チラムネの主要キャラに地獄を見せる物語   作:Valkiria

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【第十四章:百人一首編・第2章 ~真夜中の調味料、あるいは脂塗れの悪意~】

### 1.ザル警備の盲点

 

 時刻は深夜2時。

 世界が最も深く眠る丑三つ時。

 俺は再び、闇に溶け込んで藤志高校の敷地内に侵入していた。

 

 文化祭でのあの一件以来、学校側も警備体制を見直したらしい。

 校門付近への監視カメラの増設、人感センサーライトの設置、そして教師による夜間見回りの強化。

 表向きは「厳重な警戒態勢」だ。生徒たちも「もう夜の学校には入れないね」と噂していた。

 

 だが、俺から言わせれば、それは所詮「学校レベル」の児戯に過ぎない。

 

 彼らの対策は、あくまで「外部からの不審者」を想定したものだ。

 バリケードを築き、戸締まりを呼びかけ、懐中電灯を持って校内を歩く。

 だが、彼らは根本的な可能性を疑っていない。

 **「生徒という名の内部犯」**が存在することを。

 

 昼間のうちに堂々と校舎に入り、内側から鍵を開けておく。

 そんな単純な工作を仕掛けた「身内」がいるなどと、性善説で動いている平和ボケした教師たちは夢にも思わないだろう。

 

「……だから、俺みたいな人間に侵入されるんだよ」

 

 俺は監視カメラの死角となるルートを完璧にトレースし、家庭科室の裏手に回った。

 窓枠に手をかける。

 カチリ。

 あらかじめクレセント錠を外しておいた窓が、音もなくスライドする。

 俺は軽やかに窓枠を乗り越え、食材の匂いが微かに残る室内へと足を踏み入れた。

 

### 2.冷凍された善意

 

 月明かりだけが頼りの薄暗い室内。

 俺は迷わず業務用の大型冷凍庫へと向かった。

 重たい扉を開ける。冷気と共に白い霧が溢れ出し、庫内灯がパッと点灯する。

 

 そこには、内田優空が用意した大量の豚肉が保存されていた。

 綺麗に切り分けられ、用途ごとにジップロックで小分けにされている。

 肉の色ツヤを見ればわかる。スーパーの特売品ではない。彼女が自分の小遣いを叩いて買った、そこそこ良いランクの国産豚バラ肉だ。

 

「……保存状態は悪くない。むしろ良い方だ」

 

 解凍した時のドリップが出ないよう、丁寧に処理されている。

 食べる人のことを第一に考えた、彼女らしい繊細な仕事。

 明日、これが煮込まれ、美味しい出汁となってクラスメイトの胃袋を満たすはずだった。

 その「はず」を、これから俺が書き換える。

 

 俺はポケットから、小さな遮光瓶を取り出した。

 

### 3.禁断のコーティング

 

 瓶の中身は、無色透明の粘性のある液体。

 俺があらかじめ入手しておいた**強力な下剤**を、濃縮し、液体状に加工したものだ。

 入手ルート?

 そんなものは現代のネット社会では無数にある。成分を調べ、市販薬を精製するか、あるいは海外のサイトを経由するか。知識と実行力があれば、誰にでも可能なことだ。

 

 俺はゴム手袋をした手で肉を取り出し、刷毛を使ってその液体を丁寧に塗布していく。

 表面全体に、まんべんなく。

 肉の赤身と脂身が、怪しい光沢を帯びていく。

 

 だが、これだけでは不十分だ。

 ただ塗っただけでは、豚汁として高温で煮込む際、成分が蒸発したり、汁に溶け出して味が変わったりする恐れがある。

 「なんか味が変だぞ?」と気づかれれば、食べるのを止められてしまう。それでは意味がない。

 

 そこで、俺はもう一つの小瓶を取り出した。

 **無味無臭の食用油**だ。

 

「……仕上げだ」

 

 俺は下剤を塗った上から、さらに油でコーティング(被膜)を施していく。

 これにより、薬剤の成分を肉の表面に閉じ込める。

 煮込む際、油の膜がクッションとなり、急激な蒸発を防ぐ。

 そして、肉の脂身が溶け出すのと同時に、ゆっくりと、じわりと鍋全体に成分が浸透していく仕組みだ。

 

 時間差攻撃(タイムラグ)。

 食べた瞬間は何ともない。「美味しいね」と笑顔で完食できる。

 そして、試合が始まり、運動によって腸が刺激され、一番大事な場面で――**お腹の中で爆発する時限爆弾**となる。

 

### 4.悪夢の仕込み完了

 

 全ての肉への加工を終え、俺は再びジップロックに戻した。

 見た目には全く変化がない。

 ただ、少し「脂が乗って美味しそうに見える」だけだ。

 

 俺は冷凍庫の扉を閉めた。

 ブゥゥン……という重低音が、再び静寂を取り戻す。

 

「……美味しくなれよ」

 

 俺は誰にともなく呟き、使用した道具を回収した。

 指紋は残さない。足跡も消す。

 ここに侵入者がいた痕跡は、何一つ残っていない。

 あるのは、明日への希望が詰まった冷蔵庫だけだ。

 

 俺は窓から外へ出ると、闇夜に紛れて学校を後にした。

 冷たい夜風が心地よい。

 明日の昼、体育館に広がるであろう芳醇な豚汁の香りと、その後に訪れる地獄絵図を想像し、俺は口元だけで笑った。

 

 内田優空。お前の料理は、間違いなく全員の記憶に刻まれることになるぞ。

 一生消えないトラウマという形でな。

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