「 全く、いくら弱いからってボコボコにする必要はなかっただろう? お陰で後輩である電脳科の現科長から小言を言われたぞ? 女性を泣かせるなってな」
「すみません、広大さん。余りにも彼らのたるみっぷりと仲の微妙さを見ていたら居ても立っても居られなかったもので」
「衛がそこまで言うならかなりの物なのだろうな。コーヒー淹れたぞ」
「あぁどうも」
電脳科のメンバーをデジモンバトルでボコボコにしてから数日後、いつも通りに暮海探偵事務所に向かうと待っていた広大さんに説教を食らったので言い訳をさせてもらうと、杏子さんがコーヒーを持ってきたので受け取った。
ただまぁ、こう言う時に限って杏子さんが差し入れとして持ってくるコーヒーには、本来ならコーヒーに入れない物が入っているのでかなり警戒したのだが飲まないと話を進ませないぞ、と言う広大さんの圧を受けたので仕方なく一気に飲んだ。
「かっらぁ!? タバスコ入れたでしょ、杏子さぁん!?」
「少々、天狗になっている様だからな。その伸び切った鼻をへし折るには持ってこいなコーヒーを考えた結果、コーヒーの香りに違和感がない程度の量を入れるのに苦労した一品だ。楽しんでもらえて何よりだ」
「寧ろ、モルモットの方が正しいですよねぇ!? しかも肛門とかがお釈迦にならない程度の分量だから地味に腹の不調が響いてくる量ですよ、これぇ!?」
コーヒーの銘柄とか、淹れ方はド素人なのでまぁ良い香りと思っていたのだが、コーヒーの香りに誤魔化せる分量のタバスコが入っていた為に2つの味が口の中で混ざり合ってコーヒーの味を楽しむ所の話ではない。
こう言う変な所で、勘が働くから彼女の後ろにロイヤルナイツの1体が控えているのも相まって杏子さんには頭が上がらないんだよなぁ。
「盛り上がっている所悪いが、今回の騒動における調査書が完成した。確認してくれ」
「盛り上がってない。絶対に盛り上がってないですよ、これぇ………」
その為、2〜3日は軽度の腹の不調を抱える事になるなぁと思いながら杏子さんと話していると、広大さんからマスターティラノモンがリアライズ*1した原因の調査結果が記された紙媒体の資料を渡されたので、空になった容器を杏子さんに返してから内容を拝見した。
「事の発端は、黒ずくめの人物から渡された怪しいUSBメモリをデバイスに接続した直後ですか。と言う事は渡された人物の特定は済んでいると言う事ですね?」
「あぁ。今は警察署の方で聴取を受けている」
「となれば、黒ずくめの方の行方は未だに分からないと」
「そう言う事になる」
内容は比較的分かりやすくて、マスターティラノモンをリアライズさせたのは平凡な会社員なのだが、リアライズさせる過程が面倒であり、そのきっかけとなる人物がどういう目的を持ってその会社員にリアライズさせるUSBメモリを渡したかだ。
しかも、東京を始めとする都会には監視カメラなどが張り巡らされている状況において、個人を特定する為の顔だったりを分からなくする様に黒い鍔広の帽子や服装をしているとの事で、普通であれば難事件の1つになるのは確実だろう。
「難事件になりますね」
「そこでだ。君の伝手でいくつかのテイマーチームと共に民間での調査を行なってほしい。成果報酬は応交渉との事だ」
「彼らが応じてくれるかはわかりませんが、やってみますよ」
「あぁ、やってくれ」
とは言え、普通であればこう言った調査書は証人から発せられた証言の裏を取ったり、内容を精査してから公表されるのだが今回の場合はデジモンによる被害が大きかったのも相まって、民間の探偵事務所にも調査の依頼が来ているらしい。
その為、要点だけとは言っても内容が回ってきたので広大さん達も彼らの伝手を辿って調査する一方、俺も俺で調査する事にした。
「珍しいわね、貴方から来るなんて」
「まぁ、よっぽどの事がない限りはこっちでどうにかなりますからなぁ。それはそうと先日、マスターティラノモンがリアライズした件については知ってますよね?」
暮海探偵事務所を出た俺は、すぐ近くにある個人でやっている小規模な相談所に足を運んだ。
その相談所は、俺がデジタル・ワールドから帰ってきて暫くしてから導かれるかの様に入店した為、それからは何かと縁のある場所なので相談所を運営している人と話し込んでいた。
「えぇ、かなりの被害が出たそうね?」
「はい。その件で、作為的にリアライズさせたらしいっすよ?」
「この世界だとよくある様だけど、貴方がそう言うと言う事は余程の事なんでしょうね」
「えぇ、どうやら黒ずくめの人物がリアライズの一助を担っていたそうなんで、何か情報があったら教えてほしいんですよ。ミレイさん」
「ごめんなさいね。今の所、該当しそうな話はなさそうよ」
俺がミレイさんと呼んだ相談所を運営している女性、御神楽ミレイさんはデジファームを管理している管理人的な立場であり、民間で開発したデジファームと違って質と安全性と言う点で彼女が抜きん出ている。
その為、俺が持っているスマホ型デジヴァイス内にあるデジファームと同期して問題がないかを確認してもらっているのと同時に、世間話がてらに情報のやり取りをしているのだが、今回は梨の礫といった所か。
「分かりました。何かあったら連絡ください」
「えぇ、目ぼしい情報があったら連絡するわ。はい、デジファームのチェックが完了するから返すわ」
「ありがとうございます。また来ますね」
その為、チェックが終わったデジヴァイスを返してもらったのでその分のお金を支払ってから相談所を出て次の場所に向かった。
アンダーグラウンド LV.1
帰宅後、リアライズしたリリスモン達と夕食を取ったり、宿題をしたりした後で電脳空間に潜ってある人物と落ち合う事にした。
究極体まで進化させる奴が極端に少ない現状において、究極体まで進化させた奴の動向によって世界情勢が一変するリスクが存在する以上*2、複数体の究極体デジモンを従えている俺の動向だって自然と注目されるし、特定のグループに入れば変な解釈をされてあからさまな勧誘や余計な争いがおきるので、数多のテイマーチームが結成される中でそれらから距離を取っていた。
とは言え、完全にやり取りを断ち切ると今度はいざと言う時に行動が遅れるので、広大さん達を初めとした信頼できる人達からの紹介された人の中で俺個人が信用できるな、と思った人とは個人的な付き合いをしているのだが今から会う人もその1人だ。
「よー、まさか衛から依頼の話が来るとはな。今度はどんな内容なんだ?」
「マスターティラノモンが渋谷で暴れた事は知ってるだろう?」
「あぁ、あの事件な。かなりの被害者が出たっつー話だが、まさかそれか?」
「その通りさ。本来なら単なる事故で済まされる話なんだが、どうもきな臭くなってきてな。データ送った」
その人物とは、真田 アラタ。
俺よりも少し歳上の凄腕ハッカーで、幅広い交友関係や情報網を持っている事から俺よりも幅広く情報を集められるだろうと思って、最初に声を掛けた。
「………マジかよ、かなりきな臭いな」
「だろ? ただ、今回の依頼はあくまで調査の一環だから実際の逮捕やバトルは警察の方で動くらしい」
「そのケーサツは頼りになるのかよ?」
「正直に言って微妙だな。なんせ、相手は強制的にデジモンをリアライズさせる技術を有してるんだ。後手に回るだろうな」
「ハッ、衛も苦労するな」
「まーな」
俺の動向にも注目を浴びている以上、バイト先である暮海探偵事務所も調査されるのは当然の事であり、広大さんの口から公安にいた事を公開していないものの、彼の行動から公安との繋がりが示唆されている事から、俺も公安と繋がっているんじゃないかと言う噂が出回っている。
こう言う噂は、下手に否定すると逆に悪目立ちするので俺からも言及は控えているが、何年か前に広大さんにケツを持ってもらった事から弱みを握られているアラタには、広大さんが公安に所属していた事を知られているのでこうやって冗談を言い合える仲である。
「一応、成功報酬としてはこんな物を用意してるんだが、どうだ?」
「おまっ、絶版になった人気ゲームな上に限定本が同伴の初回生産分じゃねぇか! どこで売ってたんだよ!?」
「確か、渋谷の裏路地にある古本屋だな。ゲームも売ってたからすぐにわかると思うよ?」
「あぁ、あそこか。今度回ってみるわ」
その為、協力してくれた暁にはオタクからすれば垂涎もののゲームを成功報酬として渡す事を提案すると、購入場所を聞かれたので素直に答えると心当たりがあった様だ。
「どうだい? 少しはやるになったかい?」
「へっ、そんなお宝を目の前にしてやらねぇ手はねぇな。一先ず、情報を集めれば良いんだな?」
「おう、よろしく」
そして、それに釣られたアラタの協力を得られたのでこの場はお開きになった。
漸く、少しはリクエストをお出しする事ができました。