圭一郎が目を覚ますと、背中に違和感がある。胸に細い腕が絡みついている。ベッドに寝ていたはずの2Bが背中に抱きついていた。
彼女を起こさないようそっと腕を外し……、上半身を起こしたところで、彼女も目覚めた。
「お、おはよう」
「おはようございます」
圭一郎のぎこちない挨拶に2Bが応えた。
「済まない、ケイイチロウ。昨夜、不思議なことが起こったせいで、どうしてもケイイチロウに触れたくなったから……」
さみしがり屋なのかな? と思いながら、不思議なことについて訊いてみた。
2Bによると、ふと目を覚ましたとき、自身が経験していないはずの記憶があった。なぜそんな記憶がと思案している間に、その内容を思い出せなくなってしまったらしい。ただ、圭一郎とどこかの店を歩いていたようなことだけは憶えており、それがとても好ましい記憶だったという。
その記憶をどうしても思い出せず、圭一郎に触れたくなったそうだ。
思い出せないことと触れることの間に論理の飛躍があるが、こんな美人にこれほどのことを言われ、圭一郎の心は天にも昇りそうだ。
「それは、多分『夢』だよ」
夢のメカニズム。圭一郎の知識は浅かったが、それを少しだけ説明する。大抵は心配事や願望が夢になることも。
2Bは、自分が圭一郎に話してしまったこと、そして『願望』という言葉の意味に赤面する。
「こんな経験は初めて?」
「初めてだ」
2Bは混乱を覚えていたが、それは好ましいもののように思われた。なぜ混乱を好ましく感じるのかは判らない。それもまた初めてのことだった。
一方の圭一郎は、電気羊さえ見たことが無かったんだな、と変な思考に捕らわれていた。
圭一郎はポットで湯を沸かす。いつもの倍だ。このために選んだポットが初めて実戦を迎えた。なお、カレーを作るときはそれに含まれない。カレーは一人の時も一鍋だ。
朝食は白米と具入りのオムレツ、味噌汁だ。と言ってもオムレツの具は冷凍野菜を炒めたもの、味噌汁は『ゆうげ』に乾燥わかめを足したものだ。
それでも、昨夜のカレーほどではないが、好評だった。
身支度をする段で、2Bが下着姿を晒しそうになる一幕があり、圭一郎は慌ててキッチンへ移動した。
当の本人には若干の羞恥もあったが、それ以上に見てもらいたいという、相反する奇妙な気持ちがあった。2Bが思わず自身の胸に手をあてると、早鐘のような鼓動を感じる。
あるいはそれは、人間の女性として受け容れられたいという気持ちの裏返しかも知れない。そう考える彼女だった。
九時半を回ったところで、二人は並んで歩く。今日の目的地は大学の近くのショッピングセンターではなく、駅前のブティックだ。徒歩ではやや時間がかかるが、ゴールデンウィークの始まりにふさわしい陽気は散歩日和だ。
道路を歩く二人は、いや、2Bは周囲の注目を集める。スキニーなパンツは、彼女の背中から脚にかけての美しい曲線とそこから先の長さを強調していた。しかし、その独特の存在感は一種の人払いとしてもはたらいていた。