一時の高揚を終えると、圭一郎は現実的な問題に思い当たる。
彼女の身体や健康状態を診てもらわないといけないだろうか?
しかし、見るからに外国人だ。あるいは、彼女が言っていることが事実だとすれば、客観的には不法入国者だ。当然、保健も無いだろうから、匿名で検診を受けるなら全額負担だ。いや、春に学生の無料検診があったが……、学籍番号が無いからダメだろう。
それ以前に、彼女を外に連れ出すにしても、この衣装は目立つ。普通の服を買わないと、あ、服を買いに行くときの服が無い。
鶏と卵だ……。
一方の2Bも神妙な表情をしている。その理由は、今まで覚えたことの無い『感覚』が彼女の下腹部にあるからだ。
彼女の明晰な思考は、すでに結論を得ている。自身は水を欲し、心臓は血液を循環させている。摂取、代謝、排泄……、理論は理解している。
2Bがそわそわし始める。
圭一郎がいくら鈍くともその意味は理解できる。あるいは、彼女が言っていた設定が事実で、かつその身体が代謝を始めたなら、水分の代謝も同様だ。しかも彼女にその知識が無い可能性すらある。
「よ、夜羽、トイレはあっちで……、そして水に流して……」
「その情報は持っている。
未経験だが、実施を試みる」
互いの貌は紅潮している。
2Bが鏡を見たなら、自分の顔がなぜヨルハ機体の体液と異なる色に染まっているか、理解に時間がかかるだろう。
しばらく後、水を流す音が響く。
トイレから戻った彼女の表情からは明確な感情を読みとれないが、何かを悟ったようにも、まだ整理できていないようにも見えた。
「アンドロイドが人間になるってのも、難儀なもんだなぁ。
ところで、ものを食べる機能はある?」
「真似ることは可能。しかしエネルギーとしては使えない。
また、アジなどの一部の食材に含まれる酵素が、アンドロイドの体液を凝固させるため、それらは摂取できない」
「他に食べられないものは?」
「無い。既知の範囲では」
「夜羽は、おなか空いてない?
あと、足のサイズを教えてくれないかな。あのブーツもこの時期ちょっと目立ちすぎる」
「足のサイズは分からない。通常、脱ぐことが無いから。
胴回りは上から八四・五六・八八。この情報はボディアーマーを着ける際に必要」
とりあえず、外に出られる服や靴を見繕う必要があるからだったが、圭一郎が訊くことを躊躇った数値のみが帰ってきた。そして、空腹の経験が無いため、現在がそうかは判断できないとも。
部屋から出ないことを言い含めて、圭一郎は外に出た。その背中を見送ると、急に羞恥心が湧き上がってきた。
胴回りと足の寸法は必要な情報として提示しただけだ。羞恥を覚える理由は無い……、はずだ。