ユニゾンクエストⅡ(仮)~筋肉とサイコパスと犬と神々~ 作:ケルベロス(通称・ベロちゃん)
なぜかは知らないが、生まれつき呪文が一切使えなかった。
城の魔法使いに手ほどきを受けようが滝に打たれ修行しようが、はたまた神に毎日祈りを捧げて供物という名の金銭授受をしようともダメだった。いくらメラと唱えようとも、明かりが灯るどころか指先から燃えカスすら出ないのである。
これを知ったローレシアの国民どもが放っておくもなく、王子は腕っぷしはいいが勉学はまるでダメだという噂が城下町を駆け巡った。脳筋プリンスだのプロテイン王子だの筋肉モリ介だの言われ、あげくの果てにはロレやまきんにくんという立派なあだ名まで付けられていた。
俺は苦々しく唇を噛み締める。
屈辱でしかない……ッ!
玉座の間への廊下を歩きながら、沸々と湧き上がる怒りを抑え込む。
努めて冷静でいなければならない。だからこそ荒ぶる感情を鎮めることに注力するのだ。
全ては親のせいだ。あいつから生まれたせいでこんな不遇な扱いを受けてしまっているのだ。街の子供でさえ使える火の呪文のカスさえ出せないのも、筋肉モリ介と指を差して笑われ続けてるのも、全部あの玉座に居座る父親のせいだ。
今日、俺は旅立つ。はした金と一振の剣を受け取るはずだ。その剣を受取りざまに……。
俺は両手を高々と上げ、剣を構える格好を取り、そして振り下ろした。
「斬る!」
一度鎮めた感情が見えない切っ先から迸った気がした。
よし。拳を握りしめ薄暗い廊下を歩いた。
どうやら照らし出す蝋燭の灯が弱まっているらしい。レミーラで明かりを強めていたのもしれないが切れかかっているのだろう。職務怠慢だ。魔法使いどもに言っておかなければ。
廊下は階段へ真っ直ぐ伸びているが、その途中 、細い通路と交差するところで『嫌なモノ』を感じて飛び退き壁に背を預けて通路を覗き込んだ。
何かがいる。
薄暗い廊下よりも更に暗い。この先には使われていない物置きがあるだけで普段は人が通ることはない。族でも入り込んだか。
息を潜めて待ち伏せる。
廊下へ現れるその直前、俺は通路へ飛び込み族の正面へと飛んだ。タイミングは申し分なく、族が驚き戸惑っている様子が見て取れた。
即座にありったけの拳を叩き込む。先手必勝。右に左に上から下に。数秒の間に数十の打撃を打ち込む。
手応えはあった。が、それきり反撃があるわけでもなく族はその場に倒れ込んだ。
なんだ呆気ない。
段々と暗闇に目が慣れてくると、族の姿が浮かび上がっていく。兵士だった。武器を持った様子こそなかったがその身にまとった甲冑には見覚えがあった。
兜に描かれた家紋。
それは、
「ムーンブルク……」
海の向こうの大国、ムーンブルクの家紋だった。瞬時に事態を理解した。
武器を持たないということは伝令役か、あるいは族や魔物に襲われたか、あるいはその両方か。
それを仕留めたとなれば確実に外交問題であり、俺は城から叩き出されるどころか最悪極刑に処される。
これはまずい。非常に弩級にエクストラ級にまずい。
幸いここは暗い。顔すら分からない。そして他に人は見当たらない。
俺が取った行動は実に合理的な物だった。
よし。
見なかったことにしよう。
身動ぎ一つしなくなった甲冑に背を向けて、玉座の間へ向かうことにした。