ユニゾンクエストⅡ(仮)~筋肉とサイコパスと犬と神々~ 作:ケルベロス(通称・ベロちゃん)
ローラの門を抜けた時には、陽は高く登っていた。
ここからムーンペタの町に徒歩で行けば深夜になるだろう。宿の確保も難しいかもしれない。
だけど、運良く町に野菜を売りに行くと言う老婆の荷馬車に乗せてもらえることになった。
荷馬車には聖水が施されていて、町に着くくらいまでは保ちそうだ。
荷馬車の後ろに二人で腰かけて緩やかな道中を往く。
老婆の好意で貰ったおにぎりをひとつ食べて、隣に座る横顔を眺める。
かつて最も親愛した彼の横顔を。
ヤツは好意のおにぎりを「筋肉にはたんぱく質なので!」ときっぱり断り、持参の鶏むね肉の燻製を頬張っている。
いや、君、前にうどん三杯食べてきたって言ってたよね? 炭水化物食べるよね?
僕の視線に気がついて、食べかけの鶏むね肉を差し出してきた。
「食べるか?」
「……遠慮しておくよ」
「ひと口30回、よく噛んで食べるといいぞ」
人の話を聞かず差し出してくるむね肉を丁重にお断りして、うんざりして目を逸らした。
空は雲ひとつなく青くのどかで、地は見渡す限り木々と草原が広がっている。
どこかで争いが起こっているなんて信じられないくらい安らかだった。
しかし。
隣で今も慎重に咀嚼する気配を感じながら思う。
ここまで来るのにほんと大変だった……。
モリアーティは一歩進むたびに一スクワットジャンプを入れるから、歩くのにめちゃくちゃ時間がかかったし。
一応、うちの……サマルトリアの城に合流した報告をしに行った時も、王の間ですら一スクワットジャンプ入れやがって、そんなモリアーティを見て可愛い妹が頬を染めてたのもムカつくし。
あのヤンデレストーカーの名前を戴いたローラの門では地下通路が水で塞がれていて、立ち往生。
おもむろに脱ぎ始めて下着一枚になり、手早く荷物を身体にくくりつけたモリアーティが「よし、泳ぐか」なんて言うし。
いや人間には無理でしょ。尊敬の眼差しで見てるんじゃねえよ兵士1。
こっち期待した目で見るんじゃねえよ兵士2。
どうにかかわきのつぼは洞窟の奥にあるから魔物と戦闘し放題! という僕のプレゼンに納得してもらえたけれど。
はあ、ため息が出る。
面白そうと思ったことは確かだけど、結局ロトの強制力に逆らうことはできず、旅に出てしまったことに。
うどんに対抗してラーメン屋するのも良いかなって思ってたんだけどな。まあ、王族なんで無理だろうけど。要は使命なんて関わらずに気楽に生きたい。
かつて三人で笑い合いながら、高め合いながらの道中を思い出して。
その後の裏切りを回想して胸の奥がキリリと痛む。
最愛の人たちを憎いと思う、思いきれない、この感情に。
全部手にすることが出来ないなら、全て消えてしまえばいいのに。
思い返すと、あれ……と疑問が生じる。
ローラの門、通路は水で塞がれてたんだっけ……?
記憶が曖昧だ。
「そういえばおまえさ、」
ここ数日ですっかりくだけたモリアーティが口を開く。
「思ってたんですけどおまえってひどくないですか?」
なんとなくムッとして言い返すと、顎に手を当てて少し考え込んだモリアーティが言った。
「んー、じゃあハト吉」
驚いた。変わったようで変わらないもの。
「じゃあ、やっぱり君はモリ夫だね」
遠くにムーンペタの町が見え始めた。陽が落ちるまでには着けるだろう。
空が橙色に染まっている。ムーンペタの入口に着き、僕は老婆に丁寧にお礼を言っていた。
モリ夫は着く直前に馬車を飛び降りていた。ほんとそういう自由すぎるとこだよ、ちゃんとした礼儀も守れないなんて。
と、考えた時、老婆の後ろで荷馬車に襲いかかったマンドリル二匹の首が落ちた。
ギリギリで聖水の効果が無くなっていたらしい。
彼女に惨状が見えないように老婆の背後に立ち、口の端を持ち上げたモリ夫を見て目を眇める。
ほんと、そういうとこだよ。