夜刀ノ教活動記録   作:Ⅵ号鷲型

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蛇身

 お参りしてからというもの、特にこれといった大きな変化のない日々が続いた。

 いつも通り出勤していつも通り残業して帰る。

 味気ない僕の一日。

 あるとすれば休みの日に夜経神社へのお参りと、我慢できくらいの小さな痒みがよく発生するようになった。

 神社に関しては景色を見てリフレッシュするついでと思ってちょくちょく通っている。

 痒みに関しては皮膚科に診てもらったけど、特に異常はないとしてかゆみ止めをもらったくらい。

 あまり効いている感じはしないけど。

 

 そんな帰りの電車の中で相変わらず止まらない痒みを感じながら、ふとスマホに写った見た時に顔に変なものを見つけた。

 まるで剥けそうになっている皮というか、吹き出物というか。

 

「んっ? なんだろ…………」

 

 ペリっと剥こうとするが、なかなか剥けない。触った感じはまるで乾燥した皮膚のように硬い何かだった。

 ずっと帰りの電車の中で触りながらも、剥かないように気を付ける。

 この手のものはニキビと同じで一度気にすると、それを取るまでずっと頭から離れない。

 

 夜更けに降りる人の少ない最寄り駅を降りた時、プラットフォームに見覚えのある白髪の女性が見えた。

 間違いなく晴美さんだ。

 

「あっ、晴美さん! こんばんは、もしかして同じ電車に乗ってたんですか?」

「こんばんは田代さん。どうやらそう見たいですね。

 …………おや? その頬はどうしたのですか?」

「あっ、これは…………」

 

 と僕が説明するよりも先に晴美さんの手がそっと頬に触れた。

 思わず高鳴る心臓に少し呼吸が荒くなる。

 そして静かに僕の頬にあった皮のようなものを取った。痛みどころか取られた感覚もなくそれを取った彼女はそれを何処か嬉しそうに見ていた。

 

「あ、あの…………」

「田代さん、お疲れでしょうけど。少しお時間をいただけますか?」

 

 美しい笑顔と魅力的な誘いに僕はコクリと頷くしかなかった。

 

 

 ─────────────────────

 

 

 いつもと同じ帰り道なのに、その時は何故かいつも見ている光景が少しだけ明るく見えた。

 一言も言葉は交わさず、ただ靴底がアスファルトを蹴る音だけが響く。一体、僕はこれからどうなるのだろう。

 期待と不安と淡い希望を胸に僕は遂にお隣さんである晴美さんの部屋へと足を踏み入れる。

 中はとてもシンプルで物が少なく、よく整頓された綺麗な部屋だった。

 

「お、お邪魔します…………」

 

 女性の生活する部屋に入るという人生初体験に戸惑いながら、僕は靴を脱ぐと玄関の隅に寄せる。

 晴美さんは台所へ向かうとコーヒーを淹れてくれた。

 

「さっ、立ってないで座ってください」

「すません。そうしたら失礼しますね…………」

 

 同じ間取りの部屋なのに違和感しかない奇妙な感覚を感じながら、ゆっくりと椅子に腰掛けた。

 そしてコトリと静かに置かれたマグカップから湯気が立ち昇る。

 

「ありがとうございます。いただきます…………」

 

 僕はぺこりと会釈してからマグカップに口を付けた。

 程よい甘みと苦味の調和が素晴らしい。

 

「美味しい…………」

「うふふっ、お気に召したようで何よりです」

 

 向かいに晴美さんが座ると満足そうに微笑む。

 もう一口マグカップに口をつけて、僕は晴美さんの方を見つめて意を決して口を開く。

 僕を家に呼び寄せた理由はただコーヒーを振る舞うためじゃないはず。

 

「それで晴美さん。僕に話というのは…………?」

「田代さんはせっかちね。でもそういうのも嫌いじゃない。田代さん、貴方は前に新しい人生を望むって言っていましたよね?」

「はい、今も出来ればなっては思っています」

 

 晴美さんもコーヒーを一口飲むと、小さく頷いてさっき駅で剥がした皮のようなものを見せた。

 どうやら晴美さんはこれの正体を知っているらしい。

 

「田代さん。今からまた新しく全てをやり直せるチャンスがあるとしたら、どうしますか?」

「えっ…………?」

 

 突然のことだが、言っている意味が分からない。

 そんな都合のいいことなんて起こるはずがないし、今まで晴美さんと話をしていてそんな突拍子も無いことを言うはずもないのは分かっている。

 なんで急にそんな事を言い出したんだろう。

 

「あの晴美さん。質問の意味がわからないです。そんな漫画の世界じゃないんですから…………」

「それもそうですね。ですが、現実は小説よりも奇なりって言うじゃないですか。

 そしてもう田代さんにはその兆候があるのですから」

「…………?」

 

 謎が謎を呼んで頭の中がぐるぐるとその謎によって掻き回される。

 あの皮が何か繋がりがあるとしても、何が何だかさっぱり。

 

「田代さん、最近体調でおかしな事はありましたか? 

 例えば夜眠れないとか、最近よく疲れるとか」

 

 確かに心当たりはある。夜経神社を参拝し始めてから全身に痒みが起きるようになった。

 そしてあの皮のようなものが出るように。

 

「まさか…………」

「あるみたいですね。それにこの皮の下には新しい自分がもう形成されている。もうすぐ脱皮をする時なのですよ田代さん」

 

 にこりと微笑む晴美さんの笑顔はいつもと同じはずなのに、どこか不気味さがあった。

 そして更に衝撃の事実が告げられる。

 

「田代さん、貴方は私たちの仲間なのです。そしてもう貴方は元には戻れない」

「えっ?」

「もう貴方の身体は変化しつつある。このまま過ごせばお互いに不利益を被ることになります」

「そんな、一体どうして………… なんで僕が?」

「田代さんがその資格があり、望みを持っていたからなのですよ。自覚はないと思いますが、貴方は選ばれたのです」

 

 何も以って選ばれたのか、元に戻れないのはどういう事なのか。

 まだハッキリとは分からないが、まだ輪郭がボヤけてはいるが何かしら自分の身体に変化があるのはなんとなく分かる。

 そういえば、夜経神社に祀られている神様は確か生まれ変わりの神様として信仰されているんだった。

 もしそれが関連してるのなら。

 

「もしかして、その変化が起きたのはあの神社を参拝したから…………?」

「そうです。やり直したいという願望、そして時間が経ち何度も神社に参拝してその霊体が変質するのに十分な時間を掛けた。そしてもう変化したという事です」

「そうしたら僕はもう…………」

 

 あまりにも衝撃的すぎた。自分の手を見ながら、ただどうしようという思考でいっぱいになる。

 よく見れば手もまるで蛇の皮のように白く鱗のような皮が出来ている。

 まさか身体の中でそんな事が起きているなんて。

 そんな僕の頬に暖かな晴美さんの手が触れる。

 

「大丈夫ですよ田代さん。確かに困惑するのは分かりますが、全てを新しく始められる転換点なのです。

 私達のように、夜刀ノ様を信じて新しい自分として」

「…………新しく」

 

 もう戻れない。今までの生活に。

 そう思ったけれど、思い返しても自分の意思なのか分からない永遠に続く仕事に疲労を溜め込んではただ寝るだけの毎日。

 ただ生きているというよりも部品の一つという感じだった。

 でも、それが終わるのならばそれはそれで良いのかもしれない。

 

「いかがです? 

 私達と共に蛇巫信仰に加わりませんか? 

 新しい自分と生活についてはきちんと保証されます。私もかつては戸惑いましたが、今ではこのように暮らしていけますし」

 

 後戻り出来ない。このまま断っていつも通り過ごしても、何れはこの変化が表面化して暮らすなんてことは出来なくなるだろう。

 それに晴美さん自身がこうして暮らせている。

 ここまで来ればもう断る理由はなかった。

 

「僕も………… 新しい自分を信じたいと思います」

 

 この一言で、僕の人生はこの瞬間から変わる事となった。

 

 

 ─────────────────────

 

 

 翌日。

 僕は晴美さんと共に夜経神社に向かっていた。

 なんでも生まれ変わる為の儀式をし無ければならないらしい。

 今回は神主さんも立ち会ってくれるそうで、かつて何度も儀式を成功させてきたそうだ。

 道すがら聞いた話しでは僕のような男性の信者もいるらしく、みんな等しく生まれ変わりをしているとの事。

 成功例も多いと聞いているけど、やっぱり緊張するものはするようで頬が少し強ばる。

 

「ふふっ、今からそんなに緊張してはあとが持ちませんよ」

「そ、そう言われても…………」

 

 一体どんな儀式なのか、自分はどうするべきなのか。

 まだ何も知らされていないのに不安はある。

 そうして夜経神社へと続く階段の前に辿り着いた時、神主さんらしき人が降りてきたのを見て僕は目を見開いた。

 

 そこに居たのは白く長い髪に赤い瞳の小さな女の子だったからだ。

 まるでただの子供のようにしか見えないけど、纏っている雰囲気は妖しくもどこか神秘的で着ている服は晴美さん達が着ているような紫色の袴風のスカートと巫女服だった。

 彼女も蛇巫信仰の信者という事になる。

 

「君が晴美の言っていた新しい信者であり、蛇身を受ける者だね? 

 私はこの夜経神社の神主を務めている那留芽。宜しく」

「田代 純です。宜しくお願いします…………」

 

 ぺこりと頭を下げる僕に那留芽さんは顔を上げさせるとその頬を指で撫でる。

 その感触に那留芽さんは満足そうに頷いていた。

 どうやら彼女の目から見ても、かなり変化が進行しているらしい。

 

「晴美。彼を案内してあげなさい。私は儀式の準備を進める。今日は一人だけだからすぐに済む」

「分かりました那留芽様。田代さん、こちらへ」

 

 那留芽さんはそのまま階段を登っていき、僕は晴美さんに連れられて階段の脇にある小さなトンネルへと向かった。

 脇道からも逸れている立ち入り禁止と書かれた立て看板にフェンス。普段なら気にもしないような小洞窟の奥へ奥へと進む。

 中は意外と整備されており、薄暗いが明かりのおかげで迷わずに足元にも注意して歩ける。

 

 少し進んだ先に蝋燭に照らされた古めかしい木の扉が。なかなかトンネルの中と相まって雰囲気と相まって何か出てきそう。

 そんな木の扉を晴美さんは躊躇う事なく手で押し、木の軋む音と共に扉はゆっくりと開いた。

 中にはさらにもう一人の巫女服を着たアルビノの女性が何か白い衣服を持ってぺこりと会釈してみせる。

 部屋に通されたが、特に何かされ訳でもする訳でもなくただ二人が何か準備しているのを見ているだけだった。

 

「あの、僕は何を…………」

 

 何かしないと不味いと思わず声を掛けたけど、二人は小さく微笑んでから大丈夫と一言だけ言って白い着物を取り出した。

 それは汚れ一つないまるで白無垢のよう。

 その着物を手に晴美さんが近付いてくる。まさかとは思うけどあれを着なきゃいけないのかな。

 

「それでは田代さん。こちらに着替えてもらえますか? 

 着付けは手伝いますので」

「は、はい」

 

 そう言われるがままに僕は着ていた私服から白い着物へと袖を通す‎。

 和服なんて生まれてこの方、七五三から全く着たことなんてない。

 少し苦労して晴美さんに手伝って貰いながら何とか着付けが終わった。

 でもまだ儀式とやらがまだ始まってすらいないから、この先いったいどうなる事やら。

 そんな事を思っていると晴美さんともう一人の信者が入ってきた時とは別の扉を開ける。

 

「田代さん。それでは参りましょう」

 

 僕はいつの間にか面布をした晴美さんの手を取って、遂に儀式の行われる広間へと足を踏み入れた。

 

 

 ─────────────────────

 

 

 厳かな雰囲気の薄暗い広間に置かれた燭台が僅かに周りを照らして、まるでゲームの世界に迷い込んだのかと思う。

 広く感じられる部屋の真ん中に湯船とも水溜めとも見れる槽が見える。

 その中で晴美さんと同じく面布をした那留芽さんが部屋の奥に鎮座する蛇を模した木像に一礼した。

 晴美さんともう一人も一礼し、僕も見様見真似で一礼してみる。これで合ってるのだろうか。

 

「田代さん、こちらへ。脱がなくて良いですよ。そのままで」

 

 那瑠芽さんがなにか呪文のようなものを唱え、僕は着物を着たまま湯船の中へと入る。中は暑すぎすぬる過ぎずのお湯でとても心地良い。

 とても心地良い温かさに身体の芯まで暖まる。

 少しでも気を抜くとそのまま寝てしまいそうに。

 

「田代さん、ゆっくりとリラックスして目を閉じてください。直ぐに終わりますよ」

「はい」

 

 僕はゆっくりと目を閉じて意識を手放した。

 

 

 ─────────────────────

 

 

「…………ん」

 

「……………………さん」

 

 誰かの声が聞こえる。真っ白で何も無いはずなのに声だけが。

 

「…………田代さん」

 

 聞き覚えのある女性の声が僕を呼んでいる。

 誰だろう。そもそも僕は今どこで何をしていたんだっけ。

 

「田代さん、起きて」

 

 小さく揺すぶられ、ハッキリとした声に僕は目を覚ました。

 視界に映るのは木造の天井に電灯が吊り下げられている。

 そうだ、僕は夜経神社の近くの洞窟で蛇巫信仰の儀式を受けたんだっけ。生まれ変わりの儀式を。

 ゆっくりと半身を上げるが、上半身が少し重たく感じる。

 

 少し時間が経って意識がハッキリし、感覚もきちんと戻ってくるのを感じながら僕は周囲を見回した。

 タンスや机といった家具が置いてあり、脇には布団が畳まれていて儀式の部屋とは違う生活感を感じる。

 

「目が覚めましたか? 田代さん」

「はい、おかげさまで…………?」

 

 変だ。僕の今話した言葉が女の子みたいな声で出ている。

 そういえば視界もいつもより低く見えるのは気のせいじゃないはず。

 自分の体を見ようと下を向いた時、ありえないものを僕は見てしまった。

 

 そこには無いはずの多めな肌色の双丘がそこにいる。しかも自分に付いているオマケ付き。

 意識を失う前まで絶対になかった確信があったのに、今それが少し揺らいでいる。

 

「…………えっ? えぇっ?」

 

 全くもって訳が分からない。いったい自分はどうなってしまったんだ。

 そんな僕に晴美さんが笑顔で近付いてきた。

 一体何が起きたのか聞きたい気持ちが口から出る前に、まるで胸中を見透かしているかのような目をした晴美さんが切り出す。

 

「儀式は成功したのです田代さん。文字通り生まれ変わったのですよ。貴女が望んでいた新しい人生を」

「だ、だけど…………」

「端的にいえば、貴女は性別から全て変わったのですよ」

 

 その一言でまるで自分の頭をハンマーで殴られたかのような衝撃だった。

 でも、それならさっき見た肌色の丘があるのにも納得がいく。いや待って、そもそも性別が変わったということは。

 僕は慌てて自分の股間に手を当てる。女性の前でそういう示唆するような行為は慎むべきだが、それどころじゃない大事な確認だ。

 

「ない…………」

 

 男が男たりうる象徴が綺麗さっぱりない。

 その後ぺたぺたと体を触ってみるが、男性らしい角張った体つきから流線型が多い体つきになっている。

 さてはこれは夢なのか、それとも幻を見ているのか。

 でも、それを打ち破る光景を僕は目にする事となった。

 

 晴美さんの用意してくれた手鏡に映ったのは全く知らない女の子だったのだから。

 長い髪に少しだけ男の子っぽさを感じる整った顔立ち。可愛いと思える顔に男だった時の自分と共通するのは黒い髪と緑色の瞳。

 それにこの顔をどこか受け入れてしまっている自分がいる事にも驚きが隠せない。まるで元から自分の顔がこうであったように。

 困惑の連続でおかしくなりそうになりつつある時、手鏡に晴美さんが映る。

 そして彼女の手がそっと僕の肩に置かれた。

 

「最初は誰でも戸惑います。でも心配しないでください。私がサポートしますからしばらくはこの神社で暮らして慣れましょう」

 

 優しげな声に思わず頷いてしまいそうになった。

 でも明日が平日で出勤日なのを思い出す。

 

「で、でも会社が…………」

「田代さん、もう貴女は生まれ変わったんですよ。過去の貴女が通勤していた会社に行く必要もありません。何より、行っても追い出されてしまいますよ?」

 

 確かに見知らぬ女が働いている会社員の名前を出したところで到底受け入れてもらえるとは思えない。

 そうなるとこれからどうやって僕は生きていけばいいんだ。

 

「そうしたら僕の生活は…………」

「私、いや私たちが手配しますからご安心を新しい身分も用意します」

 

 何やら怪しげな言葉に聞こえるが、半混乱状態の僕に正常な判断ができるはずもなくただ頷くしかなかった。

 満足そうに頷いた晴美さんは僕から離れ、タンスの引き出しを引いて何かを探し始める。

 その間、僕は手鏡で自分の顔と身体を見ては触って現実なのか確かめるのに精一杯だ。

 触られている感覚もあるし、胸を触ればその柔らかな感触が伝わる。本物なのに間違いない。

 

「ほ、本当に変わっちゃったんだ…………」

 

 だいぶ落ち着いてきたが、今度はこれからどうしようという不安が大きくなる。

 晴美さんが援助してくれるし、新しい自分に慣れるまでこの神社で暮らしていいというけど大丈夫なのだろうか。急に追い出されたら野垂れ死ぬ以外の選択肢が浮かばない。

 

「田代さん、これがありましたので着てみてください」

 

 晴美さんの手には綺麗に畳まれた和服なような衣服だ。

 神社というのだから巫女服の予備だろう。着るものもないし、こんな状況で断れる理由は何も無い。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 僕はゆっくりと立ち上がり、服を受け取った。

 

 

 ─────────────────────

 

 

 初の女性物を衣服という事でまずサラシを巻くところから大苦戦を強いられる。

 晴美さんの手伝いでなんとか巻けたところで今度は服を着るがこれまた大苦戦。

 ほぼ晴美さんがやってくれて自分は何もしていない。

 そんなこんなで格闘すること十数分後にようやく着ることができた。

 

「慣れればすぐ着れるようになりますよ。それよりも一度ご自分の姿を見てはどうですか?」

「そ、そうですね…………」

 

 用意された姿見の前に立った時、僕は思わず声を漏らした。

 そこに居たのは冴えない会社員だった自分がいなかったのだから。

 長く腰まで伸びた黒い髪に巫女服がよく合う。

 袴風の丈の短い紫色のスカートと絶妙な絶対領域を黒いニーソックスで生み出していて、コスプレイヤーかゲームの世界から飛び出してきたのかと思った。

 

「えっと、これが僕…………」

「はい、よく似合っていますよ」

 

 姿見の前で後ろや横を確認してみるが、前の身体の面影はどこにも無い。

 本当に変わってしまったとただただ思い知らされる。

 くるりと回ればふわりとスカートが花開くように舞い踊る。

 動画でしか見たことないようなものをまさか自分がやると思わなかった。

 そんな僕を晴美さんは微笑みながら、部屋の襖を開けてくれる。

 

「さぁ田代さん、新しい一歩ですよ」

「はい…………!」

 

 僕は晴美さんの後を追うように部屋の外へと歩き出す。

 ここから、新しい僕の人生が始まるんだ。

 期待と不安が混じった気持ちで僕はその一歩を踏み出した。

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