かくしてパーフェクトサッカーは引き継がれる。 作:ホイップる
思ったより早くかけた(なお次の話)
皆さんお察しかもしれませんが雷門戦は書きたいシーンばっかりで結構長いです、、、、北陽学園の一つの分岐点だと思って読んでくだせぇ
ーーー南雲原中 映像室(野球部施設)ーーー
笹波はリモコンを握ったまま、前半の映像を止めた。
「これが前半戦。後半戦も今から流そうと思うけど、みんなここまで見てどうかな?」
膝の上にリモコンを置き、振り返りざまに問いかける。
だが南雲原の面々から返答はない。息を呑む微かな音だけが重なり、狭い映像室の空気をいっそう重くした。
誰もが言葉を選びあぐねているようだった。
「これが北陽学園のパーフェクトサッカー……戦術であの雷門中を圧倒してる」
「この間のサッカーバトルと全然違うじゃねえか。あいつら手を抜いてやがったな」
前のめりになっていた椅子に背中を預け直しながら、柳生が呻くように呟く。隣の桜咲も腕を組み、顎を引いたまま画面を睨みつけていた。
二人は既に何度かこの映像を見返していたため、驚きそのものは薄れている。それでも、数日前に同じピッチで対峙した北陽の動きとの差が、ゆっくりと苛立ちとして胸に積もっていく。
自分たちが相手にされたのは、本気の北陽ではなかった。
そう思うと、床材がきしむような錯覚が足元に生まれた。
四川堂と木曽路も頷く。
2人の顔に浮かぶのは怒りというより、悔しさだ。手を抜かれたことが許せないのではない。自分たちが、「本気を引き出すに至らなかった」という現実が、静かに胸に刺さっている。
「なにより、前半だけでも月伊霧、空宮の動きは頭一つ抜けてるな」
「それな! 空宮 征はこの間戦ったから予想できるといえど、あの月伊霧 芽育ってマジで何者??」
木曽路が髪をかきむしりながらぼやくと、スクリーンにはちょうどセンターサークル付近で指示を飛ばす月伊霧の横顔が映し出されていた。
身体能力だけなら雷門の選手の方が勝っている。体格や瞬発力では、南雲原にも北陽を上回る選手が数人いる。
それでも総合力では北陽は雷門と互角で、南雲原では到底届かない。
それを可能にしているのは紛れもなく、ピッチ全体を支配しているあのゲームメーカーであった。
千乃もスクリーンを真剣な眼差しで追っている。
その様子に気付いた忍原が声をかけた。
「千乃会長はあいつのこと知ってたの?」
「別に……知ってはいるけど、生徒会の仕事で一緒に話すくらいよ。サッカーのことはほんの噂程度しか知らないわ」
「ふーん、それにしては月伊霧 芽育は親しげに語ってたけど」
「彼が馴れ馴れしいだけよ。断じて一緒にしないでほしいわ」
千乃は珍しく語尾を強めてそっぽを向いた。
スクリーンの光から逃げるように窓の方へ視線を逸らすと、 その視線の先、薄く開いたカーテンの隙間から夕焼けが差し込んだ。
光に照らされた横顔には、淡い赤みが乗る。怒りか照れか判別しづらい色が、そっと浮かんでいた。
忍原は「やっぱなんかあるな」と心の中でだけ呟き、余計な追及は飲み込んだ。
「勿論、目立っているのは月伊霧と空宮の2人だけども、他のメンバーにも注目してほしい」
笹波は前に立ち、再びスクリーンへ向き直る。
リモコンを操作して、前半戦の映像をコマ送りに切り替えた。静止画と動きが細かく断続的に切り替わり、北陽学園の布陣がレンズ越しに浮かび上がる。
「北陽学園はこの前半だけで4つのタクティクスを使いこなして、更に後半、3つのタクティクスと大胆なフォーメーションの変更も行っている。これはそれぞれのメンバーが相手の表面的なデータだけではなく、仲間の動きや考えも読み取っているから成立しているんだ」
画面の隅で、品乃がわずかにポジションを下げる。同時に、後ろのCBが半歩ラインを上げる。指示もアイコンタクトもなく、各々が状況に合わせてポジションの修正をしていたのだ。
その一歩のズレが、次の瞬間には“タクティクス”として形を成している。笹波は、そのわずかな呼吸の合わせ方を指先でなぞるように示した。
「なぁ雲明、それって変な話、指示通りに動くこととどう変わるんだ?俺らはこれまで雲明の指示通りに動いてプレーしてるわけだけど、細かいところまで考えているわけじゃないし」
木曽路が眉間に皺を寄せながら問いかける。
これまでの南雲原にとって“考えること”はほとんど笹波の仕事だった。実質的な監督の役割を一人で担っており、チームでその意味を深く考えようとしたことはほとんどない。
ーーそれに、俺はキャプテン不在の南雲原に興味はないかな
ーー戦略家の居ないお前らに価値はないって言ってるの
南雲原イレブンは数日前の月伊霧の発言を思い出す。
煽るような発言であったが、この前半戦を見せられた後では、頷けてしまう部分があるのもまた事実であった。それほどまでに南雲原と北陽の間には決定的な戦略に対する理解度の差があったのだ。
笹波は少しだけ息を吸い、言葉を選ぶように間を置いて話し始めた。
「こればっかりは一長一短だけど……大きく異なるのは試合のスタンスだろうね」
「「「試合のスタンス?」」」
前列の椅子がわずかにきしみ、全員の視線が笹波に集まる。
「そう。北陽学園は“必勝パターンに引きずりこむ”ための戦術を選択することが多い。そのために守りで雷門中のリズムを崩し、得意のパスサッカーでエース空宮まで繋げて得点する」
スクリーンの中で、空宮がゴールネットを揺らすシーンが一瞬だけ再生される。
雄叫びと拳を突き上げるシルエット。拍手をする仲間たち。その全てが、緻密な準備の“出口”としての一点に収束していた。
「対して、僕たちは取るべき必勝パターンがない。だから基本的には“受け身で慣れる”ための戦術を取ることになるんだ」
柳生と桜咲は、無意識のうちに息を揃えて飲み込む。
それは自分たちの弱点の再確認であると同時に、これまでの選択が“間違い”ではなかったという意味でもあった。
「なるほど、前者なら得意戦略に繋げるために各々がアドリブする必要がある。後者は“慣れる”ことが目的だから、目の前のことに専念するだけでも理にかなった方法になるのか」
四川堂の言葉に、笹波は大きく頷く。
「その通りです、四川堂先輩。だから余計なことを考えるよりも、今はタスクフォーカスさせた方がみんなには向いてると思うよ」
ーー“今は”余計なことを考えない方がいい
その言葉はこれまでの南雲原の戦い方を否定しないための意味であると同時に、メンバーへの期待を込めた発言でもあった。笹波は、あくまで淡々とした調子を崩さないまま話を締める。
映像室の外では、別の部活の掛け声が遠くに響いていた。
しかしこの狭い空間だけは、他のどの部屋よりも密度の濃い時間が流れている。南雲原中サッカー部は、来る北陽学園との試合に備え“これからの戦い方”を自分たちのものにしようとしている時間だった。
「さて、そろそろ後半戦の映像を見ようか。後半の2失点から北陽学園の弱点も見えてくるはず」
笹波がリモコンを持ち直し、再生ボタンへ親指を滑らせる。
スクリーンの中で止まっていた時間が、再び動き出す直前、全員の喉が同時に鳴った。
ーーースプリング杯 1回戦 後半ーーー
「さぁ!いよいよ後半戦がスタートしました!」
田部の張りのある声がスタジアムに響くのと同時に、主審の笛が高く鳴り渡る。
センターサークル中央に置かれたボールが、合図と同時にわずかに揺れた。
後半のキックオフと同時に、月影は一歩後ろへ下がりながら、ほとんどノールックのままバックパスで星村へと繋ぐ。ボールは芝を擦り、低い音を立てながら足元へ収まる。
その瞬間、北陽イレブンは一斉に動き出した。
まるでゴール前に敷いた罠の糸を一気に引き寄せるかのように、視線を揃えて円堂ハルへと殺到する。
自陣の中盤から、その光景を見ていた月伊霧はにやりと口端を吊り上げ、声を張り上げた。
「行くぞ!円堂ハル専用タクティクス『ボックスロック=ウルトラC』!!」
月伊霧の号令に応じて、エンドラインに構うことなく、矢倉、屯田、騎士部、城壁道が円堂の周囲へ一気に寄せていく。四角形を描くように陣取り、ほんの一歩の出入りで進路を塞ぐ。
その布陣は、前半の立ち上がりで見せた「ボックスロック」と同じ形でありながら、どこか圧の質が違っていた。疲労の色がわずかに混じっているにもかかわらず、判断の速さと連動性だけは、明らかにさきほどより研ぎ澄まされている。
「またハルに4人もマーク……?」
自陣方向へと視線を走らせながら、月影は眉をひそめて呟いた。
前半序盤と同じなら、答えは簡単だった。ハルへの縦パスーーそれは多少強引でも、スルーパスを通してしまえばいい。あとは彼がどうにかする。
雷門にとって、それは合理的で、そして何より最も勝率の高い選択だった。
しかし、星村は円堂ハルとは逆サイドの赤袖へ展開する。ボールは更に野神、嵐へ繋がり、絶好のチャンスである。違和感はあるが最善の選択でもある。
ボールが足元を離れていく軌道を追いながら、月影は違和感の正体に気付いた。
(今度はハル以外にシュートを誘導させる気か……?!嫌な戦術を取ってきやがる)
ハルにボールが入る前の選択肢――パスを出す側にだけ圧力をかけ続ける守り。
そこからさらに一段階、北陽は踏み込んできた。
「北陽は”円堂 ハル以外”に攻めさせる戦術のようですね」
「攻めさせる、ですか……一見、前半1番最初のタクティクスと同じように思えますが、どのような違いがあるのでしょうか?」
実況席のブースで、田部はスタジアムを食い入るように眺めながら問いかける。
隣で腕を組んでいた角馬は、少しだけ身体を前に乗り出し、フィールドの四角形――ハルを囲むボックスを指先でなぞった。
「大きく異なるのは優位性です。前半は全員が体力と気力もあり、個々の能力差が明確な状態で円堂 ハルにマークをしていました」
「そうですね、その結果雷門の実力が勝り、先制点と取ったわけです」
「ですが、先制点後からじわじわ雷門にプレッシャーをかけ続け、前半終了間際にエース空宮の同点打。円堂ハル以外の雷門メンバーに対して、体力的・心理的な部分で北陽は優位な状態になっています」
実際、角馬の言葉通り、雷門イレブンの足取りにはどこか重い。普段の試合で感じたことのないプレッシャーが判断を鈍らせ、楽な方向へと試合を展開させる。全ては北陽学園ーー月伊霧 芽育の手のひらの上である。
嵐のシュートは、伸ばされた陣内の両手に吸い込まれるようにキャッチされた。乾いたキャッチングの音が、雷門にとってはやけに大きく耳に残る。
そのまま陣内は迷いなく、左サイドへスローを投げた。
前半の勢いそのままに、北陽イレブンはテンポよく前線へパスを繋げていく。タッチライン際をかすめるように鋭いパスが流れ、品乃、月伊霧、新狩へと渡る。ついにはキャプテン空宮の足元へと転がり込んだ。
前半の同点弾を決めた男のもとに、再び決定機が訪れる。
観客席にざわめきが走り、スタンドのあちこちで立ち上がる影が揺れた。誰もが前半戦の同点打を思い浮かべる。北陽学園待望の逆転打がーーパーフェクトサッカーが、王者の背中を確かに捉えた。
雷門の最終ラインを抜け出し、空宮はペナルティエリア正面でボールを収める。
目の前に広がるのは、雷門ゴールと立ちはだかるキーパーの暖冬屋のみ――
――のはずだった。
「なんと、ここで円堂ハルがペナルティエリアの真ん中に立ちはだかる!」
「ペナルティエリアに攻め入った選手から、相手からボールを奪ってそのまま攻め入る作戦でしょうか?コート内で唯一体力消費の少ない円堂ハルだからこそ、この土壇場で取れる選択ですね」
解説席から角馬が感嘆を漏らす。円堂ハルは前線からすでに全速力で戻っていた。長距離を走ったはずなのに、呼吸の乱れをほとんど感じさせない。
空宮のすぐ正面、ペナルティエリア中央に滑り込むと、片足を引きながら真正面から対峙する。
円堂は空宮の前に立ちはだかり、挑発するように顎を上げた。
「攻めてきなよ。勝ちたいならさ」
「……っ!望むところだ!!」
空宮は迷いなく答え、膝を軽く沈めた。
フェイントを交えながら左右へ細かく揺さぶりをかける。足もとでボールを舐めるように転がし、身体の向きと重心を絶えず変化させていく。頭脳と連携を得意とする北陽サッカーであるが、空宮だけは個のスキルでも全国区屈指の実力を持つ。そのドリブルは確かなキレであった。
だが円堂は一歩も引くことなく食らいつく。その視線はボールでもなく、空宮の腰と肩のわずかな軌道だけを捉え続けた。
2足のスパイクがフィールドの芝を揺らす。
(抜き切る……!)
空宮は一瞬、身体を右に振る。そのまま縦に切り込むと見せかけ、さらに内側へえぐる。前半で遠野、紫雨を抜いた動きとほぼ同じパターン。
強引に縦へ加速しようと踏み込んだその瞬間――空宮の足元から円堂の足が伸びる。
「……なに?!」
円堂はほとんど地を這うような低さで身体を倒し、空宮の足が触れるより、ほんのコンマ数秒だけ早いタイミングで、インサイドを差し入れていた。
空宮は慌てて踏ん張り、スリップしかけた身体を立て直すが、すでにボールは円堂の足元へきれいに収まっている。円堂は空宮を一瞥することもなく、北陽ゴールへと走り始めた。
観客席から一斉に歓声と驚きの声が上がりーー試合のリズムが変わる。
【設定ガバめな小ネタ集】
「あいつら手を抜いてやがったな」
実際、手を抜かれているが、南雲原が陣内と勝負したそうにしていたため、正面から打って出ているだけでもある。やり方的にはドブカスよろしくの手段であり、実質手を抜いているのと同様ではある。
「彼が馴れ馴れしいだけよ。断じて一緒にしないでほしいわ」
ドブカスと千乃は出会ってさほど月日は立っていないが、この言われようである。
「北陽学園は“必勝パターンに引きずりこむ”ための戦術を選択することが多い。」
北陽学園は「俺らのやらせたいことやらせろよ。ずっと俺のターン」な剛の戦術、南雲原は「そっちの戦術もう慣れたわ、ほな攻略するで」な柔の戦術だと個人的に思っている。前者は戦術が軸になるから一人ひとり考えるべきだし、後者は前半さえ乗り越えられれば無双できる感じしている。(ゲームだと実際そうよね)
「”円堂 ハル以外”に攻めさせる戦術」
お前ら疲れただろ、、、ほらこっち開いてるよ、、、の術。体力ある時は視野広いけど、相手疲れたら視野狭くなるし、楽な方行っちゃうんじゃねと思っている。
陣内のグラビティ…はバハムートクラッシュくらいなら止められると思っての方法である。実際は分からないけど壁何枚かあればワンチャン。