要所要所の部分を。
更新遅れていてすみません。
***「きっかけ」
「兄様 ここ最近はずっとご機嫌ね。何かあったの?」
「そう? ナツが言うならそうなのかもね」
兄様はずっとつまらなそうだった。
まるで誰かを待ってるみたいに。
私はそんな兄様は見たくなくて
気になって訳を聞いてみた。
案の定やっぱりそれはサッカーで
呆れると同時に昔と変わらない兄様に安心する。
近頃 サッカーモンスターとも称される
兄様の心を惹いたのは
名前も聞いたこともないような弱小校の
選手でもない人だった。
「……動画とかないのかしら」
「.嫌がるかと思ったんだけど珍しいね。
予選だからわかんないけど
ネットにならあるんじゃないかな」
検索をかける。……みつけた。
おそらくスマホで撮ったであろう動画。
画質はあまり良くなく
選手を辛うじて見ることができるくらいで
ベンチにいるという彼の姿は映ってすらいない。
前半自体のスコアは3-0。
試合の結果は聞いていないが
きっと兄様が勝ったんだろう。
後半に入って兄様はベンチに下がったが
ここから逆転はかなり難しい。
兄様が凄いと言うから期待したが
この様子では何も得られるものはないだろう。
少し落胆している自分に驚きながら
開いた動画を閉じようとする。
その手は兄様によって止められた。
「ここだよ ナツ。俺と蓮さんは下がったんじゃない。
彼の作戦通りに下げられたんだ」
スマホを見つめる兄様の視線が熱くなる。
確かにコレを指示した人物は実に策士だ。
そしておそらく私と同じくらい眼がいい。
明らかに後半の動きが良くなった。
つまり前半は制限をしていたということになる。
兄様と雷門のキャプテンを相手にしながら。
いや違う。この二人だからこそか。
思わず納得してしまった。
なんで兄様が彼を気にかけているのか。
私は思わず口を滑らしていた。
「.何処かあの人に似てる?」
リビングに沈黙が流れる。
……やってしまった。兄様の前であの人の話は禁句だ。
「ごめんナツ。少し外でボール蹴ってくるよ」
誤魔化すようにそのまま振り返らず部屋を出ていく。
その表情は見えない。けど私は知ってる。
あの人が居なくなってから
兄様は楽しそうにサッカーをやっている時間が減った。
きっとずっと相手を探してる。
兄様のサッカーは凄く寂しそうだった。
そんな兄様に私は何もしてあげられない。
醜い自分を晒すのが怖い。卑怯者だ。
悔しくて唇を噛む。
意識がまた動画に戻る。
笹波雲明。その名前が酷く頭に残った。
彼なら何かを変えてくれるかもしれない。
理由も分からずそう強く思った。
強豪である雷門では優秀な選手の勧誘を行うことがある。
決めた。私は南雲原に彼を勧誘に行く。
今思えば既に惹かれていたんだと思う。
何かに導かれるように私は南雲原への転入を決めた。
***「円堂夫婦の会話」
「はぁ……」
「どうしたんだよ。溜息なんかついて」
「……あのね ナツが九州の南雲原っていう所に
転入したいって言い出したのよ」
「九州? なんで急に??? 何しに行くんだ??」
「有望な選手を勧誘しに行くんですって。
勧誘にはきっと時間がかかるから
転入させて欲しいって息巻いてたわ。
……ナツがサッカーに
また関心を持ってくれるのは嬉しいけど
流石に一人で九州には行かせられないわ。
やっぱり転入の話はなしにしましょう」
「おいおい待てよ。それの何が問題なんだ??」
「……守くん それ本気で言ってるの?
ナツはまだ中学生よ。それなのに一人でなんて。
……何? その目は。言いたいことあるなら言ってよ」
「……いやあ。
一人で黙って外国に行った
夏未が言うと説得力が違うなあって。あはは。
……悪い。そんなに睨むなよ」
「……確かにそれを言われちゃうと弱いわね」
「な? だからまあいいんじゃないか??
それよりナツがそんな入れ込むなんて
どんなサッカーするのか気になるな。
あとで聞いてみるか?
いや、煩い父親は嫌われるって言うしな……」
「……ホントに変わらないわね。
そういえば今年こそプレゼント決めてくれた?」
「……いやぁ やっぱり俺より夏未からのがいいよ。
二人のことなら俺より分かってるだろうし」
「また? そうやって毎回 私じゃない。
きっと子供たちも守くんからのが喜ぶわよ。
せっかく選手を引退して
家にいる時間も前よりは増えたんだし」
「あいつらに父親らしいことなんて出来なかったからなぁ。
やっぱり悪い。頼めないか。
これ以上ガッカリさせたくないんだよ。……頼む!!」
「……はぁ。わかったわよ。
二人も聡いからきっとわかってくれるわ。
それよりちゃんと時間を取ってあげてね。特にナツね」
「?? わかった。ハルも誘ってまた観戦しに行ってくるよ。
……それで悪いんだが また出張が入っちゃってな……」
「またなの!?
引退して前より家に居れる時間は増えたけど
出張が多すぎない?」
「いや悪いな。でもハルとナツの為でもあるんだよ。
……今度こそナツが大好きなサッカーを
続けられる環境を作ってやるんだ……!!」
「……そうね わかったわ。
プレゼントのことは任せておいて。
出張のことも上手く伝えとくわ」
「……いつもありがとな。
できるだけ帰って来れるようにするよ」
「いいのよ夫婦だもの。
それよりまだご飯食べてないわよね。
今から腕によりをかけて作るから待っててね」
「え!? 待て夏未。今そんなにお腹すいてな……ァァァァ!!!」
***「皇帝ペンギン0.5号」
対北陽学園戦に向けての練習の合間に
木曽路が何気なく言った。
「やっぱナツさんの家に
元日本代表の選手とか来るんですかね」
思わず軽くボールを蹴っていた足が止まる。
たしかにそれは気になる。
サッカー経験者なら元日本代表選手が
嫌いな奴なんて居ない。
興味が無いならそいつはモグリだって言っていい。
「それ気になるな。鬼道選手とか一番イカしてるよな」
「はあ? 豪炎寺選手が一番かっこいいだろ!!」
桜咲と意見が割れる。
確かに豪炎寺さんはかっこいいが
あの天才ゲームメーカーだぞ。
支配者って感じが一番かっこいいだろうが。
思わず前のめりになる。
「やんのか??」「お前がだろ???」
「ってことはナツさん模倣できるんですかね。
家の近くにグラウンドがあるってのは聞きましたし」
「「!?!?」」
正直に言えば見てみたい。
伝説の選手たちのプレーを。
ナツならそれが可能だ。
可能だが……
「それは気になるが……」
「……多分駄目だろ。家の話は嫌がるんじゃないか?」
初日の様子を見るに
ナツの前で 円堂の名前を出すのは良くない。
本人から聞いた訳じゃないが
多分 俺や桜咲みたいなもんなんだろう。
「……柳生先輩と桜咲先輩って
親とか家の話になると凄い慎重になりますよね」
「まぁそりゃあな」「ナツの気持ちはわかるからな」
「ナツさんそこはあんま気にしないと思いますけどね」
そんなもんなんだろうか。
少し悩む。でも俺ならわざわざ触れてほしくはない。
「私がなにをきにしないんですか?」
「「!?!?」」
思わず背筋を伸ばす。
桜咲と視線を合わせて誤魔化そうとするが
それより先に木曽路が話しかける。
あっ、バカ!!!
「あっナツさん。いいところに。
ズバリ聞いちゃうんだけど元日本代表の模倣とかできる?」
「「!?!?」」
「ある程度ならできるわよ?」
「「!?!?」」
「やっぱそーなんだ!! 俺あれみたい!! 皇帝ペンギン!!」
「え? ペンギン!? なっちんペンギン出せるの?
私も見たーい!!!」
俺と桜咲の気にしすぎだったみたいだ。
木曽路が皇帝ペンギンを強請り
通りかかった忍原がペンギンに食いつく。
帝国の代名詞と言われる皇帝ペンギンか。
そうなると俺も生で見てみたい。
「え? いやぁそれはちょっと……」
ナツが珍しく言い淀む。首を傾げる。
家が理由じゃないとするなら
なにかできない理由があるんだろうか。
あのナツができると
断言しない必殺技に尚更 興味が湧く。
チラリと桜咲に視線を向ける。
桜咲は視線を受け取ると口角をあげた。
考えることは同じらしい。
「……おいおい聞いたかよ柳生。
天下のナツ様でも出来ねえことがあるんだとよ」
「……あぁ聞こえたぜ桜咲。
まあでも仕方ねえよ。
人間なんでも出来ないことの一つや二つはあるさ。
いつも自信満々の あのナツでもな」
「……わかりました。やります。ボールください」
「「(相変わらずチョロいな)」」
部員が集まってくる。
サッカー選手ってのは人気だ。
経験者でなくても知ってるやつは多い。
ナツがボールを持つ。
表情はどこかいつもより緊張しているように見える。
「皇帝ペンギン!!!」
ナツが叫ぶ。手を口に当て指笛の準備をする。
次の瞬間に聞こえてきたのは
「ふひゅ〜!!」
気の抜けた情けない音だった。
呼び出されたペンギンたちは
下半身を地面に埋めたまま
困惑したように互いの顔を見合っている。
忍原が嬉しそうに声を上げ
残りのメンバーは込み上げる笑いを押し殺している。
あの雲明でさえ口元が緩み肩が小刻みに揺れている。
誰かが小さな声で
「皇帝ペンギン0.5号」とか言い出したせいで
みんな、笑いを耐えきれず転げ回った。
ナツは顔を真っ赤にして羞恥に震えていた。
「……だからやりたくなかったのに」
蚊の鳴くような声が聞こえた気がした。
そんないつも通りの風景だった。
***「雲明くんは短い髪が好き」
雲明くんには面白い癖がある。
考え事に夢中になると
返事が何処か上の空になって
ある程度のことはなんでも答えてくれる。
基本的に秘密主義な彼の
この珍しい一面は皆のおもちゃになっている。
「おーい雲明。今日は何食べたの??」
「目玉焼きと味噌汁。……北陽の選手に勝つにはー」
「雲明。ちゃんぽんよりうどんのが美味いよな?」
「……僕はちゃんぽんのが好きです。……空宮征がー」
木曽路と桜崎が可笑しそうに笑う。
なっちんは困惑しながらも羨ましそうに見ていた。
……しょうがない。先輩が手伝ってあげますか。
「なっちんもなにか聞いちゃいなよ。気になるんでしょ?」
「ひ、ひゃい!? べ、別に雲明くんのことなんか
気になってなんかないですよ!!!」
本当にこの子はいいリアクションをする。
可愛くて、本当に……弄りがいがある。
「あれれー。
私は別になっちんが雲明くんのことを
気になってるなんて言ってないんだけどなー」
「!?!? 忍原先輩!!!!!」
顔を真っ赤にしてなっちんが怒る。
全然怖くない。寧ろ可愛さが増して見える。
でも流石に可哀想だから少しだけ手を貸してあげる。
「雲明くーん。長い髪と短い髪どっちのが好み??」
なんて良いパスなんだろう。
可愛い後輩をサポートしてあげるのも優しい先輩の役目だ。
なっちんは明らさまに
自慢だという長髪をくるくる指で触り出す。
「どちらかといえば短い方が好みですね。
というかなんですか さっきか……ら……」
雲明くんが
ようやく皆の玩具にされてることに気づき
こちらに意識を向ける。
そして凄く悲しそうに
落ち着かない様子で髪を弄り続ける
なっちんと目が合った。
ああ最悪だ。
サッカープレイヤーの視点で答えやがった。
なっちんは少し涙目だ。可哀想に。最低。
雲明くんの状況理解は早かった。
だがそれよりも先に周囲から野次が飛ぶ。
「うーわ。雲明くんたらサイテー!!」
「雲明……それはないぞ」
「笹波くん。後で少し話があるわ」
「これは流石に擁護できないね」
後ろでなにか雲明くんが必死に反論するが聞こえない。
傷ついたなっちんの心はもう戻らないのだ。
彼には圧倒的にデリカシーがない。
ついでに乙女心への理解もない。
私はなっちんの
耳を塞ぎ肩を抱いてその場を離れていった。
今日は先輩がパフェを奢ったげるからね。
元気だしてね。おかわりもあるからね。
あと本当にごめんね。
まずは読んでくださりありがとうございます。
そして更新遅れてしまい申し訳ありません。
もうすぐ休みに入るので多少ペースあげれると思います。
個人的に書こうか悩んで端折った部分とかを
書かせていただきました。
個人的には
髪の話とペンギンの話が気に入っています。
時間的に書けてないのもまだあるので
またどこかで小話を投稿するかもしれません。
たくさんの方に読んでいただけていて大変光栄です。
いつもありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。