、その焦点も合わせられなくなり……、彼女の意識は闇に沈んでいった。