《少しお休みします》TSしたからバ美肉ということにして配信をしてみた   作:大崎 狂花

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なんだか今回は出来が微妙な気がします・・・・・・


第23話 銀河鉄道のシオ

 ある日ふと思い出した。そういえば、昔仲が良かった親戚の女の子がいたと。

 

 しょっちゅう会っていたというわけではない。お正月、親戚一同が集まるごとに会うだけだったが、仲が良かった。一緒に遊んで、帰る時にはいつも泣かれた。年に一回会うだけだけど、それがむしろ良かった。特別な感じがして。

 

『私、大きくなったらシオくんのお嫁さんになる!』

 

 そんなことも言ってくれた。その女の子が成長して、高校生になってからも仲の良さは変わらなかった。思春期の女の子はおじさんを嫌うものとばかり思っていたけど、シオの予想に反してそんなこともなかった。会うのはお正月だけだったけど、会うたびにアニメや漫画の話に花を咲かせた。

 

『大学卒業したらさ、私をシオくんのお嫁さんにしてくれる?』

 

 冗談だと思うけど、そんなふうに言ってくれた。

 

 しかし、いつの間にかその女の子は親戚の集まりに来なくなってしまった。なんでかはわからない。ただ、来なくなった。理由を聞けずに、それから何年も経った。

 

 その子のことをある日ふと思い出した。きっかけはない。理由はないけど、ある日突然に思い出したのだ。

 

「おばあちゃんならあの子が急に来なくなった理由知ってるかな・・・・・・いやーでもなんか複雑な事情とかあったら掘り返すのも申し訳ないしな・・・・・・」

 

 思い出して、気にはなったもののそういうことを考えるとやっぱり聞くのがなんとなく躊躇われる。

 

「まあ、いいか・・・・・・」

 

 気にはなるもののこればっかりは仕方がない。まあ機会があって聞けそうな雰囲気だったらということにして今日はとりあえず寝ることにした。

 

『はーい銀河というのは星の集まりなんですねー』

 

 今日のテレビでは銀河特集をやっていたので、それを見ながら小説のネタ出しをして寝た。

 

 ベッドの中に潜って、しばらくするとうつらうつらしてくる。眠りに落ちたわけではないけど、起きているわけでもない睡眠と覚醒の中間みたいな状態だ。

 

 と、そんな状態になった時、ふと瞼の裏に何かが見えてきた。あれは──

 

(天の川・・・・・・?)

 

 白い、ミルクの流れた後のような星の集まり。それは、天の川だった。瞼の裏に天の川が見え始めた。

 

(なんなんだろう・・・・・・?)

 

 シオが不思議に思っていると天の川の周りに夜空が見え始めた。その夜空が、不思議なことに林や、牧場などがある野原と重ね合わせになっているように見えたのだ。牧場には牛がいる。林からは鳥が飛び立つ。星なのか、牛なのか、シオには見分けがつかない。

 

 そして、いつの間にかシオの体はベッドの上ではなく丘の上に横たわっていた。さらさら、さぁーっと風に靡いて草が柔らかで爽やかな音を立てる。草たちは夜空の下に、暗みがかって青く見える。冷たい草が背中に心地いい。虫が鳴く。子供たちの歌が聞こえる。

 

 すると、天の川の隣に、記者が走っているのが見えた。ガタンゴトンと音がして、線路の上を走っている。キラキラした煙を吹き出して、夜のように滑らかで黒い汽車が走る。シオには、そのキラキラした煙の粉が降りかかってくるように思えた。透き通った美しいものは、永遠と瞬間の二つを内包していた。

 

《銀河ステーション、銀河ステーション》

 

 変な声がした。そしていきなり眩しく、真っ白になった。

 

「・・・・・・お?」

 

 気がつくと、シオはなぜか夜の軽便鉄道の、ミカンのように暖かな電燈に満たされた車室の中にいた。シオの体が、規則的に揺れている。

 

「なんなんだここは・・・・・・?」

 

 シオが急にこんなところに放り出されたことに困惑していると、

 

「ここは夢の中だよ。まあ、普通の夢じゃなくて、ちょっと特殊な夢なんだけどね」

 

 聞き慣れた声が説明してくれた。

 

「? なんだユキじゃないか」

 

 そう、ユキがいたのである。肩出しヘソ出し、ショートパンツといういかにもギャルといった格好をしたいつものユキだ。こんな状況下で見るユキは違和感ありまくりで場違いなことこの上ない。

 

「おー、ユキじゃん」

 

「おーっすシオ」

 

「なんだ、この状況について知ってんのか?」

 

「うん、知ってる知ってる。さっきこの状況を作り出してる人から直接聞いたんだよ。で、説明しようと思うんだけど・・・・・・その前に!」

 

 ユキは説明を始める前にビシッとシオを指差して言った。

 

「その格好をどうにかしなさい!」

 

 シオはTシャツ一枚という格好だった。ちょっと動くと見えてしまいそうな格好である。

 

「なんなのその格好!?」

 

「いや、最近暑くなってきたし・・・・・・寝る時なんて誰にも見られないんだから、いいじゃないか」

 

「見られないにしても、そんな格好はよしなさいよ。はしたない。女の子なんだからもう少しちゃんとしなさい!」

 

「女の子って・・・・・・俺はおっさんなんだけど・・・・・・」

 

「いつまで経っても全然自覚しないねーシオちゃんは!」

 

 ユキは額に手をあててはあ、とため息をついた。

 

「とりあえず、今から服を変えてもらうから」

 

「え?」

 

「ここでは自由に服を変えられるんだ。だから、私が考えた服を着てもらうよ!」

 

 ユキはパチンと指を鳴らす。すると、シオの服が変わった。そう、確かにTシャツ一枚ではなくなったのだが・・・・・・

 

「・・・・・・なにこれ?」

 

「サキュバス!」

 

 シオはなぜかサキュバスの格好に着替えさせられていた。やばいところが辛うじて隠れているけど、肌面積がやばい。お腹なんか完全に出てしまっている。一瞬のうちに羽も生えて、ツノとか尻尾とかも生えてしまっていた。

 

「いやなんでだよ」

 

 はしたないから着替えさせるという話じゃなかったのか。こんなのこれ以上ないくらいはしたない格好だろ・・・・・・。

 

「いやーやっぱり夢っていいねー。こんなの普段は絶対着てくれないもんね」

 

「はしたないとかなんとか言って、この格好させたかっただけかよ・・・・・・てか、こんな格好恥ずかしいんだけど・・・・・・肌面積多すぎるでしょ・・・・・・」

 

 シオは顔を赤らめ、恥ずかしそうにする。

 

「まあまあ夢なんだしいいじゃーん。ところで・・・・・・このツノやら尻尾やら羽やらは本当に生えてるのかな?」

 

「ひゃんっ!? ちょ、触るな! なんかむず痒い!」

 

「おおー! そんな反応するってことは本当に生えてるみたいだね。さすがは夢! ・・・・・・ていうか、シオのお腹は本当に綺麗だね・・・・・・本当に元男なのか疑わしくなるくらい綺麗なお腹してるよ」

 

「腹も触るな! やめろ!」

 

 と、シオとユキが銀河鉄道内で遊んでいると2人の近くの席に女性が1人、突然現れた。

 

「うわっ!? え、この人突然現れたぞ・・・・・・?」

 

「シオが送られてきた時もこんな感じだったよ」

 

 その女性は

 

「あれ? 私、なんでこんなところに・・・・・・?」

 

 と、キョロキョロ辺りを見渡していたが、やがてシオに目を留めると言った。

 

「えっ!? な、ま、まさか・・・・・・ここはサキュバスが作り出した夢空間!? そ、そんな・・・・・・だとすると私これからサキュバスにとても口では言えないようなすっごいことを・・・・・・!? ああ、でもこんな素敵な人にそんなことしてもらえるなら・・・・・・♡」

 

 なんかものすごい勢いで勘違いした。

 

「はーい、違いますからねー」

 

 ユキはそう言って否定したものの、女性は全然聞いていなかった。

 

「あ、あの・・・・・・優しくしてください・・・・・・♡」

 

「あ、これはダメだ・・・・・・あのー! この方の知り合いいませんかー!? 引き取ってくださーい!!」

 

 女性はシオに向けてハートを飛ばしながらも、駆けつけた知り合いに連れられて去っていった・・・・・・。

 

「・・・・・・さて。話を戻そうかな」

 

「いや、『さて』で流せるような感じでもなかったけど・・・・・・まあいいや。えっと、確かこの世界がなんなのかについてだったよね? だいぶ話が逸れちゃったな・・・・・・」

 

「うん。この世界についてなんだけど・・・・・・まあ、実はさっきあの女の人が言ってたことがちょっと合ってるんだよね」

 

「さっきあの女の人が言ってたこと・・・・・・? ああ、ここはサキュバスが作った夢の世界・・・・・・とかいうやつ?」

 

「そう。実際ここはそんな感じの世界なんだよね。ここは、夢魔化症患者・・・・・・つまり夢魔になってしまった人が大勢の人たちの夢をつなぎ合わせて作った夢空間らしいんだよね」

 

「へえ・・・・・・なんだかよくわかんないけど、そうなんだ。夢魔化症なんてあるんだね」

 

 理屈はよくわからないものの、ここはその夢魔化症患者の作った夢空間らしい。夢とは言うものの、ただの夢ではない。ここにいるユキもユキ本人で、他の乗客たちも実際にいる人たちみたいだ。シオの脳の中で起きていることではないみたいだ。

 

「私も理屈はよくわかんないんだけどさ、さっき車掌・・・・・・この空間を作った当事者の夢魔化症患者、宮沢さんが来て説明してくれたんだ。私たちがここにいるのは、宮沢さんが招待してくれたかららしいよ。この綺麗な空間を楽しんでほしいって」

 

「へえ・・・・・・いい人だね、その宮沢さんって」

 

 こんな能力があったらもっと好き勝手出来そうなものだが、話を聞く限り他の人に楽しんで欲しいと思ってここを作ったみたいだ。いい人なんだろう。

 

「まあ、そういうことで、滅多にない機会なんだし思いっきり楽しもう!」

 

「そうだね。なかなかいい景色だし・・・・・・」

 

 シオは銀河鉄道の窓から外を見た。窓の外には天の川が流れていた。天の川・・・・・・それは川というより清らかに白い粒のようなものの流れだった。ほのかに光る小さな白い球がどこからともなく流れてきて、どこからともなく流れていった。それはシオの乗っている銀河鉄道から見るとかすかに光を帯びた美しいミルクの流れに見えた。

 

「ミルキーウェイ・・・・・・確か、天の川は英語でそう言うんだったな」

 

 時折、天の川のさらに上から金色のとろりとしたものが落ちて、天の川の中にキラキラと溶けていった。

 

「あれはなんだろう?」

 

「あれはハチミツだと思うよ」

 

「はちみーか。ずいぶん美味しそうな天の川だな」

 

 シオとユキの2人はしばらくその天の川を見ていたが、やがて窓から目を離すと

 

「ね、せっかくだからさ。お茶でもしてみない? ここは夢の世界なんだし、なんでも出せるよ!」

 

 ユキがそう提案してきた。

 

「なるほど。やってみようか。この景色を眺めながらお茶を飲むっていうのもなんか良さそうだし」

 

 銀河鉄道には席ごとに飲み物とか食べ物とかが置ける小さなテーブルがついている。そこへ向かってむむむ・・・・・・と念を送った。

 

「紅茶、紅茶ー・・・・・・!」

 

「マカロン! マカロンこーい!!」

 

 すると、空っぽのテーブルにパッと湯気を立てる紅茶とマカロンが現れた。

 

「「おおー!」」

 

 シオはマカロンを手に取ってユキに手渡した。

 

「はい」

 

「おお、ありがと。私も、はい紅茶」

 

 銀河鉄道でティータイムだ。

 

「これ、茶葉はなんだろう・・・・・・?」

 

「わかんない。急に出現したから・・・・・・というか、このマカロンも何味なわけ?」

 

「わかんない。俺は一応ブルーベリー的なものを想像したんだけど・・・・・・」

 

 よくわからない紅茶を飲んで、よくわからないマカロンを食べた。

 

 さて、シオが紅茶を飲んでいると、ユキがシオのことをじっと見ていることに気がついた。

 

「? なに?」

 

「いや、おねしょとかしないかなーって」

 

「は?」

 

「紅茶飲んでるし、夢とはいえお手洗いに行きたくなってきたんじゃないの? そのままだとおねしょしちゃうかもよー?」

 

「くだらない・・・・・・もういい大人なんだし、するわけないでしょ」

 

 シオは否定したが、ユキはニヤニヤしながら

 

「えー? ほんとかなあ。シオ、けっこう幼女だからねー」

 

 とからかうように言った。

 

「けっこう幼女ってなんだよ・・・・・・俺は幼女じゃないんだよ。ただのおじさんなんだよ」

 

「もはや自認おじさんなだけの幼女み盛り盛り美少女になりつつある」

 

「なりつつないから!」

 

 さて、2人はそんなふうにしてしばらくお茶をしてたわけなのだが、やがてなぜだかユキがそわそわし始めた。

 

「・・・・・・ちょ、私車掌さんに頼んで夢から醒ましてもらうわ!」

 

 ユキはそう言って立ち上がると、車掌を探しにこの車両から出ていった。

 

「おねしょしないようにねー」

 

 シオは笑顔でひらひらと手を振って、それを見送るのだった。

 

 ・・・・・・

 

 さて、後に残ったシオはしばらく窓の外を眺めていたが、しばらくすると

 

「あの、この席座ってもいいですか?」

 

 そう誰かから声をかけられた。

 

 顔をあげると、女性がいた。淡いライトグリーンのワンピースを着た女性で、髪の毛も目の色も、ワンピースと同じ色のライトグリーンで、シオはなんとなく見覚えがあるな・・・・・・と思った。

 

 特徴的なことに、その女性は頭に包帯をしていた。なんでだろう、とシオは思ったが、そういうこともあるかと思ってそのことについて尋ねたりはしなかった。触れられたくないことかもしれないので。

 

 女性は、シオの前、ユキが座っていた席を指差して言った。

 

「ここ、空いてますか?」

 

「え? ああ。空いてますよ」

 

「座ってもいいですか?」

 

「いいですよ。どうぞ」

 

 シオの言葉にお礼を言って、女性はそこに座った。

 

(席は他にもあるのに、なんでここに座ったんだろう・・・・・・?)

 

 シオは少し不思議に思ったが、まあいいやと思って再び窓の外の景色を眺め始めた。

 

 その少女はチラチラとシオの方を見ていたが、やがて聞いてきた。

 

「あの・・・・・・」

 

「はい」

 

「ひょっとしてサキュバスなんですか?」

 

「え?」

 

 言われて気がついた。そういえば、今のシオはユキによってサキュバスになったままだ。そりゃあチラチラ見るに決まっている。

 

(うわ、こんな格好で普通に会話したりしてたのかよ・・・・・・普通に恥ずかしいぞ・・・・・・)

 

「えっと、これは友達に着せられて・・・・・・」

 

「へー、そうなんですか! 似合ってますね!」

 

 女性は目をキラキラさせながら言ってきた。

 

「いや、似合ってると言われても・・・・・・俺、おじさんだし、そんな似合ってるわけないと思いますけど・・・・・・」

 

 おじさんにサキュバスコスとか見るのも見られるのも罰ゲームでしかないと、シオは思っている。

 

「そんなことないですよ! めちゃくちゃ似合ってます! そのまま私の上に乗って精気とか吸ってほしいくらいです!」

 

「何言ってるんですか・・・・・・?」

 

「おみ足とかも本当に、おじさんとは思えないくらい美しくて・・・・・・ああでも、これがおじさんの足なんだと思うとむしろ興奮する・・・・・・! そのまま踏まれたい・・・・・・!」

 

「何言ってるんだよ・・・・・・」

 

 なんだかこの女の子のヤバさが見えてきた気がする。しかし──

 

(あれ? なんかこの感じ、前に一回体験したことがあるような・・・・・・)

 

 前にこんなようなやり取りを、したような気がする。なんとなくこの子の口調とか声の感じとかに覚えがある。

 

(なんだろう・・・・・・?)

 

 考えても思い出せなかった。だからそれはとりあえずそれは置いておいて

 

「このままだと恥ずかしいから、着替えようかな・・・・・・」

 

 着替えることにした。

 

「あっ、じゃあ私提案があるんですけど、いいですか?」

 

 シオが着替えようとしているのを見て、その少女はそんなことを言ってきた。

 

「提案・・・・・・?」

 

「はい。あ、その前に名前、聞いてもいいですか?」

 

「名前? ああ、そういえばまだ名乗ってませんでしたね。俺はシオと言います。山本シオです」

 

 シオが名乗ると、少女は小さく呟いた。

 

「うん。やっぱり間違いないみたいだね。なんか色々変わってたから少し不安だったけど・・・・・・」

 

「? 何か言いましたか?」

 

「え? いや、なんでもないよ! それじゃあ、シオくんって呼んでもいいかな!?」

 

(なんか急に距離近くなったな・・・・・・)

 

 シオはそう思ったが、まあいいかと受け入れた。

 

「シオくん、私からの提案っていうのはこれだよ!」

 

 少女はそういうとパチンと指を鳴らした。すると、サキュバスコスだったシオの格好が一瞬にして変化する。少女の提案した服装、それは──

 

「体操服に、ブルマ・・・・・・?」

 

 体操服ブルマ。

 

「こうすればその綺麗なおみ足が隠れることなく、サキュバスコスよりも恥ずかしい格好じゃないわけだよ! ふふふ・・・・・・やっぱりすごく綺麗なおみ足だね・・・・・・まさかシオくんのおみ足がこんなに綺麗になるとはね・・・・・・」

 

 少女は目をキラキラさせて、口からよだれを垂らさんばかりにしていた。

 

「ええ・・・・・・?」

 

 シオはドン引きしていた。

 

 少女はシオの足をひとしきり堪能したあと、

 

「さてと・・・・・・夜明けまではまだ時間があるみたいだし、何をしよっか?」

 

 シオにそう言った。

 

「いや、急に普通戻られると怖いんだけれども・・・・・・」

 

 さっきまでシオの足を見てはしゃいで、踏んでくださいとか言ってたヤツが急にすん・・・・・・となって普通のことを言ってきたわけだから、普通に怖い。

 

 ドン引きしているシオをよそに、少女はちょっと考えてから言った。

 

「せっかくまた会えたんだし、アニメとか漫画の話しよっか! いつもしてたみたいに!」

 

「ああ、うん。それはいいんだけど、いつもしてたみたいに・・・・・・?」

 

 なんだろう。この少女の言うことは、まるで・・・・・・

 

「それはいいからさ、早く話そうよ! 夜は短いんだから!」

 

「あ、ああ、うん・・・・・・」

 

 銀河鉄道内の明かりが消えた。窓から差してくるほのかな白い光が、ぼんやりと車内を照らす。いつの間にか、シオと少女の2人の前にある小さなテーブルには蝋燭が立てられていた。透明な、水のように冷たく清らかで美しい炎が、揺らめきつつ車内を照らす。

 

 2人はそんな銀河鉄道の中で、夜が明けるまでアニメの話をし続けるのだった。

 

 ◇

 

「昨日の夢世界で会ったあの子、あれは・・・・・・」

 

 銀河鉄道から帰って、シオは思い返していた。昨日銀河鉄道で会ったあの子。あの子には確かに見覚えがある。そう、あの子は──

 

「・・・・・・」

 

 シオは意を決しておばあちゃんに電話した。

 

「もしもし、おばあちゃん? 聞きたいことがあるんだけど・・・・・・」

 

 シオはおばあちゃんに電話してあることについて尋ねた。

 

 ・・・・・・

 

 シオはその夜、また銀河鉄道に乗っていた。

 

「や、シオくん! また会えたね!」

 

 昨日の夜に会ったあの子、淡いライトグリーンのあの子がシオの目の前に座っていた。

 

 シオは、その子に言った。

 

「・・・・・・やっぱり、君は俺と仲良くしてくれてた親戚のあの子──ネルちゃんだったんだね」

 

 そうかもしれないと思って、おばあちゃんに頼んだのだ。名前と容姿を伝えて写真を送ってほしいと。おばあちゃんはスマホを持ってないから、このネルちゃんの母親に頼んでくれた。ネルちゃんの母親がシオに写真を送ってくれたのである。その写真の中にいるその子は、昨日の夜銀河鉄道の中で会った少女だった。服装も同じだった。

 

 そう、目の前にいる子はシオが昔遊んでいた親戚の子、ネルだったのだ。ネルは、あははと笑って言った。

 

「あー、バレちゃったか。そうだよ。ネルだよ!」

 

「なんで言わなかったんだ? 早く名乗ってくれたら良かったのに・・・・・・」

 

「ごめんごめん! でもシオくんには気づいてほしくてさ・・・・・・シオくん、気づいてくれなかったよね?」

 

 ネルはむー、と頬を膨らませた。

 

「それは本当にごめん・・・・・・おじさんになるとやっぱり記憶の方がね・・・・・・」

 

「ま、いいけどー。・・・・・・でも、やっぱりシオくん可愛くなったよねー! 最初見た時本当にシオくんか不安になったもん。こんなに可愛くなっちゃってまあ・・・・・・足もすっごく綺麗になってるし・・・・・・」

 

「ネルは相変わらずの足好きなんだね。昔もアニメキャラの足にめちゃくちゃ執着してたもんなあ・・・・・・まさかそれが俺の方に向くとは思わなかったけど・・・・・・」

 

「いやー、知らなかったよ。知ってる男の人がかわいい女の子になったらこんなに興奮するものなんだね・・・・・・」

 

 ウヘヘヘヘ・・・・・・とよだれを垂らさんばかりの表情でネルが言った。しかし、シオは笑わず真っ直ぐな表情のまま、こう言った。

 

「なあ、おばあちゃんから聞いたんだけど・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「ネル、お前はもう亡くなってるって・・・・・・ずいぶん前に、交通事故で・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 ネルの表情が、ふと翳った。無意識か、意識的にか、彼女は自分の頭の包帯を触った。

 

「・・・・・・そうだよ。私は死んだんだ。交通事故でね」

 

「そっか・・・・・・」

 

 シオにはそれしか言えなかった。それ以外に何も言えなかったし、どうすることも出来なかった。

 

 シオは、目の前にいるネルを見る。そして、窓の外にある天の川を見て言った。

 

「・・・・・・でも、これは夢だ。確かに普通の夢とは違って、少し特殊な夢だけど、それでも夢は夢だ。・・・・・・ネル、君は俺の脳が作り出した存在・・・・・・なのか?」

 

 この夢の中では車掌宮沢に招待された生者に会うことは出来ても、死者に会うことは出来ない。だから、理論的に言えば、目の前にいるネルは脳が作り出した幻、ということになるのだが──

 

 ネルはにこっと笑って言った。

 

「さて、どっちだろうね?」

 

「・・・・・・」

 

「まあ、答えの出ない問いだと思うよ。でも、こういう時って一番大事なのは自分の気持ちじゃない? 私はそう思うな」

 

「自分の気持ち・・・・・・?」

 

 窓の外の天の川には、金色のはちみつがとろりと、どこからともなく落ちてくる。銀河鉄道の車内は暗い。だから、その光だけが2人の顔をほのかに照らした。

 

「そ。シオくんは、私に会えて嬉しくなかったの?」

 

「いや・・・・・・嬉しかったよ。やっぱり、急にネルがお正月の集まりに顔を出さなくなった時、寂しかったから・・・・・・」

 

「ね? 私も嬉しかったよ。久しぶりにシオくんと話すことが出来てさ。だから、それでいいんじゃないの? ここにいる私が本物だった方が、嬉しい。だから、ここにいる私は本物のネルなんだよ。シオくんに会うために、わざわざ天国から幻想第四次の銀河鉄道まで降りてきたってわけ!」

 

 シオは、真面目な表情を壊し、ふっと笑って

 

「そっか・・・・・・そうだね」

 

 そう言った。

 

「さてと、そういうわけでシオくんと結婚するのは無理になっちゃったから・・・・・・仕方ないから、これで満足しておこうかな」

 

 ネルがそういうと、2人の左手の薬指に、指輪が現れたのだった。

 

 ・・・・・・

 

 その翌日の昼間。

 

 シオはスマホをいじりながら、昨日の夜のことを思い返していた。

 

「ネル・・・・・・」

 

 シオはネルの母親からもらった写真を見返す。

 

 すると──

 

「あれ? この写真、なんか変じゃないか・・・・・・?」

 

 一つの写真が目に留まった。それは、シオとネルのツーショットなのだが、この前見た時は普通に2人並んでピースしてるだけだったのに

 

「なんかネルが俺の上に抱きついてるんだけど・・・・・・」

 

 ネルがシオの左腕に抱きついていたのだ。それに、2人の左手の薬指のところに光っているもの、あれは・・・・・・

 

「指輪、か・・・・・・全く、ネルのヤツ・・・・・・ってあれ!? なんで写真の中の俺まで女体化してんだ!? これもネルの仕業か!?」

 

 写真はプリントして、写真立てで飾りました。

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