チラムネの主要キャラに地獄を見せる物語 作:Valkiria
### 1.絆創膏と粘土の匂い(視点:青海陽)
「よっしゃあ! 土台完成!」
あたしの元気な声が、ブルーシートが敷き詰められた教室に響き渡る。
ジャージの袖をまくり上げ、手も顔も粘土で真っ白。
鏡を見たら、きっとお化けみたいになってると思うけど、今のあたしにはこれが一番の勝負メイクだ。
あたし、青海陽は復活した!
球技大会のバレーボールで、あの転校生・綾小路に顔面を二度もぶち抜かれた時は、正直心が折れかけた。痛かったし、怖かったし、何より悔しかった。
鼻の絆創膏はまだ取れないし、目の周りのアザもコンシーラーで隠してる。鏡を見るたびにあの瞬間の衝撃がフラッシュバックして、夜中に飛び起きることもある。
……でも、あたしはスポーツマンだもん。負けっぱなしで終わるなんてありえない!
今回の2年1組の出し物は、『巨大粘土像』の展示。
タイトルは『不屈の守護神』。
モチーフは、傷つきながらも立ち上がる戦士だ。
……うん、正直に言っちゃうと、これはあたしたち自身であり、そして何より――今は元気がない「彼」へのメッセージでもある。
「ほら海人! 手が止まってるよ! 男ならもっとグワッと盛りなさいよ!」
脚立の上から、隣で作業している海人に声をかける。
彼もまた、あの試合であたしを庇って顔面を粉砕され、今は鼻にギプスをしている状態だ。
はたから見れば「傷だらけの敗者コンビ」だけど、今のあたしたちは誰よりも燃えている。
「うっせーな! 繊細な作業中なんだよ! ここ! この大胸筋の隆起が大事なんだって!」
海人がヘラで粘土を削りながら、ムキになって言い返す。
あたしたちは顔を見合わせて、プッと吹き出した。
朔は、まだ元気がない。
教室の隅で小さくなっている彼を見るたびに、胸が締め付けられる。
いつも太陽みたいに笑って、あたしたちを照らしてくれた朔。彼があんな風になっちゃうなんて、想像もしてなかった。
あの転校生が来てから、朔はずっと苦しんでる。
だからこそ、あたしたちが頑張らなきゃ。
この巨大像を完成させて、最優秀賞を取って、朔に見せてあげるんだ。
「あたしたちは負けてない。何度だって立ち上がれる。だから朔も、もう一度顔を上げて」って。
「絶対に勝とうね、海人。あの2年5組に。……あの悪魔に!」
「おうよ。俺たちの根性、見せつけてやろうぜ!」
冷たい粘土の感触が、熱い手のひらで温まっていく。
泥臭くて、不格好かもしれない。でも、この像にはあたしたちの「負けたくない」って想いが全部詰まってる。
最高の青春、今ここで作ってる最中って感じ!
### 2.友のために積む瓦礫(視点:浅野海人)
鉄パイプと金網で作った骨組みに、大量の粘土を肉付けしていく。
重労働だ。指先は痺れ、腰も痛い。顔面の古傷もズキズキと疼く。
だが、不思議と苦痛ではなかった。
俺、浅野海人は、目の前の粘土の塊を睨みつける。
高さ3メートルに迫る巨像。
こいつは俺たちのプライドそのものだ。
あの球技大会。
俺は陽を守ろうとして、顔面を砕かれた。
綾小路清隆。あいつは化け物だ。物理法則を無視したあのスパイク、天井に当てて得点するような常識外れの思考。そして何より、あいつの目には「感情」がなかった。
勝てる気がしなかった。恐怖で足がすくんだ。正直、今でもあいつと目が合うと震えが止まらなくなる。
……でも、だからこそだ。
あんな理不尽な暴力に屈して、すごすごと尻尾を巻くなんて、男が廃るだろ。
それに、俺の一番の親友――千歳朔が、あいつに心を折られて廃人同然になってる。
いつも俺たちを引っ張ってくれた、カッコいいあいつがだ。
(待ってろよ、朔)
俺はヘラを強く握りしめる。
お前が失った自信も、俺たちが受けた屈辱も、この文化祭で晴らしてやる。
あいつら2年5組は『ロミオとジュリエット』とかいうチャラついた演劇らしいな。主役は綾小路だと聞いた。
そんな見た目だけの出し物、俺たちの「魂(ソウル)」がこもった芸術作品でぶっ潰してやる。
俺たちが証明するんだ。最後には「熱い想い」を持った奴が勝つってことを。
「おい海人、水取ってー!」
「はいよ。……てか陽、顔に粘土ついてるぞ」
「えっ、嘘!? どこ!?」
「鼻の頭。……プッ、似合ってるぜ」
「ちょっと! 馬鹿にしないでよ!」
陽が慌てて頬を擦る。その仕草に、俺たちは声を上げて笑った。
傷だらけの顔同士。格好悪いかもしれない。スマートじゃないかもしれない。
でも、俺は今のこの時間が好きだ。あいつらが知らない、泥まみれの輝きがここにはある。
夕日が差し込む教室。
完成に近づいていく『不屈の守護神』。
その力強い造形は、まるで俺たち自身を鼓舞しているようだ。
「よし……これで大枠は完成だな」
俺は脚立から降りて、像を見上げた。
迫力満点だ。粘土の荒々しいタッチが、逆に生命力を感じさせる。
これならいける。最優秀賞は間違いなく俺たちのものだ。
「見てろよ綾小路。……そして朔」
俺は泥だらけの手で拳を作った。
この像が完成した時、きっと俺たちの時間はまた動き出す。
最高の笑顔で、ハイタッチができるはずだ。朔もきっと、この像を見れば思い出してくれるはずだ。俺たちの絆は、誰にも壊せないってことを。
そう信じて、俺は再び粘土の山へと向き合った。
俺たちの青春は、まだ終わっちゃいないんだ。