かくしてパーフェクトサッカーは引き継がれる。   作:ホイップる

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いい所ですが、土日は投稿お休みです。

強いて言えば、前の雑めな文章整理したりするくらいかも?


分析:スプリング杯 雷門戦⑥

 

「必殺タクティクス――」

 

「貰ったァァ!!」

 

 嵐が地を抉るような勢いで、月伊霧に向かってスライディングを仕掛ける。スパイクが芝を裂き、緑の破片が白線の上にまで散った。標的はセンターサークルのど真ん中にいる月伊霧 芽育。

 

 だが、その本人は微動だにしない。

 ボールを足元に置いたまま、まるで時間から切り離されたように、その場で静止していた。

 

 月伊霧に迫る雷門の守備には目もくれず、嵐の両サイドを切るように友部と空宮は全速力で走り始めた。

 

 瞼を閉じて、手を無造作に広げるルーティン。

 それは昨年スプリング杯を大きく賑わせた、『少年サッカー界の新脳』がサッカーコート上に降臨したことを示す一つの儀式であった。

 

 観客席のあちこちから、遅れてざわめきが立ち昇る。

 

 嵐のスパイクが迫る刹那、月伊霧は心の中で静かに宣言した。

 

 

――神ノ盤上此一手(かみのばんじょうこのいって)

 

 

 瞼を開いた瞬間、彼の視界に映るフィールドの様相が一変する。

 

 緑の芝は細かな碁盤目状に区切られ、一マス一マスが淡く光を帯びる。選手ひとりひとりの位置、その周囲に広がる行動範囲は、ドット絵のように色で塗りつぶされていく。

 

 これまでに蓄積した選手一人ひとりの分析データ。

 試合中に更新され続けるスタミナ、スピード、反応速度。

 

 それらが瞬時に重ね合わされ、本来なら予測不能である数舜の未来が、仮想盤面に立ち上がる。

 

 その中で、碁盤の一点――

 最短最速で雷門ゴールに辿り着くパスコースだけが、鮮やかな金色に浮かび上がった。

 

 

「――ここ」

 

 

 月伊霧は足元のボールを、かかとでやわらかくすくい上げる。

 ヒールリフトでボールが跳ね上がると同時に、自分の身体ごと高く飛び上がり、嵐のスライディングをひらりと躱した。

 

 空中で身体を反らし、その回転の勢いをそのまま乗せる。逆さになった体勢から雷門ゴール方向へバイシクルシュートを放った。

 

 シュートは芝生スレスレの低弾道。センターラインの中央を一直線に切り裂く。

 

 低く。速く。そして落ちない。

 

 伸び続ける月伊霧のパスに、雷門一同は驚きを隠せなかった。 

 月影が一歩踏み出し、足を伸ばす。だが、ボールはつま先からボール半個分だけ外側を抜けていく。 星村が横から足を差し込むが、それもわずかに届かない。続く選手たちも同様に、あと指先一枚分が足りない。

 

(こいつ、ギリギリ届かないところに超高速パスを出してきやがった……!なんてやつっ!!)

 

 まさに針の穴に糸を通すような精度。

 誰も触れられない絶妙な軌道を描きながら、ボールはただ一人のための場所へ吸い込まれていく。

 

 自然な流れでボールを受ける友部、両サイドでカバーにはいる空宮と品乃。北陽イレブン全員の連動は、さも当たり前の光景と告げるようであった。しかし、その表情にはどこか誇らしげである。

 

「ここに来て月伊霧 芽育の代名詞『神ノ盤上此一手』!!!ゴール前までたったパス一本で繋いでしまった!」

「昨年はこの必殺タクティクスで、海王学園と白恋中を見事に翻弄し全国ベスト8にまで上り詰めました。」

 

 実況席が一気に沸き立つ。

 

「――シャインドライブ!!!」

「なんどもやらせんへんで!ゴットハンドタイガー!!」

 

 雷門ゴール前で、光と虎が衝突した。

 

 友部の放つシャインドライブが、稲光のような軌道でゴールへ吸い込まれようとした瞬間、キーパーの暖冬屋が咆哮を上げて飛び出す。巨大な虎の幻影を纏った右腕が、光を真正面から掴み取った。

 

「……くっ!!」

 

 弾かれたボールの行方を見送りながら、友部が悔しげに歯を食いしばる。

 それでも月伊霧は諦めない。

 

「友部先輩!何度でもパス出しますよ!!」

「……!あぁ!!」

 

 短い言葉だけで意志が通じる。

 そこから先は、月伊霧 芽育を中心とした怒涛の攻防であった。

 

――友部再びサンシャインシュート!!!しかし、ゴットハンドタイガーに防がれる!

 

――空宮渾身のサンシャインブレードぉぉぉ!遠野、時雨、暖冬屋の決死のディフェンスになんとか守り切ります!!

 

――月伊霧のシュートは惜しくも枠外へそれていきます!!これで本日3本目っっ!

 

 

 スタジアム全体が、度重なる決定機に揺さぶられる。観客の歓声と落胆が、波のように押し寄せては引いていった。

 

 

 それでも、北陽は足を止めない。月伊霧が見出した一つの希望を頼りに走り出した。

 

 まだ、このパスさえ通れば――

 

 重くなる足を叱咤するように、月伊霧は再び首を振って周囲を見渡す。視野が狭まり始めているのを自覚しながら、首を振って無理やり視界を広げていく。そしてボールを切り返すことで――ボールが、足元にない。

 

 

「おおっと!月伊霧のボールを円堂がカット!!!」

 

「しまっっ……!」

 

 月伊霧が気づいたときにはすでに遅かった。

 視界の端から滑り込んだ影が、足元のボールを攫っている。

 

 影の正体ーー円堂ハルに追いつこうと、その背中に食らいつくが残酷にも2人の距離は引き離されていく。なんとか黄色いユニフォームの裾を掴もうとする腕は空を切った。

 

 

(足速っっっ全然追いつかねぇ……)

 

 

 背中から冷水を浴びせられたような感覚が走る。

 

 円堂は、北陽の密集地帯の“死角”を読むように、後方から忍び寄っていた。そのままボールに触れる瞬間だけ、鋭く加速して一気に奪い去る。

 

 背後から忍び寄って、そのままボールをカットする。

 円堂ハルにしかできない芸当だった。

 

「やっときた――これでおしまい」

 

 まるで月伊霧の隙を待っていたかのように、サッカーモンスターの瞳に初めて明確な色が宿る。ボールを自らの足元へ置き直し一瞬だけ月伊霧の姿を横目に見ると、円堂は迷いなく前線へと走り出した。

 

 そこから先の雷門のカウンターはあまりにも速すぎた。月影がラインを上げ、星村がスペースを広げ、嵐が最前線で受ける。北陽イレブンが守備の形を整える前に、円堂は一瞬にして最終ラインまで駆け上がった。

 

 刹那、円堂ハルのシュートは陣内が反応する間もなくゴールネットを揺らす。

 

「ここで雷門の追加点!!!」

 

 電光掲示板の数字が、「3―1」に切り替わった。

 

「まだ、まだ時間は――ってあれ?足に力が……」

「月伊霧?!」

 

 自陣へ戻ろうとした瞬間、月伊霧の膝がかくりと折れる。

 足裏で芝を捉えたまま身体が言うことを聞かない。呼吸が段々浅くなり、視界も渦巻くように暗くなる。

 

 縦横無尽に走り続け、脳を焼くように酷使し続けた45分。

 

 月伊霧の身体は、とっくに限界を迎えていた。

 

「フィールドを完全に支配していた月伊霧 芽育も体力の限界か?!!もがく素振りを見せるも立ち上がれません!!!」

「本試合でも守備から攻撃まで、郡を抜く程の運動量でしたからね。頭も体もフル回転だった事を考えるも、相当消耗しているはずです。」

 

 実況と解説が、この事態を言葉に変えていく。

 

「これは月伊霧選手は試合続行不可能という判断です。今、現場スタッフが担架を持ってコート内に入ります」

「北陽学園も司令塔の月伊霧に代わって、保平が出場するそうです。フォーメーションも元に戻します」

「変則フォーメーションやタクティクスは基本月伊霧選手がいて成立してましたからね。」

 

 白い担架が運び込まれ、スタッフが素早く月伊霧の両脇を支える。

 彼は歯を噛み締め、悔しさを胸の奥に押し込めるように息を吸い込んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

「月伊霧、あとは任せろ。今はゆっくり休んでていい」

「月伊霧君、君の代わりにはなれないかもしれないけど、僕も全力で戦うよ」

 

 品乃と保平が、担架の横に並んで声をかける。

 その言葉は慰めでも労りでもない。月伊霧がここまで繋いできた軌跡を、離さんとする覚悟であった。

 

「月伊霧……」

「空宮っ……まかせたぞ…………」

 

 担架に横たわったまま、月伊霧はキャプテンの顔を見上げる。

 額に浮かぶ汗と、燃え続ける視線だけはまだ消えていない。

 

 空宮はその視線を真正面から受け止め、力強く頷いた。

 

「あいつ下がりましたね。北陽ももう体力の限界ですし、攻撃手段もほとんど残されていない……雷門の勝利は確実ですね」

「あぁ、残り時間は徹底して守備とボールキープに回ろう。必殺技はこちらが格上だ」

「了解です」

 

 雷門ベンチでは、既に冷静な試合運びへ切り替える算段が整っていた。

 ゲームを決める一撃は放った。あとはミスなく時間を削り、勝利を確実なものにするだけ――それが、王者らしい終盤の戦い方だった。

 

 キャプテンマークを握り締める。

 

 泣くのは勝ってから――――

 

 空宮は喉の奥から絞り出すように叫んだ。

 

「いくぞ!必殺タクティクス――クレイモア!!!」

 

 攻めの手は緩めない。

 すでにスコアは二点差、残り時間も少ない。それでも、北陽イレブンの誰一人として足を止めるつもりはなかった。

 

 最終ラインは泥のように重い足取りで、それでも決してラインを下げすぎないよう調整し続ける。中盤で実質的な司令塔となった品乃は、視線だけで全員を動かしながら、攻守の切り替えに身を削っていた。

 

 前線の友部と保平、そして空宮は、何度転んでも立ち上がる。

 タックルで身体が吹き飛ばされても、芝生に手を突き立てるようにして起き上がる。足がほつれ、バランスを崩し、泥臭くもがき続けても、その目だけは死ななかった。

 

 全員最後まで戦い抜く。

 

 その意志だけでピッチに立ち続ける時間が、ゆっくりと過ぎていく。

 

 

 

――そしてその時はやってきた。

 

 

 

ピッ ピッ ピィィィィ!!!

 

 

 

「試合は3-1で終了!北陽学園、最後まで攻め続けたものの、雷門の牙城を崩せず!!雷門はベンチから颯爽と立ち去るものの、北陽学園はピッチから誰も動けません」

 

 主審の笛が、試合の終わりを告げた。

 雷門の選手たちは歓声に迎えられながら、堂々とベンチへ引き上げていく。肩を叩き合い、次のステージを見据える顔をしている。

 

 一方で、北陽イレブンはその場に崩れ落ちるように座り込んだ。

 うつ伏せに倒れた者。空を仰いだまま動かない者。膝に肘を乗せ、顔を覆ったまま肩だけ震わせる者。

 

 スコアは「3―1」。

 しかし、ピッチに残された汗と、そこに込められた意志の量は、ただの数字では測り切れない。得点以上の実力差を目の当たりにした。

 

 ここまでベンチで北陽イレブンの奮闘を目の当たりにした監督ーー下鶴 改は静かに息を吐く。

 

 スタジアムのざわめきは、いつしか拍手へと変わっていく。

 勝者への称賛と同時に、敗者に向けられた敬意の音が、夕暮れの空にいつまでも響き続けていた。

 

 




【設定ガバめな小ネタ集】

『神ノ盤上此一手』
 『月伊霧 芽育』専用の必殺タクティクス。昨年のスプリング杯はこれで無双してた。
 発動中、月伊霧はフィールド上のどの選手に対してもパスをすることが可能。あくまでパスなので、シュートと同様の速度で正確に放てる。

【効果】
①『月伊霧 芽育』が出場している場合に発動可能。発動中、月伊霧のフォーカス時、必殺技として『神ノ盤上此一手』が発動できるようになる。
②『月伊霧 芽育』︰ 任意の選手に対してパスが必ず通る。
③パスをされた選手:パスはシュートチェインをすることも可能(AT60の必殺技と同等)。AT+20%


「逆さになった体勢から雷門ゴール方向へバイシクルシュートを放った。」
 「これはシュートではない、パスだ!!」の典型。月伊霧だって強いパスくらいはできるんだからね、、、!

「変則フォーメーションやタクティクスは基本月伊霧選手がいて成立してましたからね。」
 北陽学園の無理な攻撃は結構月伊霧の運動量ありきの作戦が多かったりもするが、一人かけたくらいで出来なくなる作戦でもない。この時点で半分くらい心折られているから弱気になり始めた行動でもあったりする。
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