空気が止まったまま、誰も動けなかった。最初に息を吐いたのは、宇髄さんだった
「……派手に重い話じゃねぇか」
次に、実弥が歯を食いしばる音がした
「ふざけんなァ……それで、黙って死ぬつもりだったのかよォ」
拳が震えている。怒りだけじゃない
悔しさと、どうにもならない現実を噛み潰すみたいな顔だった
「……勝手に覚悟決めて、勝手に全部背負ってよォ」
「身勝手でごめん…でも、みんなには未来を生きて欲しかったんだよ」
実弥は、何も言わなかった。ただ一度だけ、歯を強く噛み締めた
「……それが、一番ムカつくんだよ」
重たい空気が流れる中、今まで黙って聞いていたカナエが口を開いた
「ねぇ、今まで海斗くんには教えてなかったことがあるの」
「えっ?」
「無惨が消滅した後に一時的ではあるけど、鬼になったのよ」
カナエの言葉を理解するのに時間がかかった
「鬼になった海斗くんは、まるで別人のように喋っていたわ。生きているの?と」
固まる僕を他所に錆兎も思い出すように喋りだした
「俺や煉獄さんまで生存しているのかと、柱が全員生きているのかと確認してきたな」
別人のように喋ったって…まさか、あの人、余計なことを!
「あぁ、そういえば、俺が上弦の陸と戦う前にも酒に酔って洩らしてたな。柱を引退しないでって…その事についてもちゃんと話してもらおうか」
いや、酔った僕も余計な事を喋ったらしい
「そうだな、海斗が知っている物語はいったい誰が死んで、誰が生き残ったんだ?」
錆兎が追求してきた
「もう終わったことなんだし、そんなの知らなくても…」
「言え」
僕の言葉に被せるように即答した
これは言わないと怒られるやつだ…
「この場にいる人で生き残ったのは、義勇、実弥、宇髄さん、炭治郎、禰豆子ちゃん、善逸、伊之助、カナヲ、愈史郎だけだよ」
「9人しか生き残れなかったのか…」
善逸が絶望したように呟いた
「ここまで話したんだ。自分の死因くらい聞いてみたい」
錆兎が言うと他の面々もうなづいた
もう僕の精神が死にそうなのに…
「はぁ、だから言いたくなかったのに…。時系列から言ったら錆兎が先だよ…最終選別で戦った時、鬼の頸を斬れずに刀折れたでしょ?」
「あぁ、その時に海斗が助けて…なるほどな」
錆兎が黙ってしまった
「次は、有一郎」
「俺か…と言うことは、あの夜に来た鬼に殺されたんだな」
「うん、奇跡的に無一郎は助かったけど…」
「でも、僕も死んじゃったの?」
「無一郎は、黒死牟と戦ってる時にね。でも、無一郎のお陰で黒死牟に勝てたんだ」
「なんか変な感じ…物語の世界とはいえ、自分の死因を聞くの新鮮かも」
「笑いごとじゃないのに…」
可笑しそうに笑う無一郎に有一郎が突っ込んでいた
「粂野さん」
「おいおい、いつ死んだんだよ」
「下弦の壱と戦った時だね。あの時にいた子供を庇って」
「なんだ、俺らしいなぁ」
「実弥は、今より何倍も殺気立ってたよ」
「…それは、悪かったな」
粂野さんは頭を掻きながら謝った
カナエと目が合った
「あら、私かしら?」
「そうだね」
「じゃあ、童磨に会った時ね。海斗くん、居なかったら死んでたもの」
少し悲しそうに下を向いた
「しのぶのことも聞いていいかしら?」
しのぶの方を見ると泣きそうな顔をしながらも頷いた
「しのぶも童磨にね…。カナエの仇をとる為に自ら藤の毒を摂取して、吸収されたんだ。そのお陰でカナヲが頸を斬れたんだ」
「それは褒められることではないわね。ありがとう海斗くん。私だけではなくて、しのぶもカナヲも救ってくれたのね」
「どういたしまして…」
カナエがしのぶとカナヲを抱き締めて、頭を撫でていた
「えっと、次は杏寿郎だね」
「よもや!俺か!」
「無限列車の猗窩座と戦った時にね」
「あの時か!不甲斐ない!だが、海斗がいたから生き残れたのだろう!感謝する!」
「そうだね。杏寿郎が生きてくれてて僕も嬉しいよ」
自分が死んだことに対して思い詰めてはなさそう
「あの…俺は…」
恐る恐る獪岳が手を挙げた
「獪岳は…柱稽古が始まる前に運悪く、黒死牟に遭遇してね。多分、宇髄さんの継子になったことで行動が変わったからだと思うよ」
鬼になったことや、その後に善逸に倒されることまで話す必要ないでしょ
「そうなんですね…。ありがとうございます」
「俺からもお礼言わせてください!兄貴を救ってくれて、ありがとうございました!」
善逸が嬉しそうに言った
「気にしないで。2人が仲良くしてくれてて、僕は嬉しいからね」
本当に良かった
宇髄さんが怪しげな目で見てくるんだけど
「俺様は?」
「宇髄さんは死んでないって言ったじゃん」
「でも、引退したんだろ?」
「まぁ、そうなんだけど。上弦の陸と戦った時に、左腕と左眼を失ったんだ」
「おぉ、ド派手にやられてんじゃねえか」
宇髄さんは面白そうに笑ってきた。他人事じゃないのに…
そろそろ、実弥の圧が限界なんですけど
「兄ちゃん、落ち着いて…」
ほら、玄弥が困ってる
「玄弥は本当にいい子だね。黒死牟と戦った時に玄弥も亡くなってしまったんだよ。正直、いなかったら勝ててなかった」
「そっか…。その時の俺が頑張ってくれて良かった」
「よくはねぇだろォ。お前、柱稽古が始まった時に俺と玄弥の仲を取り持っただろ。危惧したのかァ」
「死なせるつもりはなかったよ」
「わかってらァ、玄弥を助けてくれて感謝してる」
「岬さん!本当にありがとうこざいました」
「これからも仲良くね」
「はいっ!」
蜜璃ちゃんが落ち着かない様子でいるのを小芭内が宥めてた
「あの…私たちは?」
「蜜璃ちゃんと小芭内は、無惨の時だね。最後まで戦ってくれたんだ」
「そっかぁ!私、最後までみんなと戦えたのね!嬉しいけど悲しいわ」
ボロボロと泣き始めてしまった
「海斗…」
小芭内の圧が怖い
「そんなに睨まれても困るんだけど…一言余計なこと言っていい?」
「なんだ?」
「その時ね。最後に2人が交わした約束があるんだ」
「何かしら?」
小芭内から受け取ったハンカチで涙を拭きながら聞いてきた
「次に生まれ変わったら、お嫁さんにしてほしいって。小芭内も絶対に幸せにするって言ってたねぇ」
2人が蛇に睨まれたように固まり、顔を真っ赤に染めた
宇髄さん辺りが冷やかしてる…ほどほどにね
「珠世さんと悲鳴嶼さんとお館様は…なんか言わなくてもわかってそう…」
「私たちは覚悟してたからね」
「…そうだな。海斗に止められてしまったが」
「えぇ、本当に困った人です」
さすがに苦笑するしかないや…
お館様が、ゆっくりと口を開いた
「ありがとう、海斗。辛い話を、よく話してくれたね」
責める声ではなかった
「今日の話は、ここまでにしよう。みんな疲れただろう」
その一言で、この場は終わった
蝶屋敷に帰り、みんなが寝静まった頃に目が覚めた。鬼がいない夜…もう3ヶ月も経つのにまだ違和感が拭えない
「……僕は、もう正解は分からない」
未来を知っていた頃は、迷わなかった。助けるべき人も、死ぬ運命も、全部決まっていた
「だから、これからは」
一度、息を整える
「生き残った人たちが、ちゃんと笑えるかどうか。それだけを見て生きるよ」
そう選ばせてくれたのは、炭治郎で
きっと、みんなだった
なんか痣の話が有耶無耶にしてしまった…ここまで書く必要があったのか分かりませんけど、各キャラの反応とか書いててちょっと楽しかったのでよし