遥か吹雪のクロニコン   作:コブザール

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プロットを大幅に書き直して、タイトルも変更しました。


1692年、スティーンケルクの戦い②

 

 午前10時、同盟軍がフランス軍陣地に奇襲を行い、陣地内はたちまちに混沌の坩堝に叩き落とされた。

 

「複数の敵戦列が森の中から押し寄せてきます!」

「敵が濠内にも侵入している! このままでは本陣までやられるぞ!」

「衛生兵! 衛生兵はどこにいるか!」

 

 堅固な陣地に守られていたはずのフランス軍の動揺は激しく、騎兵は複雑な地形で展開できず、歩兵の多くも持ち場を維持できないままに後ろに押し込まれ続けていた。

 しかし、フランス側もこの状況を許し続ける気は毛頭なかった。この戦いには王族も多数参戦していて、陛下に勝利を捧げるべく奮闘していたのである。

 

「銃床を振るってでも抵抗しろ! 敵の侵入を僅かでも食い止めるのだ!」

「無事な者たちは再集結して戦列を形成せよ! 完了次第敵方へ突撃を仕掛ける!」

 

 この頃になると優勢に立っていると見られた同盟軍も、苦しい立場に置かれていた。

 同盟軍は全戦力での突撃を志向していたが、もとより自然に囲まれた地形であるところに柵や濠が張り巡らされていた影響で、ヒュー・マッケイ中将率いる歩兵隊のみが他隊の支援を受けられない位置で突出していた。

 百戦錬磨のフランスの将軍たちはそのような相手の隙を、混乱の中にあろうと見逃すことはなかった。

 この時、シャルトル公麾下にあったアルムフェルトと彼の中隊も下馬して逆襲に参加、土埃と硝煙の中で初陣を飾っていた。

 鼓笛隊が勇壮な音色で再編されたフランス軍を鼓舞し、一斉射撃から突撃が開始されると同盟軍は瞬く間に混乱を広げていった。

 

「敵の突出部へ突撃! 戦列の中央に穴を開けてやれ!」

 

 シャルトル公フィリップを筆頭に王族が陣頭で決死の指揮を取り、体勢を立て直したフランス軍は12時までに三度の逆襲を敢行、突出したマッケイ隊に側面攻撃を仕掛けるに至り、むしろ同盟軍を危機に陥らせることに成功したのである。

 不運なことに、後方にいたネーデルラント騎兵隊は前進して援護に回ろうとするも悪路に阻まれ、マッケイの救援要請に応えられないまま停止を余儀なくされた。

 激戦は夕方まで続いたが、イングランド歩兵隊は近衛連隊に助けられるも大損害を被ったうえにマッケイも戦死、またブーフレール大将麾下の砲兵と竜騎兵が到着したことで、ついに大勢はフランス優位へと決着した。

 

「……撤退だ。アウウェルケルク卿の指揮の下、ハレにまで退却するぞ」

 

 この敗北はウィリアムとしても忸怩たる思いだったが、彼としても一戦闘に固執して全ての戦機を逸する訳にもいかなかった。ここで回復不能の損害を負えば、フランス軍はベルギーを飛び越えて故国ネーデルラントまで侵攻するのは確実だったからだ。

 とはいえフランス側も損害は激しく、結局退却する同盟軍に追撃を仕掛けることなく今戦闘は終結した。

 

 このスティーンケルクの戦いは、最終的に同盟側が10000、フランス側が8000の兵を失う激闘となったのである。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……」

 

 アルムフェルトは戦闘隊形を解いた後、友軍兵士のための墓を掘っていた。

 戦闘が終わった後のスティーンケルクは彼我両軍の遺体で溢れ、不衛生であると同時に緊張から解放された兵士に冷酷に戦争の現実を突きつける存在であった。

 

「アルムフェルト、どうやら互いに生き残れたようだな」

「中隊長……」

「まったく教範通りにならんもんだな、本物の戦場は」

 

 実際竜騎兵であるにも関わらず騎馬戦闘は成せず、さらには歩兵中隊として突撃に加わらざるを得なくなるなど、まったく想定外の初実戦となった。

 そして彼に最も衝撃を与えたのは、一戦闘での死傷者が想像よりもはるかに多かったことであった。

 

「正直なところ、ここまでやられるとは思っていませんでした」

「俺自身、これほどの規模の戦場は初めてでな。しかもこれだけの損害を負いながらも、互いに決定的勝利を掴めていないときた」

(故郷のスウェーデンはフランス軍よりも遥かに規模が小さい.これほどの戦闘が向こうでもあれば、先に負けるのは恐らく……)

「ともかく、俺たちは生き残ったんだ。今は神の加護に感謝するのみさ」

 

 この戦闘を最後に同盟軍とフランス軍は共にネーデルラント戦役を一旦打ち切り、1692年の戦役は幕を閉じたのだった。

 

 

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