鳥のさえずり。
レシプロエンジンの駆動音。
舗装とタイヤの摩擦音。
いずれも機械生命体からのそれではない。
窓から差し込む光は、自然光。
意識は急速に覚醒する。
「……私は」
「あぁ、起きた?」
男性――型アンドロイド?――が椅子を半回転させてこちらを見た。何か持った手を口に運び、咀嚼している。
咀嚼している! 食べている?
「そんなモノを摂取しても大丈夫なのですか?」
「そんなモノって、失礼だな。学生にモスはちょっとした贅沢だぞ。よかったら君もどう?」
モス? 何のことだろう。ヨルハ機体はエネルギー源として水しか摂取しない。
「いえ。できれば水を」
男性は部屋から出ると、グラスとボトルを持ってきた。蓋をカチリと開け、グラスに注ぐ。
2Bはグラスを受け取りその透明な水面を見た。指にはその冷たさが伝わってくる。
冷たい。
温度センサーによる検知と自身の体温との相対値ではない。
その温度差が直接的に伝わってくる。
一口飲んだ。冷えた水が喉を通過することが判る。そして、それが全身に拡がってゆく。
密閉されていたということは、精製水だろうか? ボトルには『ヴォルヴィック』と書かれているが、見たことが無い。しかし、摂取した水は全身に染み渡るようだ。
その感覚をもう一度味わうべく、グラスを口に運んだ。その水が核融合燃料のトリチウムを含んでいるかは判別できないが、それが自身に必要なものだということは判る。
しかし、一口目の染み渡るような感覚は得られなかったが、それが喉を通過する感覚は悪くない。
「感謝します」
「なに、いいって。あと、その言い方、堅いよ。
朝メシ……いや、昼メシか、買ってきたら、階段で急に倒れてきたからびっくりしてさ。
僕は圭一郎。君は?」
「ヨルハ、ヨルハ二号B型」
「……よるは? 『夜羽』さんね。だからその格好か。よろしく」
圭一郎の目に映った2Bの姿は異質だった。
スエードらしき素材の黒い服は扇情的で、それには羽のような飾りが付いている。むしろ舞台衣装と言われた方が納得できる。
黒と羽だから『夜羽』か。おそらく芸名か源氏名だろう。
この近所で劇団は聞いたことが無い。あるいはロシアンパブあたりか? ここまで日本語が堪能だということは、日本風の源氏名を持つような店だろうか?
しかし、今までに出会ったことの無い美貌だ。アイドルか、もう少し長身ならモデルだってできるだろう。
一方の2Bも圭一郎を見る。
K一六、番号が後ということはプロトタイプだろう。しかし一六号は男性型だっただろうか? それにK型というモデルは知識に無い。
外部メモリに接続できない今、記憶の範囲で推測するしかない。
K……、KEEPER(保護者)? KERNEL(中枢)? まさか、KILLER(戦闘特化)?
B型やE型が存在する以上、専用のモデルは必要ない。あるいは、食物摂取が可能と言うことは、プロトタイプのみの実験的モデルだろうか。
まず、状況確認と情報収集が必要だ。