転生憑依アイル君は南雲原に入学するようです 作:中谷真之
守さんからサインを貰ったあと、間もなくしてDVD片手にハルが戻ってきた。
今は2人並んで画面の前、ソファに座り込んでかつての日本代表の試合を鑑賞している。守さんは風呂へ入りに行った。
「ここのバックパス、もしかして神の一手じゃない?」
目の前のテレビを食い入るように見ているハルに、ふと気付いたことについて尋ねてみる。
ハルはいったん映像を止め、少し考えるような素振りを見せてから、口を開いた。
「……このパスを受け取った綱海さんを始点に、必殺シュートを持った選手が一直線に並ぶってことか」
「そうそう……。そんでまず、遠くからゴールを狙えるスパークルウェイブを綱海選手が直線上に
撃つ。そっからどんどんチェインしてシュートの威力を増やしていって、得点に繋がる……やっばいねこれ」
超次元サッカーといえど、サッカーはサッカーである。やはり戦略的な部分ではしっかりと考えられている。がしかし、やはり前世でのサッカーと今世でのサッカーでは天と地ほどの差があるということに間違いはない。基本的なルールが同じだけで、全くの別物だ。
「うん、咄嗟にこの連続チェインが出来るのも凄いけど、綱海さんにパスを出せば連続チェイン狙うことが可能な盤面になってる、ってことに気付いた鬼道さんが超凄いね。あの人、頭の後ろにも目ついてるんじゃないかって思うくらい視野広いんだよなぁ」
「え、会ったことあるの?」
「うん、とっちゃんのチームメイトだしね。1ゲーム付き合ってもらったんだ」
「そういうこと……羨ましっ」
そういえば、この前も壁山のおっちゃんがどうたらこうたら…みたいな話を聞いた覚えがある。流石に円堂守の息子なだけある、人脈がエグい。
「あとでとっちゃんに頼んでみる?忙しいとは思うけど、アイルだったら会ってもらえるかも!」
「ぜひお願いしますぅ!」
これからはハルさんって呼びます。理由は神だから。
雑談もそこそこに、試合の方へ意識を戻す。
うーん、やはりぶっ飛んでいる。前世基準のサッカー観で試合を見ていると、頭が痛くなってきそうだ。だが、俺もこの世に生を受けて9年目だ、この超次元サッカーにもある程度適応はしてきている。
しかし本当にレベルの高い試合だ。今のオレでは絶対に思いつけないような戦術がポンポンと出てくる。これは前世で平凡なサッカーをしていた後遺症のようなものなのかもしれない。今の俺には、超次元なムーブメントを創造する力が不足している。未だに必殺技を習得できていないのが、そのことの証明であろう。
その点で言えば、ハルは凄い。既に必殺技をいくつも成功させているし、その練度もとても高い。唯一、俺がハルに言い訳できないくらい負けているところだ。
「お、なんだ随分と懐かしいもん見てんなぁ」
「うおわ!」
「とっちゃん……いつから居たの?」
ビッッックリした。守さんがいつの間にか俺たちの真後ろに立っていた。いやマジで気づかなかった。ハルの気配消しはまさかの守さん譲りだったのか……。
「すまんすまん、驚かせるつもりはなかったんだ。にしても、こりゃあまた古い映像引っ張り出してきて、試合の研究か」
「あ、はい。今ちょうど、鬼道選手が天才であることを再確認したところでした」
「おっ、分かるか!鬼道はすげぇ奴なんだ!」
「はい!やっぱり鬼道選手ほどの空間把握能力を持つ選手は後にも先にも居ませんよ!上空からフィールドを見下ろしてるんじゃないかってぐらい盤面が全部見えてて────」
スイッチが入った俺は、あの円堂守を前にして鬼道有人について語るという、まさに釈迦に説法をかましてしまったのだが、守さんは嬉しそうな顔で、こちらの一方的な語りを聞き入れてくれた。うん、良い人過ぎんね。
ハルと試合が出来て、円堂守に会えて、サインも貰えて、彼を交えてのサッカー談義まで、こんな夢のような一日が会っていいのだろうか……この時は、俺はこれまでにないくらいの幸せに浸っていた。浸りすぎていた。
浮かれきった俺は、失念していたんだ。
この後、”あの人”が腕によりをかけて作った、夕食の数々が待ち構えているということを……
◆
「うぅ……酷い目に遭った……」
「えーっと……大丈夫?」
「あぁうん、大丈夫……ハル、伝えといてよ、ご飯美味しかったですって、夏未さんに……っ、ふぅぅぅ」
「わ、わかった……。ベッド使う?」
「お借りしようかな……」
ハルの了承を得て、ベッドの上で横になる。俺は先ほど、本物の地獄を見た。
すっかり忘れていた、守さんの奥さんがあの雷門夏未であること、そして、夏未さんの作る料理のできは決して、間違ってでも美味しいと口に出せるようなものではないということを。
流石はあの守さんに「男なら黙って食え」と言わしめ、うまいと思えば何とかなると、苦し紛れの暗示をかけるしかなかった夏未さんの料理だ。俺の胃袋は今、終焉を迎えようとしている。
夏未さんの作る料理(正確には作り置きされていた料理)だが、味は100歩譲ってまだいい。美味しくはないけど食べることはできる。美味しくはないけど!!……問題はその量だ。なんなのあの唐揚げの山。下手すると人死にが出るが?
「てかハルは大丈夫なの?超バクバク食ってたけど」
「うん、別に平気だよ。てゆーか、ははさまの料理美味しいもん」
「まじか……」
【悲報】円堂ハル、バカ舌だった。まぁでも、この環境下においてバカ舌であることは大きなプラス要素だな。なんせ、この家庭に出てくるのは、あの料理だ。あれを日常的に口にするなんて、俺には耐えられない。というか、ハルはもともとバカ舌だったのではなく、あの料理を毎日食べられるように適応するため、バカ舌にならざるをえなかったのではないのだろうか。
とまぁ、下らない考察に注意を割いて、今にも全部吐き出しそうなくらいボッコボコな胃袋に意識が行かないよう努めてみるが……うん、あんま意味ないわこれ。
……ベットに寝転がったまま、ハルの自室をそれとなく見回してみる。サッカーボール、スパイク、ユニフォーム、選手名鑑に……サッカーノート?これは……ハルの手書きだろうか、ノートの表紙にそう書いてある。サッカーのことについてノートに書き留めるのは、円堂の血筋って感じだ。
にしてもこの部屋、マジでサッカー尽くめだ。右も見てもサッカー左見てもサッカー……でも俺の部屋もこんなもんだしな。これが普通なのかもしれない。
「ん、あれは……」
目についたのは壁掛けカレンダー。ページの一か所に、大きな丸がついてる。よく目を凝らしてみてみると、丸がついている日付には、赤字で『たん生日』と書いてあった。
「なぁハル」
「ん、なに?」
「ハルってもうすぐ誕生日なの?」
「そうだけど……アイルに言ってたっけ?」
「いや、そこのカレンダー見た。俺もさ、ちょっと前に誕生日だったんだけど、新しいスパイク買ってもらったんだよね。今日もそれ履いてサッカーしてた。ハルはプレゼント何もらうか決めた?」
やはり誕生日といえばプレゼントであろう。前世では、ちょうど今の歳くらいの時の誕生日プレゼントでイナズマイレブンのカセットをもらった記憶がある。当時からサッカーとアニメが好きだった俺には最高のプレゼントだった。
今回の人生では、両親がとんでもねぇ親バカ金持ちなのもあって、毎年誕生日がお祭り騒ぎ状態になる。プレゼントも、びっくりするくらい高いものを買い与えてこようとするのだが、庶民的な感覚が染みついている俺にはあまりにも贅沢過ぎて気が引ける。だから、毎回どうにかして断って、そこそこ良さげなスパイクを新調してもらう程度に収めている。父も母も、もっと我儘言って良いんだぞってよく言ってくれるんだけど、もう十分なくらい我儘聞いてもらっているし、これ以上はちょっと人としてダメになりそうなくらいだ。
円堂家の家計も裕福だろうし、なにより一人息子の誕生日だ。ハルも誕生日には相当良い思いをしていることだろう。
「……実は俺、誕生日プレゼント貰ったことないんだよね」
「……まじ?」
ちょーっと予想外の返答が返ってきましたねぇ……。今まで一度も誕生日プレゼントを貰ったことがない?もうすぐ10歳にもなる一人っ子が?
「誕生日には、家族みんなで食事会をするんだ。家族が一緒に居られることが、一番のプレゼントだって」
……まぁ、納得。確かにハルは両親ともに多忙で、家族全員が一緒に居合わせられる機会は貴重なものかもしれない。実際、今日は夏未さんが家にいなかった。彼女は雷門中学校の理事長として、仕事に追われる日々を送っているらしい。まぁ、あの殺人的な置き土産で円堂家の夏未さん要素は十分堪能したけどね。
しかし、そうか、プレゼントを貰ったことがないのか……。家族一緒という贈り物を貰っている、というのはそうなんだが、何か形に残るものを受け取ったことがないというのは少し、気の毒に思えてしまう。
「ハルはさ、それでいいの?」
「……うん。とっちゃんもははさまも忙しいんだ。一緒に居れるだけで、俺は幸せ」
「そっか……」
そう言ったハルの顔は、言葉とは裏腹にとても切なそうで、諦念が滲んでいるようにすら見えた。
ハルは頭がいい。精神的には大人と変わりない俺と対等な議論を交わすことが出来るくらいだ。しかし、所詮はたった9歳の子供。小学生の年齢だ。ただ、サッカーが好きなだけの男の子。彼がこんな表情をするなんて、彼の親友として、とうてい看過することは出来ない。
……よし、決めた。
「じゃあさ!」
ベッドに預けていた身体をガバリと起こして、ハルの方を向く。いきなり起き上がったせいでちょっと胃の中身がシェイクされて吐きそうになるが、この場面でそんなんしたら普通に人生終わりなので我慢する。
「……俺が、ハルに初めての誕生日プレゼント、渡しに行くよ!」
「ほんと!?」
「おぉ顔ちっか」
ハルは瞳を輝かせながらこちらに勢いよく顔を近づけてきた。ちょっっと、離れられる?ゲロぶっかけるとか洒落にならんので。
誕生日には家族みんなで食事をする、というのはきっと、円堂家にとっては大きな贈り物なのだろう。そういうのも、お祝いの形としてありだとは思うし、俺に口出しする権利はない。
だったら、俺からハルにしてやれることと言えば、俺がハルに贈り物をしてやることくらいだ。
「嘘なんてつかないよ。……ハルの誕生日は再来週でしょ?そんで都合がいいことに、再来週には俺たちの練習試合がある。そん時に、プレゼントを渡そう」
「なにくれんの!?」
「だから近いって。……何をプレゼントするかは当日のお楽しみってことで」
「わかった!たのしみにする!」
よっぽど嬉しかったのだろう。鼻息荒く、明らかに高揚した様子のハル。普段の大人びた姿は見る影もなく、今の彼は年相応の笑顔ではしゃぐ、幼気な少年のようであった。
宣言通り更新激遅れしました。ごめんなさイン。
アンケートの回答ありがとうございます。ヒロインを登場させる方向性で行こうと思います。ヒロイン要らない派の方はごめんなさい。
次回更新は今週中を目指します。あと字数ももうちょい増やせたら増やします。
作者は承認欲求モンスターのため、感想評価お気に入りに目がありません。いただけるとモチベに直結します。
この作品にヒロイン居たらどう?
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うれしくない
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いらない