「俺は衛。君は?」
「わたしはクラモン。ヘンななまえ〜」
「変じゃねぇし!」
これは私が彼と出会った頃の記憶。
ジャングルの中で出会った頃は、幼年期Ⅰだった事もあって彼を変なデジモンだと思っていたし、変な名前だとも思っていた。
あの頃は何も知らず、自分の能力もかなり限定されていてそれに疑う事もしなかったけど彼と出会って世界は広く、そして彼との旅で多くのデジモンがいる事を知った。
「成熟期に進化したのは俺達のチームだと君が初めてさ、ガジモン。いや、ブラックテイルモンって言った方がいいか?」
「そうしてくれ。それに、マモルの顔に泥を塗りたくないからね!」
「別に気にしちゃいねぇが、やる気がある事はいい事だ。引き続き、頼むぞ」
「おうよ!」
デジタル・ワールドを探検していく中で、後にサクヤモン達になるデジモンを仲間に引き入れていく中で、私が成熟期に入る頃にはここまで進化させてくれた感謝と彼に対する忠義が大きくなっていた。
「まさか、レディーデビモンになるとはな」
「ロイヤルナイツに負けてられないもの。これぐらいするわよ」
「まーうん、よろしく頼む」
「えぇ」
完全体のデジモンと戦った際、成熟期までしか進化できなかった私達は2回目で漸く勝てたけど1回目の戦いの際はズタボロにされてしまった為、特訓に精を出す事になった。
成熟期に入ってから暫くして、人間に率いられたデジモンが居るという噂を聞いたロイヤルナイツの1人がやってきて、彼らの元で特訓をする様になってから初めての敗北だったからだ。
それまで、有頂天だった私達の鼻を綺麗に折ってくれたロイヤルナイツを見返してやる!と意気込むぐらいには、やる気が漲っていたのだけど完全体まで進化できる様になるとマモルの態度が妙にぎこちなくなった。
一体、どうしたのかしらね?
「まさか、イグドラシルそのものが異常をきたしていたとはね。そりゃ、みんなも暴走する訳だ」
「かなり震えてるわよ? 大丈夫?」
「あっあぁ、武者震いじゃねぇかな? あんなのを無力化してから修復作業に入るんだからよ」
「その割には声も震えてるわよ?」
「それは言わないってのがお約束!」
究極体に進化できる様になり、暫くしてから漸くわかったのは私達が人間におけるスタイルが良い美女に該当する為、マモルの対応がぎこちなくなった事を揶揄う様になったのだが今はそう言う雰囲気ではないのは確かだった。
何しろ、デジタル・ワールドにおける中枢であるイグドラシルそのものに致命的なバグが発生して暴走中な為、その影響でデジタル・ワールドの環境やデジモンそのものに異常が出始めているのだ。
今すぐにでも、修正しないとデジタル・ワールドそのものが崩壊してしまうので、暴走しているイグドラシルを目の前にロイヤルナイツと一緒に相対しているのだが、肝心のマモルが赤の他人から見ても分かるぐらいには震えてる。
まぁ、私達もデジモンにとって神とも言えるイグドラシルに攻撃を加えようとしているのだから、震えて当然なのだけれど私達のマスターであるマモルがそんな調子じゃ、不安で仕方ないわ。
「緊張するのは分かるけれど、私達にとっての最終戦争だ。緊張しっぱなしも困るのだが?」
「そうっすね、アルファモン。ふーっ………よし! これより、イグドラシルの無力化に入ります!」
そう思っていると、ロイヤルナイツの中ではイグドラシルとの戦いまで姿を見せなかったアルファモンが震えるマモルを宥めると、彼は深く息を吐いてから私達に指示を出した。
その指示は的確で兎に角、イグドラシルにダメージを与えて動けなくさせる指示だったので私達は勿論、ロイヤルナイツも素直に従って確実に動いていった。
「そうか………これが、喪失か」
「どうして泣いているのかしら?」
「いや………これは、言えない。これだけは、誰にも、言えない」
イグドラシルを無力化し、マモルがイグドラシルの中に入ってバグを修正した後で出てきた際は膝を突き、両手を地面に置いた四つん這いの状態で涙を流していたので聞いたのだけどその答えは現実世界に来た後でも得られてはいない。
ただ、彼の中で何かが変わったのは確かで大きな喪失感を感じていた様だけれど私達にはそれが何かが分からなかったし、現実世界で再会した当初は喜びの余り、揉みクシャにしたけれど生活を共にしていく内に最初に会った当初の様な雰囲気を失っている事に気が付いた。
そう。彼の中で何かが変わった。私達には言えない何か。彼の価値観を覆すような何か。
その答えを得る為、何度も究極体になって添い寝なんかをしても未だに分からないけれど、少なくとも彼にとっては私達の存在は大切なものである事は確かだと思う。
でなければ、私の他にもサクヤモン達が添い寝をしても拒否しないどころか喜んでいるとの事だし、公私共に私達と行動を共にしている事を考えると悪く思ってはいないと思う。
だからマモル、心の準備ができたらでいいから何を失ったのかを教えてね?
「 モン、リリスモン!」
「んあ?」
誰かに呼びかけられる声に引っ張られて、重たい瞼を持ち上げる。
何度か、瞬きをしてぼやけていた視界を安定させれば目の前には深緑色の鎧と金色の羽が特徴の天使型デジモン、オファニモンがいて周囲を見渡せばマモルのデジヴァイスの中にあるファームに居る事を思い出した。
どうやら、待機している間に居眠りをしてしまったらしいので横たえていた体を起こし、頭を数回振ってから眠気を飛ばした。
「貴女が居眠りをするなんて珍しいわね」
「えぇ」
「どんな夢を見ていたの?」
「さぁね。ただ、マモルを守ってもっと一緒に暮らしたいと思える夢だったと思う」
「そう」
私の言葉に、オファニモンが少し憂いを帯びた返しがきたので彼女にもどんな夢を見たのかが察したのだと思う。
少なくとも、あの場にいたメンバーはマモルの涙と静かに震える声を発する状況を見ていた訳だし、5年と言う年月を一緒に過ごした仲としては当時の彼があそこまで泣きじゃくる姿を見た事がなかった。
「少なくとも、私達がいる間は彼を悲しませたくはないわね」
「えぇ、その為にも互いに努力しましょう」
その為、キセルに火を付けてからオファニモンに声をかけると彼女も静かに頷いた。