「少女よ、戦う力を望むか?」
これまでと全く違う口調だった。
「人類を守る力を!」
2Bの脳裏に直接、戦う力の意味が伝わってきた。
ゆっくりと圭一郎の方を向く。
「ありがとう、ケイイチロウ。お礼だけは言っておきたかった。
……あなたの夜羽でいられるうちに」
2Bは圭一郎を抱きしめ、唇を重ねた。
それは数秒か、あるいは数十秒か。圭一郎からゆっくりと離れると、ポッドを見上げた。
「……ポッド、お願い」
「承知した。気高き少女よ」
淡い光が2Bを包む。
私は生涯に足る恋をした。
あとは、人類にこの身を捧げるのみ。
私は、ヨルハ二号B型 2B!
淡い光がまばゆい輝きとなり、それが収まった後に居たのは、圭一郎が初めて出会ったときの2Bだった。しかし顔の半ばを黒い布らしきものが覆っている。
上空から、先ほどと同じ形の円盤――機械生命体が、やはり赤いエネルギー弾を吐き出しながら降りてきた。
2Bがそれらを自身の背丈ほどもある長剣で切り払うと、円盤は警戒したのか上昇に転じようとする。
その瞬間、2Bは五メートルほども跳躍し、袈裟懸けに長剣を振るった。
2Bが地面に降り立ち、本来不要な血振りをすると、二つに分かれた機械生命体が爆発する。
「ケイイチロウ、この姿を、あなたには見られたくなかった。
……さよならだ」
「夜羽……」
「人類に、栄光あれ!」
2Bはヨルハの敬礼をした。そのまま胸に手を当てるが、そこにはもう生命の鼓動はない。
2Bは踵を返し、走り出す。五歩目には時速で五〇キロに達した。
この想いは、この感情は、失われつつある。
いずれ感じることもできなくなる。
それでも思い出すことはできる。
私は本当の恋を知った。
最も幸福なヨルハだ。
脳裏に浮かぶHUDで、機械生命体の位置は把握できている。
車道では警察車両をバリケードにしているが、機械生命体にはさしたる効果がない。発砲音もするが、擦過痕を作るのが精一杯だ。
警官の一人が誰何するが、2Bは足を止めない。
別の警官に飛びかかろうとする機械生命体を下段から一閃。返す刀で斬りおろし、横蹴りで車両に叩きつける。機械生命体は数メートル転がり車両もろとも爆発した。
炎上する警察車両を跳び越えると、鎧袖一触、更に四体を屠る。
やや大型の盾を構えた個体が突進してきたが、盾を切り飛ばし、宙返りしながら腕を切り飛ばす。投げた長剣が止めを差すと、回転の勢いをバレリーナが舞うように殺した。
残心を終えた2Bの脳裏に敵性反応は無い。
「戻ろう」
「よいのか? 今の身体でも、彼とともに在ることは可能だ」
「いい。
ここは、今の私が居るべき場所ではない」
「承知した。気高きものよ」
光の後には何も残ってはいなかった。