TSしたからバ美肉ということにして配信をしてみた   作:大崎 狂花

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第9話 ファンに会った/声優をやってみた話

「ふんふんふーん」

 

 シオは鼻唄を歌いながら本屋の中を歩いていた。

 

 今日は近くのショッピングモールに来ている。そこの本屋で、シオはいつも大体欲しい本を買っているのだ。趣味で読むために買った本もあるし、今書いている作品の役に立ちそうだから買った本もある。

 

 本屋に来るといつもワクワクする。シオはいつもよりご機嫌に、色々な本を手に取ってはカゴに入れながら本屋の中を闊歩していた。

 

 と、そんなことをしていると、中学生くらいの女の子がキョロキョロしているのが目に入った。おそらく、何かを探しているのだろう。

 

 困っているっぽい女の子の様子を見て、テンションが上がって気が大きくなっていたシオは、思わず声をかけてしまった。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 声をかけられたその女の子は、驚いたようにシオを見て目をパチパチとさせていた。

 

(あっ、やばい。怖がらせちゃったかな・・・・・・?)

 

 シオはすぐに失敗を悟った。よく考えたら、いきなり知らない人に声をかけられたら怖いだろう。しかも女の子が知らないおじさんに突然声をかけられるのなんて、めちゃくちゃに怖いだろう。普通に事案だ。

 

(やばい。俺、今完全に不審者だな・・・・・・)

 

 やばいと思ったシオは、すぐにその場を立ち去ろうとした。

 

「あっ、すいません! なんか困っているみたいだったのでつい声をかけてしまって・・・・・・迷惑でしたよね、すいません! それでは・・・・・・」

 

 けど、女の子はシオを引き留めた。

 

「あ、待ってください! こちらこそすいません。急に綺麗な人に声をかけられたので驚いて一瞬反応が遅れてしまって・・・・・・」

 

(そんなわけないよな・・・・・・。怖かったって言ったら俺が傷つくと思って気を遣ってくれたんだろうな)

 

 シオはちょっと申し訳なく思った。

 

「えっと・・・・・・改めて、困ってることがあったら聞きますよ」

 

 シオは怖がらせないよう、にこっと笑って聞いた。

 

「あっ、かわいい・・・・・・あ、いや、えっと実は私欲しい本があるんですけど、それがどこにあるのかわからなくて・・・・・・」

 

 どうやら、女の子は目当ての本が見つからなくて困っていたらしい。

 

「えっと、その本についての手がかりとかありますか? 例えば、作者の名前とか・・・・・・」

 

「あっ、作者さんの名前はわかります!」

 

 女の子はその作者の名前を告げた。

 

「無門キョウカさんって人の本なんですけど・・・・・・」

 

「・・・・・・ん?」

 

 ・・・・・・無門キョウカ?

 

「あれ? ご存知ないですか?」

 

「・・・・・・い、いや知っています。知ってますけど・・・・・・」

 

 それは知っている。十分すぎるくらいに知っている。というか、無門キョウカって・・・・・・

 

(俺のことじゃん)

 

 そう、シオのことだ。

 

「えっと、一応聞いておきたいんですが、無門キョウカっていうのはライトノベル作家の無門キョウカさんのことですよね? 今Vtuberもやってらっしゃる・・・・・・」

 

「そうです! その無門キョウカさんです!」

 

 女の子は目をキラキラさせて語り出した。

 

「実は私、Vtuberの無門キョウカさんのファンなんですけど、そのキョウカさんがライトノベルを書いてるってことを最近知ったんです!」

 

(や、やばい。自分のファンに会っちゃったよ・・・・・・)

 

 どうやら、女の子はVの方のキョウカのファンなのだという。そのキョウカが実はラノベ作家であるということを知って、そのラノベを見てみることにしたらしい。

 

「私、キョウカさんのこと大好きなんで、キョウカさんのことはなんでも知っておきたいと思って・・・・・・」

 

「は、はあ・・・・・・そうなんですね・・・・・・」

 

「でも私、ライトノベルっていうのを読んだことがなくて、どこにあるのかよくわからなくて・・・・・・」

 

「な、なるほど・・・・・・」

 

 シオは表面上はにこやかにしながら、内心はめちゃくちゃ焦っていた。

 

(やばい。どうにかバレないようにしないと・・・・・・)

 

 シオはとにかく超速で案内して、超速で別れることにした。

 

 ・・・・・・

 

「えっと、無門キョウカさんの本は大体この辺の棚にあります・・・・・・」

 

「わあ・・・・・・すいません、ありがとうございます!」

 

 シオは女の子を自分のラノベが並んでいる棚に案内した。

 

「いえいえ、実は俺も無門キョウカさんのファンなんで、同じファン同士力になれてよかったです」

 

「あっ、そうだったんですか!」

 

「ええ、そうなんですよー。じゃあまあ、よかったねってことで、それでは!」

 

 シオはそう言って超速で別れようとする。

 

 しかし──

 

「ちょっと待ってください!」

 

「え!? な、なんですか!?」

 

 シオはガシッと腕を掴まれ引き留められた。

 

「あなたも無門キョウカさんのファンなんですよね!?」

 

「は、はい。そうですけど・・・・・・」

 

「同じファン同士でこれから語り合いませんか!?」

 

「え!?」

 

「お願いします! 私の友達ってVファンがいなくて・・・・・・同志に飢えてるんです!」

 

「え、えっと・・・・・・」

 

「お願いします!」

 

 シオはもちろん断ろうとした。しかし、この子の押しの強さについつい押し切られてしまった。

 

 シオはなぜか自分のファンと自分のことについて語り合うことになってしまった・・・・・・。

 

 ◇

 

(なぜこんなことになったんだ・・・・・・)

 

 シオはそのショッピングモールの喫茶店で、目の前の女の子が自分のことを褒め称えるのを聞いていた。

 

「やっぱりキョウカさんってすごくかわいいですよね!」

 

「そ、そうですね・・・・・・」

 

 やばい。面と向かってかわいいとか言われると、なんかすっごい心がむずむずする・・・・・・。

 

「ギャップがすごいかわいいんですよね・・・・・・本人曰く、三十代のおじさんだってことなんですけど、なんか幼女みがあるっていうか、なんかよしよししたくなるんですよね・・・・・・」

 

「よ、よしよし・・・・・・?」

 

(ええ・・・・・・俺って中学生の女の子にまで幼女だって思われてたわけ・・・・・・?)

 

「い、いやでもキョウカさんブラックコーヒー飲めるって言ってましたよね!」

 

「あっ、ブラックコーヒー飲めるってとこで得意げになってたの、あれ可愛かったですよね! 大人ぶりたい小さな女の子みたいで!」

 

「ぐおおお」

 

 だめだ。どう足掻いても幼女にされる。

 

「でもママみもなんかあるんですよね・・・・・・こないだの質問配信でもママになってましたけど、幼女もママもどっちも心の中に飼ってるなんて、反則なんじゃないですかね」

 

「それはなんのルールで反則とされてるんですか・・・・・・」

 

「ママASMRとかやってくれないかな・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

(まあそれの上位互換みたいなやつはこないだやったけど・・・・・・)

 

「とにかくかわいいし、面白いし、やっぱり最高ですよねキョウカさんは!」

 

「あ、ああ、そうですね・・・・・・」

 

 女の子はその後もあの手この手でシオ(キョウカ)のことを褒めてくる。女の子はシオがキョウカだと気づいていないから、それはもうストレートに、「かわいい」だの、「時々ちょっとセンシティブな声を出すけど(キョウカにそのつもりはない)、それがすごくいい」だの、「リアクションがすごく面白い」だの色々褒められた。

 

(やばい、顔がすごく熱くなってきた・・・・・・)

 

 それで、シオはめちゃくちゃに照れてしまっていた。女の子は気づかなかったが、シオは完全に褒め殺されてしまっていた。

 

「あの、大丈夫ですか? なんか顔赤くなってません・・・・・・?」

 

「えっ!? い、いや大丈夫ですよ! 大丈夫です!」

 

「そ、そうですか・・・・・・?」

 

 で、まあシオは赤くなった顔をパタパタと扇ぎながら落ち着こうとしたわけなのだが、そのシオの顔をじっと見ながら女の子がこう言った。

 

「ていうか、山本さんもすっごくかわいいですよね」

 

「え?」

 

「ひょっとしてアイドルとかやってたりしますか?」

 

「い、いや普通の・・・・・・えっと、会社勤めですけど・・・・・・」

 

「ええー、もったいない! こんなにかわいいのに・・・・・・お肌だってこんなに綺麗なのに・・・・・・」

 

 なんと、キョウカの褒め殺しのターンが終わったと思ったら、今度はシオの褒め殺しのターンが始まってしまった。

 

(Vの俺が褒められたと思ったら、今度はリアルの俺がめちゃくちゃに褒められてる・・・・・・や、やばい。頭がおかしくなりそう・・・・・・)

 

 シオはこの女の子と別れたあと、顔を真っ赤にしながら帰路についたのだった。

 

 ◇

 

《あの、声優に興味あったりしますか?》

 

「・・・・・・ん?」

 

 ある日、シオが執筆をしているとそんなメッセージがきた。差出人は青崎アオ。シオの推し声優だ。最近、シオはもう青崎アオという文字列を見るだけで目がハートになる。だからシオは目をハートにしながらそのメッセージを見た。

 

「・・・・・・声優?」

 

 とりあえず、シオはアオにどういうことなのか聞いてみた。

 

《・・・・・・欠員、ですか》

 

《そうなんです。出演予定だった方が、急に体調を崩してしまったらしくて・・・・・・》

 

 どうやら、アオが出演しているアニメの声優のうちの1人が、体調不良で突然出演できなくなってしまったらしい。それで、代役を探しているのだという。

 

《それで、キョウカさんどうかなと思って》

 

《お声掛けいただけて大変嬉しいのですが、声優の経験とか全くなくて・・・・・・無理じゃないかと思うんですが・・・・・・》

 

《そうですか・・・・・・でも1話だけのキャラクターで、そこまでセリフ量も多くないのですが、どうでしょうか・・・・・・?》

 

 シオはここでちょっと考えた。ひょっとして、アオさんはめちゃくちゃ困ってるのかもしれない。普通に考えて、ここで声優でもなんでもないシオに声をかけてくるということはけっこう切羽詰まってるということだろう。

 

 なら・・・・・・

 

《えっと、上手くいくかわからないし、きっと迷惑をかけてしまうことになると思いますけど・・・・・・それでもよければ引き受けますよ》

 

《ほんとですか!! ありがとうございます!!》

 

 こうして、シオは代打で声優をすることになったのであった。

 

 ・・・・・・

 

「って、安請け合いしちゃったものの・・・・・・」

 

 シオはけっこう後悔していた。

 

 ズブの素人なのにアニメの声優をしようとしてるって、よく考えなくてもけっこうヤバいことをしようとしてるんじゃ・・・・・・? 今更ながら不安になってきた。はちゃめちゃに緊張してきた。

 

 まあ、だけどそこまで重要な役柄ではないし、アオさんも困ってるみたいだったし・・・・・・。

 

 シオは覚悟を決めてやってみることにした。どっちみち、ここまで来て今更引き下がれないからね。

 

「尾崎さん、こちらです」

 

 シオはスタッフに案内されて楽屋へと向かっていた。

 

 尾崎というのはシオの偽名だ。今のシオは声優の尾崎ヨウということになっている。全く関係ない作品に無門キョウカという名前で出演するわけにはいかないので、そういうことにしたのである。

 

 で、シオは楽屋の前についた。

 

「こちらです」

 

「ありがとうございます」

 

 スタッフが扉を開けてくれたので、シオはお礼を言って楽屋の中に入った。

 

「あっ、キョウ・・・・・・ヨウさん。おはようございます」

 

 すると、先に来ていたアオさんがこちらを見てにこやかに挨拶してくれた。

 

「・・・・・・ん?」

 

 アオさんと一緒の楽屋なのか・・・・・・? それはちょっとまずいような気もするけど・・・・・・。

 

「あの・・・・・・」

 

 シオが当惑の色を浮かべながらスタッフを見つめ返すと、スタッフは慌てて言った。

 

「あっ、申し訳ありません! こちらの都合上個室が取れなくて、全員同じ楽屋ということになってしまいまして・・・・・・すいません! あ、でも男女はちゃんと分かれていますのでご安心を!」

 

「いやあの、俺男なんですけど・・・・・・」

 

「・・・・・・え!?」

 

 スタッフはなぜかとても驚いていた。

 

「えっと、男女で楽屋が分かれてるなら俺は男性用の楽屋に行った方がいいと思うんですけど・・・・・・」

 

「え、あ、え!? い、いや、ちょっと待ってください! それはそれで何か問題があるような気がするんですけど・・・・・・え、えーっと、どうしよう・・・・・・」

 

 オロオロするスタッフ。それを見るに見かねてか、アオがこう言ってくれた。

 

「別に大丈夫ですよ。私なら、ヨウさんと一緒の楽屋でも構いません。他の子たちも別に気にしないと思いますよ、ヨウさんなら」

 

「え、いいんですか?」

 

「ええ。ヨウさんがよろしければですけど・・・・・・」

 

「俺も別に構いませんが・・・・・・」

 

「じゃあ、ヨウさんは特別にこちらの楽屋を使われるということで・・・・・・」

 

 そういうことになったらしい。

 

 スタッフは去っていって、楽屋の中はシオとアオの2人だけになった。

 

「本当にありがとうございます。こちらのわがままを聞いていただけて、本当に助かりました」

 

「いえいえ」

 

 シオは台本を取り出してアオに言った。

 

「あの、すいませんがちょっと俺の演技を聞いてもらえませんか? ダメなところとかあったら直して欲しいんですが・・・・・・」

 

「いいですよ。こちらは急にお願いして来てもらった側ですので・・・・・・」

 

 と、2人がそんなやり取りをしていると、楽屋の扉が開いて元気な挨拶とともにある女性が入ってきた。

 

「ちわーっす!」

 

 そして、シオのことを見て聞いた。

 

「あれ? こちらの方は・・・・・・」

 

「こちらの方は尾崎ヨウさん。今回代打で来てくださった方です」

 

「あっ、この方がそうなんすね! よろしくお願いしまーす!」

 

 ショートカットで元気印の、ボーイッシュな女の子だ。

 

「ヨウさん。こちら、高杯光(こうはいこう)さん。私の後輩です」

 

「あっ、そうなんですか。えっと、光さん。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ! よろしくお願いしまーす!!」

 

 光さんは元気よくそう言ってシオが差し出した手をぐっと握る。そしてなんと、そのままシオの頭を撫でてきた。

 

「かわいいっすねー!! 何歳なんすか? ひょっとしてまだ学生さんとか・・・・・・」

 

 どうやら、シオのことを年下だと思っているみたいだ。

 

「えっと、三十代です・・・・・・」

 

「・・・・・・えっ、年上だったんすか!? すごい、本当に全然そんなふうには見えないっすね・・・・・・」

 

「は、はあ・・・・・・」

 

 光さんはぐっと顔を近づけてシオのことをまじまじと見てくる。年下と思ったにしても急に頭を撫でて来たりとか、全体的に距離が近い。

 

「お人形さんみたいにかわいい!」

 

「光ちゃん、ヨウさんが困ってるでしょ? あんまり距離を詰めないの」

 

「あっ、はい!」

 

 アオにたしなめられて、光さんはスッと引き下がった。かなりコミュ強の後輩キャラだ・・・・・・。

 

 さて、改めてシオの演技を聞いてもらう時だ。光さんも増えて、2人のプロ声優に聞いてもらうことになった。

 

「じゃあやってみますね」

 

「はい。いつでもどうぞ」

 

「どうぞ!」

 

 シオは早速やってみた。

 

 シオの役柄は迷子の女の子だ。スーパーで迷子になっていたところを、主人公が助けてくれるという話である。

 

 シオは早速台本に書いてあるセリフを読み上げた。迷子になって泣いていたところに主人公とヒロインと出会って、無事お母さんと出会うという話だ。

 

「『うう・・・・・・ママ、どこ・・・・・・?』」

 

 まずは迷子で泣いているシーン

 

「『お兄ちゃん、お姉ちゃん、だあれ・・・・・・?』」

 

 主人公とヒロインと出会うシーン

 

 その後も、自分の状況について説明するセリフや、無事母親と会って主人公とヒロインと別れる時のセリフなど、自分が担当することになるセリフを全部読み上げた。

 

 で、読み終わってシオが台本から顔を上げた時、光が驚いた声を上げた。

 

「・・・・・・いや上手いっすね!!」

 

「え? そうですか?」

 

 シオとしてはそこまで上手いとは思っていなかったが、なんか褒められた。

 

 アオも、驚いたように目を丸くして

 

「確かに、上手いですね」

 

 と、言ってくれた。お世辞とかではなく本当にそう思ってくれているみたいだ。

 

 実はシオは以前声優もののライトノベルを書くために、声優のことについて多少勉強したことがあるのだが、それが活きたのかもしれない。

 

 シオの演技を聞き、アオさんは瞑目し腕を組んで、こんなことを言い出した。

 

「うん・・・・・・ヨウさん、ちょっと一旦メスガキやってみてくれませんか?」

 

「「・・・・・・は?」」

 

 唐突なこの発言に、シオと光の2人とも素っ頓狂な声をあげてしまった。

 

「あの、アオ先輩・・・・・・?」

 

「いや違うんだよ。別にこれは私利私欲で言ってるんじゃなくて、色んな演技を聞いておくことで、より演技力がわかりやすいというか、なんというか、何かそういった感じのあれで・・・・・・決して我欲のリクエストではなくってえ・・・・・・」

 

「現在進行形で歯切れが悪くなっていってますけど・・・・・・」

 

「な、なるほど・・・・・・そういうことなら・・・・・・」

 

「ちょ、ヨウさん納得するの早すぎないっすか!? 大丈夫っすか!?」

 

 とりあえず、メスガキをやってみることにした。

 

「『ざ、ざぁ〜こざぁ〜こ♡よわよわ♡』」

 

「うむ・・・・・・」

 

「これ私は何を見せられてるんすか? 大丈夫すか?」

 

「『きもーい。近寄らないでくれる?』」

 

「大変いいです。大変いいですが・・・・・・もっと具体的な部分を罵ってもらってもよろしいでしょうか?」

 

「ぐ、具体的な部分ですか?」

 

「そうです。私のパーソナルな部分を罵ってほしいのです」

 

 パーソナルな部分を罵ってほしい・・・・・・と言われても、今までに聞いたことのないタイプのリクエストなので、どうしたらいいのかわからない。

 

 と、ふとテーブルの方を見ると、さっきまでアオさんが飲んでいたであろうコーヒーが置いてあることに気がついた。・・・・・・ミルクと砂糖が入れてある。

 

「『・・・・・・ね、ね、お姉さんひょっとして、コーヒーブラックで飲めないの?』」

 

「! ・・・・・・そうだね。ミルクと砂糖を入れなきゃ飲めないかな」

 

「『えー、だっさー! 大人なのにコーヒーにミルクと砂糖入れなきゃ飲めないなんて、恥ずかしくないのぉ?♡ 私はコーヒー、ブラックで飲めるんだけどなー♡ 』」

 

 シオはアオの耳元に口を寄せて囁く。

 

「『ね、わかってる? それって負けてるってことだよ?♡ 子供の私にぃ、負けてるってことだよ?♡ 恥ずかしくないのぉ?♡』」

 

 そして、ダメ押しに囁いた。

 

「『ざぁ〜こ♡』」

 

「────ッ!!」

 

 アオはしばらく俯いて、なんか震えていたが、やがて顔を上げると満点笑顔で言った。

 

「最高ですね・・・・・・!」

 

「先輩、よだれ垂れてるっす。よだれ」

 

 ・・・・・・まあ、とにかく色々なことがありつつも、シオは声優初挑戦を無事に乗り切った。

 

 で、特に何か言われるということもなくこのアニメは好評だったわけなのだが・・・・・・。

 

『あの迷子の女の子役の声優は誰だったんだ?』

 

『尾崎ヨウって、調べても出てこないぞ?』

 

『新人さんとかだったのかな・・・・・・声めちゃくちゃかわいかったし、演技も上手かったしもっと出てきてほしいなー』

 

 一部の人たちの間で尾崎ヨウという存在がプチ有名になってしまって、シオは首を傾げるのであった。

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