かくしてパーフェクトサッカーは引き継がれる。 作:ホイップる
後半戦は書きたいこといっぱいあるから、次話投稿に時間かかりそう
(ストックなどない)
雷門の先制点を告げるスコアが電光掲示板に刻まれたまま、時間だけが静かに進んでいった。再開の笛が短く鋭く鳴ると、両チームの選手たちは即座に体勢を整え、次の瞬間に訪れるであろう衝突へと身構えた。芝生の上に落ちる影が、先ほどよりわずかに長く伸びている。それは太陽が傾きはじめた証であり、同時に、均衡の緊張が長く続いていることを物語っていた。一瞬でも気を抜けば決定的な一撃が飛び交う、そんな張りつめた均衡が続いた。
観客席にもその緊張は伝播していた。
試合開始直後は雷門の圧倒的な先制劇に歓声が渦巻いていたが、十分、二十分と時間が進むにつれて、観客たちの表情は徐々に曇り始める。掛け声や応援旗の揺れも、どこかぎこちなくなっていた。
――雷門が、押されている……?
観客たちは思わず目を凝らす。
ピッチ上で起こっている現象は、得点状況とは裏腹に、明らかに雷門中が劣勢に回っているという事実だった。中盤での主導権は北陽に奪われ、雷門のパスは以前よりも浅く、攻撃の起点は封じられつつある。攻撃の起点は封じられつつあり、最大の武器である円堂ハルへ繋ぐ前にボールは奪われてしまう。
そのたびに、雷門の選手たちの眉間に小さな皺が寄り、焦燥の影が差していく。
実況の田部は何とかその違和感を言葉にしようと声を張り上げた。
「品乃、ここで星村からボールを奪取――前半ももうすぐ終わりを迎えるところですが、先制点以降は雷門も攻めあぐねているように感じます」
「そうですね。北陽学園は円堂ハルの徹底マークを辞め、月伊霧 芽育以外のメンバーでゾーンプレスを強度を上げてきましたね」
「なるほど、それでは月伊霧選手は一体なにを?」
「北陽学園コート側全域のゾーンディフェンスです」
「なんと?!初めて聞くような戦術ですが、一体どのようなものでしょうか?」
田部は角馬の話に耳を傾けようと、グッと前傾姿勢をとる。
「これは恐らくですが、円堂ハルのマークを完全に外し、その他の雷門メンバーにゾーンプレスを仕掛けます。間を抜けるこぼれ球やパスを月伊霧 芽育が完全にシャットアウトする。そうすれば、円堂ハル以外の選手は事実上2対1の状況になります」
「なるほど。つまり、円堂ハルへパスを出す前に止めるということですか?」
ハル以外の選手がパスを受けようと動くたび必ず北陽の影が。それを躱すにも、パスを選ぶにも月伊霧がその先のカバーにいる。その巧みな守備連携は一朝一夕のものではない。雷門イレブンは確かに攻めあぐねている状況であった。
「その通りです。先制点を取られた際、北陽学園の守備は言わば円堂ハルへの”直接的なパスを防ぐ戦術”でした。一方、今の守備は”直接的なパス自体を起こさない戦術”です。過去にFFIでは韓国代表がこれに近い戦術を得意としていましたが、ここまで徹底されたものは初めて見ます」
「まるで北陽学園のパーフェクトサッカーを象徴させる守りですね。その中心は注目の司令塔、月伊霧 芽育。『少年サッカー界の新脳』と呼ぶに相応しい圧巻の戦術です!」
「はっはっは!!これぞ、円堂ハル専用タクティクス『オレイガイ=ゾーンプレス』……って、え、ちょあんまりパスミスしないで!俺こぼれ球は走らないと行けなくなる!!疲れる!!!」
月伊霧はコート中央で高らかに叫ぶ。その姿を見据えながら、雷門キャプテン・月影は鋭い視線で追っていた。迷いか緊張か、どこか焦燥の色を帯びた眼差しである。しかし、それは北陽イレブンのプレーだけに向けられたものではない。
(みんな、ミスが段々多くなってきている。一人ひとりに北陽ディフェンスのプレッシャーがかかって痺れを切らしているんだ。)
パスの軌道がいつもより浅く、味方に届くまでに余計な回転が乗り、足元で収まらない。その小さな乱れが、より一層北陽学園の術中となり、雷門イレブンの首を絞める。
そしてもうひとつ、雷門を鈍らせる要因があった。
円堂ハルが――完全にノーマークであるという異様な状況だ。
北陽の選手たちは、まるで彼の存在だけを“最初からいなかったかのように”扱っていた。それは戦略としては理に適っている。しかし、心理への影響は別だ。敵が優先して潰すべき相手を外すということは、裏返せば「それ以外が弱点だ」と突きつけられているのと同じである。
その認識が、雷門中の選手たちの肩をじわじわと重くしていった。
月影は眉根を寄せ、額ににじむ汗を一度手の甲で拭う。
確かな戦略と連動する北陽学園のパーフェクトサッカー、月影も噂には聞いていたが、これほど戦い辛い相手には過去にも当たったことがない。そんな月影の思考を切り裂くように、味方の声が上がった。
「しまった!」
野神の足からこぼれたボール。その落下地点へ、月伊霧が勢い良く滑り込んだ。芝を削りながら身体を伸ばし、ぎりぎりのバランスで足裏を押し出す。その呼吸は荒く、胸が激しく上下している。月伊霧は何とかボールを高く蹴り上げて、北陽イレブンに指示を出した。
「ここだぁ!思いつき必殺タクティクス『オレイガイ=シナノフォーム』!!俺は自陣で休むから、お前ら走れ!」
「体力温存のためとはいえ、偉そうに言うな!!シバくぞ!」
思いつきの意図を汲み取りながらも矢倉は前線へ走りながら叫ぶ。
他の面々も初めから分かっていたかのように、品乃・空宮が素早く前線を統率し、流れるように前線へ駆け上がる。品乃を中心として前線へ駆け上がる。
「守りを固めろ!来るぞ!!」
月影は雷門イレブンに指示を出す。その脳裏ではあまりにも連動しすぎている北陽イレブンの攻守に舌を巻いていた。
――連携が出来すぎてる。こいつら本当に即席のタクティクスなのか?!
北陽の攻撃は完全にフィールド中盤を支配していた。まるで一つの巨大な生物がうねりをあげて前進してくるような迫力である。雷門のディフェンス陣は浮足立っているチームを目の前に、迫りくる脅威へ警戒を強めた。
一方、月伊霧は自陣のど真ん中で寝そべり、最終ラインを務める。全員攻撃のタクティクス『シナノフォーム』で試合中にも関わらず堂々とサボっている。その口元には、ほんのわずかに皮肉めいた笑みが浮かんでいた。
品乃から屯田、騎士部へと繋がる。騎士部はサイドライン沿いから、芝生をかすめるような鋭いグラウンダーパスを上げると、ついにはキャプテンの空宮へボールが繋がる。空宮は必殺技『オーバーグロウ』で紫雨、遠野を突破し、雷門の守護神、暖冬屋と対峙する。
空宮はそのまま一直線にゴール前へと突き進む。胸の奥で、雷門の先制点後から積み重なってきた鬱屈が激しく跳ねた。
(ここで返す。必ずだ――!)
思考と同時に、空宮の身体はボールを高く蹴り上げ、文字通りの必殺技を振り下ろした。
「くらえ!サンシャインブレード!!」
放たれたシュートは鋭い軌道で雷門ゴールへ迫り、暖冬屋の指先を触れることなく、ネットの奥で弾けるように突き刺さった。
一瞬の静寂――からの激しい地鳴り。
キャプテン空宮の突き上げる拳を合図に会場中が興奮に揺れた。
「ゴォォォル!キャプテン空宮 征の必殺シュートが雷門ゴールに突き刺さるー!!!」
「徹底守備から一変、流れるような素晴らしいカウンターです!空宮 征の進化した必殺シュートによる1点。これは雷門にとっても手痛い失点となるでしょうねぇ!!」
観客席は喜びとも衝撃ともつかぬ歓声が渦巻く。雷門サポーターでさえ、空宮の一連の動きには呆然としたように見入っていた。
「おっと、ここで前半終了のホイッスル!雷門優勢かに思われたこの戦いも蓋を開ければ、前半は1-1の同点です。大会屈指の好カードを締めくくるのは新エース率いる王者雷門か?!それとも新脳率いるパーフェクトサッカー北陽か?!全ては後半戦で決まります!!!」
田部は熱狂する会場の様子をお茶の間にお伝えしようと、前に乗り出して言葉を紡ぐ。後半の読めない展開に心を躍らせながら、前半の試合を締めくくった。
「「いえーーい!」」
空宮と月伊霧はベンチに戻ると勢いよくハイタッチを交わす。乾いた音が、北陽ベンチの空気を一気に明るく染めた。
戦術の噛み合わせ。守備の連動。そして前半終了間際の同点弾。想定通りの試合運びではなかったものの、何とか雷門相手に互角の戦いを繰り広げることができた。試合の流れを見れば申し分ない展開である。
もちろん、その完璧な回収の裏では、粒子が擦れるような疲労が選手たちの身体中にこびりついていた。ただピッチに立っていただけとは決して言えない。北陽のサッカーは情報処理と連携の嵐だ。
脳も身体も、常に高速回転を迫られる。それでも、前半が終わった今、選手の目には恐ろしいほどの充実が宿っていた。
監督の下鶴は選手を迎えると、一人ひとりの様子を伺いながら話を進める。
「肉を切らせて骨を断つ、見事な駆け引きだった。全員休みながらでいいから耳だけ貸してくれ。今の状況だと体力消費も激しい分、後半最後まで持たないだろう」
「はぁ……はぁ……想定プランと大幅に変更しましたからね。前半20分くらいまではプランAで行く予定だったんだけどな」
「だが実際、月伊霧の判断が最善だった。結果的に同点だが流れは完全にこっちに来ている」
月伊霧は座り込むと同時に深く息を吐き、首元を引っ張って風を入れた。肩は上下し、呼吸はまだ整っていないが、目だけは冴え切っている。
雷門に主導権があるように見えた序盤、しかし終盤に向けてじわじわと北陽が流れ取り返していった感覚――それは北陽イレブン全員が肌で理解していた。
品乃が、タオルで額の汗を拭いながら口を開く。
「現状では想定していたプランCへの移行は難しいな。ポイントに絞ってゾーンプレスするか?」
「実質マンツーマンでやってるから効果が出てるようなものです。厳しいでしょう」
「アチョー、同意見だな。プランBから別のアドリブが必要だと思う」
品乃の発言に、屯田、騎士部は反対する。品乃は分かりきっていた反応に、満足そうに頷く。例え先輩であろうと、公平に議論を交わす。これが北陽イレブンのサッカーの核であった。
空宮は興奮冷めやらぬ様子で月伊霧へ尋ねる。
「月伊霧、お前ならどうする?」
「思考放棄すな、キャプテン……ちなみに、お前らあと20分これやるって言ったら気合いでいける?」
「「「今、月伊霧を蹴る」」」
「だよね。知ってた」
全員が同時に月伊霧へ冷たい目を向ける。スパイクがわずかに動く音すらした。月伊霧は肩をすくめ、心底分かっていたと言わんばかりに小さく息を吐いた。
「そしたら、全員小さく円になってくれ。浦池、ホワイトボードこっちに頂戴」
月伊霧はあぐらをかいて、周囲のみんなに大げさなジェスチャーを加えながら話し始める。マネージャーの浦池 密からサッカーボードを受け取ると、磁石を並べながら勢い良くマッキーを走らせる。
「こんなこともあろうかと、個人練習中に考えてたプラン”ウルトラC”を話す。心して聞いてくれ」
「……いやお前、練習しろよ」
陣内のツッコミに頷きつつも、北陽イレブンは月伊霧の言葉に真剣に耳を傾けた。
勝負の後半戦は間もなく始まる。
【設定ガバめな小ネタ集】
『オレイガイ=ゾーンプレス』
月伊霧以外は円堂ハル以外をマンツーマンでゾーンプレスし、月伊霧は円堂ハル以外の全選手のカバーに入る。相手に精神的、身体的にプレッシャーをかけ続け、時間経過で連携と能力を下げる。
タクティクス名は月伊霧が自信を持って提案したものの、全員に反対され、一度完全に潰されている。だが、諦めきれずに本番叫んだことにより、無理やり正式名称とされてしまった。
【効果】
①このタクティクスは自チームに『月伊霧 芽育』を、敵チームに『円堂 ハル』を出場している場合発動可能。
②敵チームの『円堂 ハル』︰AT+10%、移動速度+10%
③敵チームの『円堂ハル』以外︰パスミスをしやすくなる。『円堂 ハル』へのパスライン消失。AT-10~30%(時間経過で減少量が増える)移動速度-10%
④自チームの『月伊霧 芽育』︰敵陣でゾーン消失。AT-30%、DT+30%、移動速度+30%
『オレイガイ=シナノフォーム』
『オレイガイ=ゾーンプレス』を19分開始を早めて行ったため、スプリント数を上げすぎた月伊霧が体よくサボるために思いついた戦略。司令塔を一時的に品乃が行い、10人全員で前線へ攻め上がる。
短時間で攻撃に特化させるが、ディフェンスの最終ラインが北陽コートど真ん中になるため恐ろしくカウンターに弱い。
【効果】
①このタクティクスは『月伊霧 芽育』『品乃 雅士』『空宮 征』を出場している場合に発動。タクティクスの効果時間は通常の半分。1試合つき1回のみ使用可能(発動以降、自選手が指示を聞いてくれなくなるため)
②自チームの①対象者以外︰陣形を組みフォーカスに入らず前線に上がる。AT+10%、移動速度+10%
③自チームの『品乃 雅士』︰陣形を組みフォーカスに入らず前線に上がる。パスカットされない。AT+30%
④自チームの『空宮 征』︰陣形を組みフォーカスに入らず前線に上がる。AT+30%、シュート技威力+20%
⑤自チームの『月伊霧 芽育』︰パスライン消失。敵チームからのフォーカスに入らない(勝手に転ぶ)。自陣中心で移動速度-100%
以降キズナリンク消失。(試合中、仲間からとんでもなく嫌われるため)
「お前らあと20分これやるって言ったら気合いでいける?」
近い記憶として、練習試合で一度だけ月伊霧のお遊びで、ひたすらマンツーマンディフェンスをやらせたことがある。勝負には勝ったものの全員限界まで走らされ阿鼻叫喚の現場となった。
以降、合理的であればやるが、ノリで走らされる作戦には乗らないと北陽イレブンは心に誓っている。