ユニゾンクエストⅡ(仮)~筋肉とサイコパスと犬と神々~   作:ケルベロス(通称・ベロちゃん)

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16 サマルトリア その五

…………。

 

耳鳴りのあと、急速に音が消える。名前を呼ばれた気がするけど、わからない。何も見えない。聞こえない。痛くはないけど、やにわに寒い。あ、これ、ここで死ぬやつ? って思ったけど、まあいいか。めんどくさい。どうでもいい。まあ、ちょっとカッコ悪いかな。

 

 

 

 

 

噂が嫌いだ。王族というだけで、つまらないことで口さがなく話のネタにされる。

 

『ローレシアの王子はまこと武力に優れていらして』

『ムーンブルクの王女は魔導を極めていらっしゃるようよ』

 

『我が国の王子は……』

 

同世代が優秀だから、劣等感は人一倍だった。

中途半端なのは、自分がいちばん良く知っている。どっちつかず。ゆえに体力も少なく、魔力もそこまで多くない。加えて、持病がある訳ではないけど、健康とは言いにくい。すぐに風邪ひくし。

せめて愛想良く、穏やかに。そうやって空っぽの自分から目を背けていた。

人当たりよく、それは偽善でしかなくて。それに向き合えなくて、さらに偽善に逃げていた気がする。

時折、空洞の自分の中で、役に立たない小さな自我が、音を立てて鳴っていた。

 

耳に入る噂だけで思い描くふたりの等身大に、僕は勝手に苦手意識を持っていた。

実際に会ったふたりは、想像とは少し違っていた。

噂が嫌いだと思うわりに、それに振り回されていた自分を恥じる。

 

モリアーティは、確かに戦闘センスは抜群に優れているけど、魔物を狩り始めたら歯止めが利かない戦闘狂。愚直で、地図を見ることなくただ直線を行くクソ真面目。

 

トンヌラーヌは見た目は可憐な美少女で、魔術に造詣が深い。だけど、気が強くて自分の気に食わないことは一切しないタイプ。気がついたら知らないおじさんと肩を組んでお酒を飲んでる。地図を見ることなんて考えもせず、思いついた方向に突き進んで行く。

 

おのずと、僕がナビゲーターにならざるを得なかった。もともと地図を読むことは得意な方だったし。迷わず目的地にたどり着いた時には小さな自己肯定感を得られた。

 

 

きっかけは満月の塔だった。

クレセンスと名乗った魔物は、麻痺攻撃からの物理攻撃で、なかなかの強敵だった。

いち早く麻痺を受けた僕の前に、ふたりは立ちはだかって守りの姿勢を見せたんだ。

僕だって、守られたくなんかない。

ふたりの隣に並びたい。

悔しくて、悲しくて、情けなくて。

クレセンスを撃破したあとも考えていた。……なにか出来ることを模索しないとと思った。

 

だからこそがむしゃらにレベル上げに専念したけど、いくらレベルが上がろうとも、ふたりの横に並べる自信なんてまったくついてはいなかった。最初から器が違うのだと。

僕はいつだって卑屈で、中途半端と囁かれたままの自分でいた。

だからこそ、あの6本剣にしてやられたのかもしれない。

 

それでもあの頃、……たぶん今だって。

手を伸ばせば、掴んでくれる仲間がいる。守りたい妹もいる。

救わないといけない盟友が、いる。今ここで、ただ漫然と尽きることはできないんじゃないか。

 

 

 

いつもどこか空虚で、他はもちろん、自分の命の重さにすら価値を感じなかった。

世界なんてどうなってもいい。大事なのは、君たちだけだ。そんな気持ちを思い出した。僕の空の殻の中を満たす唯一のもの。

めんどくさいとか、言ってる場合じゃないよね。

 

僕が、あの呪文を覚えたのは必然かもしれない。自己犠牲なんて概念が、そもそも僕にはない。だからこれは今こそ使う呪文だ。

思考が巡るということは、まだ、少しは体が動くだろうか。無詠唱でも、慎重に練れば発動できるだろうか。

今回の敵は、明らかにイレギュラーだ。

これでダメージを与えられれば。彼に任せれば、きっといける。モリ夫なら、起死回生の一手を。

 

祈るような思いで、魔力を練った。

 

あとは頼んだからね、……相棒。

 

 

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