1666年、とある士官の目覚め
1672年のスウェーデン、バルト海を臨むイングリアの地で、1人の少年が父と暖炉を囲んで話していた。
「俺の隊はなぁ、コペンハーゲンじゃあ百を超えるデンマーク兵を打ち倒して、そりゃあもう獅子奮迅の大活躍だったんだぞ?」
「お父さん、たくさんの敵の兵隊と戦ってたんだね。怖くなかったの?」
「そりゃあ、敵の騎兵が突っ込んできたり、砲弾が近くに落ちたら肝が冷えるさ。けどなカール、俺は偉大な皇帝の元で戦えることを、深く誇りに思ってるのさ。そんなお方に武勲を示したいと思って、それで勇敢に戦えるのさ」
そのとき、キッチンからリビングへ来た母が声をかける。
「あなたったら、まだ10年以上も前の話をしてるの?」
「おうともよ。俺にとってベルト海峡越えは、皇帝陛下との栄光の戦いなんでな。一生語り継ごうと思ってるんだぞ?」
「まったく、あなたったら仕方の無い人ね。カール、ご飯ができたから食べましょ」
母は呆れた様子で部屋を出て、母に続いてカールも部屋を出ようとすると、父は彼の背へ何時になく真剣な様子で声をかけた。
「カール、どうかお前は、偉大な陛下を支える将軍になってくれよ」
父の言葉には、優秀な息子への期待と、自身が佐官以上になれないないだろうという諦念が滲んでいた。
カールは振り返ることなく、しかし力強く父の言葉に応える。
「わかってるよ、お父さん。僕は立派な軍人になってみせるよ」
「……ありがとな」
◆ ◆ ◆
自分、カール・グスタフ・アルムフェルトは1666年、スウェーデンの軍人の家系に生まれた。
時代を考えれば、月並みな家族のもとに産まれた、普通の子供でしかなかっただろう。
……ただ、前世の記憶を持って生まれたということ以外は。
かつての自分は、ただなんの目標もないままに生き続け、誰からも期待されることなく、何も成せず無為に生きるだけの空虚な人生だった。
だから、今生こそ生きる意味を見つけたいのだ。
それが幻想でも、誰かの期待に応え続けたその先に、意味はあるのだと信じて────。
これはそんな自分の物語だ。
◆ ◆ ◆
「……懐かしい夢だな……。」
1683年、17歳の自分は、宿舎の硬いベッドの上で目を覚ました。
ベッドから身を起こし窓を開けると、そこには早朝の雪に包まれた静かな街並みが広がっている。
軍人の道を進むため、自分は故郷のイングリアを離れて、フィンランドの郷土連隊の一つ、ナイランド竜騎兵連隊に士官候補生として所属していた。
「何とかやれてるよ、お父さん、お母さん」
父は、既にこの世を去っていた。
スコーネ戦争の最中、ブランデンブルク軍の陣地へ果敢な突撃を仕掛け、砲火の中で命を落としたという。
母もまた、父の戦死を知ると後を追うように亡くなった。
手早く布団を畳み、顔を洗って身だしなみを整える。
今日は尉官になるための任官試験がある日で、万が一にも遅れる訳には行かなかった。
宿舎を出る前、一度だけ振り返り、声を掛ける。
「行ってきます」
どれだけの季節を重ねても、変わらない冷たい朝の風を浴びながら、練兵場へと向かう。
父の願いを胸に、今日もまた軍人としての日々が始まるのだ。