《少しお休みします》TSしたからバ美肉ということにして配信をしてみた   作:大崎 狂花

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第1話 始まり

「だからあ!俺は男なんだって!おじさんなんだっていつも言ってるじゃん!」

 

 配信の画面上のかわいい女の子が怒ったような顔をしながらそんなことを言う。本人は自分のことをおじさんだと言っているものの、やや高めの可愛らしい声は女の子の声にしか聞こえない。

 

 配信のコメント欄にも

 

『ほんとお?』

 

『まあ、公式が勝手に言ってるだけだから・・・・・・』

 

『お前のようなおじさんがいるか』

 

 などなどのコメントが流れていて、少女の言葉をまるで信じていない。

 

「もー、全く・・・・・・信じないのは勝手だけど、後でがっかりしても知らないからね?」

 

 この少女はいわゆるVtuberというもので、無門キョウカという名前で配信している。この少女の場合はちょっと特殊な形態の配信者で、実は本人は男であるのだが、ボイスチェンジャーを使ったり仕草や話し方をちょっと女の子っぽくして、女の子になりきって配信するバ美肉というものだ。わからない人は検索してみるとどんなものかが大体わかるだろう。ぜひ沼にはまってみてくれ。

 

 で、まあこの少女はバ美肉だ。本人もそう言ってるわけだし、コメントもなんだかんだ言いつつも、バ美肉であると心得ている。

 

 で、この少女はバ美肉であるということになっているのだが・・・・・・。

 

「じゃあ今回はここまで!またね〜」

 

 配信終わらせて、んーと一つ伸びをして立ち上がった無門キョウカという名前で配信をしている少女の奥にいる本人、おじさんであるはずのその本人は・・・・・・。

 

「やれやれ・・・・・・ようやく女の子の体にも慣れてきたなー」

 

 長く美しい黒髪に綺麗な青い瞳、滑らかな白い肌に整った顔立ち。小さいが確かにある胸の膨らみ。

 

 おじさんであるはずの本人はどうみても女子であった。どう見たって、17、8くらいの女子高校生くらいの少女にしか見えない。

 

 この少女の名前は山本シオ。この少女がなぜ自らをおっさんと称して配信活動をしているのか。

 

 話は何ヶ月か前にまで遡る・・・・・・。

 

 ◇

 

「んー、やっぱもう少しお金が欲しいなあ・・・・・・」

 

 山本シオは自宅のマンションの部屋の中で、財布の中身を見ながらそう呟いた。

 

 シオはプロのライトノベル作家だ。無門キョウカというのは、ラノベ作家としてのシオのペンネームなのだ。シオは20歳ぐらいの頃賞をとってデビューして、それからもう十数年くらいプロとして活動している。そこまで有名というわけではないが、全く売れないというわけでもない。中堅くらいの作家だ。本人としては、ありがたいことに割と多めのファンが応援してくれるおかげで、中太くらいの感じで長々とラノベ界に居座らせていただいているというイメージでいる。

 

 まあそんな感じなので、お金の方もびっくりするほど稼いでいるというわけでもないが、毎日の食う物にも困るくらいというわけでもない、本当にありがたーいことに割と稼がせていただいているわけなのだが・・・・・・。

 

「でももう少し欲しいんだよなあ・・・・・・」

 

 人はやっぱり欲が出てしまうものだ。シオはもう少しお金が欲しいと思っていた。趣味兼創作の参考のために小説、マンガ、アニメがたくさん欲しいのだ。だから今入ってるお金だけではちょっと足りなくなってきたというわけなのである。

 

「副業でもするか?いやでも・・・・・・下手な副業なんかして創作の時間が取れなくなった挙句、逆に収入が減ったりしたら本末転倒だし・・・・・・んー・・・・・・」

 

 シオはしばらくスマホで色々と調べていたものの、あまり良さそうなものは見つからない。

 

「んー・・・・・・やっぱり本業の方でもうちょっと頑張れってことかね・・・・・・」

 

 とりあえずシオはそう結論づけて、もう夜も遅くなったので寝ることにした。シオは立ち上がって歯を磨くために洗面所に向かった。洗面所の前の鏡に立つ。

 

 鏡に映ったシオは普通のおじさんだった。この時はまだ、おじさんだったのだ。普通のおじさんだ。これといった特徴のない、ごく普通のおじさんだ。

 

 シオはいつも通りに歯を磨いて、いつも通りにトイレに行って、そしていつも通りにスマホのアラームをセットして寝た。シオの仕事は家で出来る仕事だし、別に思いっきり朝寝坊したところで支障はないわけだが、いつもアラームをセットして朝の7時半には起きるようにしている。そうやって規則正しく生活して、規則正しく仕事をする習慣を身につけておかないと、不規則にだらだら暮らすだけでは、とてもではないけれど締め切りに間に合うように執筆をすることなど出来ない。だからシオはそういうふうな暮らしをしている。

 

 で、シオは普段通りにアラームをセットして眠りについた。その日は夢も見なかった。ヤクルト1000を飲んでるからシオは眠りが深いのだ。

 

「ぐー・・・・・・・」

 

 ・・・・・・

 

 ピピピピ、とスマホのアラームがいつも通りに鳴り響く。

 

「んあ・・・・・・」

 

 シオは目を覚ました。そして、違和感に気がついた。

 

「あれ?なんかいつもより声が高いような・・・・・・?」

 

 風邪でも引いたかと思いつつ起き上がり、とりあえずアラームを止めて、ついでにメールとかラインとか色々とチェックしようとスマホを持った。

 

「あれ?」

 

 そのスマホを持った手が、いつもより小さく見えた。

 

「んん・・・・・・?」

 

 よーく見たが見間違いではない。明らかに手が小さくなっている。いつものようなゴツゴツした感じではなく、滑らかで綺麗な白い手になっている。というか、なんか全体的に体が小さくなって、いつも着ているパジャマがダボついている。

 

 そして─────

 

「・・・・・・はっ!?」

 

 ない。生まれた時から昨日の夜まで、雨の日も風の日も、病める時も健やかなる時も、いつもシオの股間にぶら下がってくれていた『相棒』の存在を感じない。

 

「ない・・・・・・ない!」

 

 手で触ってみてもない。そーっとズボンとパンツを持ち上げて中を見てみたが、そこにあるはずのモノはなかった。

 

「まさかまさかまさかまさか!?」

 

 シオはものすごい勢いで布団を跳ね除け、超速で洗面所まで駆けていくとそこにある鏡に自分を映した。

 

「は・・・・・!?」

 

 鏡に映ったのは高校生くらいの少女。なめらかな長い黒髪にシミひとつない白く美しい肌。晴れた時の海のような綺麗な青い瞳。そこには常日頃から見慣れたおじさんの顔はなかった。

 

「あ、あ、あ・・・・・・」

 

 シオはよろよろと後ろに下がって、叫んだ。

 

「女の子になってるー!!!」

 

 こうして、一夜のうちに山本シオはおじさんから女子へと変貌してしまったのだ。

 

 ◇

 

「性転換病かあ・・・・・・」

 

 シオは病院の診察室から出てきて、ため息混じりにそう言った。今のシオはとりあえず男物の服を着ている。サイズが合ってないからぶかぶかで、肩なんかはずり落ちて片方の肩なんかけっこう露出してしまっている。

 

 診察室から出てきたシオは他の人たちからちらちらと見られていた。その理由はサイズの合わない男物の服を着ているから・・・・・・というだけではなさそうである。

 

 シオの身に唐突に起こったこの現象は、どうやら性転換病というらしい。珍しいが、最近になってちょくちょく見られるようになってきた病気らしい。ただ、現代の医学では原因も不明だし、治療法も不明。ほぼお手上げ状態とのこと。

 

「お手上げ状態って言われてもさあ・・・・・・」

 

 まあでもこればっかりは仕方がない。医者すらお手上げというものをシオがなんとか出来るわけもない。

 

 シオはとりあえず役所へ行く。女子の体になったから歩くのにもなんか違和感がある。歩いている時も男の時とは違って、なんかちらちら見られるし、シオは非常に疲れた。

 

 役所へ行って戸籍だのなんだのをなんとかして、家へ帰る。家へ帰って、シオは途方に暮れてしまった。

 

「まあ、女子になったところで、仕事だのなんだのはしなきゃいけないわけだし・・・・・・ここは切り替えて淡々と、普段と同じ生活をすることにしよう。とりあえず、お昼でも食べようかな」

 

 シオはお昼を食べることにした。シオは簡単な感じではあるが自炊している。いつも通りにチャーハンを作って食べようとしたのだが・・・・・・

 

「あれ?なんか・・・・・・」

 

 いつもはけっこう余裕で平らげてしまうのだが、今日に限っては途中でキツくなって残してしまった。

 

「あれー?なんでだろう・・・・・・」

 

 とりあえずラップをして保存をしつつ、不思議に思って首を傾げていたが、ハッと気がついた。

 

「あっ、そういえば今の俺は女の子か・・・・・・」

 

 そう、今のシオは女の子になってしまっている。男の時のようにはいかないらしい。男の時には軽々と食べられたものでも、女の子になった今では少しキツくなってしまっていた。

 

「やっぱり男の時みたいにはいかないか・・・・・・切り替えて普段と同じ生活をしようとは言ったけど、色々なところで性転換の弊害が出るんだろうなー・・・・・・」

 

 これからのことを考え、シオは少しナイーブになる。が、次の瞬間ばっと顔を上げて叫んだ。

 

「いや違う!これはチャンスなんだ!ピンチはチャンス!これをチャンスに変えるんだ!」

 

 シオは拳を握りしめ叫ぶ。

 

「そうだ!これで悩んでたお金問題が解決できるじゃないか!こうなった俺にぴったりの副業がある!」

 

 そして、シオは決意した。

 

「Vtuberになろう!」

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