2Bは、現在の社会が、自身が知る過去の記録と異なることに驚きを隠せない。この時代この世界には、アンドロイドは無論、世界中のコンピュータを結ぶ通信網も存在しない。
「君の話を聞くと、まるでSFだ」
「SF?」
「空想科学小説。
今はまだ無い技術だったり、違う進歩を遂げた文明を舞台にした物語。異なる世界や文化の話を娯楽にしたものだよ」
「娯楽……」
2Bには馴染みの無い分野だ。地上奪還の任を帯び、機械生命体と戦う。自身が倒れれば新たな義体に自我を移し、再度地上へと派遣される。
戦略目標に基づく戦術的課題に、現有戦力を以て臨む。
その繰り返しだった。
「私のようなアンドロイドが出る話もあるのですか?」
「アンドロイド……って、君がアンドロイドとは思えない。
触れれば体温があるし、心臓だって動いている。それに水を飲めば……」
圭一郎は言い淀んで、周りを見回す。
「うーん、君が言うようなアンドロイドやコンピュータネットワークがある舞台の話は……、あるにはあるけど、コンピュータネットとサイボーグが人類の敵になる、ちょっとホラーな話だから」
「それが娯楽なのですか?」
2Bは理解に苦しむと言った表情だ。
コントロールできる範囲で恐怖感を体験するという娯楽の存在を説明するが、理解が難しいらしい。
なおも圭一郎が説明しようとしたところで、電磁調理器から調理終了のアラームが鳴る。
圭一郎はフライパンにルゥを溶かし込み、改めて加熱を始めた。
「不思議な匂い」
「香辛料だ。匂いと辛みがある実や地下茎を加工したもの。昔は薬とかにも使ったらしいよ」
カレーの源流がインドにあって、それがイギリスを経由して日本に入ってきたことなどを話す。
「人類は、住む場所で食べるものも違うのですね」
「そりゃ、場所によって気候も違えば植生も違う。とれる食べ物が違えば、食文化も違うよ。今は世界中から食べ物を運んできてるから、いろんなものを食べられる。
実は日本って、大抵の国の料理を食べられるんだ
あ、僕は食事の前にシャワーを浴びちゃいたい方だけど、待ってもらっていいかな?」
「構いません。できれば私も後で浴びられれば。こちらに来てから、生体部分の洗浄をしていないので」
シャワーを浴びた圭一郎は、部屋着にしているジャージに着替えたところで、2Bの着替えが無いことに気づく。明日の外出用の服はあるが、それ以外は汚れている。
数瞬迷ったが、トレーナーとスウェットのパンツを出しておいた。
シャワーを終えて服を着た彼女の姿に安心する。出しておいた服の丈が足りないということはなく、またそのゆったりとした縫製が彼女の曲線を隠してくれていた。