プロ野球空想選手列伝   作:三宅繭

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第1話 地元のドラ1!!

1 高校最後の夏、仙台栄進の4番センター

 

宮城県大会・準決勝。

仙台栄進高校の4番センター、大原龍ニが打席に入るたび、バックネット裏でメモを取るスカウトたちの手が止まる。

 

「フォームはきれいとは言えないですね」

「でも打球音が違う。金属バットの音じゃない」

 

地方紙の高校野球特集には、こうしたコメントが並んでいた。

 

『仙台栄進・大原 高校通算92発の“フルスイング男”』

 

1年時からベンチ入りし、2年春から1番センター、3年では4番センターを務める大原龍ニ(仙台栄進)。

初回初球からのフルスイングはすでに名物だ。

指導者がフォームの矯正を勧めても、彼の返事は決まっている。

「フォームはホームランが出てから直します」

 

その“わがまま”を許したくなるだけの打球が、今日も宮城の空に飛んでいく。

 

甲子園には届かなかった。

それでも県内の強豪校相手に放った本塁打の数々が、スカウトのノートに「高校ビッグ4候補」という文字を書き加えさせるには十分だった。

 

 

2 「高校ビッグ4」の一角として

 

夏が終わると、報道のトーンは一段変わる。

 

スポーツ紙のドラフト展望号では、次のように紹介されていた。

 

『高校ビッグ4の一角・大原龍ニ(仙台栄進)』

 

・右投げ左打ち、外野手(センター)

・50メートル6秒台前半の俊足

・高校通算92本塁打の長打力

・リトル・シニア時代は4番キャッチャー

 

「全部フルスイングしていいですか?」

少年時代にそう言い切ったエピソードは有名になりつつある。

技術的にはまだ粗い部分も多いが、“フルスイングをすることへの迷いがない”天性の長距離砲候補として、プロ複数球団がリストアップしている。

 

名前が挙がる球団は、

セ・リーグの大阪テンプターズ、パ・リーグの神戸オックス、そして地元・仙台ゴールデン・カップス。

 

地元紙は、露骨に色をつけて書く。

 

『大原は仙台で見たい――地元の声、球団に届くか』

 

宮城野で生まれ育ち、仙台の高校で4番を務めたスラッガーが、

仙台のプロ球団のユニフォームに袖を通す――

そんな物語を期待する声は、決して少なくない。

 

 

3 ドラフト当日 ― テンプターズ、オックス、仙台の三つ巴

 

10月、ドラフト会議。

 

テレビ中継のテロップに「高校ビッグ4」の名前が並ぶ中、解説者たちは大原について口々に語る。

 

解説者「フォームは独特ですが、打球の角度と飛距離は高校生のレベルを超えていますね」

評論家「外野手としての守備範囲と肩も悪くない。将来的には30本以上打てる中軸候補でしょう」

アナ「やはり地元・仙台としては、なんとか引き当てたいところですね」

 

1巡目。

テンプターズが“大原”の名前を読み上げる。

続いてオックスも“大原”。

そして3つ目の球団として「仙台ゴールデン・カップス」が指名する。

 

抽選箱がテーブルに置かれる。

会場のざわめきの中、カメラは仙台のテーブルを抜く。

くじを引き、封を開けた仙台のGMの表情が一瞬固まり、そしてゆっくりと笑みに変わる。

 

「交渉権、仙台ゴールデン・カップスです!」

 

スタジオでは、アナウンサーが声を上げる。

 

アナ「地元の大砲候補・大原龍ニ、仙台が交渉権を獲得しました!」

解説者「いやあ、これは…ドラマですね」

評論家「昨年のマーさん(坂本将大)に続いて、地元ドラ1の看板打者を取れたのは大きいですよ」

 

4 なんJドラフト実況スレの夜

 

その頃、ネット上では恒例のドラフト実況スレが伸びていた。

 

60 風吹けば名無し

大原3球団競合wwwwww

 

65 風吹けば名無し

地元の仙台も来たか そらそうよな

 

71 風吹けば名無し

テンプターズ行ったらホームランテラスで量産しそう

 

78 風吹けば名無し

オックスで山奥キャンプさせたい(願望)

 

85 風吹けば名無し

仙台だけは譲れんやろ ここで引けなかったら夢がないで

 

96 風吹けば名無し

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

仙台GMニコニコで草

 

 

抽選結果が出た瞬間、スレは一気に加速する。

 

 

102 風吹けば名無し

地元のドラ1キタコレ

仙台有能やん

 

108 風吹けば名無し

これで坂本将大と同世代の大砲とかクッソロマンあるな

 

120 風吹けば名無し

大原って三振多いのが怖いけど

あのフルスイング見てると許しちゃいそうなんだよな

 

133 風吹けば名無し

フォーム汚いけどガチで飛ぶからな

プロでアーティスト化してほしい

 

145 風吹けば名無し

外野どうすんの問題はあるけど

地元の高校生スラッガーを取りに行く姿勢は評価する

 

160 風吹けば名無し

「全部フルスイングしていいですか?」とかいう名言

一生擦られるやつやん

 

 

一方で懐疑的なレスも少なくない。

 

 

181 風吹けば名無し

外野もう渋滞してない?

投手行った方が良くなかったか

 

193 風吹けば名無し

でも仙台ってさ

こういう「ロマンの塊」を抱え込んでこそやろ

 

210 風吹けば名無し

まあええわ

甲子園のスターじゃない地元の怪物を

1から育ててくれや

 

この夜、「地元ドラ1・大原龍ニ」は、

まだプロの打席に立っていないにもかかわらず、既にファンの議論の中心にいた。

 

 

 

5 地元紙コラム「“全部フルスイング”の意味」

 

ドラフト翌日の地元紙には、こんなコラムが載る。

 

『宮城野のフルスイングが、今度はプロのマウンドに向かう』

 

大原龍ニという高校生を、一言で語るのは難しい。

フォームは決して教科書的ではない。

しかし、打球音は教科書に載せたいくらいの響きを持っている。

 

少年時代、「全部フルスイングしていいですか?」とコーチに尋ねたという逸話は、

彼の“技術的未熟さ”ではなく、“スタンス”を示すエピソードだと感じている。

 

彼は「フルスイングをすること」に責任を持とうとしている。

当てにいって凡打するのではなく、全力で振って、その結果が三振なら受け入れる。

その覚悟は、プロの世界でもきっと必要とされる。

 

仙台ゴールデン・カップスが交渉権を引き当てたのは、

単に地元出身だからではないだろう。

チームの看板として、フルスイングで勝負できる4番打者を

“自前で育てたい”という意思表示でもある。

 

宮城野で育ったフルスイングが、どこまで飛距離を伸ばせるのか。

これから何年も、その打球を見上げることができると思うと、

仙台の秋風はいつもより少しだけ温かく感じられる。

 

6 入団交渉、そして会見へ

 

交渉はスムーズに進んだ。

契約金はドラ1として標準的な額。

しかし、大原が条件面の話をあまり気にしていなかったことは、球団関係者の間で語り草になっている。

 

「それより背番号とか、守るポジションとか、そういう話をしていましたね」

ある球団スタッフはそう振り返る。

 

背番号は「8」。

センターラインの一角を担うにふさわしい、外野手らしい番号だ。

 

入団会見の席で、大原はいつもの調子で笑いながらこう言った。

 

「地元で野球を続けられるのは、本当に幸せです。

プロの世界で“全部フルスイング”したら、怒られるかもしれないですけど……

できるだけ怒られないように、たくさんホームランを打ちたいです」

 

記者席から笑いが漏れる。

しかし、その場にいた誰もが、

「もしかしたら本当にやってしまうかもしれない」と、どこかで期待していた。

 

7 “期待値”という名のストーリーライン

 

こうして、

• 地元・宮城野の少年が、

• リトル・シニアの4番キャッチャーから、

• 仙台栄進高校の4番センターになり、

• 「高校ビッグ4」の一角としてドラフトにかけられ、

• テンプターズ・オックスとの競合を制した仙台にドラフト1位で入団する――

 

という、物語としてあまりに出来すぎた流れができあがる。

 

しかし、この時点で大原はまだプロで1本もホームランを打っていない。

あるのは、フルスイングと期待値だけだ。

 

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