かくしてパーフェクトサッカーは引き継がれる。 作:ホイップる
書きたい小話もあるので章整理するようにしました。
こんなの書きたい(なお時間)
・スプリング杯後日談:月伊霧が雷門中に凸る話
・クリスマス企画:悪魔の2日間ークリぼっちを脱出せよー
・円堂と月伊霧のLINE(西ノ宮戦後、合併後、ケガ後)
よろぴこ
「……!不味い!カウンター来るぞ!他のマークは多少雑になってもいい!意地でも10番からボールを離させろ!!」
月伊霧の怒号が、北陽陣営に響く。
普段の軽口も皮肉も欠片もない。常にピッチを俯瞰しているからこそ、この一手が決定打になりかねないと分かる司令塔の声だった。
「蓮さん!」
しかし、円堂はすでに次の一手に移っていた。
ボールを足裏からインサイドへと滑らせ、そのまま右斜め前へと送り出す。選択したのは独力でのドリブルではなく、キャプテン月影へのパスである。わずかにスピンのかかった鋭いパスは芝の上を細い線のように走り、正確に月影の足元へ吸い込まれていく。
雷門イレブンは、そのプレーに円堂なりの確固たる狙いが込められていると直感した。単なる繋ぎではない。「ここから先」を見据えた一つの起点だと理解する。
「ここで円堂、月影にパスを渡した途端、最前線まで一直線で駆け上がる!!」
田部が声を張り上げる。
その言葉の通り、円堂はパスを出した瞬間にはもう、前線へ向けて一直線にゴール方向へ走り始めた。
「ボックスロック=ウルトラC」の準備を整えていた北陽四人――矢倉、屯田、騎士部、城壁道も、その加速に完全には追いつけない。
本来なら四辺を揃えて成立するはずの守備ブロック。その一角が、たった一回のスプリントで無理やり引き剥がされ、形が歪んでいく。
円堂ハルの完全なフリー。
このチャンスが言わんとしていることを察し、月影のーーいや、雷門イレブンの全身に稲妻が走った。
――ここまで持ってこいと言うことか……!!
胸元でボールを収めながら、月影は心中で呟く。
足に伝わるボールの重みと回転。フィールドを見渡す月影の視野が広がる。彼の脳裏では自陣から敵陣のゴールまで確かな攻撃ラインが繋がっていった。
それは、ほんの一試合ぶりでありながら、雷門にとって久しく感じていた「本来のリズム」の感覚だった。
「プレストターン――星村!!」
「ここで止める!!ザ・マトリックス!」
「よっと、いくよー!スカイウォーク!!」
北陽の騎士部が、読み切ったコースにタイミングぴったりで飛び込む。
数多の数式が星村を囲って進路を塞ぐが、空中を軽々と飛び回ることで鮮やかに突破した。
そのまま着地し、星村は中盤で走りこむ嵐に向かってクロスボールを上げる。
「嵐!」
「うぉぉぉ!ヒートタックル!!」
品乃も必死に追いつき、身体を入れてコースを切ろうとするが、力強いドリブル技に押されてしまう。最後は気迫で無理矢理マークを外された。
「ここで雷門、中盤から前線に向かって立て続けに必殺技が炸裂!!」
「円堂ハルに引っ張られるように、雷門中の本来の攻撃リズムに戻ってきたように感じます」
北陽学園を翻弄する雷門イレブンの圧倒的なスキルに、田部と角馬の声も自然と熱を帯びていく。
嵐は助走をとりながら、右足を大きく振りかぶる。
足元でわずかに浮き上がるボール。その下側をスパイクの甲で叩いた瞬間、空気を震わせる重低音がピッチに響いた。竜が咆哮を上げるような錯覚を覚える一撃が、北陽ゴールへ迫る。
「バハムートクラッシュ!!」
「ここで嵐の強烈な必殺シュート!だが、少々ボールがゴールよりも高い!」
「いや、これはシュートではない!円堂ハルへのパスだ!!」
角馬が叫ぶ。その言葉は奇しくも伝説の始まりを想起させた。
ゴール前へ駆け込んでいた円堂が、バハムートクラッシュの勢いと並走する。嵐の放った「シュート」は、そのまま円堂へ向けたロングパスへと変貌遂げた。
「円堂ハルはシュートチェインを狙う気だ!矢倉、城壁道、絶対打たせるな!!」
「当たり前だ!そう簡単に行かせるかよ!!」
陣内の指示より早く、矢倉と城壁道が身体をぶつける覚悟で飛び込んだ。最悪、ファールで試合を止めてしまっても構わない、それでも御の字と思わせる試合展示であった。
しかし円堂はいとも簡単に2人の間を抜け、空高く舞い上がる。螺旋回転と共に吹き上がる火の粉に会場は騒然とした。
「嘘だろっ、これは……?!」
月伊霧の叫ぶ声をかき消すように、円堂の燃え盛る左足はうなりを上げる。
「必殺――ファイヤートルネード」
そのシュートは、かの有名なエースストライカーの必殺技と同じ名前を冠する。 強烈な回転を与えられたボールは、空中で炎の柱のような軌跡を描きながら、ゴール中央――陣内の元へ一直線に向かっていく。
「今度こそ止める!!グラビティデザートぉぉ!」
陣内も負けじと叫び、両腕を前に突き出す。
紫色の光と共に、無数の砂粒が渦を巻くように現れ、炎のシュートを包み込む。回転する砂の壁と灼熱の弾丸が、ゴール前で激しくぶつかり合った。稲光にも似た火花が会場の視界を覆う。
しかし、砂の防壁はじわじわと押し込まれていく。
円堂のシュートに込められた回転と威力が、陣内の技を少しずつ削り取っていた。
「ぐあぁぁぁ!」
耐え切れず、陣内の身体が後方へ弾き飛ばされる。
砂の渦が割れ、その向こう側から解き放たれたファイヤートルネードが、なおも勢いを殺さないままゴールネットへ突き刺さった。
「ゴォォォル!!な、なななんと!あの豪炎寺修也の伝説の必殺シュート、ファイヤートルネードが炸裂ー!!!燃え盛る炎は北陽ゴールに突き刺さるー!2-1で雷門逆転です!!!」
スタジアムの熱狂は最高潮となる。
電光掲示板に刻まれた「2―1」の数字が、夕陽を受けてじわりと滲んで見えた。客席の雷門カラーの応援タオルが乱雑に揺れる。数分前とは打って変わり、雷門ムードに包まれた歓声が残酷にも北陽イレブンの足に重くのしかかる。芝をかすめる風すら、いまは雷門の勢いに押し流されているようだった。
その渦中で、月影 蓮は、静かに腕を持ち上げた。ゴールを決めた張本人に、祝福の手を差し出す。
円堂ハルは、その手を視界の端でとらえ、少しだけ口元を緩めた。
「ハル、ナイスシュート」
「えぇ……こんなものか」
軽く手のひらを合わせるだけの、ささやかなハイタッチ。
だが、その仕草と声色に込められた感情はあまりにも対照的だった。月影は確かな手応えと高揚を宿した瞳で仲間を見ている。一方で、円堂の横顔にはどこか儚げな影が差していた。
「最低限の仕事をした」
ただそれだけを確認するような、つまらなそうな表情。
彼が振り返った先には、呆然と立ち尽くす北陽学園の選手たちがいた。
ゴールネットの中で、白いボールがゆっくりと回転しながら転がっている。その軌跡を北陽イレブンは視線だけの惰性で追う。リスタートに動くそぶりもなく、呆然と立ち尽くしていた。
北陽イレブンの心は完全にへし折られていた。
「北陽学園からのリスタートとなりますが、思わず立ち尽くしてしまっている!」
「これまで粘り強く守ってきましたからね。流れも掴んでいたために、その反動は計り知れません。このままでは大量失点もありますよ」
実況席の田部と角馬が状況を言語化する。
ゴール前に崩れ落ちるように座り込んだ陣内の背中が、そのまま北陽の現状を象徴していた。陣内は握り締めた拳を思い切りピッチへ叩きつける。指先に伝わる芝のざらつきと硬さが、どうしようもない現実を突きつけた。
「くそっっっ!!!」
「こんなのどうすれば……」
最終ラインの一角から漏れた弱音は、瞬く間にチーム全体へ伝播していく。
息の詰まる音、短く荒い呼吸、うつむいたままの視線。かろうじてスコアは1点差だというのに、雰囲気だけを切り取ればすでに勝負は決していた。
「顔を上げろっっ!!!まだ時間はある!」
その空気を、品乃の声が力ずくで断ち切る。
自分自身を奮い立たせるような、ギリギリのテンションでの一喝だった。肺の奥まで擦り切れそうな声を振り絞って、チームの精神的支柱はピッチに立ち続ける。
負けたくない。その思いだけは、誰もが共有している。
だが、そこから先のどうするかーー得意とする戦略が、連動が少しずつずれ始める。話し込む友部と矢倉の思考は大きく食い違っていた。
「点を取るためには攻めるしかないでしょう?!シナノフォームやトライダイブをもう1回使うしか」
「じゃあ、守りの手をぬけって言うのか? これまでの失点は全てカウンターだぞ?!」
FWとDF、それぞれの視点で試合を見ていたからこそ、互いの言葉がぶつかり合う。
どちらも間違ってはいない。しかし、どちらか片方だけを選べば、確実にもう片方が崩壊する。それが目に見えていたからこそ、チームは完全にバラバラになりかけていた。
「このままでは埒が明きません。雷門も個々のスキルで攻め始めてきました。円堂ハルにばかり集中していても、点差が広がるだけです。」
騎士部の声は、こみ上げてくる焦りをなんとか抑え込み、冷静に分析する。
課題は見えている。円堂ハルだけを抑えればいい段階は、当に過ぎている。他の雷門メンバーも、円堂に引っ張られるように本来のリズムを取り戻し始めていた。
しかし――課題が見えれば即座に道が拓けるほど、サッカーは甘くない。
解決策がない。万事休す。騎士部の視線は、いつの間にか一人の背中に吸い寄せられていた。
円堂のファイヤートルネードを目の前で見せつけられた後にもかかわらず、ただ一人、俯かずに何かをぶつぶつと呟いている男がいる。
“少年サッカー界の新脳” 月伊霧 芽育
その表情は決して余裕などではない。呻くような呼吸の合間に、現状を咀嚼しようとしているような、必死な表情が色濃く映る。絶望的な状況にメスを入れられる可能性があるとすれば、「新脳」と呼ばれるこの司令塔しかいないーー
自然と、北陽イレブンの視線が彼へ集中する。
「確かに点は必要だ。取れなきゃ絶対に勝てない。」
「そりゃそうです。だから――」
「かと言って、そもそもうちのタクティクスは全体的にカウンターでの失点が多い。雷門も馬鹿じゃない限りカウンター狙いで点差を話してくるだろう」
「だよな?!だから――」
「だからどっちもやろう」
「「は……?」」
友部と矢倉の声がそろう。
それでも月伊霧は声色を一切変えずに話し始める。感情の振れ幅を抑えたまま、一つひとつ状況を整理し、言葉へ落とし込んでいく。
「やるべきは完全な分業制だ。攻撃担当は最小人数と効率を重視、守備担当はとにかく『円堂ハルに打たせないこと』を徹底する。攻めは短時間で回転効率を増やし、守りは通用している『ボックスロック=ウルトラC』の継続でいく。残り20分……本気を出せば5~6回は攻撃機会作れるだろう。」
淡々とした口調だが、焦る北陽イレブンにはどこか心地よく耳に届く。その内容は北陽イレブンにとって待ち望んでいた「筋の通った希望」だった。攻めるべきか守るべきか、その二択で揺れていた感情に、第三の解が提示される。
それでも、まだ足りない。騎士部は自分の役割を理解していた。月伊霧が全体像を示すなら、自分はそこに具体性を求めなければならない。
思考に口が追い付かない、言葉足らずな司令塔の指示に敢えて否を突きつける。
「そうなると攻撃と守備の境目が手薄になってしまいます。誰か配置した方がいいのではないでしょうか?」
「俺がやろう。前半パス回しと守備を月伊霧がやってくれたお陰で比較的体力もある。それにやるなら徹底したい。フォーメーション自体を6-1-3に変えよう」
その問いに、すぐさま返答したのは品乃だった。
中盤が一人しかいない大胆なポジション変更。だが、ここまで読み合いとタクティクスを繰り返してきた北陽イレブンにとって、その選択はむしろ「当然のアウトプット」であった。
やったことはない。だが俺たちならできるーーパーフェクトサッカー北陽は思考の上で息を吹き返した。
「品乃先輩……分かりました!突破力、パスワーク、シュートの合計成績がいい友部先輩、空宮、俺の3人で攻めるぞ!!」
「そのデータ項目怪しいけど分かったよ。全部決めてやる!!」
「シュートまでの感覚は30秒~1分くらいか……厳しいノルマだけど頑張ろう」
空宮と友部は苦笑しながらも頷く。
「おっとようやくリスタートに動き始めました――っとこれは……?!なんと中盤が1人のしかいないぞ?!!」
「またこれは大胆な作戦に移りますね……タクティクスだけでなく、フォーメーションも大きく変えてきました」
田部と角馬は目を凝らして、北陽の配置を確認する。
最終ラインに6枚、その前に品乃がひとり。さらにその先、友部・空宮・月伊霧が三角形を描くようにポジションを取っていた。常識的なフォーメーションから見れば、危険極まりない賭けだ。
だが、雷門相手には、常識の範囲内だけでは届かない。
北陽は、それを身をもって理解していた。
「それでは再びキックオフです!」
主審の笛が鳴り、友部から空宮へボールが静かに転がる。空宮が反転して蹴り出したバックパスは月伊霧の足に綺麗に収まった。彼はまだ一歩も動かない。
センターサークルの中心で、目を閉じたまま立ち尽くしている。
「必殺タクティクス――
【設定ガバめな小ネタ集】
「――ここまで持ってこいと言うことか……!!」
円堂ハル鬼畜化計画第一弾。
ドブカスのよくないところに感化されて、自然とマジキチとなっていく様を見せていくんだい、と思っている。(作者の偏見含)
「雷門中の本来の攻撃リズムに戻ってきたように感じます」
これまで北陽学園と雷門中が互角に戦えていたのは、ゲームでいうフォーカス以外で無双してた状態。ぶっちゃけフォーカス入るとテンションガン無視の必殺技祭りなので余裕で勝てないよなぁ。
「必殺――ファイヤートルネード」
練習はしてない。完全にその場の思い付きで円堂は打っている。
月影も勿論初めて生で見たため、表向き「ハル、ナイスシュート」と爽やか言っているが、その内心は「ハル、ナイスシュート(ガチ引き)」であることに留意してほしい。
「当然のアウトプット」
作中最大の強化ポイント。「考えるー会話するー試合で連動する」を身につけた北陽学園はきっと強い。