圭一郎を見送ると、2Bが部屋に独り残された。
このままここに居たいような、居てはいけないような、今までに覚えたことの無い感情が湧き上がる。そしてその感情を抑制することができない。
その気持ちを紛らわせる必要がある。
まずは情報を収集すべきだろう。
見回すと、2Bが寝かされていた寝台、合板の机や本棚、服などが入っていると思しき収納棚……。
場違いなものとして、陰極線管を用いた受像機が棚に置かれ、その下の棚には何らかの機械が置かれている。どちらも赤いランプが点いており、待機状態にあるようだ。
本棚には法学や数学、経済学など、分野に一貫性の無い本が並んでいる。一方で、別の書棚には、揃いの寸法・題名で分類された本が番号順に並んでいる。
一冊、取り出してみる。
絵が並んでおり、雲のような部分に絵の中の人物が話した内容が書かれ、それが時系列に従って並んでいる。歴史上の出来事を、人物に焦点をあてることで分かりやすく説明している。この六〇冊で一連の出来事がえがかれているのだろう。
別の一冊は、高校に通う男女が繁殖行動に向かおうとするが、互いの誤解や第三者からの妨害で、物理的接触段階に進めない状態が繰り返されるものだ。
読み進めるが、およそ『つがい』になることを決めている二人の勘違いがもどかしい。
互いの情報共有を行えば、すぐにでも繁殖行動に遷ることが可能だろう。なぜ断片的な情報に振り回され、これほど迂遠な行動を採るのだろう?
人類は、繁殖に際してこれほど誤った判断をするのだろうか? だとすれば、人類の社会は極めて複雑で不安定だったに違いない。
この情報をバンカーに送ることができれば……。
そう考えながらも、続きを読み進めずにはいられなかった。
書棚にあった五冊を読み終わったところで、続きは無いかと探していると、部屋の鍵を開ける音がする。圭一郎が帰ってきたようだ。
「ケイイチロウ!」
「ただいま、夜羽。
この部屋に入るときに、『ただいま』なんて初めてだ」
「何を買ってきたのですか?」
「とりあえず、服と靴だ」
圭一郎が取り出したのは、2Bにはやや大きいスニーカーと、やはりゆったり目のスポーツウェアだった。
無論、これを買う前にブティックにも入ったが、結局選ぶことができずに出てきたのだ。
「とりあえず、服と靴を買ってきた。
し、下着は、君が選ぶ必要があるだろうから……」
「ありがとう」
「とりあえず、これを着て君の下着を買いに行こう。僕も着替えるから」