改めて遅くなりましたが、明けましておめでとうございます!
見切り発車したものの、意外と皆さんから好評で驚いてます。
評価やお声などはしっかり確認してますので、引き続きどうぞよろしくお願いします!
ハクがアリウススクワッドに入り数週間が経過した。
「今日はここまでにしよう。」
「了解。毎日付き合ってもらって悪いね…。でも割と体も慣れてきたみたいだ。」
「気にしないでいい。同じ部隊に入ったんだ、どのくらい動けるのか私も見ておきたいからな。」
アリウスに来て毎日訓練を実施している。サオリはハクの異常な飲み込みの早さに舌を巻いていた。
初日はどう動けば良いのか分からないのか、為す術もなくボコボコにされていたが、次の日には防御と回避の体の動かし方、更にその次の日には攻撃の仕方、それを並行するための動き方など、一つ一つ確実に成長して行っているのを感じる。
「サオリは教え方はヘタクソだけど、体の動かし方は見本になるから助かるよ。」
「…すまない、言葉にするのは苦手なんだ。見て覚えてもらう方が私としても楽だから助かる。」
人間的な部分に関しては、素直、仲間思い、そして意外と口が悪いと言った所か。最近は慣れてきたのか、さん付けをせず呼ぶようにしている。
「やはりその目と翼は治らないのか?」
「んー、何でか治らないっぽいんだよね。」
銃弾を受け、薄灰色に変色してしまった左目。そして根元から無くなってしまっている左側の翼。複雑な構造をしているからなのか、欠損までは治せないのか、理屈は分からないが何故か治せないらしい。
「マダムにも診てもらってるんだけど、治せるのに治らない理由が分からないみたいなんだよね。もう少し僕の神秘の特性を調べないと何とも〜って言ってたよ。」
訓練中でも軽い怪我であれば数秒もかからず回復する驚異的な回復力。ここに来てから治る速度が上がったらしいが、その理由も謎に包まれている。
「ま、視力は結構落ちてるけど見えない訳じゃないし、翼なんて飾りみたいなものだから、別に大丈夫だよ。」
「それなら良い。明日は任務だ。しっかり休んでおけ。」
「大丈夫だよ。僕は何処でも横になれれば寝れるっていうのが特技の1つなんだから。」
それを聞いたサオリはフッと少し笑いその場を後にする。
「さてと…ミサキ達のところに戻りますかね。」
「彼の様子はどうですか?」
「順調に仕上がってます。」
訓練が終わったサオリはマダムの元に来ていた。
「サオリは柊白斗をどう見ますか?」
「…端的に言うなら、異常、でしょうか。」
「なるほど…。そう思う理由があれば言ってみなさい。」
「上手く表現は出来ないのですが、アイツの精神構造が異常だと感じます。この環境でただ1人笑っている。でも目の奥は笑っていない…でも辛そうでもない、そんなチグハグな所に得体の知れない何かを感じます。」
「かなり抽象的ですが…言わんとすることは分かります。」
「他のメンバーとも友好的な関係を築けているので、問題は無いと思います。少し舐められている節もありますが。」
「それはきっと…彼の根本を理解していないからでしょう。遅かれ早かれ、彼の異常性に気づきますよ。」
サオリはその言葉を聞いて、ハクと過ごしたこの数週間を思い返してみた。
「サオリは私が何故彼を気に入っているか分かりますか?」
「気に入っているか…ですか。」
気に入っていたのか、と改めて気付かされたが、ハクの性格はどちらかと言えばポジディブ思考だ。基本前を向いて物事を考えている。どうにかなるでしょという考えの元動いており、悪く言えば後先考えないタイプだ。そのためマダムからすれば嫌いな性格をしているとサオリは思っていた。
「ええ。私はアリウス生徒の中でも彼を最も気に入っています。貴女にそれが何故だか分かりますか?」
「いえ…アイツの性格上、マダムとは気が合わないタイプだと思っていたので。」
その言葉を聞いてマダムはフゥと短く溜め息をつく。
「その通り、彼の性格は最悪なほど私とは合わないでしょうね。でもそれは表面的な話。もっと内面的な部分に目を向けなさい。」
「…命令に対して従順、とかでしょうか?」
「概ね正解です。」
サオリはハクとの訓練を思い出し、1度たりとも弱音を吐いていないことを思い出す。センスはあったのかもしれない。だがそれでも最初の方は文字通り血反吐を吐いて訓練に望んでいた。それでもハクから笑顔が剥がれることはなかった。
「彼は彼の中に意味があると思ったことに対して、私情を挟みません。つまり説明をすれば大概何でもこなしてくれる…そう何でも。これが何を指すのか分かりますか?」
「マダムは…ハクに何をさせたんですか?」
「彼の再生能力が気になりまして、欠損以外はどこまで回復するのか試しました。」
「っ…それは、つまり…。」
その言葉にサオリは思わず息を飲む。
「想像している通りですよ。拷問に近しい事ばかりを行いました。ですが彼が負った傷は瞬く間に治っていく。それも魅力的ですが、私が行う行為に対して彼は拒否も悲鳴もあげることなく淡々と受け入れてました。私はそこを気に入っているのです。」
具体的に何をしていたかなんて分からない。しかし与えられるだけの傷を負わせていたのだろう。数週間とは言え毎日長い時間を共にし、同じ部隊の家族として迎え入れている彼に対して、情が湧いてしまうのは仕方ないことだろう。気付かぬうちに握る拳に力が籠っていた。
「流石に一段落着く度にケロッとした顔でどうですか?と聞いてきたり、何かと提案してくる様はゾッとしましたが…。従順であり与えられるだけではない、そういった在り方のアレを気に入ってるのですよ。」
「なるほど…。」
「ハァ…それに比べて貴女達は…。これ以上話していても得るものは無いでしょう。さっさと戻りなさい。」
端的な返しが気に入らなかったのだろう。顰めっ面をしながらサオリに退出を促す。
「…失礼しました。」
思うことはあれどソレに言い返すことはせず、サオリはマダムの元を後にした。
「あのお店のグラタンが美味しくてさ〜。」
「ハク、グラタンとは何だ?」
「え、アズサってグラタン食べた事ないの?」
「ああ。それは携帯用食料かなにかか?」
「多分日持ちはしないと思うよ。あ、でも冷凍食品ならワンチャン?」
「冷凍…食品?」
サオリがマダムの元を後にし、アリウススクワッドの所へ戻ると、アズサとハクが何やら話しているようだった。
「アズサは面白いね。」
「そうなのか?自分ではあまり分からないが…。」
「あの…ハクさん。この雑誌に載ってるのって見た事ありますか?」
「ん〜、無いかな。というか雑誌自体見た事ないよ。」
「そ、そんなぁ…せっかく知れるチャンスだと思ったのに。」
私生活でハクが興味を持っていた事は、基本食べ物くらいということが分かった。とは言っても今の環境でそれらを食べることは叶わないが…。
「今戻った。」
ぶっきらぼうにサオリは言うが、全員がおかえりと言ってくれる。その様子に少しだけ口角が上がるサオリ。
「ハク。マダムから実験について聞いたぞ。」
だが表情を引き締めてハクに目を向ける。
「ん?あぁ、そうなの?」
「そうなのって…お前、何故報告しなかった。」
いつもと変わらない態度に心がザワつくサオリ。
「何でって言われても…。別に特筆して報告するようなこと無かった気がするけど?」
そうだ…頭ではサオリも分かっている。マダムからの命令で再生能力を確かめていただけ。別に特別報告する内容も無かった。理由は分からない、だがそれでも何故かそれを当たり前のように享受するハクを認めてはダメだとサオリは考えていた。
「なら聞き方を変える。お前は何処に意味を見出してあの実験を受けていた?」
「僕の再生能力の最大範囲を知りたかったから…かな?欠損とか構造が複雑な部位は難しいっていうのは分かってたから、それ以外なら何処まで行けるのか今のうちに試したかったんだよ。まあ結局全部治ったんだけどね。」
打撲、裂傷、骨折etc…色々試したが、数秒もかからず完治した。特に打撲に関しては怪我を見る前に治っているレベルだ。
「まあでもこれ以上は実りは無さそうだから、実験は受けないつもりだよ。まあマダムから強制されたら別だけどね。」
当たり前のようにそう告げるハクを見て、各々悲しそうな顔を浮かべる。
「どうしてそこまでするのか分からない。それをして何の意味があるの?」
少し眉間にシワを寄せながらミサキがハクに聞く。
「さっき言ったでしょ。知りたかったから…ただそれだけだよ。それ以上もそれ以下もないんだって。逆に何で君らがそういう反応するかよく分からないんだけど…。」
「少なくとも…私達はハクも含めて家族みたいなものだと思ってる。数週間しか過ごしてないけど、私はそう思ってるから、だから心配なんだ。」
アズサが痛々しい表情で告げるが、それでもハクには届かない。
「心配もありがたいし、家族って言ってくれるのも嬉しい。でも止めるつもりは無いよ。ミサキだって自傷行為を止めないし、アズサだって後が分かってるのに抵抗してるでしょ?僕だけが止めるのは公平じゃない。」
まあどうあってもやめるつもりはないけどと付け足す。
「ま、実験はやらないから大丈夫だよ。あとはマダムが調べるだけで、僕が知りたいことはもう無いから。」
そう言ってハクは伸びをして立ち上がる。
「明日も早いんでしょ?もう解散してはやく寝ようよ。良い子は寝る時間だ…今何時かわかんないけどさ。」
そう言って呑気にその場を後にするハク。
「まったく…あの自分主義な所はどうにかしないとだな。」
「それってリーダーも人のこと言えないんじゃない?」
「それを言うならミサキもだ。」
「アズサちゃんだって…。」
「…」
結論全員我が強いということだけが分かった。