空宮征に仕返しをした後
私は顔を引き攣らせた桜咲先輩に回収された。
私が去った後
空宮征が雲明くんに飛びかかる勢いで
ーまあ実際に飛びかかったのだけれど。
仕切りに雲明くんが
サッカーに戻ってきたことを喜び
合併のことを仄めかせ
その後 疲労困憊の北陽のメンバーに
私と同様に回収されていた。
こうして私たちは九州屈指の強豪 北陽学園を突破した。
そして話は二校の合併へと戻る。
遂に南雲原の面々にも正式に通達が入ったのだ。
部室ではサッカー部の
これからについて話し合いが始まっていた。
「ってことは合併後の南雲原の監督は
雲明じゃなくて北陽の監督になるってことか?」
「ええ!! 雲明が監督じゃなきゃ
それは南雲原サッカー部じゃないですよ!!」
「……でも相手はあの名将 下鶴監督だからね。
保護者や支援会はあちら側を推すだろうね……」
「じゃあ北陽メンバーも仲間になるってこと?」
「あの空宮もか? 仲良しこよしする気はねえぞ」
「北陽メンバーとレギュラーを取り合うのは少し怖いですね」
「ダメだよ亀雄!! シャキッとしなきゃ!!」
忍原先輩が古道飼くんの背中を軽く叩く。
今後の南雲原に関わる話だからだろう。
会話が白熱していく。
まあ、妥当な疑問だわ。
サッカーの評判は北陽の方が圧倒的に上。
一方で破竹の勢いで快進撃を続けているとはいえ
南雲原は全国ではほぼ無名と言ってもいい。
普通に考えれば
監督には名将と名高い下鶴監督を置き、
それをベンチの雲明くんがサポートする。
レギュラーには元北陽の選手を中心に選出を行い
そこに南雲原の有望な選手を混ぜる。
そうなるが必然なんだろう。
まあ普通に考えれば……の話にはなるが
話し合いに混ざろうと口を開こうとした時、
先に開いたのは部室の扉だった。
空宮征を中心に
北陽……いや元北陽のメンバーが入ってくる。
「雲明!! 挨拶に来たんだ!!
もう少しかかるけど また一緒にサッカーしような!!」
「空宮……、まあいい。
今日は合併の挨拶と宣戦布告をしに来たんだ」
「宣戦布告?? 合併したんなら
寧ろ協力するんじゃないんですか??
……まあ、こっちもあんまり自信ないですケド」
木曽路くんの至極 尤もなツッコミが入る。
空宮征は品野……先輩の言葉にハッとして
あの試合の結果を思い出したのか。
こちら、ひいては私を睨む。
随分と熱い視線にこちらは毅然と微笑みを浮かべる。
私の撒いた種はしっかりと実を結んでくれたらしい。
「本当だったらレギュラーの座も正監督の座も
こちらが頂くことになる……筈だったんだが」
「そっちの悪魔みたいなやつの計画通りなのかな!!
あの試合の結果でウチの評判はガタ落ち。
元北陽側や南雲原側から下鶴監督の実力を疑って
新しく監督を呼ぶ話さえ出てる。
こっちのメンバーも自信をバキバキに折られて
レギュラー争いの戦意を喪失するやつまで出てきた」
空宮征は唇を噛みこちらを睨み続けている。
……ここまで計画通りに行ってくれるとは。
私が南雲原にいるのは笹波雲明の勧誘のためだ。
雲明くんのサッカーを観察し続けるには
南雲原の監督は雲明くんでなくてはいけない。
……正直 私が手を出さなくても試合には勝てただろう。
実際に戦術 タクティクスにおいては
こちらが北陽を僅かに上回っていた。
私の指導とは別に各選手に出されたメニューも
非常に合理的に組まれていた。
でもそれでは足りなかった。
合併が始まれば環境はガラリと変わる。
そうなれば今まで通りのサッカーなんてほぼ無理だ。
監督、レギュラー、その立場を
南雲原で独占するためには
圧倒的な差を見せつける必要がある。
北陽なんていなくても大丈夫だ。
そう思わせる必要があった。
だから私は自身の能力を
フル活用して北陽対策を万全に行った。
……少し私情が混ざっていたのは否定できないけれど。
その結果がこれだ。
北陽の評判にはヒビが入り
選手には絶望感を与え、
あわよくば南雲原の選手には勝てない
というイメージを抱かせる。
そうすることで南雲原のメンバーは
元々の立場を確立できるという算段だ。
まあ、肝心の空宮征や品野先輩には
通用しなかったようだが……
むしろ空宮征に至っては
さっきから私への対抗心が剥き出しで、
どこか燃え上がっているみたいで
逆効果だったみたいだけれど。
「……ナツが3-0っていう
一見無茶なスコアを設定してたのはそういうことか。
ナツは合併について知ってたんだね」
頷いて答える。
千乃会長には合併について
南雲原の生徒に混乱をさせないようにと
口止めされたが、できることはした。
雲明くんは私の意図をしっかりと読み取り
南雲原のみんなに説明をしていく。
説明が進むにつれ心做しか皆の表情が青ざめていく。
「……うわぁ、ナツさんやることえげつなーい」
「やっぱ敵には回したくねえな」
「まあまあ、なっちんも私たちのこと思ってだし!!
……そうだよね?」
なんか凄いひどい言われような気がする。
……私の為でもあるけど、
少しだけみんなの為に役立てるかなって、
外様の私でも南雲原の一員になれるかなって、
トラウマを掘り起こしながらも頑張ったんだけれど……。
あんまりな反応に思わず少しだけ目に涙が浮かぶ。
皆がギョッとしたように慌ててフォローに入る。
「ナツのおかげでいつも助かってるよ!!」
「僕も練習のおかげでゴールを守れたよ。ありがとう」
「ナツさんは少し厳しいけど ホントに優しいと思う!!」
「俺らのこと思ってだよな!! ありがとな!! ナツ!!」
……そこまで言ってくれるなら。
頑張って良かったかもしれない。
「……盛り上がっているところ悪いが
こちらの本題に入らせてもらおう。
レギュラーと監督の座をかけた勝負をしないか??」
「俺たちはレギュラーを譲る気はない。
だけど下手に大人の介入があるとどうしようもできない。
ならここはちゃんと実力で決めようってわけ。
……雲明には悪いけど、俺たちは下鶴監督がいい。
下鶴監督が主導で雲明がサポートするのがベストだと思う。
だから勝負をしよう。監督とレギュラーの座をかけて」
「黙って聞いてれば
まるで勝負に敗けることを全く考えてねえみたいだが???」
「そーよ!! 勝ったのはこっちなのに!!!」
「当たり前だろ?? 負けると思って勝負は仕掛けないね。
俺たちが負けたのは雲明の戦術と、
……そこの悪魔のせいだ。
同じ条件が揃えば絶対に負けはないね」
こちらを指さして、あっかんべーの表情をする。
…… 一々、癪に障ることをしてくれる。
だけど全く問題はない。
「だけどよ、これ受ける意味あんのか??
確かに負けるとは思ってないが、
ナツが頑張ってくれたおかげで
そんな危険な橋を渡らなくたって
やんなきゃ監督は雲明のままだろ」
リーダー役を務めることが多かったからだろうか。
柳生先輩は鋭い。
空宮征は顔を顰めて、何も言えない。
それはそうだ。
なぜならこれは正当な権利だからだ。
もし向こうが勝っていれば立場は逆だっただろう。
この勝負、こちら側が受ける義理はない。
いつもならすぐに噛み付く忍原先輩と桜咲先輩も
流石に私と雲明くんを視線を向けながら口を噤む。
部室には沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは雲明くんだった。
「どのみち もし受けるとしても
下鶴監督の都合もありますし、今日中には決めれません」
そう片付けたことでその場はお開きとなった。
私は木曽路くん曰くバトルマニアだと言う雲明くんが
なんと言うかハラハラしていたがホッと胸を下ろした。
……はずだったんだけど、
「レギュラーと監督の座をかけた勝負をします」
後日の北陽のメンバーも交えたミーティングで
雲明くんは何の相談もなくそんなことを言い出した。
思わず頭を抱える。
私の努力が音を立てて崩れる幻覚さえ見える。
不満を隠そうとしない南雲原のメンバーに
雲明くんは言い放つ。
「もし僕が監督になったとして、
南雲原の選手だとしても油断や慢心を抱いてる人を
レギュラーには絶対にしない。
そんなプレーを許せば勝てる試合も勝てない。
勝つために必要なのは貪欲に勝利を求めて
そのために努力ができるような人だ」
雲明くんの言葉は南雲原の皆に衝撃を与えた。
正直、私が一番衝撃を受けていた。
頬をぶたれたようだった。
それはそうだ。
監督が意志の強さや実力ではなく
出身や経歴、個人的な感情で選手を選べば
チームは試合をするまでもなくバラバラになるだろう。
それは南雲原というチームをむしろ壊してしまう。
……盲点だった。
南雲原というチームに固執するあまり
視野がとても狭くなってしまっていた。
「私もそれには賛成だ。
空宮、品野。私の為に裏で動いてくれたようだが
何やら勘違いしてるみたいだから伝えておこうか。
監督が優秀な選手を選ぶんじゃない。
優秀な選手が監督に選ばせるんだ」
その言葉は北陽の選手への
叱責でありながら激励にも近い。
空宮征や品野先輩は言わずもがな
戦意を喪失していた選手たちも瞳に光を取り戻していく。
「……まあなにはともあれ、雲明くんの意見には賛成だ。
後日 選考会を行う。それでは今日のところは解散としよう」
私は忍原先輩と喫茶店タンクに来ていた。
桜咲先輩と木曽路くんは
空宮征と雲明くんを尾行することにしたようだ。
誘われたが丁重にお断りした。
お前も行くだろみたいな聞き方はやめて欲しい。
私は二人ほど拗らせていないのだ。
いくら数年ぶりに再会したライバルだとしても
そんな一日で距離がグッと縮まるわけがない。
そう。例えるとしたら
漫画みたいに一日で呼び捨てになったりとか。
桜咲先輩はともかく あの木曽路くんでさえ
苗字呼びなんだからあるわけが無い。
もし万が一、そうなったら
一日 空宮征のことを「空宮先輩」って呼んでもいい。
……想像するとゾッとするけれど
そんなもしもの話はどうだっていい。
今は忍原先輩との会話に集中する。
私がここに来たのは別にこれといった理由が
あった訳でなく、忍原先輩に誘われたからだ。
別にこれが初めてということもなく、
オフの時は忍原先輩に誘われて
二人でどこかに出かけることが多い。
先輩曰く 女子会らしい。二人だけなのに、
思わず笑ってしまった。
最初は私も距離を縮める気はなく断っていたのだが、
結果的に忍原先輩のあまりの粘り強さに私が折れた。
出かけてみるとそれは案外、楽しかった。
同年代でそういったことはしたことがなかったから。
円堂という名前は思っているよりも重い。
軽率なことはできないし
名前にすり寄ってきた人達はいつの間にか離れていった。
そんな二人だけの女子会の中、
私の集中は忍原先輩のスマホに集中していた。
きっかけは何気なく見せてくれた動画。
それを見た瞬間に私は目が離せなくなった。
先輩に動画について尋ねながら頭を回す。
色々な可能性が頭に駆け巡る。
もしかすると私にだけしか
できないことを見つけたのかもしれない。
集中して動かなくなった私に
忍原先輩は呆れながらも笑って動画を送ってくれた。
その後もあまりお話ができないまま
二人だけの女子会はお開きとなった。
私はそのまま動けなかった。
どのくらいだったんだろうか。
気がつけば私の目の間には
北陽の下鶴監督と雲明くんがいた。
どうやら集中のし過ぎで気がつけなかったらしい。
幸運なことに動画のことは気づかれていない。
二人は私のことを探していたらしく
雲明くんが忍原先輩に話をきいて
ここまで来たとのことだ。
二人は話し始める。これからのことを。
東邦異国館との戦い。南雲原の体制について。
噂に聞いていた通りの名将だった。
私たちはこの二人の手のひらの上で踊らされていたようだ。
雲明くんは申し訳なさそうに私に告げた。
東邦異国館との戦いには私の力は使わないこと。
これは私の力に頼りすぎることを防ぐためだそうだ。
逆にこれは私から頼もうと思っていたことだから助かった。
私の完全無欠の模倣にもいくつか弱点がある。
その一つが体の作りである。
柳生先輩の高さや桜咲先輩の豪脚、
あれについては他の要素で補って再現することが可能だ。
しかし外国人選手の多い
東邦異国館になると話は変わってくる。
もう一つのお願いはマネージャーの仕事を
手伝ってくれというものだった。
急に選手が増えたから
千乃会長と百道先輩が苦労してるらしい。
私は快諾をした。
マネージャーなのに
仕事を手伝えなかったことには
後ろめたさを感じていたからだ。
私はそれらを了承した上でこちらからもお願いをした。
雲明くんは不思議そうにしながらもそれを許可した。
こうして南雲原は東邦異国館へ向けて準備をしていく。
そんな中 私は
南雲原で部活動破りをしていた。
まずはお読みいただきありがとうございます。
そして間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
活動報告でも書いたのですがここからは
本編とあまり変わらない展開が多く
なんとか変化をつけようと苦心していました。
いつも読んでくださる皆様には
お待ちさせてしまい申し訳ないです。
これからも少し間が空くことがあると存じますが
何卒ご理解の方よろしくお願いします。
たくさんの方に読んでいただけて至極恐悦でございます。