ユニゾンクエストⅡ(仮)~筋肉とサイコパスと犬と神々~ 作:ケルベロス(通称・ベロちゃん)
…………。
耳鳴りのあと、急速に音が消える。名前を呼ばれた気がするけど、わからない。何も見えない。聞こえない。痛くはないけど、やにわに寒い。あ、これ、ここで死ぬやつ? って思ったけど、まあいいか。めんどくさい。どうでもいい。まあ、ちょっとカッコ悪いかな。
※
噂が嫌いだ。王族というだけで、つまらないことで口さがなく話のネタにされる。
『ローレシアの王子はまこと武力に優れていらして』
『ムーンブルクの王女は魔導を極めていらっしゃるようよ』
『我が国の王子は……』
同世代が優秀だから、劣等感は人一倍だった。
中途半端なのは、自分がいちばん良く知っている。どっちつかず。ゆえに体力も少なく、魔力もそこまで多くない。加えて、持病がある訳ではないけど、健康とは言いにくい。すぐに風邪ひくし。
せめて愛想良く、穏やかに。そうやって空っぽの自分から目を背けていた。
人当たりよく、それは偽善でしかなくて。それに向き合えなくて、さらに偽善に逃げていた気がする。
時折、空洞の自分の中で、役に立たない小さな自我が、音を立てて鳴っていた。
耳に入る噂だけで思い描くふたりの等身大に、僕は勝手に苦手意識を持っていた。
実際に会ったふたりは、想像とは少し違っていた。
噂が嫌いだと思うわりに、それに振り回されていた自分を恥じる。
モリアーティは、確かに戦闘センスは抜群に優れているけど、魔物を狩り始めたら歯止めが利かない戦闘狂。愚直で、地図を見ることなくただ直線を行くクソ真面目。
トンヌラーヌは見た目は可憐な美少女で、魔術に造詣が深い。だけど、気が強くて自分の気に食わないことは一切しないタイプ。気がついたら知らないおじさんと肩を組んでお酒を飲んでる。地図を見ることなんて考えもせず、思いついた方向に突き進んで行く。
おのずと、僕がナビゲーターにならざるを得なかった。もともと地図を読むことは得意な方だったし。迷わず目的地にたどり着いた時には小さな自己肯定感を得られた。
きっかけは満月の塔だった。
クレセンスと名乗った魔物は、麻痺攻撃からの物理攻撃で、なかなかの強敵だった。
いち早く麻痺を受けた僕の前に、ふたりは立ちはだかって守りの姿勢を見せたんだ。
僕だって、守られたくなんかない。
ふたりの隣に並びたい。
悔しくて、悲しくて、情けなくて。
クレセンスを撃破したあとも考えていた。……なにか出来ることを模索しないとと思った。
だからこそがむしゃらにレベル上げに専念したけど、いくらレベルが上がろうとも、ふたりの横に並べる自信なんてまったくついてはいなかった。最初から器が違うのだと。
僕はいつだって卑屈で、中途半端と囁かれたままの自分でいた。
だからこそ、あの6本剣にしてやられたのかもしれない。
それでもあの頃、……たぶん今だって。
手を伸ばせば、掴んでくれる仲間がいる。守りたい妹もいる。
救わないといけない盟友が、いる。今ここで、ただ漫然と尽きることはできないんじゃないか。
いつもどこか空虚で、他はもちろん、自分の命の重さにすら価値を感じなかった。
世界なんてどうなってもいい。大事なのは、君たちだけだ。そんな気持ちを思い出した。僕の空の殻の中を満たす唯一のもの。
めんどくさいとか、言ってる場合じゃないよね。
僕が、あの呪文を覚えたのは必然かもしれない。自己犠牲なんて概念が、そもそも僕にはない。だからこれは今こそ使う呪文だ。
思考が巡るということは、まだ、少しは体が動くだろうか。無詠唱でも、慎重に練れば発動できるだろうか。
今回の敵は、明らかにイレギュラーだ。
これでダメージを与えられれば。彼に任せれば、きっといける。モリ夫なら、起死回生の一手を。
祈るような思いで、魔力を練った。
あとは頼んだからね、……相棒。