とある日のこと
月1の定期健診を終えて、帰ろうとしているとカナエに呼び止められた
「急にごめんなさい」
「カナエが相談なんて珍しい、何か困りごと?」
カナエは言いずらそうに視線が泳ぎ、息を大きく吐いた
「こういうの男の人に相談するのも変だと思ったけど、しのぶやカナヲには言いづらくて…」
「大丈夫だよ。ちゃんと聞く」
「えぇ、ありがとう」
少し安堵の表情を浮かべて、手を胸にあてた
「この間、実弥くんに祝言を挙げないかって言われたの」
一瞬、時が止まった気がした
耳まで真っ赤に染まり、額にはうっすら汗が浮かんでいる
「…それはいいことじゃないの?カナエは実弥のこと、嫌い?」
「そ、そんなことないわ!」
珍しく声を荒げたカナエは、はっとしたように口を噤み、恥ずかしそうに俯いた
「僕は実弥ならカナエのこと、幸せにしてくれると思ってる。不器用なところはあると思うけどね」
「そうよね…。ふふっ、やっぱり海斗くんに相談してよかったわ」
「どういたしまして。カナエは、笑顔が1番だよ」
「ありがとう。しのぶの後押しもできそうね」
「と言うと?」
「あの子も交際申し込まれたのよ。義勇くんから」
「やっと、告白したのか…」
「あら、やっぱり海斗くん知ってたのね」
「前から相談されてたんだ。口下手だから、はっきり言いなって」
「ふふっ、だからあの時のしのぶ、赤面してたのね」
何を言ったのやら…
「そうゆう意味では、海斗くんも頑張ってね」
「え?僕、告白するつもりないけど…」
「あら、意外と鈍感なのね」
えっ、気になるんですけど
問い詰めようとしたけど、笑いながらも秘密と言われてしまった
カナエに見送られながらも蝶屋敷を後にする
それにしても、実弥とカナエが結婚か…
みんなそれぞれ、幸せになってくれて、とても嬉しい
それでも、胸の奥に少しだけ残る、言葉にできない寂しさ
そんなことを考えながら自宅の前まで来ると、軒先に人影があった
「あれ?田無さん?」
声をかけると、驚いたように肩を揺らし、落ち着かない様子でこちらを見た
「お、お久しぶりです。岬様」
「うん、久しぶり。元気にしてた?」
「はい。お陰様で」
「外で立ち話もなんだし、家上がる?先日、桃が送られてきてね。ひとりじゃ食べきれなくて」
「折角なのでいただきます。お話したいこともありまして…」
「慌てなくていいよ」
「…ありがとうございます」
居間に通し、切った桃と紅茶を出す
甘い香りに包まれ、少し落ち着いた様子の田無さんが、意を決したようにこちらを見た
「突然のことで驚かれると思いますが…これまでお慕いしておりました。これからの人生をあなたと共に歩みたいと願っております」
言葉を理解するまで、少し時間がかかった
田無さんは何も言わず、僕の返事を待っている
「ありがとう。田無さんの気持ちは、嬉しいよ」
「ではっ!」
「ごめんね。僕じゃ田無さんを幸せにできないから」
一瞬浮かんだ笑顔が、そのまま凍りつく
肩を落とす姿が、胸に刺さった
「それは…寿命のことですか?」
今度は、僕が言葉を失った
「申し訳ございません。このことについては、以前、柱の方々から聞き及んでおりました」
「そっか…。だったら僕の言いたいことわかるのよね?」
「いえ、わかりません!」
一歩踏み出し、逃げ場を塞ぐように身を乗り出す
「幸せになるかどうかは、私が決めます。たとえ岬様が寿命を迎えたとしても…
その日までの時間も、その後に残る思い出も、すべて私のものです。今ここで諦める方が、ずっと後悔します」
涙を堪えながら、はっきりと言い切った
「私は……あなたの隣に居たい」
顔にそっと手を当て、溢れかけた涙を拭った
女性にこんなこと言わせて、泣かせるなんて、どっかの誰かに殴られそうだな…
「僕は…田無さんを幸せにできる自信がない。本当に25歳まで生きれる保証も無いし、悲しい思いをさせてしまう」
一度目を閉じ、深く息を吸う
「それでも……それでもいいなら、僕の隣に居てくれる?」
一瞬の沈黙のあと、田無さんの目から一気に涙が溢れた
「もう、嫌って言っても離れませんから!」
その言葉に笑うしかなかった
これはもう、逃げられないなぁ
田無さん改めて、奏瀬とお館様に報告に行ったんだけど
実は結構前から柱だけではなく、既婚者であるあまね様にも相談してたらしく、それはもうたいそう喜ばれました
イチョウの葉が少し色を変えた頃に、祝言を挙げることになった
奏瀬には、神前式で白無垢と披露宴でウェディングドレスを着てもらった
いやぁ、最高だったよね…
披露宴では、お館様に主賓の挨拶をしてもらったり、僕も奏瀬も義勇の下でお世話になったのでスピーチをして貰った
口下手な義勇にしては、ちゃんとしてるなぁと思ったけどチラッとメモ用紙を見たらしのぶの文字でなんか書いてあったので納得してしました
隠たちの余興では、昔の任務の失敗談が暴露され、会場は大爆笑
最後に僕からのスピーチで締めることになったんだけど、とても緊張する
手のひらがじんわりと汗ばむ。深く息を吸って、ゆっくり前を見る
「今日は集まってくれてありがとう。沢山の人たちに祝ってもらって凄く嬉しいよ。これから、大変なこともあるかもしれない。それでもみんなと共に歩んできた道は、今の平和に繋がったものだから、今まで以上に大切に奏瀬と一緒に歩んで行きたい。みんなには迷惑かけるかも知れないけど、今度ともよろしくお願いします」
深くお辞儀をすると暖かい拍手が贈られた
顔を上げて、奏瀬の方を見る。僕の視線に気が付いた奏瀬がにっこりと笑った
「奏瀬、僕を選んでくれてありがとう。悲しむ暇がないくらいに沢山の思い出を作ろう」
僕の言葉に少し驚いた顔を見せたあと、嬉しいそうに頷いた
「海斗ォ!あんまり、泣かすなよォ!」
最初に声を上げたのは、実弥だった
目元が赤いのは酒のせいだけじゃない
「うるさいよ実弥。そっちこそ鼻すすってる」
「すすってねェ!」
横でカナエがくすくすと笑う。その光景があまりにも穏やかで、胸が熱くなる
反対側では、腕を組んだままの義勇が、静かに一言呟いた
「…幸せになれ」
その言葉は、誰よりも重く、温かかった
「義勇、ありがとう」
小さく礼を言うと、少しだけ目を逸らす
その隣で、しのぶがにこやかに囁いた
「ちゃんと原稿通り読めていましたよ。70点です」
「…聞こえている」
「ふふ」
会場に笑いが広がった
奏瀬が小さく囁く
「海斗さん」
「なに?」
「選んでくださって、ありがとうございます」
思わず笑ってしまう
「それは、こっちの台詞だよ」
はい、急に恋愛要素でした
そんなフラグ何処から出てきたのって?わからないですねぇ
ちなみにこの後もアクセル全開なのでよろしくお願いします