ユニゾンクエストⅡ(仮)~筋肉とサイコパスと犬と神々~ 作:ケルベロス(通称・ベロちゃん)
ウチのパパとママは生まれた時から結婚が決まってたいとこ同士なんだって。
なんだっけ、どっちもロト? とかいう人の子どもの子どもの……そうそう、子孫ってやつ。
だからウチもお兄も、魔法がうまく使えるし、体術だって上手なんだってパパが言ってた。
それ、違くない? ウチがそれできるのは、どっちも強くなりたくて勉強したからだし。ロトとかいう知らんオッサンの子どもっていうだけで強いなら、勉強とかいらないじゃんね。
ちょっと前、なんかいっぱい怪我した兵士が急に来て、お城がわちゃわちゃしてたの。
ウチはさ、いつものカッコしてたから、部屋から出るなってパパに言われて。
「怪我した人ってどこの人?」
部屋の護衛してる兵に聞いたら、ムーンブルクの人だって言ってた。
ムーンブルクって聞いたことあんなー。
なんかちっちゃい頃ウチのことブスブス言ってきたダサい年増がいたような……。
そうそう、いつものカッコってのは、たとえば今日なら黒のチューブトップにショーパン履いて、ピンクの裾短めボアジャケット。ニーハイブーツはチューブトップに合わせて黒。ピアスはでっかい輪っかのやつを左耳だけ。あとメイクとネイルはちょっとイカつい系にしてみた。気分でメイク変えるの楽しいよね。
要するに、外交の場所に出れないんだって、お姫様ドレスやメイクじゃないと。でも、姫のせきむ? として出ないといけないんだって。敬語だって喋れるよ! そうゆう時はちゃんと自分のことワタシって言えるし、父、母、お兄ちゃんって呼んでるし。
王族だし、お客さん来るのはたいがい先にアポ取って来るから、そん時は合わせてお姫様ドレス着るけど、普段はずっとこんなん。
オシャレ好きだし、野暮ったいドレスはダサく見えて好きじゃない。
パパもママもお兄もウチに甘いから、お城の人はみんな知ってるけど黙っててくれてるし、お城の外に出ちゃえばウチが姫だなんて誰も気づかないわけ。
なんでウチが強くなりたいと思ったのか、言っとこうかな。
ウチには城の外に友だちがいたの。
ローラの門の近くの森の中、その子のパパはきこりをしてる、平民。ウチはしょっちゅう森の小屋に遊びに行ってたんだ。
だってその子、めっちゃオシャレだったし、なにより気が合った。
ふたりでどうやったらつけマが一発でうまく貼れるかとか、城下町のお店のリップの保ちと発色全種類試してみたいとか、お互いのパパのウザイとことか。
つまんない話でずっと話していられた。
いた、って過去形で言ったのは、その子、魔物に襲われて死んじゃったから。
ちょうどウチもいた時、たまたま、その子のパパが遠くに出てた時。いっかくうさぎの集団と、バブルスライムが襲ってきたんだ。この辺でバブルスライムなんて見たの初めてだ。
城や町と違って、魔物よけの浄化は小屋では弱い。たまに魔物が侵入する事があった。
ウチは渾身のまわしげりをいっかくうさぎに叩き込んだ。友だちを後ろに守りながら、必死だった。
5匹いたいっかくうさぎのうち、3匹が息絶える。残る2匹がなりふりかまわず攻撃してくる。横っ面にくらって、口の端が切れる。もう1匹が飛びかかってくるのをこらえたその時、バブルスライムがウチの脇をすり抜けて、友だちに攻撃したんだ。
「ウチのダチに触んな!!」
うさぎどころじゃない。身を返して、ブニョブニョした緑色に拳をぶち込んだ。会心の一撃。
友だちはぐったりしてる。怒りのまま、ネイルチップが剥がれるのも気にせずに残り2匹のいっかくうさぎを殴り倒して、友だちに駆け寄った。毒を受けてる。
たぶん、どくけし草は小屋のどこかにあるんだろうけど、よそのおうちのこと、よくわからない。
目に入る棚やカゴやツボも全部見たけど、わからない。友だちは意識がなくて答えられそうになかった。マジでクソ、キアリー覚えときゃよかった。
城から取ってきた方が早いかもしれない。
「ちょっと待ってて!!」
ウチは町に向かって駆け出した。でも……戻ってきた時、友だちはもう、ダメだった。
教会に連れてこうと、帰ってきた友だちのパパに言った。
友だちのパパは首を振って、「平民には難しいよ」「危険な目に合わせてすまないね」そう言った。いちばん悔しいはずなのに。いちばん悲しいはずなのに。
ウチは自分を王女だって言ってなかった。ゴールドなら出せる、大事な友だちを助けたい、そう思ったけど、言い出せなかったの。
ズッ友だと思ってたのに、なんていうか、友だちとの絆? なくしちゃいそうで。
自分がズルいと思う。でも、生き返ったあの子にがっかりされるくらいなら。
ウチは、黙って小屋をあとにしたんだ。もうウチには、友だちの名前も口にする資格がない。
これが、ウチがもっと強くなりたいワケ。ホントはわかってるんだよ、友だちが死んじゃったのは自分のせい。でもさ、ウチはまだちっちゃかった、そうでも思ってないともたないんだ、気持ちが。
なんか会議が長引いてるみたいで、パパもママもお兄も、なかなか会議室から出てこないみたい。
ムーンブルクとかの兵士さんはひどい怪我で意識はなくて、治療されてるみたい。ウチはやっと部屋の外に出るのを許された。
会議室の様子を探ってみようかな……と思った時、扉が開いて、お兄が出てきてウチの名前を呼んだ。
「サーシャ」
ふんわり微笑む優しいお兄だ。
「用意があるから、もう行きますね」
お兄はそのまま自分の部屋に行くみたい。開いたままのドアから飛び込んだ。
「パパ! ママ!」
兵士長とかほかの貴族のひとがびっくりしてたけど知らないよ。
「なにがどうなってんの!?」
パパから聞かされたのは、……そう、たしか白ローブのダサい年増のいた国が魔物に攻め滅ぼされたこと。
ママから聞かされたのは、お兄がロトの血を引くものとかいう理由で、わるものをやっつける旅に出ること。
「ハーツクライは、明朝には旅立つでしょう。他の、ロトの子孫と合流するために」
「なんでお兄だけ? ウチも子孫? じゃん」
ママに言うと、寂しそうな笑いが返ってきただけだった。
意味がわかんない。ママのことは好きだけど、好きすぎて滅! だよ。
ウチは部屋にダッシュで帰り、王族御用達のどうぐぶくろに旅の用意を片っ端から詰め込んだ。主に服と靴と、ネイルチップとかお化粧品、自分の気分がアガるものばっかだけど。
絶対ついてってやる。ウチだって一応、魔物には恨みがあるんだから。
翌朝、めちゃくちゃ早い時間だったけど、神経研ぎ澄ましてたよね。
お兄の部屋のドアが開く気配がしたからマントを羽織り、どうぐぶくろを持って飛び出した。いつでも行けるように寝る前からお気に入りの袖なしチュニックにタイツを着こみ、履きやすいブーツも用意してた。護衛の兵は眠りこけてる。頼りになんないな。
お兄はへにゃっと笑って、戸惑ったように言った。
「見送られるのは嫌だから早朝に出ようと思ってたのに……行くね」
「ウチも行くよ!!」
背を向けたお兄に宣言する。
と、
なんだか空気がヒンヤリした。なんだろう……なんか怖い、お兄が。
肩越しに振り返ったお兄の笑顔はいつものまんまなはずだった。だけど、なんだろう。このプレッシャー。
「サシ美は城にいてくださいね」
口調も柔らかいのに、なんかすっごい緊張する。
「どこ行くの」
「さあ……まずは勇者の泉にでも行ってうどん食べようかなって思ってますけど」
お兄は微笑んだままこっちに向き直り、ウチの頭を撫でた。
「いい子にしてなよね」
冷や汗が背中を伝った。その場では、ただ、うなずくことしかできなかった。