2Bは自身の変化を自覚していた。
おかしい。なぜこんな浮ついている?
居住まいを正そうと、立ち上がる。
平衡感覚に微妙なズレがある。運動機能に若干の低下も!
「やはりカレーには中毒性が?」
「いや、多分、お酒に酔ってるだけだから」
圭一郎は2Bの背中を支え、ベッドに座らせた。
普段なら照れがあってこんなことはできないが、今はアルコール燃料のおかげで、顔がこれ以上赤くなる心配がない。
「水を持ってくるね」
圭一郎は、チューハイが少し残ったグラスを持ってキッチンに行く。そのグラスに名残惜しそうな視線を向ける2B。
軽く洗ったグラスとミネラルウォーターのボトルを持って戻ると、グラスに六分目ほど注ぎ、2Bに差し出した。
コップに一杯半ほどの水を飲むと、少し落ち着いたようだ。引き戸の向こうでは、圭一郎が食器を洗っている。
「ところで、さっき聞いた、少しホラーなサイボーグが出てくる話はどのような?」
「うーん、見た方が早いかな? あまり女性にはお勧めできるものではないけど」
「見てみたい。人類の考え方も少し判るかも知れない」
「いや、映画一本では判らないよ、特定の一面だけだし。ああいう映画を好まない人も多いから、あまり参考にならないよ」
そう言いながら、VHSのテープを取り出した。録りためた洋画である。
2Bはその作業を見て、部屋に似つかわしくない陰極線管の目的を理解した。受診した映像を見るためのものだった。
初めの方はやや退屈そうだった。むしろ本編よりも合間に挟まれるコマーシャルの方が2Bの興味を引いていただろう。
しかし、警察署の襲撃あたりから真剣になり始める。命からがら逃げ出した二人は場末のモーテルに身を潜める。吊り橋効果だろう、二人は親密になってゆく。
いつの間にか、2Bの右手は圭一郎の左手をとっている。それを知ってか知らずか、画面を食い入るように見つめる2Bだが、一方の圭一郎は画面に全く集中できなくなっていた。
いつの間にか、腕を絡めるようにして密着している。伝わってくる体温が、圭一郎の顔を再び赤く染めた。
「人類は、機械を怖いと思っている?」
「そういう人もいるだろうけど、どっちかというと宗教的なものかも知れない」
圭一郎は知識の範囲で説明する。
この映画がアメリカで創られたこと。
キリスト教的価値観を強く反映していること。
アメリカではキリスト教が主流で、人類も含め世界は神によって創られ、人類が神に似せて創られたと信じられていること。
人に似せて、意思を持って行動するものを創ることは、神の領域を侵すと考えられていること。
「だから、形だけを人に似せて造られた怪物として描かれてるんじゃないかな」
「つまり、アンドロイドは罪そのもの?」
「そう考える人もいるかな。いたとしても、旧約聖書が基の宗教でも、特に熱心な信者の一部だろうけど」
「ケイイチロウは?」
「僕は違う宗教だから。僕ら日本人は、なんていうか……、いろんなものに神様が宿っているって考え方なんだ。だから、何でも大切にして感謝しましょうとか。あと、人間の形をしたものに魂が宿るって考えも、そんなに変だと思わない。
だから日本だと、アンドロイドやロボットが敵ではなく友達として描かれることが多いかな」
「私のことは、怖くない?」
「僕が夜羽を怖がる理由なんか無いよ。
きっと、誰も君のことを怖がったりしないよ」