サッカーモンスターの片割れ   作:小松菜せろり

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間が空いてしまって申し訳ありません。
毎日投稿しようとするとウッてなってしまって
今後もたまにこういうことがあるかもしれません。
重ね重ね お詫び申し上げます。


赤い悪魔は美しく嗤う

 

 九州の名門 北陽学園。

 

 

 智将 下鶴監督の的確な采配に加え

 あの空宮征や品野雅士といった一流の選手も擁している。

 

 

 戦略やデータを重視したパーフェクトサッカーが

 特徴的な九州屈指の強豪校であり

 全国でも急激にその注目を集めている。

 

 

 FFでの王者雷門との試合は皆の記憶に新しく

 円堂ハルに歯が立たず敗北を喫したが

 

 

 長きに渡り君臨し続ける王者雷門を

 打倒するのは北陽ではないかと、

 北陽の下克上と王者雷門の失脚を望む声は多い。

 

 

 

 今日このスタジアムに集まった観客も

 そのほとんどが北陽を目当てに来ていた。

 

 新進気鋭の快進撃を続ける南雲原に対しても

 強豪北陽の一方的な蹂躙が期待されていた。

 

 

 

 しかし結果は観客の誰も全く予想していないものとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピピーッ!!!」

 

 審判が前半の終了を告げるホイッスルを鳴らす。

 

 

 スコアは0-0。それ自体は然程珍しいものではない。

 異様なのは選手たちの様子だ。

 

 前半が終わったグラウンドから

 北陽の選手たちはなかなか動く様子がない。

 

 

 いや否、動くことができないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北陽は最初から勝負をしかけに行った。

 

 北陽の数々のタクティクスは

 南雲原の巧みなタクティクスによって相殺された。

 

 

 しかし異様なのはそこではない。

 

 

 前半 北陽が打ったシュート数はたったの3本、

 しかも そのどれもが強力な必殺技だった。

 

 一方で南雲原はこの前半だけで7本のシュートを放ち

 必殺技は1本も打っていない。

 

 

 

 

 ……正確にはそれだけではないのだが。

 

 

 

 

 会場には異様な空気が漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息も絶え絶えにベンチに辿り着いた

 北陽メンバー達には明らかな動揺が見てとれた。

 

 

 監督である下鶴改は考える。

 

 明らかに基礎的な能力が事前に集めたデータと違う。

 

 空宮から南雲原には

 優秀な監督役がいるとは聞いていたが

 

 はっきり言ってこれは異常だ。

 

 優秀な監督の作戦によって

 北陽のタクティクスが破られる。

 

 そこまでは納得がいく。

 

 なぜならチームの戦術は対策されるものだからだ。

 

 

 

 しかし不気味なのは選手個人への対策のレベルの高さだ。

 

 

 

 まるで北陽の選手本人を相手に練習を重ねたような

 

 そうでもしないとわからないような

 選手の細かい癖や必殺技のほんの僅かな隙間が狙われている。

 

 確かに南雲原との合併の視察の際に

 ミニゲームのような試合を行ったという報告は受け取った。

 

 しかしそれは一方的なもので

 南雲原の必殺技は通用せず 北陽の実力を示した

 実力差を叩きつけるようなものだったと聞いている。

 

 

 何がそこまで急激な変化を遂げさせたのか。

 

 思わず南雲原のベンチに視線を向ける。

 

 

 違和感。

 

 

 空宮と旧知だという実質的な監督役を務める笹波雲明。

 

 西ノ宮との試合のデータにも見られた顧問の教師と

 生徒会のメンバーだという2人のマネージャー。

 

 その横には事前のデータには

 見られなかったマネージャーの姿があった。

 

 

 赤い髪に、気の強そうな表情。その姿が誰かに重なる。

 

 

 

「……空宮。今 南雲原のベンチに座っている

 むこうの赤髪のマネージャーは視察の際にも居たか」

 

 

 空宮は乱れた呼吸を整えながら答える。

 

 

「……いました。赤髪の気の強そうな奴ですよね。

 試合中にずっとこちらを観察していました。

 

 凄い集中力だったんで印象には残ってましたが

 こっちの安い挑発に 明らさまに顔を顰めてましたし

 選手じゃないようだったので油断しました。

 

 ……おそらく、あいつがこの試合の違和感の正体ですね」

 

 

 空宮の言葉に軽く頷きを返し、

 タブレットでベンチの情報を確認する。

 

 

 ……ビンゴだ。

 

 

 

 

「あのマネージャーの名前は円堂ナツ。

 

 ……おそらくあの円堂守の娘だろう。

 

 今の雷門中の理事長

 

 ……円堂ハルの母親に当たる人物を

 何度か見かけたことがあってな。よく似ている」

 

 

 満身創痍のベンチに更なる動揺が走る。

 

 無理もないだろう。あの円堂の血筋と聞いてしまえば。

 

 空宮が強く下唇を噛む。

 前の雷門との惨敗を思い出してるんだろう。

 

 

 だが 今大事なのは直面しているこの状況だ。

 

 この不気味なほどの南雲原の能力向上と

 やりづらさの原因は検討がついた。

 

 おそらく 彼女はとてつもなく目が良いのだろう。

 

 視察の際にプレーをした選手の癖と必殺技は

 ある程度 対策されていると考えた方がいい。

 

 

 好都合なのは得点を取られていないこと。

 

 これは『グラビティデザート』を破る

 必殺技を所有していない

 

 若しくはその必殺技を打つためには

 何かしらの条件があるということ。

 

 

 ……不気味なのはまだ必殺技自体を打っていないことだが。

 

 

 

 頭の中で勝つための方程式を組み立てていき

 選手に指示を出していく。

 

 休憩が終わり選手をグラウンドに送り出していく。

 

 厳しい状況とは裏腹に少しだけ笑みが零れる。

 

 

 自らの黒歴史としばらく会っていない親友に思いを馳せる。

 

 

「かつての専農を思い出すよ、……なぁ杉森。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予想以上の成果だ。

 

 あの北陽に善戦どころか優位を取っている。

 

 思わず隣の彼女に視線を向ける。

 

 視線に気づいたのか

 こちらを向き 首を傾げている。

 

 円堂ナツ、やっぱり恐ろしい才能だ。

 

 

 

「おい雲明。指示通りに春雷は打ってない。必殺技もな。

 

 同点だがナツのお陰でこっちが優位だ。

 

 だが点を決めなきゃ勝てねえ!! せめて説明しろ!!!」

 

「そうだよ!! ギャフンと言わせようよ!!!」

 

 

 柳生先輩とフォーワードの2人には

 前半に必殺技を使わないように指示を出していた。

 

 春雷を使わない、これは僕の指示だが、

 必殺シュートを一切使わない、これはナツの指示だ。

 

 ナツは僕が病院に向かったあの日以降、

 北陽戦に向けた対策にとても熱心だ。

 

 何かが彼女を刺激してしまったらしい。

 

 

 

 ……とにかくその指示も限界みたいだ。

 

 僕の知らない間に2人も因縁ができたようだし。

 

 

 フィールドの様子を見る。……悪くない。

 

 もう少しかかると思っていたけど

 空宮くんのおかげで大分 早まった。

 

 

 

「分かりました。【春雷】を解禁しましょう。

 

 次に空宮征にシュートを打たせたら

 こちらからカウンターを仕掛けていきます。

 

 ……四川堂先輩 申し訳ないですがお願いします」

 

 

「……わかった。頑張ってみるよ」

 

 

 

 先輩は苦笑を浮かべながら了承した。

 

 残りの時間 古堂飼くんを中心に指示を飛ばす。

 

 これで条件は整った。さあ、下克上を始めよう。

 

 

 ここから更に一方的な蹂躙になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピピーッ!!!」

 

 ホイッスルが鳴り後半が始まる。

 

 ナツさんの能力に気がついたのか

 北陽は一部の選手を交代させた。

 

 新たにグラウンドに入ったのは

 あの日 試合に参加しなかった選手たちだった。

 

 北陽の監督、下鶴改監督。噂通りの智将のようだ。

 

 

 

 ボールは空宮征に渡る。

 

 南雲原の選手が走り出す。

 

 

 

 そしてそのまま

 

 

 

 

 ……空宮征の横を通り過ぎた。

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 

 空宮征は困惑と怒りを隠さない。

 

 それもそうだろう。

 

 南雲原の陣地には古堂飼くんと僕しかいない。

 

 柳生くんとフォワードの2人は完全に上がり

 

 他の選手は空宮征の周囲にいる北陽の選手に

 ピッタリマークをしている。

 

 品野雅士には警戒を重ねて2人もついている。

 

 ただボールを持つ空宮征にはだれもついていない。

 

 

 ……別に空宮征を舐めているわけではない。

 むしろ舐めていないからこそ この作戦をとった。

 

 僕たちのほとんどが初心者だ。

 

 ナツさんの目による指導があったとしても完璧ではない。

 

 前半彼のシュートを止めれたのは

 イレギュラーが無かった。幸運だっただけだ。

 

 油断をしてしまえば点は決められる。

 

 

 だからこそ なるだけ条件を絞る。

 

 

 それが僕たちの選択だった。

 

 

 

「舐めるな!! 【サンシャインブレード!!!】」

 

 

 激昂した空宮征が

 高く飛び光を集めてシュートを放つ。

 

 

 その瞬間に僕は目を閉じた。

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 困惑の声がした。

 観客からかもしれないし 空宮征からかもしれない。

 

 目を閉じ聴覚だけに集中する。

 

 

「四川堂先輩!! 右に2歩です!!!」

 

 

 古堂飼くんの声が聴こえた。

 右に2歩移動をして目を開く。

 

 強力なシュートがこちらに向かってくる。

 

 眩しい……が見えないほどじゃない。

 

 これまで通りに必殺技の構えをする。

 

 

 迫り来るボールを見つめながら

 

 

 

 僕はナツさんとの練習を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナツさんが高く飛び上がりシュートを放つ。

 

 

「【サンシャインブレード V2】!!!」

 

 

 その姿が太陽と重なり 思わず目を閉じてしまう。

 

 ボールは一体何度目になるのかゴールに突き刺さる。

 

 ようやく目が慣れてきて前が見える。

 

 そんな僕にナツさんは告げる。

 

 

 

「空宮征が使うこの必殺技の特徴は

 その威力とボールの軌道の読めなさにあります。

 

 そこで古堂飼くんの協力が必要になります」

 

 

「ぼ、ぼくですか!?」

 

 

「ええ四川堂先輩には目を閉じてもらいます」

 

 

「……確かに目を閉じてしまえば眩しくはないけれど

 ボールが見えずに点を決められてしまうよ?」

 

 

「そこで古堂飼くんの出番です。

 古堂飼くんには四川堂先輩に指示を出してもらう」

 

 

「なるほどそういうことだね」

 

「ええ、そんなできないですよぉ」

 

 

 

「私はできないことは言いません。古堂飼くんならできます」

 

 

 不安そうだった古堂飼くんの目が変わっていく。

 何故 才能のある人の言葉はこんなに魅力的なんだろうか。

 

 

 

「勿論 四川堂先輩にはシュートを

 止めてもらわなければいけません。

 

 厳しいことを言いますがイレギュラーのない状況では

 100%確実に止められる能力をつけてもらいます。

 

 ……無茶を言ってるのは理解しています できますか??」

 

 

 ナツさんはこちらを慮るように

 それでも僕の答えを期待しているように見えた。

 

 

 ほぼ素人の僕があの空宮征のシュートを100%止める。

 

 

 それは傍から見たら無謀以外のなにものでもないんだろう。

 

 ただそれはナツさんがいなければの話だ。

 

 例えばどんな難問でも

 傾向と対策ができていればそれなりに対応ができる。

 

 だけどそれどころか答えを知っている状態なら??? 

 

 

 あと僕にできることはただひたすら繰り返すこと。

 

 1パーセントでも確率を上げ、みんなにボールを繋ぐこと。

 

 

 それに可愛い後輩の頼みは断れない。

 

 北陽戦の対策はナツさん頼みの部分が多い。

 

 彼女はまだ数日しかこの部にいない。

 

 それなのに僕たちが北陽に舐められた、

 そんなことに怒ってくれて ここまでしてくれている。

 

 

 後輩がここまでやってくれていて

 期待に応えられなくて何が先輩なんだろうか。

 

 

 ナツさんの不安そうな視線に微笑んで返す。

 

 

 

「大丈夫。絶対に止めてみせるよ」

 

 

 僕はそう約束したんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【氷結の舞 改】!!!!」

 

 

 空宮くんの放ったシュートは四川堂先輩の手に収まった。

 四川堂先輩はすぐにボールを前方に蹴る。カウンターだ。

 

 

 ボールは木曽路に渡る。

 

 しかしすぐに品野雅士に詰められる。

 

 

 

「【ザ・マトリックス】!!!!」

 

 

 

 木曽路の動きが鈍り右に偏る。

 その隙を見逃さずボールは奪われる。

 

 

 

 

 しかし次の瞬間

 

 既にカバーに入っていた南雲原の選手が

 2人がかりで品野雅士からボールを奪う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【ザ・マトリックス】はとても強力な必殺技です。

 

 戦略やデータを中心とする

 北陽学園を象徴する必殺技と言っていいわ」

 

 

「……で、そんな強力な必殺技をどうすんの?? 

 四川堂先輩たちみたいにナツさん相手に練習する感じ?」

 

 

「いいえ木曽路くん違うわ。

 

 結論から言うわね。

 

【ザ・マトリックス】は防げません」

 

 

「……え??? どうゆうこと???」

 

 

 

「……ナツ、僕から伝えるよ。

 

 木曽路には囮になってもらう。

 

 

 この技は理論からなる技で

 ボールを奪える可能性の高いルートを選ぶもの。

 

 どちらかというと感覚派に近いナツには再現が難しい。

 

 

 そこで木曽路の出番だ。わざと隙を作ってもらう」

 

 

「わざと抜かれろってこと???」

 

 

「要はそういうこと。

 

 抜かれる方向とタイミングさえ分かれば

 誰でも嵌めることができる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボールが前線へ渡る。

 

 

「ナイスだ!! 木曽路!!!! 行くぞ忍原!!!!」

 

「まかせてよね!!!!」

 

 

 忍原先輩がボールに強力な回転をかけ

 それに桜咲先輩が強烈な蹴りを入れる。

 

 

 

「「【春雷】!!!!」」

 

 

 

 

 ボールは粉塵を巻き上げゴールへと向かう。

 

 

 

「させるか!! 【グラビティデザート】!! 

 

 なに!!! ボールが見えない!?!?」

 

 

 

 この粉塵はキーパーにボールの軌道を読ませない。

 

 昨日の雨でグラウンドは少しぬかるんでいた。

 だからこそ前半では使うことができなかった。

 

 中途半端なシュートでは通用しないし

 タネが割れてしまえばすぐに意図を汲み取られ

 対策を取られてしまうかもしれない。

 

 空宮くんが【サンシャインブレード】を

 連発してくれたお陰で予想より早くグラウンドが乾いた。

 

 

 

 ここからまさに一方的な展開だった。

 

 北陽サイドから試合が始まる。

 だがもう既に焦りと絶望で足は止まりかけている。

 

 自分たちのプレーだけ通じず

 相手はゴールを決める手段を持っている。

 

 その事実が北陽の選手たちの足を更に重くしているのだ。

 

 

 それでもまだ諦めていない空宮くんと数人の選手が上がる。

 

 

 

「まだだ!! 【オーバーグロウ】!!!!」

 

 

 

 空宮くんが必殺技のためにボールを蹴り出す。

 

 

 

 その瞬間だった。

 

 

 桜咲先輩は今まさに光輝こうとしているボールを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北陽サイドに蹴りこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北陽のドリブル技【オーバーグロウ】。

 

 これはボールに光を集め

 相手選手の視覚を撹乱する技です。

 

 ……しかしこの技には

 自分にも被害が及ばらないように距離を取る必要があり

 発動までに僅かにラグがあります。

 

 

 そこをついてください。

 

 

 相手を撹乱させるはずの技が

 油断している味方を撹乱させるんです」

 

 

 

 ナツはとても楽しそうに 可笑しそうに嗤う。

 

 背筋にゾッと冷たい感覚が走る。

 

 ナツを怒らせるべきじゃない、心からそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボールは空中で凄まじい光を放つ。

 

 油断していた北陽の選手は眩しさに動けない。

 

 

 その隙にボールは忍原先輩に渡る。

 

 北陽のGKが立ち塞がる。

 

 先程 無敵とも評される必殺技が破られ

 まだ動揺は残るものの その目には確信があった。

 

 

 

「お前一人じゃさっきのシュートは打てない!!」

 

 

 

 確かに【春雷】は桜咲先輩と忍原先輩の連携技だ。

 1人では【春雷】は打つことはできない。

 

 しかし【春雷】でなければゴールを決めれないとは

 

 

 ……誰も言っていないのだ。

 

 

 

「ならこれは止められる!? 【ぐるぐるシュート改】!!!」

 

 

 その洗練されたシュートは

 

 前の試合や【春雷】の時より

 

 さらに強力な回転がかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもやっぱ悔しいよー、なっちーん。

 

 頑張って生み出した必殺技が通用しないなんて」

 

 

【春雷】の練習中、雲明くんに桜崎が呼び出され、

 なっちんと二人きりになる。私は思わず愚痴っていた。

 

 するとなっちんはその言葉を待っていたように口角をあげた。

 

 

「忍原先輩の

【ぐるぐるシュート】はまだ改良の余地があります。

 

 そうすればきっと点は決められる」

 

 

 悪戯を企てる子供のようになっちんは楽しそうに嗤う。

 でもその瞳には強い意志が隠れて見えた。

 

 この子は優しい。

 ……それが人に伝わりにくいだけで。

 

【春雷】の話を聞いた時 確かにわくわくした。

 

 それと同時に

 

 

 

「自分一人じゃ点は決められない」

 

 

 

 そう突きつけられているようで とても悔しかった。

 

 

 なっちんはそれを見抜いていたんだろう。

 

 シュートをふたりで改良していく。

 

 ダンスの要素を取り入れたシュートから

 ダンスを軸にしたシュートへ 。

 

 外に逃げてしまっていた回転をそのまま活かしきる。

 

 

 私はその日 一段とサッカーにハマった。

 見えてる世界が少し広がってくれたように思えたから。

 

 私はまだまだサッカーが好きになれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピピーッ!!!!!」

 

 

 試合終了を告げるホイッスルが鳴る。

 

 会場はどよめきが隠せない。

 

 北陽の選手たちは立ち上がることすらままならない。

 顔には絶望が浮かべられている。

 

 スコアは4-0。

 

 

 桜咲先輩の豪脚からしなりを取り入れた【剛の一閃 改】。

 

 実は北陽には隠し続けていた

【グラビティデザート】の領域風圧を破る可能性を秘めた

 高さと縦の回転を活かした柳生先輩の【天空サンダー】。

 

 

 そして空宮くんを一人にはさせない。

 

利き足側に動きが俊敏な古堂飼くんをつけ

二人がかりでマークをするという

【対空宮征特化のブロックキーマン】も忘れない。

 

 

 こうして僕たちはナツとの特訓を活かして

 あの名門 北陽学園から勝利を奪い取ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合に負けた。

 下手をすると雷門の時よりも圧倒的に。

 

 チームのみんなの顔には絶望が広がっていた。

 

 あの時はまだ手応えがあった。

 

 円堂ハルさえいなければもっと善戦しただろう。

 

 ……いや、それはきっと言い訳だ。

 

 そうだとしても勝たなければ意味が無い。

 

 

 

 正直、俺の中では嬉しさが大きい。

 

 もちろん悔しくないと言ったら嘘になる。

 

 南雲原との合併があるとはいえ

 雲明には見せたかった。

 

 

「こんなに強くなったよ」

「また一緒にサッカーをやろう」って。

 

 

 でも北陽の戦略を 南雲原が超えてきた時

 

 あぁあの笹波雲明が

 本当にサッカーに戻ってきてくれたんだって

 

 俺は心の底から嬉しくなった。

 

 

 

 俺の知っている雲明はサッカーが大好きで。

 

 俺は彼のいないサッカーが嫌で。何度も足を運んだ。

 

 それでも彼がピッチに戻ってくることはなかった。

 

 俺は雲明がまたサッカーを選んでくれたことが

 ただただ嬉しかったんだ。

 

 それがたとえ選手としてじゃなかったとしても。

 

 

 いけない。視界が滲む。

 

 気がつけば声を上げて泣き出していた。

 

 

 よかった。本当に良かった。

 雲明。俺たちはまた一緒にサッカーができるんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雲明のところに向かおうとする。

 

 

「おめでとう」「よかったな」

 

 

 ってちゃんと言いたい。

 

 何とか呼吸を整えようと、

 スパイクの紐を結び直していると

 

 突然 俺の頭を影が覆った。

 

 顔をあげると そこには円堂ナツがいた。

 

 この惨劇を作り上げた張本人。

 

 全然似てないくせに 顔を見てると円堂ハルを思い出す。

 

 少しムカついてきた。

 

 何か言ってやろうと口を開こうとしたその時。

 

 

 

 先に口を開いたのは円堂ナツだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正直がっかりだわ。過大評価のしすぎだったかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体が体温を失い 頭に血が上るを感じた。

 視察の際に挑発のために投げかけた言葉。

 

 あまりの屈辱にもう一度やつの顔を睨む。

 

 ……思わずあまりの悪辣さに 美しさに唖然とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奴が浮かべていたのはまるで悪魔のような微笑みだった。

 




ナツ「言ってやったわ!!」( +,,ÒㅅÓ,,)=3

…円堂さんさぁ!!!!!!!!!

これも血筋ですね。
個人的には空宮と雲明の絡みは大好きなんですが
初登場の時の悪役っぷりが忘れられず
敵役兼悪役として暴れてもらいました。
二次創作ですしナツの異質性を表現するため
試合はかなり一方的にかかせてもらいました。
北陽ファンの方につきましては申し訳ありません。
次回は順番をかなり悩んだ話を
少し遡りまして幕話?として入れようと思ってます。
次の試合までは少々お待ちくださいませ。

読んでいただきありがとうございます。
お気に入りなど大変励みになっております。
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