食事を始めた二人は、しばし無言となる。特に2Bにとって、食べ物を口にすること自体が初めての経験だった。
口に含んだ瞬間、野菜の甘みと香辛料の辛さが味覚を直撃し、遅れて肉と野菜の旨みが絡み合うように口の中を幸福にする。それを嚥下しながら、次の一口をすくい取る。
ふと、圭一郎が自分の方を見ていることに気づいた。
「どうしたの? ケイイチロウ」
「あ、君の笑顔に見とれてしまって……」
思わず本音を言ってしまう。それまで表情をあまり変えなかった彼女が、自分が調理したもので笑顔になる。その笑顔がこれまでの硬質な美貌と異なるものであれば、自身にも自然と笑顔がこぼれる。
「この味覚はとても興味深く、好ましい」
「それは良かった。と言っても、手柄はハウス食品だ」
「調理したのは、ケイイチロウだ」
「でも、カレーは中毒性があるよね」
「中毒性? まさか毒物が?」
2Bの表情が変わる。
「ど、毒なんか無い! いや、一部の香辛料には、摂取しすぎたらやばいものもあるけど、これにはそんなの無いから。むしろ身体にいいから!
美味しすぎて、ちょっと食が進みすぎるって意味で」
慌ててそれを否定した圭一郎の脳裏に、鼻にマスクをかけたモヒカンが浮かぶ。あれはブラックカレーだったか。そういえばあの漫画、主人公も魚が食べられなかったような。思考が現実逃避を始める。
これほどの美しい女性が自分に無邪気な笑顔を向けてくれる。圭一郎は頬が熱くなることを自覚していた。
「ところで、夜羽、お酒はだいじょうぶ、かな?」
「摂取することに問題はない」
お酒で顔が赤くなれば、これ以上赤くなる心配が無い。
圭一郎は冷蔵庫を見るが、あったのはビールと缶チューハイのみ。ビールはもちろん、レモン味とはいえ焼酎割りは女性向きではないだろう。もっと甘い、カクテルのようなものを準備しておくべきだった。
とりあえず両方を持って行く。
「どっちがいいかな?」
「分からない。飲んだことがないので。おすすめは?」
「実はどっちも女性向きではないんだ。まだしもこっちの方が果実味で甘みがあるかな? 両方を試すなら、ビールからの方がいい。甘いものが先だと、美味しくないから」
「では、その順で」
圭一郎はグラスにビールを注いだ。その黄金色の液体の中で泡が生まれ、浮き上がっていく様子を、2Bは興味深げに見る。
「乾杯」
グラスを合わせることはせず、少し掲げてから口に運ぶと、2Bもそれに倣った。
「不思議な味です。味については……、よく判りませんが、喉を通過するときの感覚が興味深い」
「高圧で二酸化炭素を飽和させているから、それが気化するときの感覚だよ」
「では、こちらは?」
そう訊くと、2Bが残りを一気にあおる。強いな、と思いながら、圭一郎はチューハイをグラスに注いだ。
「こちらの方が好ましいように思う」
そう言うと、水を飲むようにグラスを空け、今度は手酌で注いだ。