プロ野球空想選手列伝   作:三宅繭

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第5話 無敗のエースと4番大原

 

 

 

 

 

 

 

 

打席に入った瞬間、球場の空気がわずかに張り詰める。

構えは驚くほど簡素で、余計な動きがない。

次の瞬間、バットが鋭く走り、乾いた芯の音が夜気を割る。

 

時間が一拍だけ伸びる。

内野も外野も、そしてベンチの月野も、

無意識に目線が同じ一点へ吸い寄せられる。

 

高く上がった白球は、

落ちてくるまでがやけに長い。

ようやく現実に戻るようにスタンドが揺れ、

歓声が遅れて押し寄せる。

 

その一打は、

技術の到達点というより、

“役目”の完成を告げる合図だった。

 

——この瞬間、仙台の4番が仕上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 2013年は“答え合わせの年”だった

 

2012年。

大原龍ニは打率.274、25本塁打、OPS.840。

外野でゴールデングラブを獲り、

「守備から逃げない4番候補」という、ちょっと特殊な立ち位置を確立した。

 

月野監督はオフの取材で言った。

 

「4番は“座る椅子”やなくて、

チームの覚悟を示す看板や。

うちの看板は、もうだいたい決まっとる」

 

そして、最後に一言だけ付け足した。

 

「ただし30本打ったらな」

 

2013年は、その“ただし”の年だ。

震災の年に背負ったものを、

“普通の年”の数字と勝利で証明しなければならない。

 

 

2 春季キャンプ 「棒立ちの完成形」

 

キャンプ地のフリー打撃。

大原はいつもと同じ構えで、

いつもより少しだけ静かにバットを寝かせていた。

 

膝を深く曲げない。

下半身でタメを作るタイプでもない。

ほぼ棒立ちのまま、

上半身の強烈な回転とヘッドの走りで打球を飛ばす。

 

そのフォームを、

今季から一軍に合流した若手が真似して、

即座に腰を痛めたという小話が流れる。

 

スポーツ紙は容赦ない。

 

『真似厳禁・棒立ちの主役フォーム

仙台・大原、キャンプ初日から柵越え連発』

 

指導者が矯正したくなるフォームで、

指導者が黙る打球を放つ。

この矛盾が、いまや仙台の看板だ。

 

月野監督は苦笑いしながらこう語った。

「あれを直せ言うのは、

カレー屋に“辛さ抜け”って言うようなもんや。

味が消える」

 

大原は記事を読んで笑った。

 

「監督、たとえが雑っすね」

 

 

3 開幕、そして“4番固定”の宣言

 

開幕戦のオーダーが発表される。

 

4番 センター 大原

 

ベンチで大原がバットを握り直した瞬間、

月野が肩を叩いて言う。

 

「4番はな、

打席の中で一番目立つ番号や。

目立つなら、責任もでかい。

でもお前は、目立つのが仕事やろ」

 

大原は

「はい」

とも

「任せてください」

とも言わない。

 

ただ、笑って頷いた。

 

 

4 3・4・5の完成

 

2013年の仙台打線は、

最初から“形”があった。

• 3番ジャレッド

• 4番大原

• 5番マイケル

 

右・左・右のバランス。

長打と出塁の混合。

そして何より、

**「この3人が打てば勝てる」**というストーリー性。

 

月野がシーズン序盤に語った。

 

「3番が作って、4番が壊して、5番が片付ける。

お前ら、掃除みたいなもんや」

 

マイケルが即座に返す。

 

「監督、うまいこと言ってるつもりですか?」

 

この軽口の応酬が、

チームの空気を少しだけ柔らかくした。

 

 

5 坂本将大、無敗の背中

 

2013年を語るうえで、

坂本将大の存在を避けることはできない。

 

勝って、勝って、また勝つ。

淡々とゼロを並べる。

球場の空気を“勝つ前提”に塗り替える。

 

大原は、何度もこう言った。

 

「坂本さんが投げる日は、

こっちが1点でも取れば勝てる気がする。

だから逆に、

“1点で足りる”とは絶対に思わないです」

 

この言葉は、

そのまま2013年の大原の打撃姿勢になった。

 

 

6 春の一面 「4番の第一号」

 

4月上旬。

幕張サヴェージとのカード初戦。

坂本が先発。

 

0-0の6回。

二死一塁で、大原の打席。

 

初球、外角の速球を見送り。

2球目、外角のスライダーを空振り。

3球目、

胸元へ食い込むツーシーム。

 

棒立ちのまま、

バットの芯だけを出すようなフルスイング。

 

打球は左中間へ一直線。

フェンスを越え、

打球音だけが先にスタンドへ届いた。

 

翌日の紙面。

 

『4番大原、今季1号は“坂本援護の2ラン”

月野「これがうちの看板や」』

 

試合後、月野は短く言う。

 

「坂本が勝つ日は、

4番が勝たせる」

 

この言葉は、

のちに“2013年仙台の合言葉”として

何度も引用されることになる。

 

 

7 「地元ドラ1は当たりか?」からの完全卒業

 

5月。

大原はすでに二桁本塁打に到達。

打率は.280前後。

OPSも.900付近をうろつき始める。

 

なんJでは、

かつてのテンプレが少しだけ形を変えて立てられた。

 

【朗報】大原ってさぁ……“答え”出したよな

 

9 風吹けば名無し

地元ドラ1が

地元の4番になって

普通に本塁打王ペースで草

 

17 風吹けば名無し

棒立ちフォームでここまで来るの

ロマンが現実に勝った瞬間や

 

24 風吹けば名無し

守備もちゃんとやるのが偉い

ただの脳筋じゃないのが2012で証明済みやし

 

31 風吹けば名無し

月野の「30本打ったら正式に4番」発言

これもう伏線回収始まってるやろ

 

45 風吹けば名無し

坂本無敗の年に

4番が覚醒するストーリー

漫画でもやりすぎ言われるやつ

 

8 夏場の停滞と、4番の仕事

 

ただし2013年の大原は、

最初から最後まで一直線ではなかった。

 

6月後半から7月にかけて、

一時的に打率が.260台まで落ち、

本塁打も数試合止まる。

 

相手バッテリーは攻め方を変えた。

• 外角へ逃げる球

• 高めで釣る

• 早いカウントで徹底的にボール球

 

“棒立ちフルスイング”の弱点は、

識者からすれば明白だった。

 

この時期に出たコラムは辛口だ。

 

『4番の宿題』

 

大原は力で球を運べる。

しかし同時に、

“力でしか運べない”打席が続くと、

チームは単調になる。

 

4番とは、

チームの勢いを引き受けるだけでなく、

勢いがないときに

それを“作る側”に回らなければならない。

 

2013年の大原は、

その課題に今まさに直面している。

 

この記事に対して、

月野のコメントは意外と優しい。

 

「打てん時期があるなんて当たり前や。

その時に守備で試合を落とさんかったら合格や」

 

実際この間、

大原はレフトとセンターで

地味だが堅い守備を続け、

“打てない4番”が試合を壊すことを防いだ。

 

2012年のゴールデングラブが、

こういう局面で効いてくる。

 

 

9 真夏の“4番宣言ホームラン”

 

8月上旬。

首位争いの直接対決。

幕張サヴェージ戦。

 

同点の9回裏、二死一・二塁。

バッターは4番・大原。

 

球場の空気が、

一気に“主役の番”へ変わる。

 

初球、外角のカーブを見送る。

2球目、インハイの速球をファウル。

3球目、

外角高めにまっすぐ。

 

棒立ち。

迷いのない、

一番大きいフルスイング。

 

打球は、

レフトスタンド上段へ。

 

サヨナラ3ラン。

 

ベースを回る大原は、

珍しく表情が硬い。

ガッツポーズではなく、

小さく拳を握ってうなずいた。

 

翌日の一面は“本物っぽい切り抜き”でこうまとめられる。

 

『【仙台スポーツ】

4番・大原 真夏の宣言弾

坂本の無敗街道を止めさせない

 

9回二死一、二塁。

仙台の看板が、

もっとも重い場面で

もっとも大きい答えを出した。

 

大原龍ニのサヨナラ3ラン。

今季28号は、

チームの首位争いを一段押し上げる

“4番の宣言”だった。

 

月野監督は試合後、

「これが4番や」とだけ語り、

それ以上の言葉を必要としなかった。

 

震災の年に背負ったものを、

通常シーズンの勝負どころで

これほど明確に“勝利へ変換できる4番”が、

今の仙台にもう一人いるだろうか。』

 

少し盛っている。

だが“盛りたくなる一打”だった。

 

 

10 そして秋へ “無敗と34本の並走”

 

9月。

坂本将大の無敗が続く。

球場には

「今日も勝つ前提」の空気が漂う。

 

大原はというと、

本塁打数がリーグトップ争いに入る。

 

終盤に競るのは、

札幌パープルシャドウズの2人

弾丸ライナーを広角に打ち込むA.ブレイグ

坂本将大から1号を放った北の総大将 中山 昇

 

それでも大原は、

“打点王狙い”や

“タイトル計算”を一切口にしない。

 

「うちは優勝したら全部ついてくる。

まずそれ」

 

月野に似てきた言葉選びだった。

 

 

 

そして

 

【仙台スポーツ 2013年9月27日(朝刊)】

 

仙台 初のリーグ優勝

 

4番・大原 時代を決めた

 

坂本“無敗神話” 最後も崩れず

 

ジャレッド&マイケルと黄金3・4・5

 

宮城野の棒立ちフルスイングが、ついに頂点へ

 

 

 

仙台ゴールデン・カップスが、球団史上初のリーグ優勝輝いた。

ペナントレースを通じて“勝ち方の形”を崩さなかった月野辰政監督の下、無敗街道を走った坂本将大が最後も試合を締め、3番ジャレッド、4番大原龍ニ、5番マイケルの中軸が要所で得点をもぎ取った。

震災の年に“背負う”ことを覚え、昨季に“守る”ことを覚えた地元ドラ1は、今季“4番”として勝利を決定づけ、仙台の象徴として頂点に立った。

 

 

 

勝負どころでの一振りは、派手さよりも“必然”が勝っていた。

 

ペナントレース

序盤は両軍の先発が譲らず、重い空気が球場を満たした。

仙台が先に流れを引き寄せたのは中盤。

先頭打者の出塁からつないだ好機で、ジャレッドが右前へ運び、続く大原が強い打球で追加点のきっかけを作った。

結果は単打でも、打球の質が相手バッテリーに与えたプレッシャーは大きい。

「次の一球を変えさせる」――4番の仕事として、これほど分かりやすい価値はない。

 

大原の今季は、数字と風景が同時に積み上がった一年だった。

リーグ本塁打王に輝いた34本の中には、首位争いの直接対決で放ったサヨナラ弾や、連敗ムードを断ち切る一発がいくつも含まれている。

勝つべき日に勝たせた4番。

その印象が、最終的に“仙台の顔”を確信へ変えた。

 

そして、もう一つの柱が坂本将大だ。

シーズン無敗という事実は、単なる記録ではなく、チーム全体の呼吸を整える装置だった。

「今日は1点が重い」

「今日は1点で足りる」

その両方の感覚を、投手と野手が同じ目線で共有できる一年は稀だ。

仙台はそれをものにした。

 

月野監督は試合後、静かに言った。

「4番は数字の席やない。覚悟の席や」

さらに大原については、いつものように一言だけ添えた。

「棒立ちでも、王は獲れる」

 

大原は照れ笑いで返しながらも、言葉は短かった。

「自分が打つことより、

このチームで勝つことのほうが、今年はずっと大きかった」

その“優等生すぎない真面目さ”が、地元の心をつかむ。

 

ベテランの支え、助っ人の献身、若手の躍動。

だが最後に球団史のページへ太文字で刻まれるのは、やはりこの2人の名前だろう。

無敗のエースと、棒立ちフルスイングの4番。

この二枚看板が揃った2013年は、仙台にとって“時代”になった。

 

 

月野監督

「勝つために必要なことを全部やった。

余計なことはやってない。

それが一番難しいんや」

 

坂本将大

「点を取ってくれる打線があると、

自分の投球もシンプルになる。

大原の後ろにマイケルがいる並びは、投手から見ても心強い」

 

大原龍ニ

「地元でドラ1を引いてもらって、

こういう景色まで来られた。

まだ“終わった”感じはないです。

もっと勝ちたい」

 

 

宮城野区の飲食店街も歓喜

「今日は遅くまで開けよう」

「大原の打球音は、景気の音だ」

商店主の声が夜の街に広がった。

 

 

そしてシーズンは締まる。

• 140試合

• 打率 .282

• 34本塁打

• 101打点

• 本塁打王

• ベストナイン外野

• 仙台初のリーグ優勝の4番

 

月野は胴上げの輪の中で

珍しく大声で叫んだ。

 

「ほら見ろ!

棒立ちでも、

ちゃんと王になれるんや!」

 

大原は笑って

「監督、それ褒めてます?」

と返した。

 

 

11 優勝、日本一、そして本塁打王

 

仙台はリーグ優勝。

クライマックスも突破し、

日本シリーズへ。

 

3番ジャレッド、4番大原、5番マイケル。

この並びは、

短期決戦でも一切崩れなかった。

 

シリーズ中、

大原は派手な大爆発こそないが、

四球と長打で

“4番としての重さ”を証明する。

 

────────────────────────────────────────

   仙台スポーツ 号外

────────────────────────────────────────

 

     仙台 初の日本一!!

  ゴールデン・カップス 頂点へ

 

  最終戦スコア(日本シリーズ第7戦)

  仙台 4-2 文教モップス

 

────────────────────────────────────────

【スコア詳細】

文教モップス 000 100 010|2

仙台     002 010 10x|4

 

────────────────────────────────────────

【戦評】

 球団史に残る夜だ。仙台ゴールデン・カップスが

日本シリーズ第7戦で文教モップスを4-2で下し、

悲願の初日本一を決めた。

 

 試合を動かしたのは3回。先頭の出塁から好機を作ると、

3番ジャレッドが右前へ運び先制。続く4番・大原龍ニが

左中間へ鋭い二塁打を放ち、いきなり2点を奪取。

“黄金3・4・5”の形が、この大舞台でも揺るがなかった。

 

 5回には小技と四球で押し込んで追加点。

7回にも勝負どころでつないで貴重な4点目を奪い、

最後まで主導権を渡さない。

守っては外野陣の安定したカバーと中継で追加点を許さず、

2012年に磨いた「守備から逃げない野球」が勝利を支えた。

 

 そして最終回、マウンドに立ったのは坂本将大。

シリーズの重圧すら飲み込み、三者凡退でゲームセット。

無敗街道の象徴が“最後の9回”を締め、

仙台の頂点を確定させた。

 

 震災の年に背負うことを覚え、

翌年に守ることを覚えた地元ドラ1は、

2013年、“勝たせる4番”として頂点へ。

宮城野の棒立ちフルスイングが、

仙台の時代を決めた。

 

────────────────────────────────────────

【投手】

文教:先発―中継ぎ―抑え

仙台:先発―中継ぎ―坂本将大

 

【セーブ】

坂本将大

 

【本塁打】

文教:なし

仙台:なし

 

【殊勲】

大原龍ニ(先制&決勝に直結する長打)

 

────────────────────────────────────────

  仙台、ありがとう。

 

 

 

 

12 なんJの結論

 

優勝翌夜。

なんJには、

もはや様式美のようにスレが立つ。

 

【祝】4番大原、完全に“仙台の顔”へ

11 風吹けば名無し

結局これよ

地元ドラ1が

地元の4番で

本塁打王で

日本一

 

24 風吹けば名無し

漫画の最終巻みたいなこと

まだ24歳でやるな

 

31 風吹けば名無し

坂本無敗

大原本塁打王

この二枚看板

そら強いわ

 

39 風吹けば名無し

フォームは相変わらず棒立ちなのに

内容はめちゃくちゃ一流なの

一番好きなタイプの“癖強スター”

 

52 風吹けば名無し

2011で心の柱になって

2012で守備の柱になって

2013で4番の柱になる

ちゃんと積み上げてきたのが最高

 

誰も、

「当たりか?」なんて言わない。

議論は“評価”ではなく、

“物語の共有”になっていた。

 

 

13 4番・大原が完成した日

 

2013年は、

数字と物語が、

同じ方向を向いて噛み合った年だった。

• 震災の年の“意味”を

通常シーズンの“結果”へ変換した

• 2012年に磨いた守備が、

2013年の停滞期を支えた

• 月野の4番観が、

大原の4番像を“勝ち方”へ接続した

 

そして、

坂本将大の無敗が走る一年は、

4番が“勝たせる意味”を

最も純粋な形でファンに提示した。

 

4番は、

ただ打つ席じゃない。

 

勝ち方の看板であり、

球団の時代の象徴だ。

 

2013年の仙台にとって、

その看板は間違いなく

棒立ちフルスイングの男だった。

 

 

 

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