ユニゾンクエストⅡ(仮)~筋肉とサイコパスと犬と神々~ 作:ケルベロス(通称・ベロちゃん)
あー、めんどくさい。
美女に囲まれておいしいお酒だけあればいいのにね。
……いや、ほんとは美女もお酒もいらないんだ。楽しければ。
王族の責務? そんなものたまたまここに生まれただけで。
ロトの末裔? サマルトリアの自覚? なんだそれ、知ったことじゃないよ。
だけど僕はいつもののんびり屋の仮面を被る。
「光あれ!」
勇者の泉のじいさんが高らかに言った。うん、なんか回復した気がする。
最近魔物が増えて過疎ってるから、久々の客は嬉しいらしい。
僕はうどんを食べに来ただけなんだけど。
まあ、そこは相手に合わせておくよね。
城に帰りたくないなあ。
優しい両親、可愛い妹。善良すぎる人々。……うんざりだ。
今日はリリザの街にでも泊まりに行こうかな。
勇者の泉のある洞窟を出て、【ロトの勇者の洗礼をあなたにも!】【名物 ロトうどん】ののぼりを横目に、リリザへの道を歩む。
と、空が赤く燃えているような気がした。
めんどくさい。目を逸らす。僕には関係ない。
リリザに到着して、宿に着く。
リリザでは僕の顔を知られていないのがいい。
女将は夜職くずれの痩せた、いやらしい目つきのおばさんだった。あれ、こんな人だったかな。少し違和感を抱く。興味のない人間の顔は覚えないので、よくわからない。
女将は僕の頭の先からつま先までねめつけるように視線を動かし、真っ赤な唇の端に舌を見せながら部屋の鍵を差し出した。
部屋に入って一息つく。ここの部屋には内風呂もあって気に入っている。風呂に入ってのんびりしようかと思っていると、ドアがノックされた。
「女将でございます」
僕は人当たりのいいひょうきん者を装って返事する。
「あれ~? 女将さん、どうされました?」
「お飲みになるかと思いまして、お酒をお持ちいたしました……」
扉を開けると、スリップ姿の女将が酒の載った銀のトレイを持って立っていた。唇がさっきよりツヤツヤしている。勘弁してほしい。
「お気遣いありがとうございます。芋焼酎ですか! 珍しいですね」
「良ければご一緒して……」
「僕疲れてたので寝酒に最高ですね! ありがとうございます‼ では!」
何か言いかけた女将を無視してトレイを受け取り、扉を閉めた。
しかしこの宿に来てからの違和感がすごい。従業員もなんだか腕っぷしの強そうな人ばかりだ。
魔物が増えているので、そのためかもしれない。だけど……。僕は芋焼酎に視線を向ける。怪しい。
王族である僕は、小さなころから毒に慣らされていた。致死性のものではなくとも、身体に悪影響を及ぼすものには耐性がある。同時に、『そういうもの』が混入されていた場合、感知できるように教育されてきた。
芋焼酎を舐める。
これはラリホー草だな。
眠らせて何をするつもりだったんだろうね。
とりあえず風呂に入り、ベッドに入ったものの、あの赤い空がなぜか思い出されて眠れないまま。
時間がとてつもなく長く感じ、今は深夜なのか早朝なのかもわからない。
部屋の扉が、開く音がした。
「深く眠ってるはずだけど、手早く済ませな」
囁くような女性の声。女将の声だな。
同時に数人、部屋に侵入する気配があった。
盗賊か。冒険者の格好をしていたつもりだけど、僕の高貴なオーラは隠しきれていなかったらしい。
……五人か。女将合わせて六人。
部屋を探っているやつらに向けて言い放つ。
「何してるんだい?」
愉しくなってきた。
ベッドサイドの明かりを灯すと、相手に警戒の色が広がった。ナイフや山賊刀、鞭も見えるね。
「きさま……」
一人が叫びかけた時。
僕は口元のゆるみを隠せずに呪文を唱えた。
「……ギガデイン」
女将以外の五人に、骨すら残さぬ裁きの雷が、落ちた。
「ヒイィ‼」
女将が悲鳴をあげた。いや、女将ではないだろう。盗賊の頭領。
「宿の経営者はどこにいるの?」
「い、命だけは」
「聞いてるんだけど?」
メイクの崩れた汚い顔に顔を寄せ、にっこり笑って見せる。
女はガタガタ震えていた。
「ち、ち、地下のワインセラーに……」
「そう、いい子だね」
僕の言葉にほっとしたのか、伏せていた顔を上げるメス豚。
僕は微笑みながら詠唱した。
「ギガデイン」
宿の経営者と従業員を無事に助け出し、盛大に感謝された。数日前に襲われ、宿を乗っ取られていたらしい。金目の物を持っていそうな冒険者を襲っては始末していたようだ。
「それで、あの、盗賊一味は」
不安そうに聞く、恰幅のいい優しそうな本当の女将に答えた。
「もう二度とあなたがたの前には来ないと思いますよ~」
多少部屋が焦げたかも知れないけどごめんね。
ふたたびベッドに戻る。とても愉しかったので、今度こそ眠れそうだ。
父様はずっと、サマルトリアは中途半端だと内心思っていたのは知ってるよ。
剣技でも魔法でも他国に敵わない。僕が勇者の究極呪文を習得できたことも知らず。
言うつもりもないけれども。僕はそう、のんびり屋で剣も魔法も中途半端なうだつの上がらないキャラクターをやめるつもりはない。めんどくさいから。別にいつ死んでもいいけど僕が強いから負けないだけで。
明日は厄介ごとがなければいいなと思いつつ、僕は眠りについた。