2B or not 2B   作:転々々

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07 外出

 紙袋から服を取り出す。かなり派手な色合いのゆったりとした服だ。着替えるために腰に手をやろうとした2Bを、圭一郎が慌てて止めた。

 

「ちょ、ちょっと待って。僕はキッチンで着替えるから」

 

 そう言うと、服を持ってキッチンとの間の引き戸を閉めた。

 

 別に裸になるわけでもないのに。一瞬そう考えた2Bだったが、先ほど読んだ資料を思い出す。たとえ『つがい』になる意思があっても、女性が男性に着替えようとする姿を見せることの意味。

 その描写にあてられたのか、羞恥心が湧き上がる。しかしそれは不快な、あるいは嫌悪感をかき立てるものではなかった。

 

「もう着替えた?」

 

 戸の向こうからの声に我に返ると、慌ててスカートを外し、アウターを脱いだ。紙袋に手を伸ばしたところで、今この姿を見せたら、彼はどんな反応をするだろうと考え、慌ててそれを打ち消す。

 上着のファスナーを上げたところで圭一郎を呼んだ。

 

「どうだろうか?」

 

「似合ってるよ」

 

 その一言に、面映ゆさが混じった悦びが湧き上がる。

 

 

 

 二人の出で立ちはトレーニングウェアである。色味は違うが揃いと言ってよい。この姿でも二人でならジョギング中と強弁できる。

 

「じゃ、一緒に行こうか」

 

「はい、ケイイチロウ!」

 

 二人はアパートの扉をくぐった。

 

 

 

「二〇世紀へようこそ!」

 

 階段を降りたところで、圭一郎はおどけて言った。2Bはどう返すべきか分からず、間が持たなくなった圭一郎がショッピングセンターまで走るかを訊いてきた。

 

「ではケイイチロウが先行して欲しい。私はついて行く」

 

 圭一郎は軽いジョギングペースで走る。それに従う2Bは、圭一郎のペースが遅いことに疑問を持ったが、一〇分もしないうちに理解した。

 全身にエネルギーを送り出すため、心臓は平時の倍以上の稼働を行い、肺は酸素を求めて呼吸を促す。

 立ち止まって振り向いた圭一郎の「歩く?」という問いに首肯せざるを得ない。戦闘モデルとしての身体機能を備えていた自身として、忸怩たるものを覚えた。

 

 ショッピングセンターに着くと、夕方が近いとあって食品売り場は盛況だ。ほぼ揃いの服で入った二人だが、周囲の注目を集める。主に2Bが。

 銀色の髪と腰高なスタイルは、首都圏でならともかく地方都市では好奇の視線に晒される。

 それを無視して、二人は二階の衣料品売り場へ向かった。

 

 

 

「女性用の下着売り場は、男性が入るべきではないんだ。一人で大丈夫かな?」

 

「問題ない。通貨の使い方については、先ほど十分な知識を得た」

 

 2Bは店に足を踏み入れた。

 色とりどりの下着が陳列されている。どれを選ぶべきか。判断の基準となるものは、自身の寸法情報以外持ち合わせていない。

 司令官なら問題なく選べるのだろうか? そう考えて苦笑する。苦笑するのも、初めてではないだろうか?

 

 先ほど読んだ『資料』でも、男性が入るべきでないことを学んでいるが、圭一郎がいないとどうにも落ち着かない。

 戦力的に不利? あるいは孤立している? いずれも違う。これが『心細い』という感情なのだろうか?

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