チラムネの主要キャラに地獄を見せる物語 作:Valkiria
全校生徒が集められた体育館で、閉会式および表彰式が執り行われた。
俺は男子サッカー、そして男女混合バレーボールの二冠達成者として、壇上の最前列に立っていた。
校長から賞状と優勝トロフィーを受け取る。
ずしりと重い金属と、紙切れ。だが、今の俺にとっては、この学校の実質的な支配権を示す委任状のようなものだ。
ふと、横を見る。
バレーボール準優勝チームの代表として、**浅野海人**と**青海陽**が並んでいた。
その姿は、痛々しいの一言に尽きる。
海人は鼻と顔面を包帯でぐるぐる巻きにし、陽は右目と鼻を分厚いガーゼで覆っている。まるで激戦地から帰還した負傷兵だ。
幸いにも、精密検査の結果、骨に異常な損傷はなかったらしい。鼻骨のヒビと、激しい打撲。
俺が絶妙に手加減(コントロール)し、衝撃を分散させたおかげだ。感謝してほしいくらいだな。
「…………」
二人は俺と目を合わせようとしなかった。
以前のような敵意や闘志は微塵もない。あるのは、根源的な恐怖と、圧倒的な力への諦観。
身体を震わせながら賞状を受け取る彼らの姿は、全校生徒に「綾小路には逆らうな」という無言の警告を与えていた。
俺は無表情のままトロフィーを高く掲げた。
割れんばかりの拍手喝采。
その轟音は、俺の勝利を称えると同時に、敗者たちへの残酷なレクイエムとして体育館に響き渡った。
### 2.結果至上主義の狂騒
教室に戻ると、2年5組はお祭り騒ぎだった。
「やったぁあああ! 二冠だぞ二冠!」
「俺たちのクラス最強じゃね!?」
「綾小路くん、マジでありがとう!!」
クラスメイトたちが俺を取り囲み、口々に称賛の言葉を浴びせる。
彼らは浮き足立っていた。
俺がサッカーで見せたエゴイスティックな独壇場も、バレーで見せた女子への顔面狙撃も、全ては「優勝」という甘美な結果の前に洗い流されていた。
過程がどれほど暴力的で、冷酷であろうと関係ない。
勝てば官軍。結果を出した者が正義。
それが、彼ら凡人の単純で浅ましい思考回路だ。
「綾小路くん、これ持って! 写真撮ろ!」
「一生の思い出だね!」
柊夕湖と七瀬悠月も、勝ち誇った顔でピースサインを作っている。
彼女たちはもう、完全に俺の所有物気取りだ。
この勝利をもたらした「王」の隣にいることで、自分たちの価値も上がったと錯覚している。
そんな狂騒の輪の外。
教室の隅の席で、千歳朔が一人、亡霊のように座っていた。
彼は笑っていなかった。泣いてもいなかった。
ただ、虚ろな目で、歓喜に沸く教室を眺めていた。
彼が夢見ていた「クラス一丸となって掴む勝利」の光景。それが今、目の前にある。
ただし、その中心に彼の姿はなく、彼が最も忌み嫌う「冷酷な暴力」によってもたらされたものだが。
### 3.呪いの祝福
俺は女子たちを適当にあしらい、喧騒を抜けて千歳のもとへ歩み寄った。
俺が近づくと、彼はビクリと肩を震わせ、怯えた子犬のように俺を見上げる。
「……あ、綾小路……」
俺は彼の机に手をつき、顔を近づけた。
周囲の馬鹿騒ぎにかき消されるほどの、小さな声で囁く。
「千歳――――お前は優勝をほざいていたじゃないか」
サッカーでも、バレーでも。
お前は「絶対に優勝する」「俺についてこい」と、クラスのみんなに誓っていただろう?
「見ろよ。この景色を。みんな笑ってるぞ」
俺は顎でクラスメイトたちを指した。
誰も千歳のことなど気にしていない。勝てばそれでいいのだから。
かつて彼が築き上げた「優しい王国」は、俺という劇薬によって「強い王国」へと変質し、彼を吐き出したのだ。
「お前の望み通り、クラスは最高の団結を見せて、優勝旗を手にした」
俺は千歳の肩をポンと叩いた。
その手は氷のように冷たく、千歳の心臓を直接握り潰すような重圧を与えた。
「叶った夢に喜べよ――――」
俺は口角を吊り上げ、皮肉に満ちた笑顔を見せた。
それは、彼の理想を汚物で塗り固めてプレゼントするような、最悪の祝福。
「あ……あぁ……うぅ……」
千歳は顔を覆い、嗚咽を漏らした。
自分が無能であることの証明。
自分が守りたかったものが、最も憎むべきやり方で守られてしまった皮肉。
そして何より、この結果を否定すれば、クラス全員の笑顔を否定することになるという逃げ場のない事実。
その絶望の味が、彼を永遠の地獄へと繋ぎ止める。
俺は満足げに彼から離れ、窓の外を見た。
福井の空は、今日もどこまでも高く、青く澄み渡っていた。
だが、この教室の王はもう、二度と空を見上げることはないだろう。
硝子の王様は砕け散り、俺という独裁者が支配する王国が完成した。
さて、次はどんな退屈しのぎを見つけようか。
【球技大会編・完】