TSしたからバ美肉ということにして配信をしてみた   作:大崎 狂花

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第5話 ガチャ配信/ちょっとしたデートみたいな

「そういえばさあ! みんなはシューさんのASMR聞いた!?」

 

 シオは配信を開いてから開口一番にそう言った。

 

『声でか』

 

『鼓膜破れちゃうよ‥‥‥』

 

『どうしたんだだしぬけに‥‥‥』

 

「あっ、ごめんごめん。ずっと誰かに語りたくてうずうずしてたからさ‥‥‥」

 

『まあ多分そうなってるだろうなとは思ってたけど‥‥‥』

 

「ごめん、ガチャやる前に気が済むまでシューさんのASMR語ってもいい!?」

 

『いいよ』

 

『どんとこい』

 

 シオは興奮していた。シオの推しキャラ、例のイケメン女子『シュー・クリーム』のASMRを聞いたからである。それを誰かに語りたくてうずうずしていてから、開口一番でかい声で鼓膜を破壊しにかかったのだ。

 

 ということで、今日はガチャ配信の予定であるがまずシューさんのASMRの感想について語り出した。

 

「あのASMR良かったよねー! オタクの好きを完璧に理解してたよ!」

 

『確かに、あれは良かった』

 

『男の俺でさえ乙女になりそうだったし、女の子のおじさんが乙女になるのは当たり前だね』

 

「女の子のおじさんって、限りなく矛盾した言葉だね‥‥‥でも乙女になるってとこには完全同意するよ。あれを聞いてる時、俺は完全に乙女になってた」

 

『乙女おじさん‥‥‥』

 

「特にお姫様抱っこされるシーンとか良かったよー! ほんとにお姫様抱っこされてる気分になれたもんね! あー、いつかほんとにシューさんにお姫様抱っこされてみたいなあ‥‥‥」

 

『お姫様抱っこされるキョウカおじさんか‥‥‥想像するとめちゃくちゃ可愛いな‥‥‥』

 

『確かに。かわいい』

 

『かわいいね』

 

『誰かファンアート描いてくれ‥‥‥』

 

「ファンアート欲しいよね‥‥‥誰か描いてくれないかな‥‥‥」

 

『本人がリクエストするのか‥‥‥』

 

 と、こんな感じでシオと視聴者はシューさんのASMRの話で盛り上がった。興奮したシオは、それはもう憧れの人を語る恋する乙女にしか見えなかったという。

 

 さて、しばらく話していたが、この配信のメインはASMRの話ではない。今回はこの『シュー・クリーム』をガチャで引くという耐久配信をするのだ。といっても、もうすでに通常のシューさんは持っている。今回引くのはパーティー会場潜入イベントの時のパーティースーツ衣装シュー・クリームだ。それがガチャで出たのである。

 

 限定だから、今回引かなければ次いつ出るかわからない。ゆえにシオはどんなことがあっても今回引く気満々である。気合いは十分だ。

 

「よし‥‥‥早速始めていくよ‥‥‥」

 

『さてどうなるか‥‥‥』

 

『ごくり』

 

『ちなみに私は無事天井まで行きました』

 

「おお‥‥‥猛者がいる‥‥‥」

 

 それでは‥‥‥ゴー!

 

「まあまあまあ、最初は仕方ない。まだウォーミングアップでしょ」

 

「そろそろかな? そろそろ来てもいいんじゃない?」

 

「あっ来た!? ‥‥‥すり抜けだあ‥‥‥」

 

「あっ、もう石なくなっちゃった‥‥‥課金しなきゃ‥‥‥」

 

「ああっ、最低保証だ‥‥‥」

 

『ぐろいね‥‥‥』

 

『これはグロい』

 

『見てるこっちまで吐きそうになってきた』

 

「いやまだ大丈夫だよ、まだ大丈夫。天井まで行ってないし‥‥‥それにさ、想像してごらんよ。今お金をシューさんのために貢いでるって考えたらさ、ちょっといい気分になってこない?」

 

『ええ‥‥‥』

 

『ならないです‥‥‥』

 

 シオも無事天井まで行きました。

 

「はあ、はあ‥‥‥辛く厳しい戦いだった‥‥‥」

 

『ほんとにね‥‥‥』

 

「でもなんとか勝てた‥‥‥」

 

『ほぼ負けてたけどね』

 

「いやいや! 無事手に入れたんだから勝ちだよ! そして見てよこのシューさんを!!」

 

 シオの配信画面には、無事(?)手に入れることが出来たシューさんが映っていた。

 

「かっこいい!!」

 

『かっこいいね』

 

「あっやばい、すごいかっこいい‥‥‥」

 

『早速メロついてる‥‥‥』

 

「この白手袋いいよね。この手で顎クイとかされてみたい‥‥‥」

 

『もう視点が完全に乙女なんよ』

 

『乙女おじさん‥‥‥』

 

「ちょ、ボイス聞こボイス!」

 

 このキャラをホーム画面にセットすると、ボイス付きのセリフが聞ける。シオは早速このキャラをホームに置いてみた。

 

《君のことは私がエスコートしてあげるよ。さあ、手を取って。お姫様》

 

「────ッ!!」

 

『あっやばい』

 

『お姫様なんて呼ばれたらおじさんが死んじゃう!』

 

 唐突なお姫様呼びに死にそうになるシオ。

 

 この日の配信はシオがイケメン女子にはしゃぎまくって終わったのだった。

 

 ◇

 

 居竹ルウは、ある日街を歩いていた。

 

 居竹ルウ。この人物は以前シオのことをナンパから助けたイケメン女子だ。今日もパーカーにジーンズ、それにキャップというボーイッシュな格好をしていた。ショートカットのオレンジ色の髪も相まって、一見すると男性に見えるがれっきとした女子だ。

 

 と、そんなふうに街を歩いていたところ、不意に声をかけられた。

 

「あの、すいません」

 

「ん?」

 

 ルウが振り向くと、そこには青い長袖のワンピースを着た綺麗な黒髪に青い目をしたとてつもない美少女がいた。同性でもくらっときてしまいそうなほどの美貌だ。

 

「えっと‥‥‥何の用でしょう?」

 

 しかし、いくら美しいからといって、街中でいきなり知らない人から声をかけられたら警戒する。ルウは警戒しながらその美少女に聞いた。

 

「あの、憶えていませんか?」

 

「えっと‥‥‥」

 

「先日ナンパされてるところを助けていただいて‥‥‥」

 

 言われてルウは思い出した。

 

「ああ! あの時の!」

 

 ちょっと前にナンパされてるところをルウが助けたあの少女だったのだ。

 

「すいません。失礼かとは思ったのですがどうしてもお礼をしたくて、つい声をかけてしまいました。あの、それで先日は本当にありがとうございました。助けていただいて‥‥‥」

 

「いやいや、お気になさらないでください。当然のことをしたまでですので‥‥‥」

 

 と、お礼を言ってこの美少女の用も済んだ。これでお別れになるかと思われたのだが‥‥‥

 

「あの!」

 

 そうならなかった。その美少女はぐいっと近づくと、ルウに向かって言った。

 

「あの! この近くにある喫茶店へ一緒に行きませんか!? お礼に奢らせてください!」

 

「へ?」

 

 その美少女────山本シオによる、一世一代の逆ナン(?)だった。

 

 ‥‥‥

 

「えっ、男性なの!?」

 

 ルウは喫茶店で、シオの性別を聞いて驚いていた。

 

「ええ。俺はおじさんです」

 

「えっと、でも‥‥‥」

 

「ああ、この服は友達に無理やり着せられたんです」

 

 シオはここら辺に来る前に一度Vのお母さんのユキの家に寄ったのである。それで、ユキと一緒に出かけようとしたのだが、〆切があるとかで断られたのだ。しかし、服はちゃんと着替えさせられたというわけである。

 

「あ、ああ、そうなんだ‥‥‥」

 

「そうなんですよ」

 

「なるほど‥‥‥」

 

 とは言ったものの、ルウはあまり納得していなかった。シオはどう見ても女子にしか見えない。しかもとんでもない美少女に。いやいや、本人がこう言ってるんだから、男性なんだろう。この人は男性、男性、男性だ、と目を瞑って自分に言い聞かせ、パッと目を開けても美少女。脳が混乱する。

 

 と、そのうちに頼んだものが来た。喫茶店に入った時、先に注文しておいたのである。ルウはパンケーキにコーヒー。そしてシオはマカロンと紅茶だ。

 

「わ! おいしそう!」

 

 そう言って微笑むシオはどこからどう見ても完璧で究極の美少女。

 

 ちなみに、シオは性転換する前からマカロンが好きだ。性転換する前は似合わなかったマカロンだが、今のシオにはあざといくらいにマカロンが似合ってる。

 

 喫茶店の窓際の席で、柔らかな日差しを浴びながらマカロンと紅茶を前に微笑むシオはすごく絵になる。ルウも思わずキュンとしてしまいそうだ‥‥‥いや、シオは男性なんだから、女子のルウがキュンとするのは正しいのか? いやでも‥‥‥あれ? やっぱり頭が混乱してる‥‥‥。

 

(というか、動作がいちいちかわいいなこのおじさん‥‥‥)

 

 マカロンを前にして微笑む姿もそうだし、食べる姿も何だか小動物みたいな感じがしてかわいい。紅茶を飲んでほっと和んでる姿もかわいい。

 

(なんでこんなにかわいいんだこのおじさん‥‥‥)

 

 なんか負けた気分になる。

 

 ルウが人知れず悔しい思いをしていると、シオが言いにくそうにしながらルウに話しかけてきた。

 

「あの、ルウさん‥‥‥」

 

「ん?」

 

「実はお願いがあるんです‥‥‥お礼のために誘った喫茶店でこんなお願いをするのは本末転倒な感じがするんですけど‥‥‥」

 

「いやいや、別にいいですよ。何でもおっしゃってください。私にできることなら力になりますよ」

 

 そう言って、ルウは優しく微笑んだ。

 

「やばいルウさんメロい‥‥‥」

 

「え?」

 

「ああいや何でもないです。それで、実はですね‥‥‥」

 

 シオはルウに頼み事を話した。

 

「一緒にホラー映画を見に行ってほしい‥‥‥ですか?」

 

 シオの頼み事。それはホラー映画を一緒に見に行ってほしいというものだった。

 

「俺はホラーが苦手なんです。友達と一緒に行く予定だったんですけど、予定があるみたいで‥‥‥」

 

 元々、シオが先にユキに会いに行ったのはホラー映画に付き合ってもらうためだったのだ。しかし〆切があるからと断られてしまったので、シオはちょっと困っていたのである。そこへ、偶然ルウに会ったので、申し訳ないけどこうして頼むことにしたというわけだ。

 

「苦手ならそもそもホラーを見なければいいんじゃ‥‥‥?」

 

「それはそうなんですけど‥‥‥あんまり詳しくは言えないんですけど、作家みたいな仕事をしてるんですよ。それで、今度書く作品のためにどうしてもホラーを見て取材をしなければいけなくて‥‥‥」

 

「なるほど‥‥‥」

 

 シオの言葉は半分嘘である。シオが作家をしているのは本当だが、このホラーを見るのは作品のためではない。Vの企画だ。視聴者にアンケートをとって1位になったことをやるというもので、『ホラー映画を見る』というのが1位になったのである。

 

「あっ、もちろん嫌なら全然断ってもらって構いません! ナンパから助けていただいた上にそんな迷惑までかけてしまうわけには‥‥‥」

 

「いや、大丈夫ですよ。ちょうどこの後予定もないですし‥‥‥それに、ちょうど最近ホラー成分足りてないなって思ってたところだったんですよ」

 

「ほんとですか!」

 

「ええ。大好物なんです。ホラー」

 

「良かった‥‥‥ありがとうございます!」

 

 キラキラした目でルウを見つめるシオを見て、ふとこれはデートというやつになるのではないかと思ったルウだったが‥‥‥とりあえず、気にしないことにした。

 

 こうして、ひょんなことからイケメン女子と美少女おじさんの2人でホラー映画へ行くことになった。

 

 ‥‥‥

 

「め、めちゃくちゃに怖かった‥‥‥」

 

「すごい怖がってましたね‥‥‥」

 

 映画が終わって、ゲンナリしたシオをルウが気遣いながら出てきた。案の定、シオがめちゃくちゃに怖がっていたわけだが、一緒に見る人がいたことで、少しは怖さが軽減されたようである。

 

(というか、このおじさんなんかいい匂いがしたな‥‥‥)

 

 視聴中、怖さが極限まで達した末にびっくりしたシオが、隣にいたルウに抱きついてきたことがあったのだ。その時、ふわっといい匂いがした。

 

(やっぱりなんか負けた気がする‥‥‥)

 

「元々こんなにホラー苦手じゃなかったんですけど、年を経るごとに苦手になっていってしまって‥‥‥最近(性転換後)とか特に苦手で」

 

「ああ、わかります。私も子供の頃はそうでもなかったのに、今は虫苦手なんですよね‥‥‥」

 

「えっ、虫苦手なんですか? ギャップ萌え‥‥‥」

 

「何か言いました?」

 

「いえ、何でもないです」

 

 その後、しばらく話してから、この日は解散となった。帰り道、ルウは1人思う。

 

(美少女おじさんか‥‥‥)

 

 果たしてこの出会いが吉と出るのか凶と出るのか。それはまだわからない。

 

 

 

 

 おまけという名の蛇足

 

 今日のキョウカおじさんはクリスマス配信をしていた。

 

「どう? 今日のためにユキお母さんにサンタ衣装をお仕立てしてもらったんだ。かわいいでしょ?」

 

『かわいい!』

 

『肩出しだ!』

 

「そう、肩出しなんだよ。初めてだし、少し恥ずかしいね」

 

『いいね肩出し、セクシーだね‥‥‥』

 

『肩出しサンタ服美少女おじさんか‥‥‥』

 

「肩出しサンタ服美少女おじさん‥‥‥いやー、なかなかによくわからない存在だね」

 

『えっちだね』

 

「えっちか?」

 

 それがえっちかどうかはともかく、シオはケーキを食べることにした。

 

「このショートケーキはけっこういいやつだよ〜。コンビニとかじゃなくて、近所にあるちゃんとした洋菓子店で買ったからね!」

 

『いいね!』

 

『俺もたまにはちゃんとしたとこの買ってみようかな〜』

 

「さーて、それじゃ食べよ。と、その前に上に乗ってるいちごは後で食べるから今はとっといてと‥‥‥」

 

『いちごとっておくのかわいいね』

 

『かわいい』

 

『かわいいね』

 

『すごいかわいい』

 

「君らはほんと、俺の日常のちっちゃな動作からかわいいを見出してくるよね‥‥‥」

 

 さて、ケーキを食べ終えたところで‥‥‥

 

「そういえば、ユキお母さんからプレゼントにボイスメッセージをもらったんだよね‥‥‥ちょっと聞いてみよ」

 

 そう言って、ユキにもらったプレゼントを再生してみた。

 

《このボイスを再生しているということは、きっと私は今死んでいないでしょう》

 

「そうだね、生きてるね」

 

《いや、別の意味で死んでるかも知れない‥‥‥》

 

「そういえば今日〆切だって言ってたような‥‥‥」

 

『あ‥‥‥』

 

『ご愁傷様です‥‥‥』

 

《さて、私からキョウカちゃんにプレゼントがあります。たまたま声優の青崎アオさんと会う機会があって録ってもらったんだー》

 

「え?」

 

 ちょっと間が空いて、青崎アオ‥‥‥というより、シオの推しキャラのシュー・クリームの声が聞こえた。

 

《手を繋いで、一緒にパーティー会場まで行こうか。────キョウカ姫》

 

「ピャ」

 

『キョウカおじさん?』

 

『死んでる‥‥‥』

 

 聖夜は更けていくのであった‥‥‥。




おそらく誤字の修正は出来ていると思いますが、まだハーメルンに慣れてないので、出来てなかったら申し訳ないです。
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