プロ野球空想選手列伝   作:三宅繭

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「東北の空に輝け 2013 仙台ゴールデンカップス 日本一への軌跡」  第3章「大原龍ニ編」

 

オープニング:揺れた街から、満員の宮城球場へ

 

暗転。

かすかな地鳴りの音。揺れる蛍光灯。ざわめき。

 

テロップ:

「2011年3月11日 14時46分 仙台市宮城野区」

 

ナレーション:

「プロ3年目を目前に控えていた一人の外野手も、

 この映像を見た。」

 

インタビュー(現在の大原・スタジオ撮影)

 

「あの日は、正直“野球”って頭から完全に消えました。

とにかく家族のことと、近所の人たちのことしか見えてなかったです。」

 

津波の映像、がれきの山。

その上に、2013年・満員の宮城球場の映像が重なる。タオルが揺れ、仙台の応援歌が鳴り響く。

 

ナレーション:

「それから2年。

 東北のため、という言葉は、スローガンではなく、

 彼らの“日常”になっていた。」

 

テロップ:

「2013年シーズン パ・リーグ優勝 日本一」 

 

 

第1章 春

 

画面は久米島キャンプ。

ランニングする坂本将大、ノックを受ける今津和夫、室内で打ち込むアンドリュー・ジャレッドやマイケル。 

 

その横で、黙々とロングティーを続ける男。

背中には「8」の文字。

 

ナレーション:

「右投げ左打ちの外野手、大原龍ニ、23歳。

 2013年、

 地元・宮城野で育った少年は、この年、

 東北楽天の“顔”としてのシーズンを迎えていた。」

 

月野監督インタビュー(当時の会見素材イメージ)

 

「坂本はエースや。大原は“打の看板”になってもらわんと困る。

地元の4番がライトスタンドに打ち込む。

それが一番、東北の人たちが喜んでくれるやろ。」

 

開幕カード。

Kスタ宮城の電光掲示板に「4番 大原」のスタメン表示。

1打席目は変化球を見送り、フルカウントからフォアボール。

3打席目、内角のストレートを引っ張り、ライト線ツーベース。

打席に向かうたび、タオルが揺れる。

 

インタビュー(大原)

 

「最初の1週間は、正直めちゃくちゃ緊張してました。

“4番のくせに打てないじゃん”って言われたくないなって(笑)。

でも、最初の二塁打が出たときに、“ああ、いつもの自分のスイングでいいんだ”って思えたんです。」

 

開幕から4月末までのテロップ:

「4月終了時 打率 .280 本塁打 7 打点 22(推定)」

 

ナレーション:

「4月を終えた時点で打率.280、本塁打7本。

 上々のスタートだった。」

 

 

第2章 “当たらない”5月と、バットを置く時間

 

5月中旬の宮城球場

スローモーションで、外角低めのスライダーに空振りする大原。

テロップ:「5月某日 4打数0安打2三振」

 

ナレーション:

「しかし、季節が進むにつれて、ボールはバットをすり抜け始める。」

 

5月の月間成績グラフ(簡易CG)

打率が.240台に落ちる線が表示される。

 

大原インタビュー:

 

「自分の中では、そんなに悪い感じはしてないのに、

ボール1個分、全部ズレてる感覚でした。

ストレートを待ってるとフォークが来て、フォークを意識すると真っ直ぐ見逃して…。

“振れない”自分が一番イヤでしたね。」

 

練習後、ベンチで一人、スコアラーの資料を見つめる姿。

坂本将大が通りすがりに声をかける。

 

坂本「お前、打球飛ばないわけじゃないんだから、そのうち出るよ。」

大原「いや、出したいのは山々なんだけどさ…。」

 

ナレーション:

「この頃、坂本将大は白星を積み上げ続けていた。

 最後は24勝0敗、防御率1.27――前人未到のシーズンとなる。」 

 

大原「毎回“勝ち”を持ってくるから、

“自分も何か残さないと”って思いは、正直どんどん強くなりました。」

 

あるオフの日。

仙台市内の仮設住宅跡地近くで、少年野球教室をする大原。

小学生にノックを打ち、キャッチボールをする。

 

ナレーション:

「シーズン中でも、オフの日には地域のイベントや野球教室に顔を出し続けた。」

 

大原「“最近あんまり打ってないね”って、普通に言われますからね(笑)。

でも、“またホームラン見たいから頑張って”って言われると、

“やるしかないな”って思います。」

 

 

第3章 夏の反発 “1点を取りに行く”ホームラン

 

8月初旬。

札幌ドームでの札幌パープルシャドウズ戦の映像。 

 

1点ビハインドの8回表、一死走者なし。

カウント1-2。

ピッチャーの外角へのストレートを、バットの先で捉えたように見えるが、

打球は右中間スタンド、ギリギリでフェンスを越える。

 

実況:

「大原、ライトへ持っていった!

 伸びる、伸びる、入ったーーー!!同点ソロホームラン!!」

 

ベンチに戻る大原を、マイケルとジャレッドがハイタッチで迎える。

 

大原「正直、もうちょっと芯で捉えたつもりだったんですけど…ギリギリでしたね(笑)。

でも、“1点を取りに行く”ホームランを打てたのは、自分の中で大きかったです。」

 

ナレーション:

「この一発をきっかけに、背番号8は再び打ち始める。」

 

8〜9月の成績テロップ:

「8〜9月 打率 .295 本塁打 15 打点 40」

 

スタンドには、手作りの「宮城野発・背番号8」のボード。

ライトポール際に飛び込むアーチ、センターオーバーのツーベース、

そして、ライナー性の打球をダイブキャッチする守備のシーン。

 

月野監督ベンチコメント(試合後会見風)

 

「最初は“振るだけ”のバッターだったけどな。

今は、きちんと状況を考えて振ってくれる。

1点欲しい場面で犠牲フライを打ったり、四球を選んだりな。

それができるようになったから、今年の大原は数字以上に価値があるよ。」

 

 

第4章 初めての胴上げ、初めてのビールかけ

 

9月26日。

所沢ドームの電光掲示板に「4 – 3 」のスコア。 

 

ナレーション:

「2013年9月26日。

 チームは球団史上初のパ・リーグ優勝を決めた。」

 

ビールかけのロッカールーム。

目を閉じてビールを浴びる大原。

坂本が後ろからバケツをかける。

 

大原「いや〜、しみますね(笑)。

でも、まだゴールじゃないですから。

東北のみなさんに、日本一になりましたって言えるように。

もうちょっと、頑張ります。」

 

ナレーション:

「球団創設以来、初めて“地元生え抜きの本塁打王”が誕生した年でもあった。」

 

 

第5章 クライマックスシリーズ 「守りでも勝つ」

 

10月。クライマックスシリーズ・ファイナルステージ。相手は幕張サヴェージ

 

雨上がりの宮城球場

1勝1敗で迎えた第3戦。

3回表、無死一・二塁。

左中間に大きな打球が飛ぶ。

 

ナレーション:

「2013年の大原は、打つだけでなく、守りでもチームを救った。」

 

センター方向へ走り出しながら、左翼寄りへ一気に切り返す大原。

フェンス手前でジャンプし、グラブの土手でなんとかボールを掴み取る。

ランナーは全力でタッチアップを試みるが、すぐに中継へ返球され、一・三塁で止まる。

 

大原「正直、ギリギリでした。

でも、“絶対抜かせない”って気持ちだけでしたね。」

 

星野監督ベンチコメント:

 

「ああいうプレーが出ると、ベンチの空気がガラッと変わるんだよ。

大原はホームランだけじゃなくて、今年は守備でも何試合も救ってくれた。」

 

シリーズは楽天が4勝1敗で制し、チームは初の日本シリーズへ進む。 

 

 

第6章 日本シリーズ 巨人との7戦

 

テロップ:

「日本シリーズ 2013

 東北楽天ゴールデンイーグルス vs 文教モップス」 

 

第1戦、坂本が東京ドームで完投勝利。

第2戦、巨人の反撃。シリーズは星を分け合いながら東北へ。 

 

宮城球場での第4戦。

1点ビハインドの6回裏、二死二塁。

カウント2-0から外寄りのカットボールを、逆らわずにレフト前へはじき返す大原。

二塁走者が一気にホームインし、同点。

 

実況:

「大原、しぶとく持っていった!

 これで同点!!」

 

ナレーション:

「“大原=ホームラン”というイメージを、

 この年の彼は、良い意味で裏切り続けていた。」

 

シリーズはもつれにもつれ、第6戦で巨人が若き菅を先発に立て、さらには坂本を攻略し、ついに第7戦へ。 

 

11月3日、第7戦。

先発は三島岳

 

3回裏、一死一塁。

大原が打席に向かう後ろ姿を、カメラが追う。

仙台の夜空に、吐く息が白く浮かぶ。

 

大原インタビュー(後日収録)

 

「打席に入る前に、一回だけスタンドを見たんです。

“この人たちが、俺を見に来てくれてるんだよな”って。

でも、変に力入れちゃダメだって言い聞かせました。」

 

カウント1-1から、内角寄りのストレート。

大原はコンパクトにたたき、打球は一、二塁間を破る。

一塁走者が三塁へ。続く打者の犠牲フライで先制点が入る。

 

ナレーション:

「この日、大原のバットは大きな一発こそ出なかったが、

 “点につながるヒット”を淡々と重ねていった。」

 

最終回、マウンドには坂本

レフトには大原。

電光掲示板には「4-2」。 

 

最後の打者の打球は、今度はライトフライ。

大原はただ、左翼線からそのボールの行方を見つめる。

キャッチした瞬間、坂本は拳を突き上げ、

宮城球場そして、東北中が大歓声に包まれる。

 

ナレーション:

「仙台ゴールデンカップス

 創設9年目で日本一。

 東北に、史上初めてのプロ野球日本一がもたらされた。」 

 

 

最終章 タイトル表彰の日

 

12月上旬、都内のホテル。

パ・リーグの表彰式会場。 

 

司会の声:

「パシフィック・リーグ 本塁打王

 仙台ゴールデンカップス 大原龍ニ選手」

 

スーツ姿で壇上に上がる大原。

会場の拍手。

トロフィーを受け取り、マイクの前へ。

 

「この一年、ただ“振る”んじゃなくて、

“どう振るか”を、ずっと考えながら過ごしてきました。

その中で、本塁打王というタイトルをいただけたのは、

チームメイト、首脳陣、そして東北のみなさんのおかげだと思っています。

自分は宮城野で育って、宮城球場を見上げて野球をしてきました。

これからも、このチームの4番を東北の子どもたちが誇りに思ってもらえるように、

バットを振り続けたいです。」

 

会場の片隅で、同じテーブルに座る坂本将大が拍手を送りながら微笑む。

テロップ:

「2013年シーズン 大原龍ニ

 打率 .282 本塁打 34 打点 101

 パ・リーグ本塁打王/ベストナイン(外野)」

 

ナレーション:

「球史全体で見れば、“ただの本塁打王”にすぎないかもしれない。

 それでも、2013年という一年を語るとき、

 東北の日本一の物語から、“大原龍ニ”という名前を消すことはできない。」

 

ラストカット。

2013年秋、満員の宮城球場

ライトスタンドに揺れる、無数のタオル。

画面がフェードアウトし、タイトルが浮かぶ。

 

「東北の空に輝け 2013 仙台ゴールデンカップス 日本一の記憶

 ― 大原龍ニ編」

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